セミナー報告
遺伝子組換え作物の社会経済的・環境的効果とEUの承認および表示規制が及ぼした影響
遺伝子組換え作物の社会経済的・環境的効果とEUの承認および表示規制が及ぼした影響
2008年10月31日(金)にホテル・ヴィラフォンテーヌ汐留コンファレンスセンターで、バイテク情報普及会主催、グラハム・ブルックス氏(英国PGエコノミクス社 ディレクター)の講演が行われました。タイトルは『「遺伝子組換え作物の、世界における社会経済的、環境的効果とEUの承認および表示規制が及ぼした影響」〜英国コンサルティング会社、PGエコノミクス社の2008年調査報告書より〜』でした。
参考サイト:バイテク作物の世界的な影響(1996年から2006年までの社会経済的影響及び環境影響)(報告書公表日:2008年6月5日)http://www.monsanto.co.jp/data/benefit/080605.shtml
グラハム・ブルックス氏 |
お話の主な内容
1.遺伝子組換え作物のグローバルインパクト:
1996-2006年の経済及び環境への効果
遺伝子組換え作物は1996年から商業栽培され、2007年には、23カ国、1,200万の農業生産者により1億1,400万ヘクタールで栽培された。
1)生産者への経済効果
1996年以降の農業収入の増加は338億USドルであり、その内訳は収量増(43%)とコスト(農薬、燃料など)の削減(57%)によるものである。収量増は遺伝子組換え害虫抵抗性技術により、コスト削減は遺伝子組換え除草剤耐性技術によっている。
- 1996-2006年の農業収入の国別増加額
アメリカ 158 億ドル増 アルゼンチン 66 中国 58 ブラジル 19 インド 19 カナダ 12 パラグアイ 3.49 オーストラリア 1.84 南アフリカ 1.56 - 1996年以降 害虫抵抗性トウモロコシの栽培により、平均収量で5.7%、生産量で4,710万トン増加した。
- 1996年以降 害虫抵抗性ワタの栽培により、平均収量で11.1%、生産量で490万トン増加した。
- 1996年以降の除草剤耐性作物の栽培では、アルゼンチンやパラグアイで、ダイズの二番作*1が可能となり、生産増につながった。
ダイズの二番作*1;除草剤耐性作物大豆の栽培は不耕起栽培が可能となり、小麦の栽培の後の時間短縮が可能となり二番作ができるようになった。
2)環境への効果
(1) 農薬関係
- 1996年以降、農薬28万6,000トンを削減した(農薬総使用量の7.9%)。関連する環境影響指数として15.4%減となっている。この量は、1年間にEU(27カ国)が耕地作物に使用する農薬有効成分に相当する。
- 遺伝子組換え害虫性ワタでは、殺虫剤使用量が5, 600トン節減できた共にこの節減に関連して殺虫剤による環境影響指数*2として25%低減できた。
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環境影響指数*2:EIQ(Environment index quotient) (参考サイト1より)
ある特定の農薬の環境への影響はその毒性と暴露の度合いとの指数で表し、これをEIQとよんでいる。たとえば、ある特定物質の魚毒性は、その物質の魚への毒性と実際に肴がその物質に暴露する度合いとの掛けた値で表せる。毒性はあるが分解の早い物質の環境影響指数は同じ毒性で分解の遅い物質と比較すると低くなる。
農薬散布回数及び土壌耕起回数の減少により燃料の使用量を削減した。
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1996年以降、燃料使用量として二酸化炭素排出量*3として580万トンを節減した(車両260万台相当)。
- CO2排出量の減少を標準的なファミリーカーが1年間に排出する排気ガス中CO2の量に換算し、削減量を、乗用車を路上から排除した台数として換算
- 平均的な乗用車の排出量は年間150gm CO2/km X 15,000km/yr =2,250 kg CO2 とする。
二酸化炭素排出量*3 参考サイト1より
仕事量の軽減と農薬散布回数の減少により、生産者の健康及び安全性の向上につながった。
2.EUにおける遺伝子組換え規制について
1)規制の影響
- (1)指令2001/18は意図的な遺伝子組換え体の放出に関するもの、
規制1829/2003は、遺伝子組換え食品および飼料に関するもの、
規制1830/2003は、表示およびトレーサビリティーに関するもの などがある。 - (2)遺伝子組換えの含量が0.9%以上の場合は、表示を義務づけている。
- (3)例えば、大豆油のように、タンパク質/DNAの存在が認められなくとも、遺伝子組み換え作物由来の製品は表示義務の対象となる(日本では表示義務はなくEUとは異なる)。
- 承認プロセスが非常に遅く、機能していない――政治的介入=EU圏外ではより多くの作物が承認、使用されているが、EUによる輸入および使用は認められていない。
- EUにおいて承認されていない作物の閾値はゼロで、事実上輸入・栽培はできない。
- 唯一栽培を承認された作物は害虫抵抗性トウモロコシであり、EU加盟国のうち8カ国において栽培されており、その栽培面積は約10万ヘクタール。
3.未承認GMOが低レベルで混入していた場合の影響
1)ケーススタディ:米(コメ)
- 2006年8月18日;アメリカ農務省が除草剤耐性アメリカ産長粒米に未承認の遺伝子組換え米LL601が混入していたことを発表
- 2006年8月23日;EU委員会が、アメリカからの輸入米にLL601の混入がないことの証明を義務づける緊急措置をとる
- 2006年9月;EUの輸入米検査で混入を確認
- 2006年11月;輸入時の検査の義務化
18,000トン(月当たり)の輸入アメリカ産米の検査の結果、20%において混入が認められた
影響:アメリカ産米の通常の貿易が停止
- 精米業15社および米使用食品業界に影響した
- 精米業のみで、2008年半ばまでで7,300万〜1億5,500万USドルのコストを要した。EU長粒米市場の1年間の総利益を超えるコストであり、EUにおける全長粒米市場の6〜13%に匹敵する。
- 食品業界の大部分を占める小企業が主に影響を受けた
- 人気ブランドの品不足をおこすスーパーマーケットがあり、ブランドおよび食品業界のイメージにマイナスの影響が出た。
- アメリカにおいて、遺伝子組換え大豆が新しく承認される
- EUへの輸入は未承認
- EUは、3,500万トン以上の大豆および大豆由来製品を使用する(そのほとんどがアメリカ、ブラジル、アルゼンチンからの輸入)
- 食品業界は、110万トンの大豆油および多数の大豆由来品(レシチン)を使用する。
(輸送には、北米、南米ともに共用で4万トンのバラ積み船が使われる)
- 大豆を使用する業界全体へのコストは14〜39億USドルとなる。
- EUにおけるレシチン生産業は廃業する可能性がある。世界の生産量の3〜5%に匹敵する量を別のもので代替輸入しなければならない。
- 価格の高騰に続き、原料のコストが高くなる。
- ヨーロッパ産の(粉砕)大豆油(110万トン)に代わり、大豆油の追加輸入と代替品としてナタネ油を使うこととなる。
- 現在の大豆の価格を、ナタネ油に代替した場合、2億1,700USドルのコストを要する。
- 代替油の価格は上昇する可能性がある。
質疑応答
Q:欧州各国での遺伝子組換え作物(GMO)に関する態度について
A:1) 一貫して反対している国;オーストリア、ギリシャ、ルクセンブルグ、ポーランド、フランス(現在)
2) 政権により異なる国;イギリス、スウェーデン、スペイン、チェコ共和国
3) 中間の国;イタリア、ドイツ、フランス
Q:2番作ができた理由
A:GMOができてから、南米では10年前から小麦を栽培したのち大豆を栽培(2番作が)できるようになった。遺伝子組み換え大豆では不耕起栽培が可能になった、具体的には、小麦の収穫→除草剤散布→(耕さずに)タネまきという工程で時間短縮ができたため。
Q:不耕起栽培についてはどのような栽培体系が適しているか
A:大規模栽培に適している。
Q:EUにおけるGMOに対する消費者の態度について
A:アンケート調査では、質問の方法で変化し、質が低い。スーパーマーケットでの消費者の行動を見る必要がある。アンケートと購買行動には差がある。
また、GMOに関する知識が限られ、理解されていないことや正しくない情報が流されている。
Q:GMOに消費者メリットがあるか
A:測定する方法が難しい。GMOにより生産性向上は確かで、価格の低下につながるが、消費者メリットまでに繋がるかを明らかにすることは難しい。現在、GMOの生産から消費者の手に渡るまでの過程で、消費者が恩恵に与かるかのプロジェクトで調査中である。GMOを使わなかったら、将来、世界のトウモロコシや大豆の価格が上昇するでしょう。環境に役立っていると現在でもいうことができる。