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マリンバイオカフェレポート「カツオと日本文化」

2008年11月8日(土)、新江ノ島水族館なぎさ体験学習館においてマリンバイオカフェを開きました。お話は日本食品添加物協会 専務理事 高野靖さんによる「カツオと日本の食文化」でした。
始まりは、今村恭子さんと寺井庸裕さんによるバイオリンとチェロの演奏でした。演奏活動を長く続けてこられたおふたりにとっても、イルカの前での演奏は、初めてとのことでした。

音楽演奏 高野靖さんによるお話

高野さんのお話

鰹節をどこでも作れるようにならないか
カツオは赤道付近で生まれる回遊魚で、水揚げは焼津、枕崎でも、生まれはカリマンタン付近。日本近海のカツオは脂が多すぎて鰹節はおいしくなくなるくらいだから、カツオ節は何所でも作れるはずだ。そう考えて、日本以外での鰹節製造を試みたことがあった。
しかし、おいしい鰹節はできなかった。そこで、尊敬する鷲尾氏に相談した。
林崎漁業協働組合の鷲尾圭司氏は「明石の活魚は日本の伝統食品」を主張された方。明石の活魚の品質が高い理由には、次のような理由があった。
・播磨灘の潮流で素材がいい
・釣りが中心で網は20分以上刺さない(網目で苦しんで死ぬと身が荒れる)
・明石では寒冷紗をかけたイケスでカツオを一日休ませる
・生きたまませりにかけて生き締め(野締めはしない)
運搬・保管時の温度・時間管理が徹底している
以上から考えると、カツオの殺し方と保管がアミノ酸の分解に影響し、鰹節の味に影響するのではないかというのが私の到達した結論だった。

鰹節の歴史
日本は海に囲まれているのだから、有史以前から自然発生的に、魚の保存技術、有効利用技術はわかっていた。
17世紀 硬い鰹節が登場(土佐の漁師が始めた)
モルジブでは、鰹節、煎汁は産業として昔も今もあり、山田長政の時代のシャムには、モルジブから鰹節が輸出されていたという記録があり、伝来の技術だと言う説もある。

鰹節の製造工程
鰹節には、本節と亀節がある。本節は、1匹のかつおの身を4つに割って作る、背肉部(雄節)と腹肉部(雌節)という。亀節は、小型のかつおを半身にして作ったもの。
カツオは3枚に卸し、煮て骨を抜き、乾燥させた(水抜き焙乾 85-90度、1時間)ものが「なまり節」
これをさらに10回、薪のいぶした部屋に入れたり出したりして乾かしたものが「荒節」
さらに、削って形を整え、カビ付け(10日ほど)と1日の天日干しを何回か繰り返して「枯節」ができる。硬く乾燥した「本枯節」が高級品となる。
この工程をプロセス管理で考えてみると、インプット(原料)→プロセス(加工)→アウトプット(よい鰹節の出来上がり)となるが、よい鰹節屋では解凍、なまり節などのひとつひとつの段階でも、きちんとプロセス管理されて作られていることがわかる。
例えば、いぶすのは、美味しくなるからばかりでなく、害虫が来ないようにするため。
カビをつけるのは、船で運ぶ途中でアオカビがつくと売れないので、カビをカビで制するために、予め徹底的に繰り返しカビをつけておいたと考えられる。

そば屋の技
よい鰹節だしをそば屋さんに売れないかと考え、いろいろなそば屋さんに通った。
名門のそば屋は格式が高く緊張してうかがった。4時半にお湯を沸かし、5時から7時までだしとりが行われる。だし引きは技術も高く信頼されている人が行う。見せてもらうと、確かに理にかなった方法でよいだしをとっていた。
7時に出し引きが終わると、そばうちが始まる。
だし引きの前日、鰹節に蒸気をあてて柔らかくして厚けずりにし(粉が出ないのでにごらない、均一の厚さになる)、必要な量だけけずる。
鰹節は、関東は1ミリの厚削りにして40分かけて出しをとり、味を大事にする。
関西は薄けずりをさっとひいて香りを大事にした出しを用いる。
良い出しは、「いい節」「いい水」「いい技術」から出来上がる。
いい節:
鰹節、宗田節、サバ節の味を味の素㈱で分析した。
それぞれの節でとっただしには酸味(すっきり)、苦み、コク味、甘味、魚肉臭、くん臭の6要素があり、カツオ節は酸味、くん臭が強く、サバ節は魚肉臭が強いなどの特徴がある。けずった節は酸素の影響を受けやすく、香りを保つことが重要で難しい。
コーヒーの香りの保管について言うと、コーヒーは収穫後、乾燥しただけのグリーンビーンだと長期保存が可能だが、ローストすると変質しやすくなるので、酸素を遮断する袋に入れて売っている。粉砕するともっと変質しやすくなるので、真空パックにするか、脱酸素剤を入れる。インスタントコーヒーはさらに変化が激しいので、ビンに窒素置換充填をする。鰹節削りパックも窒素充填包装されている。
いい水:
カルキ臭などの臭いのある水はだめ。硬度の低い水がいい。
だしをとるときは、溶存酸素があると味が落ちるので、酸素を追い出してから行う。
いい技術:
見学したそば屋さんのだし引き釜(直径50センチ、90リットル)の下には、3つに分かれた火床がある。沸騰して火床の3分の1を消したところで鰹節を投入する。すると、水面がゆらゆらし(ゴボゴボ沸騰すると節が崩れるし、溶存酸素が増える)、釜の中ではゆっくり、かつ、ダイナミックな対流が起こっていた。
昔は、釜下職人が薪の調節で、うまく出し引きをする技術であったが、今はガスの火床で調節する。
だしは綿布で濾す。しぼったりせずに2番だしをとる。2番だしは玉子焼きなどに使う。
だしは使い切りが原則。だから、お客が多くて、取っておいただしがなくなったら、そこでお客を断らなくてはならない。
参考資料:そばうどん 第37号 柴田書店 2007年10月

だしの工業化を図る
そばつゆは保存できるが、だしは保存できない。
保存食品には酸や塩を入れるが、だしには酸、塩を入れるわけにはいかない。
腐りやすいものをそのままの状態で保存するには、缶詰しかない
缶詰用の殺菌には30分かかる(缶の中央が121度4分以上の殺菌状態になる時間)。だしの缶詰は殺菌の熱で味が変わるから、缶詰は使えない。
レトルトパックは薄いので数100秒で殺菌できる。数100秒加熱すると、出しの風味が落ちてしまう。
LL牛乳と同じように、このだし商品(通常の出しの5倍の濃さ)はプレートヒーターによる、高温瞬間殺菌することにした。殺菌した容器の殺菌済みの膜を破って、殺菌しただしを一瞬にして入れる(「無菌充填包装」の実現)。これでだしの保存に成功。
おそば屋さんを沢山呼んで、試食してもらったところ、うちの店の方がずっとおいしいと答えた人もいたが、そば屋でお客が多くてだしが足りなくなったときに使ってくれたそば屋さんも出てきた。料理屋のだしとして、このパックは20年以上、愛用していただいている。
家庭用にならないのは包材が高くて、少量化できない。使い残しの保存が難しいため(どうしても使い残したら冷凍する)。


写真3 写真4

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 「味の素」の原料は初め小麦だったが化学合成になったのですか?→100年前に池田菊苗博士が昆布から「うまみの成分」を発見。「味の素」は最初は小麦からグルテンを抽出して原料としていたが、戦後大豆に原料変換し、さらにサトウキビなどを原料にした発酵法が開発され、今もこれが続いている。一時「合成法」で製造した時期もあったがコストが合わないこともありやめた。昔の方法で、小麦グルテンから「味の素」を取り出したあとの液体(蛋白質分解液からグルタミン酸を取り出した後)を「味液」(みえき)と呼び、九州地方では醤油の原料に使うなどいろいろな調味料の原料として利用している。
    • 「ほんだし」はどのように作るのですか?→カビ付け前の荒節を粉砕し、それに他の調味料を加えて作る。発売当初はあまり売れなかったが、昭和50年代後半から売り上げが伸びてきた。
    • 川崎工場で「ほんだし」「COOK DO」の製造について見学ができる。
      http://www.ajinomoto.co.jp/kawasaki/
    • 「COOK DO」はいろいろな添加物が入っているので使うのをためらう→食品添加物は「一生食べ続けても安全なもの」しか、厚生労働省は許可しません。必要に応じて、必要量を安心して使っていただきたい。
    • 「肉エキス」は肉だけでなく、内臓や骨なども入っていると思い、心配だった→コンビーフのエキス(煮汁)から作るので肉骨粉などは入っていない。
    • 私たちは、保存するために塩漬け、砂糖漬けした食品を使ってきましたが、保存料として考えると、塩や砂糖も食品添加物になるのですか →食品に保存性を高めるなどの機能するものは食品添加物ですが、昭和22年食品衛生法制定時に、今まで食品として扱われてきた塩、砂糖、酢は添加物リストに載せられませんでした。したがって、これらは食品として扱われています。
    • 「だし」には、かつお以外のものがいろいろありますね。→かつお以外の魚も使うし、処理の仕方も異なる、例えば、九州でよく使われる「あご」(飛魚とびうおの小さいもの)は焼き干しにする。「煮干し」は鰯を獲ってすぐに浜で「サッ」と煮る(自己消化を防ぐ)ことが大事。浜ですぐに煮ることができなかったので、外国でトライしたがうまくゆかなかった。
    • 今、おいしいそばつゆのおそば屋さんは?→10数年前は「そば屋」のそばつゆは特にうまかったが、最近は市販されている。そばつゆもかなりうまく製造されてきている。池波正太郎の通った神田「まつや」や銀座の「よし田」などでは良いだしのそばつゆが味わえる。なお、「良いつゆ」は保存が難しいことと大量には作らないので早い時間帯に行くことがお薦め。
    •  瓶のめんつゆは本当のだし汁から作っているのか→メーカーのだし技術が生きていると思う。本当のだし汁だけでは保存が利かないので、風味成分の酸化を抑えるなどのいろいろな工夫がしてあると思います。
    • 欧米人に「うま味」の話をするとどうなりますか→イタリアでは昔からグルタミン酸の含まれた魚醤(ガルム)を使っていた。これは大変臭みの強いものでした。それが1492年にコロンブスがアメリカ大陸に行って以来「トマト」にとってかわられた。トマトにはグルタミン酸がたくさん含まれています。「うま味」について認識していると思われます。
    • バイオカフェに参加して
      ・新江ノ島水族館で通常夜行われる勉強会とは一味違って楽しかった。
      ・チェロの生演奏が素晴らしかった。
      ・お話が楽しく、興味深かった。