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バイオカフェレポート
「臨床検査と健康維持・回復〜メタボリックシンドロームの予防」

 2008年12月12日(金)、茅場町サン茶房にてバイオカフェを開きました。慶応義塾大学柴崎敏昭さんによる「メタボリックシンドローム(MS)の予防に向けての健康診断の意義」でした。 始まりは福田徳子さんによるフルート演奏。年内最後のカフェにふさわしくヴィバルディ「四季〜冬」、クリスマスの賛美歌が選曲されました。

冬らしい調べ 「いつも人に見られているという意識が大事」

お話の主な内容


はじめに

 私は、腎臓病と高血圧症が専門の医師です。
臨床検査ではひとつの検査値にこだわって悩まないようにと初めに申し上げておきたい。また、病気をしていないだけが健康でなく、社会的に健康で人とのコミュニケーションが持てて、生計をたてられることも社会的な健康として大事。
健康診断というと、問診→聴診→臨床検査を行う。基準値と正常値は質の異なるもので、基準値とは、健康と思われる人(20-30代)を対象に検査をした結果を基に、その検査施設ごとに定めているもので、時代とともに変化する。検査値が正常かどうかの議論も必要だが、一応、基準値から余り外れたら戻してもらいたい。
健康の指標になるものとして生体計測(BMI、体脂肪率、骨量、臨床検査値など)も行う。

健康の基準とは
 適正体重:BMI(日本人は25以上は軽度肥満、30以上は肥満)が指標として使われているが、体重は身長から100を引いた数を超えないように心がければよい。
姿勢や体型:背中が丸まるのは老化して背筋が衰えてくるから、いつも他人から見られていると思って背筋を伸ばすこと!
体脂肪率:隠れ肥満を見つけることができる。若いときと同じ体重でも油断できない。
骨量:女性は高齢になると女性ホルモンが減り、骨粗しょう症になる確率が高くなり不利。乳製品をよく摂取すれば、老後も保障されると考えてよい。
腎機能(糸球体濾過量で表される):加齢とともに1ずつ下がっていくので80歳になると、青年に比べ40-50%減ってしまう。

少子高齢化社会
 2010年から、前期高齢者に対して後期高齢者がふえていき、経済の先行き不安が状況にあり、面接指導、特定保健指導(公的)や個々の健康の維持によって、高齢者も元気にいろいろな労働形態の中で働いていくことが期待される。また高齢者の過剰労働、低賃金も健康障害を引き起こすことになる。
医学的な問題としては認知症、ガン、老年症候群(転倒、失禁、低栄養、生活機能低下、うつ傾向)がある。
健康寿命と生命寿命は異なり、8〜10年は介護を受ける年数とされている。
対策として、国は次のような指導を勧奨している。
・健康診断と20分以上の面接指導をすること、積極的支援の他に動機付けの支援や情報提供支援
・薬物療法を行う前に食事と運動療法を指導すること
個人が行える対策として、筋肉は100歳まで鍛えられるので、股関節とひざを90度に曲げて片足たちを1分ずつ行い、転倒防止に役立てる。うつ傾向に対して認知行動療法(昔は自己暗示療法)を自ら行い改善する(認知行動療法はメタボリックシンドローム対策としても有効)。

健康診断
 正しい診断は正しい治療につながる。
臨床検査は感度が高い検査なので利用価値があるが、検査値に対しては総合的に判断する必要がある。
例えば、冠動脈が細くなって心筋虚血が起こってもかなり進まないと胸痛は出現しないが、心電図、心エコーでは事前に見つけることができる。
臨床検査には次のような意義と問題点がある。
意義:特異性が高くて高感度であること、治療のマーカーになる(治療が効いたかどうかわかる)、治療薬による有害事象を見つけることができる
問題点:高価であること、被爆や事故(レントゲンの被爆、生検で大量出血や感染症が起こることもある)、個人情報の漏洩、遺伝情報から新薬の開発につながるインフォームドコンセント、男女差がある検査によって生じたときの扱い(例えば血清クレアチン、赤血球、コレステロール、尿酸)。

薬剤と臨床検査値
臨床診断は問診、理学的所見(聴診、打診、触診などの診察)、臨床検査を通じて行われる。臨床検査には、検体検査(尿、血液など)、生理検査(心電図、脳波など゙)、画像検査(レントゲン、CT,MRIなど)、病理組織検査(腎臓、肝臓、皮膚など)があり、高感度、高特異性がある。
しかし、臨床検査値の評価にはどんな薬を飲んでいるかが関係してくる。例えば、ストレプトマイシンでクレアチニン上昇が起こり肝機能が低下する、抗がん剤で白血球が減る等。

正常値と基準値
 自分の検査値がある値の間にあればいいというのが基準値(若い健康な人の値から決める)であり、参考程度のもの。
ヒトにおける正常とは何か(動物実験のネズミは近縁系で体質も均一にしてある)
基準値は最大公約数的なもので、時代とともに変化する 例えば測定方法が変わることもあるから、正常値の捉え方が変遷することもある
人間ドック学会が中心になって正常値の捉え方が変化してきている
糖尿病は空腹時血糖110以下なら大丈夫だったのに、100〜109を正常高値群(このうちの3分の1が将来糖尿病になる可能性がある)として指導している。
血圧129〜139も血圧正常高血圧群(将来高血圧になるかもしれない)、血圧が高めで糖尿病になりそうな人には早めに薬物を使うように指導している。
高齢者にがんばってもらうため、人間の個性を無視して、健康データだけをよくしているように見える。社会環境、食生活の変化で検査項目も、正常値も変わっていく。例えば、血清クレアチニン、尿酸値は命に関わらないので定期健康診断の検査項目から削除された。

メタボリックシンドローム
メタボリックシンドロームということばは加齢による動脈硬化への理解を促すためのもの。
例えば、インスリン抵抗性と高脂血症を伴う肥満などが重要なキーワードとなる。
隠れ肥満とメタボ予備軍の概念には多くの重複がある。
しかし、メタボリックシンドロ-ムの内臓肥満症を知るためにCT検査を行うと、自然放射線の10倍の被曝が起こるという問題もある。

まとめ
脳は脳梗塞、心臓は心疾患に注意すること。
臨床検査では、お医者さんに総合的に判断してもらい、健診判定基準でDからGがあるときは日常生活や行動を変えること。定期健診では50%以上の人になんらかの異常項目がある。やりっぱなしの検診は検診を受けないのより悪い。
年をとると、体重増加、女性ホルモン低下、基礎代謝の減少、運動量の減少が自然に起こるので、生活習慣を改善すべき。特に運動習慣のない人は要注意。筋肉は100歳でも鍛えられるので、片足立ちなど手軽なトレーニングをすること。
社会構造から考えて、50代はストレスが最も多い時期なので、年代にも心配りをすること。
対策としては、
1. 減量作戦
2. 1週間に20-30分の有酸素運動を2-3回すること
3. 植物性タンパク質(ダイズ)、野菜(ニンジンなど実がつまったもの)、乳製品(牛乳二本分)を摂取すること
4. 禁煙がだめなら、タバコは1日10本以下
5. 睡眠は12時前に寝ること(なぜならば、ノンレム睡眠(寝入りばなと起床前では少ない)が確保されないと脳は休めない)
6. アルコールは飲める人は飲んだほうがいいが、飲みすぎは早く死にます。

私の年始のことばは、平成9年は「志高資世」(薬剤師を育てよう)、平成15年は「気を長く心は丸く腹立てず人は大きく己は小さく」、平成18年は「賢明楽」。
健康増進に努力して、この世に生を受けた以上、社会に役立っていきたい。



片足立ちは筋肉を鍛える 会場風景


話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 身体的な健康は人間ドックにいけばいいが、メンタルな健康はどうやって測るのか→日本では遅れている。日本は精神科にいくしかない。心理学の人は傾聴のみで薬剤を使えない。日本は法的整備もない。見つける方法は、労働安全ならびに衛生の観点から職場の周囲の人や産業医が気づくことしかない。気づきの勉強をする啓発が大事。メンタルは個人情報など微妙な問題。企業は産業医として内科と精神科とおくと、精神科にはかかりにくい。企業ではカウンセラーを紹介したり、その費用を援助したりするしかない。
    • 片足立ちは目をつぶってするのか→目をつぶるところぶので、目をあけてどこかに少しつかまってもいいです。二足歩行は高等技能でそれができるのはヒトとゴリラだけ。加齢で平衡感覚が弱くなるので、片足立ちをして鍛えておくべき。いつも他人に見られているという意識が大事。
    • 定期健康診断で尿酸値測定が削除された理由は何か→予算削減のために、命にかかわらない検査項目が減らされた。
    • 介護生活10年というが、85歳の父をみていると、どこまで健康に気をつけろ!頑張れ!というのか考えさせられる→個人差があり、体力、精神力に関係がある。何歳まで生きればその人生はOKなのかという問題がある。
    • ピンピンコロリは望んでも難しいと思う。老年になると健康診断は75歳過ぎたら本人に任されているのでは→個人がどうしたいか。私は、生を受けたら頑張って長生きすべきだと思っている。75歳で検診をやめるのはおかしいと思う。人間は生まれたときから死ぬことを知っている。年を取ってからどうなるか予測して判断すべきだと思う。