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バイオサミット「地球環境を改善するアグリバイオ」開かれる |
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2008年6月30日、洞爺湖サミットにあわせて、北海道カデル27で、北海道バイオ産業振興協会(HOBIA)主催によりバイオサミットが開かれました。続いて、7月1日、東京大学農学部2号館化学第一教室でもバイオサミットin東京が行われました。東京大会の主な内容を報告します。
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山川隆先生 |
R.R.アルデミタ先生
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東京大学大学院生命科学研究科 山川隆先生
日本の遺伝子組換え植物の実用化の状況
鉄欠乏土壌で生育するイネ:東北大学でほ場試験。イネは土壌の鉄が3価になると吸収できないので、根からキレート化合物を分泌し鉄を吸収しやすい形にして吸収する。
スギ花粉症緩和米:つくばの隔離ほ場で環境評価試験、現在は医薬品として効果を試験中。
遺伝子組換え樹木:高塩耐性ユーカリの栽培試験が筑波大学の隔離ほ場で行われている。
青いバラ:三色スミレの遺伝子を入れたバラ。ほ場試験が終わって、生産栽培へ。
日本の現状
日本は海外からトウモロコシ、ダイズ、ナタネを大量に輸入し、その多くが組換えだろうと考えられる。しかし、日本では安全面・環境面で不安を感じる消費者が多く、有機栽培の生産者は遺伝子組換え作物栽培に反対し、都道府県の栽培規制は強化され、日本では、遺伝子組換え作物育種の研究開発の出口がなくなっていっている。東京大学の隔離ほ場における遺伝子組換えジャガイモの試験栽培は、説明会で、風評被害の恐れが問題になり栽培試験は延期された。その後、指針もできて東京都では栽培試験は未だにできていない状況。
日本では、食品以外(花、医薬品など)でこの遺伝子組換え技術が先行し、食品では組換え以外とさえる技術(突然変異やナチュラルオカレンス、セルフクローニング)やリスク低減技術(葉緑体工学、閉花受粉、雄性不稔)を利用する傾向が出てきている。余り風当たりが強くない花やバイオ燃料作物での利用が期待できるかもしれない。
これからは、1)正しい情報提供とリスクの概念の普及、2)流通でのIPハンドリングなど技術的な側面の運用、3)消費者にも利益をもたらす第二世代の組換え植物の実用化が重要ではないか。
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質疑応答 |
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は質問、→は回答 |
- 北海道ではイネの交雑が起こったと聞いている。交雑するとオーガニックの認証を受けられないので、遺伝子組換え作物は栽培しないでほしい→有機栽培の概念と、オーガニックの規格についての考え方もあり、欧州のように有機農業、慣行農業、遺伝子組換えの三者共存の方法を探っていってはどうか。各々の栽培の権利が認められ、交雑が起こるなどしたときに補償制度が利用できるようになっていればいいのではないか。このところ、農産物の価格高騰から、日本の農業を産業として見直す動きが見られる。遺伝子組換え技術に対する一般の評価も変わりつつあるのではないかと思う。
国際アグリ事業団 シニアオフィサー R.R.アルデミタ先生
ビタミン欠乏患者は、妊婦の10人に2人、子供の10人に4人。バイオテクノロジーでビタミンやミネラル欠乏で苦しむ人を救えないだろうか。米の中でプロビタミンAを合成するように遺伝子組換えを行ったのがゴールデンライス(GR)。プロビタミンAは摂取されるとヒトの体内でビタミンAになる。
ゴールデンライスは2000年にできた。当時の課題は、1)GRに耐病性を付与すること、2)GRの形質の安定化にかかる時間を短縮することだった。2005年にはイネの別の品種で成功。現在は、インディカ、ジャポニカを含め、3品種のGRがある。干害や台風の中でもGRはよく育っていて、2009〜2010年に試験栽培を行い2011年に商業栽培できるようにしたい。
ゴールデンライスの安全性試験
すべて規制の条件を守り、書類申請をし、2シーズンの閉鎖系試験を行い、野外試験を実施。米国では2004年に野外試験を終了した。食の安全性試験も終了した。5年間を試験に要した。グリンピースともディスカッションしてきた。
私たちの目的は、GRはフィピンなどの貧しい国にGRを供給し、その国の品種と交配し、その国の子供たちが食べられるようになること。シンジェンタが技術を無料で提供したので、2011年までに各地で無料で種が利用できるようになる。
ゴールデンライスの普及
プロビタミン米コンソーシアム(Provitamin Rice Consortium)では、フィリピンは地元で栽培している米にGRを導入することを目指している。ここでは、「健康増進・栄養改善を行うGC#9プロジェクト」が、フィリピン、ドイツ、インド、中国 インドネシア、バングラディッシュ ベトナムの参加のもとで進められている。シンジェンタが技術提供し、キャッサバ、バナナ、イネでの利用も研究中。
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質疑応答 |
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は質問、→は回答 |
- 野外栽培試験に対する近隣農家の反応や消費者の反応は→フィリピンでは市民も学習を終えており、子供や妊婦のビタミンA欠乏の現状から受容されている。
- 2011年に各農家に配ったら自家採取できるのか→ハイブリッドではないので、自家採取して使い続けることができる。
- 2004年の米国の環境試験はどのように行ったのか→2種類の大規模な野外試験をルイジアナでした。組換えでない2品種も植えて比較した。成長の違い、粒数、草丈などを調べたが、ほとんど同じだった。米国では誰も気にしていなかった。米国にはGR以外にビタミンAを含む多数の野菜があり、米国の人は関心を持たず食べないと思う。
- 商業栽培したらGRは普通の米より高く売るのか→国のプロジェクトなので、普通の米と同じ価格で売る。
- バクテリアブライトやタンゴ病の耐病性はどうやって付与するのか→野生種が持っていた耐病性遺伝子を交配でGRに入れた。
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シュパンゲンベルク先生 |
佐藤卓先生 |
オーストラリアビクトリア州一次産業省 バイオサイエンス研究局 シュパンゲンベルク教授
オーストラリアの農業
オーストラリアでは気候変化が始まっており、2070年までに平均気温が1-6度上昇し、降水量も減少すると予想される。過去10年は平均降水量以下の雨しかふらず、この5年には大干ばつによりGDP1%(66億ドルに相当)にあたる損害を受けている。限られた水資源への対策と状況の緩和を図ることが急務。
世界では、遺伝子組換え作物の栽培面積が12年で60倍以上に増加したが、作物の増産のために遺伝子組換技術に勝る手法はないと考えられ、オーストラリアの干ばつ対策でも活用できると期待。
遺伝子組換えコムギの開発
干ばつ耐性コムギ:オーストラリアで2000万ha栽培するコムギでは、干ばつで最大6割減の影響を受けるだろう。2006-7年、ビクトリア州の干ばつ被害は収穫の最大7割減(約3億豪ドル)だった。遺伝子組換えコムギを導入しないと、2050年までに13%のコムギは減収するだろう。
6種の干ばつ耐性遺伝子をシロイヌナズナ、トウモロコシ、コケ、酵母から得て、常時発現または乾燥で誘導される2つのプロモーターを利用。50の異なる組換えの系統を対象として試験し、最大20%の収穫増が期待される。10年後に上市を目指して栽培、安全性評価を進めている。
カビ耐性コムギ:気候変動により病虫害の拡大が予想される、黄さび病、葉枯病、赤さび病等に耐性を持つ組換えコムギを研究中。オオムギ由来の非宿主抵抗性の遺伝子を発見し、これを利用する。
遺伝子組換え技術の牧草への応用
高エネルギーライグラス:フラクタン(糖質)の多い多年生ライグラスを開発中。牛乳の乳固形分が増加する。
高品質のウシノケグサ:ライグラスより高温に強く、温暖化の中で有望視されているウシノケグサのリグニンの減少をさせると、消化率を向上させ代謝エネルギーへの変換が促進される。
花粉症を起こしにくいライグラス:180万人のオーストラリア人の花粉症や季節性の喘息を誘発しているといわれ、その98%のアレルギーの原因といわれるライグラスのアレルゲンを低減する。健康増進、医療費削減に役立つ。
クローバー:遺伝子を組み換えて、たんぱく質の利用効率の向上、動物の健康増進、牛の鼓脹症の防止、長持ちする(葉の老化を遅らせる)、ウイルスに強いなどの形質を付加。アルミニウム等の毒性の高い土壌など、耕作限界地で栽培可能(根の先端で有機酸を分泌する)な品種の開発。干ばつに強く、実のつきが多いなど。
開発状況とこれから
試験栽培中の作物:ワタ、クローバー、コムギ、サトウキビ(窒素利用効率、糖度改良変)
審査中の植物:トレニア(リン酸の取り込みが多い)、ライグラス(高フルクタン)、ウシノケグサ(リグニン改変)、バナナ(病害抵抗性、栄養強化)
今後、導入されると農業に貢献できる作物として、除草剤耐性組換えナタネは、除草剤削減、不耕起栽培の実現、9%増収、降雨量の少ない地方での栽培やコムギの輪作ができるので、1億5700万ドルの利益増加が見込める。栽培の選択の自由の実現が重要。2008年2月、ビクトリア州では、組換えナタネのモラトリアムが解禁され栽培されている。
害虫抵抗性・除草剤耐性ワタでは、生産性向上し、農薬散布が11回から3回に減少。
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質疑応答 |
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は質問、→は回答 |
- 遺伝子組換えコムギの実用化はいつか→商業化はまだ。5−10年以内
- 遺伝子組換えはアレルギー低減化に有効だと思っている→89%の人に効くだろう。
- スタック系統で栄養を高めてアレルゲンを減らしたのは、家畜用か→そうです
- クローバーやライグラスは家畜用→そうです
- リグニンを減らす利点は→リグニンは繊維を強くし発酵を妨げる。ひとつの酵素で劇的に減らせるとバイオマスとしての品質が増す。
米国大使館農務部 スペシャリスト 佐藤卓さん
米国の規制
人間は1万年の歴史の中で農作物の選抜、育種を行い、遺伝子を操作してきた。よっていわゆる遺伝子組換えと呼ばれる技術は、「モダンバイオテクノロジー」という言葉がより的確な記述だと解釈している。
米国では、ある機能が作物へ付与されたとき、遺伝子組換え技術を用いたことにより、特定のリスクが増加したとは判断しない。実験レベルでは、1983年に組換えタバコが、1986年に、組換えトマトが商業生産された。
米国では農務省(USDA)、環境省(EPA)、食品医薬品局(FDA)が審査している。害虫抵抗性ならUSDA,EPA,FDAで審査。食品の組成を変えた食品なら、FDA,USDAが審査する。2007年9月19日までに、審査された野外試験栽培の合計は12,900件。
米国と世界の農業の状況
Biotechnology Industry Organization(BIO)ではいわゆる紳士協定(Excellence of Stewardship)として主要貿易相手国での審査が終わるまでは栽培開始は待つことにしている。一方、現実世界では、人口増加、農家人口の減少(中国も)、食糧の不足、環境変化への対応、肉の消費量の増加、地下水の減少などの多くの問題に立ち向かわなければいけない。その一方で、農地は増加しないわけで、有効利用できる技術を持つものは積極的に利用する義務があるといえるのではないか。また、日本の農家の平均年齢は68歳で農家人口は減少中であるが、米国も同様で高齢化が進んでおり、平均年齢は54歳、農家人口も減少しつつある。これらから、農業を省力化できる技術は絶対に必要だということがわかる。
ダイズを1ヘクタール栽培するのに非組換えには39.1リットル、組換えには25.8リットルの燃料がトラクターの使用に必要であり、組換え大豆では労働時間も減少することが示されている。組換え技術は省力化の強力な手法のひとつ。今はスタック系統が増加の傾向で、ダブルからトリプルなどの多数形質の付与された品種が増えるだろう。
植物防除、種子ビジネスの中でもバイオテクノロジーは大きな経済効果も生んでいる。
世界における遺伝子組換え技術の必要性(パパイヤやバナナの病害対策の事例)
パパイヤはリングスポットウイルスの大打撃を受けたが、遺伝子組換えパパイヤの技術がパパイヤ協会に寄付された。苗が分譲されて、ハワイの農家で既に利用されている。
同様に、バナナのパナマ病は農園がつぶれるくらいの被害を与える。世界のバナナは、挿し木で広まり一品種なので、パナマ病が広まったら世界のバナナは全滅するだろう。アフリカにはバナナが主食の国もあり、パナマ病対策は世界の大きな課題である。
バナナもパパイヤも、病害に対抗できるものの現実的な提供が急務であり、現在は遺伝子組換え技術以外には現実的に有効な対策はないとされている。遺伝子組換え食品を食べたくないという意見があることは尊重するが、遺伝子組換え技術なしには主食の存在が危ぶまれるという人達の前で、この技術自体を否定することは倫理的に難しいのではないかと思う。
日米の市民の受容
世界の食糧輸入は1兆ドルを超え、中でも日本は世界有数の食糧、遺伝子組換え作物輸入国である。日本で飼育されている豚や牛の多くも組換え飼料に依存している。つまり、国内で生産されている肉類は組換え体技術に強く依存していることになる。その一方で、輸入されている組換え作物は日本政府による食品、飼料、環境面での安全性審査を終えているものであるにもかかわらず、国民の組換え体に対する受容はきわめて低く、国内における栽培にもさまざまな障害がある。このような現実は食糧安全保障の観点からも決して健全とはいえないのではないか。
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質疑応答 |
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は質問、→は回答 |
- 米国のGMコムギはどうして進まないのか→コムギは研究段階で、商業ベースのものは承認されていない。研究でできあがっても商業化するかどうかはまた次の課題であると思う
- 遺伝子組換えコムギの実用化は→カナダ、オーストラリア、アルゼンチンは組換えコムギの実用化を進めている。
- 組換えコムギは主食だから受容されないのか→商業的判断でコムギの進捗は遅れたかもしれないが、今はオーストラリア等多くの国が組換えコムギの実用化を待っている。
- バイオ燃料は実用化しないという記事を読んだ→そういう見解は見たことがない。インターネットならば、事実に基づいていない情報も多いので、そういうものもあるかもしれない。ある事業者がそう判断してもバイオ燃料全体が下火になったとはいえない。投機、先物買い、途上国の需要が増え価格高騰に影響していると私は考えている。
- オーストラリアで主食のコムギの組み換えを拒む消費者の動きはあるか→ない
- アメリカの消費者は受容しているのでなく、表示がないので遺伝子組換え食品の存在を知らないのではないか→アメリカ人もそこまで無知ではないと思いますが。。。
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