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茅場町バイオカフェレポート 「薬の原料がなくなる?!生薬資源の危機」 |
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第43回茅場町バイオカフェ(サン茶房にて)を2008年6月13日(金)に開催しました。お話は(株) 栃本天海堂佐橋佳郎さんによる「薬の原料がなくなる?!生薬資源の危機」でした。始まりは北政扶美子さんによるハープの演奏でした。大型ハープから奏でられるサウンドミュージックのメドレーは蒸し暑い午後を癒してくれました。スピーカーの佐橋先生からリクエストでバイオカフェ始まって以来初めて、演奏のアンコールがあった。
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ハープの演奏 |
佐橋さんのお話 |
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お話の概要 |
はじめに
神農さんという農業の神様がいて、農業をしながら草根木皮をなめてみて体によいものを見つけて教えた。いろいろな神農の絵があるが、角があるものがあり伝説のようになっている。又、陶弘景(とうこうけい)は、バラバラになっていた神農本草経の中の生薬365種をまとめた人です。
生薬は、天然物なら何でもよいわけでが試行錯誤の上で発見されたもの。生薬は本草とも呼ばれた。
今回は西洋医学でも使われている生薬を選んで紹介する。その前に、動物由来の生薬を紹介すると、シャチュウ(ゴキブリ)、ボウチュウ(アブ)、ヒル、ミミズ、サソリなどとゲテモノを並べてみた。
中国からの輸入
天然植物原料は日本や中国だけでなくEUや米国でも使っていて、全世界で使用されている。日本の天然植物原料の輸入先は半分以上が中国で、生薬の原料に限っていえば9割は中国からの輸入に支えられている。ということは、日本の漢方薬や治療は中国に依存しているといえる。
中国産野菜の残留農薬が問題になったが、生薬原料はきちんと品質チェックして、日本が「ほしいもの」をよく説明して入手しなければならない。きちんとつきあって、品質のよい原料を手に入れることが大事だと思う。安いものばかりを日本が求めれば、よくない品質の物も入ってくることになるだろう。
カンゾウ
〜カンゾウを味わってみる。「甘い」という声〜
醤油や味噌の甘み付けで広く使われている。カンゾウの甘さは少し苦味があるのが特徴。
カンゾウの花はレンゲの花と似ており、マメ科の植物で砂漠に近い場所で自生している。
中国東北地方、西の方では寧夏回族自治区甘粛省、陝西省等でとれる。
カンゾウの根は水をもとめて深く伸びる根とともに横にも伸びるので、カンゾウ堀りの名人は縦・横に穴を掘り収穫する。堀った後の穴に土を戻さないと、土地が乾燥してしまう。ぎりぎりの乾燥の中で生育しているカンゾウでも、それ以上に乾燥が進めば生育できなくなる。
2000年から中国政府により野生カンゾウの採集規制が始まった。規制を守らない人もいるので、買い取る側も厳しい許可制になっている。
マオウ
マオウの抽出物であるエフェドリンは、交感神経を興奮させて新陳代謝を高めて心拍数を高める働きがある。ナイシトール(内臓の脂肪をとる漢方薬:防風通聖散)が多く売れており、その中のひとつの生薬としてマオウが使われている。また、米国ではやせる目的でエフェドリン入りのダイエット食品が売られたこともあって副作用が多くでた。日本ではマオウは薬でしか使えないのでこんな事例はない。
マオウは旧満州のあたりから内蒙古にかけて自生する。カンゾウより熱っぽいところで育ち、地上部を利用する薬用植物。赤い実にはエフェドリンが含まれず、実は良く食用にされる。マオウも乾燥地帯で自生している。地上部だけを刈り取れば資源がへることはないが、重さで売買されるので、根ごと掘る人がいる。こうなるとマオウを採った後、マオウがなくなり、更にその土地は砂漠化してゆく。
これから、どうしたらいいのか
マオウやカンゾウをとることで砂漠化を助長するので、どうやって採取することと土地を守るということを共存させることができるのであろうか。厳しい制限が必要になってくる。マオウは少し加工すると覚せい剤ができることから、マオウの抽出物から覚せい剤を作って換金している国もあり、乱獲されやすい状況にある。
35年前の砂漠の面積2000年に11%から27%に増えている。砂を固めるような樹木を植えなくてはならない。植物を植える活動をしているNPOもある。
「乱獲」と「無計画」は将来への不安に繋がる。
一方、天然植物の需要は増加中である。
現在は、2001年からのマオウの採集制限が有効に働いている。一方、運動選手が利用して有名になって使用量が増えている冬虫夏草(ある菌が冬の間に虫の体に寄生し、夏になると形は虫のままでキノコになってします)は規制されておらず、生産量がガタ落ちになっている。
野生種に近い物ができるような条件で生薬栽培を行っている。又、生薬原料の人工栽培を拡大したい。野生品種の保護が必要である。
四川省の地震
四川省は漢方薬の重要な生産地のひとつ。
300Km(東京から名古屋くらい)の活断層があり、震源地から遠くても活断層の上の場所では被害が大きくなった。これらの地域では、生薬は多く栽培されているので、一部の生薬の値上がりにつながるかもしれない。生薬からできている身近なものの買占めや無駄な使い方(薬の飲み残しなど)はやめましょう。
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会場風景 |
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話し合い |
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は参加者、→はスピーカーの発言 |
- マオウは葛根湯のにおいがしたように感じた→おっしゃるとおり。葛根湯をお湯に溶くと初めに出てくる味がマオウ。風邪で葛根湯を飲んだ運動選手がマオウのエフェドリンが興奮剤であるために、ドーピング検査で失格することもあったです。風邪で時にマオウは体をあたため血のめぐりをよくするので効く。
- ゼンカツとは何ですか→生薬の原料のサソリ。刺されて死ぬようなサソリではないが、岩の下などにいる。生きたサソリを袋一杯に持ってきてくれたこともあり、驚いた。
- サソリを食べたことがありますか→サワガニのから揚げのような感じだった。サソリは毒をもっているので、100匹以上は一度に食べてはいけないそうだ。
- ゼンカツは何に効くのか→顔面神経痛に効く。
- マオウ、カンゾウの栽培は日本でできるのか→山梨の塩山に甘草屋敷が残っている。江戸時代に、塩山で、カンゾウが栽培されていた。今は北海道で栽培されている。カンゾウ、マオウは乾燥が好きなので、水をやりすぎなければけっこう増える。大学の薬草園でも見ることができる。
- 生薬は365種類だったそうだが、日本でも昭和初期はまかなえた?→日本も大陸と同じようなものが分布していて、シャクヤク、ボタン、トウキ、オウレン等の他、日本のシナモンも作られ流通していた。中国から来たものと同じような植物を日本で探すと、同程度ものやそれよりよいものもあった。キハダ、オウレン(解毒作用)も日本にある。
- 桂林を訪ねたことがある。羅漢果(ラカンカ)は焙煎したものしか持ち出せなかった。昔、岡山大学の先生が持ち帰って栽培を試みたが失敗したそうだ。
- 羅漢果は桂林の広西自治区の特産品。羅漢果はコメの7倍もうかるそうだ。葉からの組織培養で甘くて大きな実がとれるそうだ。甘すぎて舌がしびれるとか。米国は甘味料として輸入している。
- 天然の甘み成分だけを取り出して使うより、植物体全体を使うのがいい。
- 韓国の漢方薬の利用は4%と少ないようだが→日本の4分の1。
- 生薬原料で日本は欧米に買い負けているのか→日本は実物を見て、煎じ薬の原料等として見て買う。欧米はエキスさえあればいいので、以外と、棲み分けができている。しかし、生薬の全体量が減れば買い負けがあるかもしれない。
- 人工栽培が確立されていない生薬は野性品がなくなる心配があると思うが。その例を→冬虫夏草があげられる。冬虫夏草は、菌糸体のみのエキスではだめで、全体でよく効く。こういうものは人工栽培はできない。ところで、カンゾウのグリチルリチンは含有量2.5%以上あると医薬品になる。食用はそれ以下でもよい。長い間、栽培カンゾウ2.5%をクリアできなかったがようやくグリチルリチンをクリアした栽培品もできている。食用は栽培ができているといえる。品質や見栄えを気にしなければ栽培品で利用できるものは多い。規格を緩くすれば栽培できる薬用植物の区分は広がるだろう。
- くらしとバイオプラザ主催の薬用植物園の見学会に行った。植物資源保全に関わる研究者数が少なく苦労されていることを知った。また人工栽培の研究も進められていた→野生種に頼っている漢方生薬の原料は30種類くらい。これら野生種に近いものがなかなかできない。栽培方法はかなり日本で確立され、羅漢果などは組織培養でできている。チョウセンニンジンの水耕栽培も認められれば利用できる。生薬は特定の成分だけではだめなものもある。野生のチョウセンニンジンには取り込みやすい形の微量のアヘンが入っており、これがいいというと人工栽培ではできない。
- 野生カンゾウは中国以外でできないのか→カンゾウはアフガニスタンなどの中近東の砂漠で自生しているが、日本へ輸入される多くの生薬は中国産。
- 動物資源は入手が難しいのではないか→生薬で使われる化石は1〜10万年前の化石で、使っても頻度は少ない。一般的な大型動物から得られる骨の化石で価値あるものではない。リュウコツといっても、化石生薬の不足という話は聞いたことがない。
- ジャコウはジャコウ鹿のオスの性腺、サイカク(サイの角)はワシントン条約で禁止されてしまった→人工飼育のジャコウがいる。サイカクは日本で一番入手が厳しいものだろう。飾られている標本の内部を削って生薬として使わないように、標本の重さを何年かに1回測って量って報告するようになっている。ワシントン条約前の最後の価格は2〜3Kgで250万円だった。
- 生薬と化学で合成した薬とではどう違うのか。漢方は苦いから効くのか→漢方薬は単一成分ではないのが特徴。また、漢方薬はその人の状態を尋ねてから処方する。漢方薬はぴしゃりとはまればよく効く。西洋薬は自覚症状を改善することが多いわけで、上手に使い分けることが大事。そのためには医者が両方の薬をよく知っていなければならない。西洋医学では成分ごとの効果がわかっているが、漢方薬は成分を取り込まなくても効果がでることがある。例えば、香りがするという感覚を脳が感じれば何らかの作用をすることがある。こういう効果は西洋医学ではつかまえにくい。漢方薬の場合は含まれる成分と効果はイコールでない。
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