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マスコミとの情報交換会「残留農薬、メラミン問題から食の安全を考える

2008年11月11日(火)、「食の信頼向上をめざす会」主催、第1回「マスコミとの情報交換会」が、ベルサール八重洲(東京都中央区)で開かれました。残留農薬やメラミンを例に食の安全性に関するお話の後、意見交換が行われました。

「食の安全における残留農薬」
         鈴鹿医療科学大学教授 長村洋一氏

はじめに
健康診断から検査入院した人が、急に体調をくずし、半年後に亡くなるケースがある。こういう出来事をきっかけに、健康診断のあり方を考えるようになり、「食と運動と心の健康」の研究を始めて今日に至る。
報道で市民が大きな誤解をしていると感じるこのごろ 、薬は副作用があるが体にいものと思われているが、農薬は微生物や昆虫を殺す「毒物」だと思われている。食品はある役目を果たすために加えられている。現実に、一般の人は、農薬と食品添加物は「毒」と捉えていることが多く、そこに働きかけをしている。

食の安全と安心
食の安全・安心の本質は、食の安全は科学の問題であり、食の安心は科学に裏付けられた心の問題であるということ。例えば国産は大丈夫とか、農薬・食品添加物はよくないとか、天然物は安全だと言う人たちが多いがこれは科学に裏付けられていない。
日本における食の安全・安心に関する誤解はすべて「量の概念」と「モラルの欠如」によって起きていると思う。

農薬とポジティブリスト
農薬とは、農業のために用いられる薬品のことで、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、殺鼠剤、ホルモン剤、誘引剤など、多種類ある。共通しているのは少量で強い毒性を示すところ。
昔使われていたパラジオン(有機リン剤)を、裸で撒き始めた人がすぐに死んでしまった例もある。
農薬には、人間に害がある、虫と人に害がある、虫にだけ害があるの3つ形がある。
農薬は危険だといわれるが、農薬に関わる死者の出るような事故は、本来の使用目的でない自殺か他殺によるものであり、本当に死ぬ人は滅多にない。食中毒の原因の95%は微生物に起因しているのに、残留農薬を危険だと認識している市民が多い。
農薬の役割、危険性を一般市民に納得できるように説明すべきだったが、それができていない。毒性は量で考えるべきで、市民は健康被害が出るかどうか判断するのは苦手。
また、市民には判断の基準を与えられていない。なぜなら、メディアも行政もそういう量に関わる説明をしないから。

ポジティブリストとは
農薬、飼料添加物、動物用医薬品を対象としている。
国内で登録されていた農薬や登録のない農薬はCODEX基準を採用した。国内に登録がなく、国内登録があるときは登録保留基準を用いた。国内登録もCODEX基準もないときには一律基準(0.01ppm)を使い、まとめて、日本のポジティブリストができた。

ADIの決め方
ある農薬の最大無作用量決定のためにあらゆる試験を行い、農薬評価書が作られる。最大無作用量とは、全く影響が出ない量のことで、次のような試験が行われる。かなり厳しい試験だといえる。
 動物体内運命試験
 植物体内運命試験
 土壌中運命試験
 水中運命試験
 土壌残留試験
 作物残留試験
 一般薬理試験
 急性毒性試験
 目や皮膚に対する刺激性及び皮膚感性試験
 亜急性毒性試験
 慢性毒性試験及び発がん性試験
 生殖発生毒試験
 遺伝毒性試験
 その他の試験
一日摂取許容量(ADI)は最大無作用量に、種(10分の1)と個体差(10分の1)の積(100分の1)を安全係数としてかけたもの。だから、基準値の2倍でも、実際には安全性に問題はないが、「2倍もある、非常に多い、だから危ない」と思ってしまう。0.01ppmの2倍のお米を20年食べ続けることより、1日に15gの食塩を取る方が健康には悪い。量を考えない毒性論はナンセンスであり、化学反応は分子が出会って起きるから、出会う確率がほとんどないような分子は存在しないのと同じだといえる。

まとめ
日本の食の安全と安心問題は、「量の概念」と「モラルの問題」にまとめることができる。食物テロのことを考えると、最後に残るのはモラルの問題かもしれない。
まず、国民に量の概念を身につけてもらうような啓発運動が必要。だからこそ、食の安全を守り、国民の信頼を得るために、メディアから働きかけてほしいと思っている。
最後に、DDTの使いすぎによる環境破壊を訴えた「沈黙の春」(レイチェル・カーソン著)の発表後、DDTの使用が禁止された。しかし、マラリアの被害が再び増加してしまい、2006年、WHOは、室内でのDDT使用を推奨している。この事例から暮らしの安全について学ぶことは多い。


「メラミン問題と食の安全」
         食の信頼向上をめざす会会長 唐木英明氏

メラミンはメラミン樹脂の材料で、ヒトの致死量は150g(塩は200-300g)。
カナダとアメリカで犬猫がペットフードを食べて腎臓疾患で多く死んだ。メラミンの材料になるシアヌール酸とメラミンが共存すると、溶けにくくなり結石をつくったためだった。
中国では、粉ミルクの中に窒素を多く含むメラミンを多く入れたので、乳児が腎障害を起こし、亡くなった乳児もある。これは牛乳を水で薄めて窒素の量を増やし、タンパク質が多く含まれているように見せかけていたためではないか、とWHOは発表している。
日本の厚生労働省はメラミンを食品添加物に定めることで、食品衛生法10条(無許可の食品添加物を利用してはいけない)で、取り締まれるようにし、この問題に対応している。
メラミンのADIは日本も含め多くの国で2.5ppmとなっている。粉ミルクとペットフードで腎障害が起こったように、1種類のものしか食べないと、健康被害が顕著になる。ミルクしか飲まない赤ちゃんにだけ、1.0ppmの基準を設けている国もある。
厚生労働省は食品添加物としてのメラミンに対して0.5ppmという基準を作った。
しかし、ここにふたつの基準が出来たために、市民にわかりにくくなってしまった。2.5ppmだけでよかったのではないか。


意見交換会

およそ40名のメディアが参加。基準をあらわす専門用語がいくつもあってわかりにくい、そういうことが一目でわかる説明サイトがあるといいという意見がメディアから述べられました。「読者全部に基準値の意味を詳細に伝えられなくても、記者がその意味を理解して書いていれば、必要以上に不安だという表現がなくなるのではないか」と、唐木会長から発言がありました。
長村先生は、安全係数0.01がかけられているので、基準値の2-3倍になったからといって、食の安全が失われたという表現はしないでほしい、しかし、それが、業者の「自分への甘さ」に繋がるのは問題であり、基準値には大事な意味があるといわれました。

同会は今後もこのような情報提供と意見交換会を続けていくそうです。
食の信頼向上をめざす会ホームページ http://www.shoku-no-shinrai.org/