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シンポジウムレポート
『環境・エネルギー・食料の課題解決に貢献する
ゲノム育種の現状と将来展望』

 標記シンポジウムが、内閣府主催で文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省共催で2008年6月10日(火)、全社協・灘尾ホールで、総合科学技術会議科学技術連携施策群のイニシアチブの下、平成20年度科学技術振興調整費によって実施された。
以下にシンポジウムの内容を報告します。


1.開会の辞

    食料・生物生産研究連携施策群コーディネーター 小川 奎氏

 科学技術連携施策群については、平成16年7月に総合科学技術会議において、各府省の縦割り施策に横串を通す観点から、国家的・社会的に重要であって関係府省の連携の下に推進すべきテーマを定め、関連施策等の不必要な重複を排除し連携を強化して積極的に推進することが決定された。今日は、分野別プロジェクトの一つである食料・生物生産研究についてのシンポジウムを開催する。
 2004年にイネゲノムが解読された。その解読の55%は日本が実施した。今後イネの育種や育種判別に利用が期待される。遺伝子組換え作物の全栽培面積は1億ヘクタールを超えた。国民理解が十分ではない中ではあるが、総合科学技術会議議員の本庶祐先生は、ライフサイエンス部門でのiPS細胞とGMOの実用化を強くうたっている。農水省も新プロジェクトを発足させている。枠を超えて研究・実用化を進めていきたい。


小川 奎氏 松岡 信氏



2.話題提供

(1)食料問題への貢献

「食料問題の解決に向けたゲノム育種の可能性
 農業形質を制御するQTL遺伝子をどのように単離し利用するのか」
     名古屋大学生物機能開発利用研究センター 教授 松岡 信氏
QTL遺伝子;量的形質の決定には複数の遺伝子座が関与すると考えられている。量的形質にかかわる遺伝子座を量的形質遺伝子座もしくはQTLと呼び、関係する遺伝子を呼ぶ。
  イネの1穂当たりの籾数(種子数)に注目するとハバタキの籾数(平均300粒)は、コシヒカリの籾数(平均150粒)の約2倍である。イネの単収をあげることを目的に、ハバタキの遺伝子研究を進めたところ、QTL遺伝子が5個存在し、その中で最も効果の大きい遺伝子は、24本あるうちの第1染色体上のGn1という遺伝子であることがわかった。コシヒカリにGn1遺伝子を入れると穂数は平均250粒と増大した。
  穂数が多くなるイネには最後まで倒れないようにする工夫が必要である。具体的には、耐倒伏性は背丈を低くする(半矮性)ことである。この草丈を制御する遺伝子が4個見つかった。このうちsd1遺伝子が半矮性を示すことが明らかになり、Gn1遺伝子とsd1遺伝子を入れたコシヒカリで、収量が約30%増加し、草丈が80%に減少した品種が作られた。この穂数(種数)は平均207.4個であったのに対し、コントロールのコシヒカリは164個であった。今後、この技術は、イネの育種に使われると同時に他の品種にも応用が期待される。
(sd1変異体:ジベレリン合成不全によりイネの生長が阻害され矮性になった変異体)

「新農業展開ゲノムプロの紹介」 
     農業生物資源研究所 理事 佐々木 卓治氏
  1. これまでの農業分野の成果として
    1. イネゲノム解読からゲノム解析基盤の構築
    2. これまでに単離及び機能解明された主な遺伝子
      出穂期、白葉枯れ抵抗性、イモチ病害抵抗性、乾燥、塩害、低温耐性、種子数、草丈など遺伝子
    3. 有用実用系統の開発例(DNAマーカー育種)
      草丈が短く倒れづらいコシヒカリの作出
      出穂期の違うコシヒカリの作出
      イネのトビイロウンカ抵抗性系統種の作出など
    4. 実用品種に結びつく技術開発(遺伝子組換え育種):
      組織(茎、葉、胚乳など)特異的に発現させるベクターの開発
  2. 農政の重要課題として、(1)世界食糧需給の安定、(2)食料自給率の向上、(3)環境改善、(4)バイオ燃料の利用促進をあげた。
  3. 新農業展開ゲノムプロジェクトについて
       予算規模 40億円
       食料、環境、エネルギー問題解決に貢献する画期的な技術として  
    1. 食料:複数の病虫害に抵抗性を持つ作物(例;いもち病、ウンカ複合抵抗性イネ)や劣悪な環境でも生育可能な作物(例;乾燥、塩害耐性コムギ)
    2. 環境:汚染土壌を効率的に浄化する作物(例;カドミウム高吸収イネ)
    3. エネルギー:超多収やエタノールへの転換成分の含有率の高いバイオマス作物(例;超多収、リグニン含有率の低いイネ、トウモロコシ、ソルガム)
    遺伝子組換え技術の理解増進に向けた国民との双方向コミュニケーションを推進すること

佐々木 卓治氏 大石 道夫氏

(2)エネルギー、環境問題への貢献の可能性

「エネルギー問題への貢献とGMOの推進」
    かずさDNA研究所 理事長 大石 道夫
  1. 何故、バイオ燃料なのか
    1. 炭酸ガス放出の収支がゼロ⇒地球温暖化防止に寄与から
    2. 石油価格の暴騰に対する代替エネルギー(エネルギー政策)
      石油価格が135ドル/バレルの時代となり、バイオ燃料がコストとして見合うようになってきた
    3. 石油産出国の地理的、政治的偏在への対応(国家安全保障対策)
    4. 農家の収入増加と収入の変動に対するヘッジ(農業保護政策)
      米国の農業者にとっては、ダイズ、トウモロコシがバイオ燃料として使われることによる高騰、収入が増えている。
  2. バイオ燃料の問題点としては、食料との競合が挙げられる。特に、発展途上国での飢餓が増えたこと、中国やインドの生活の変化、肉食になってきた。肉食になると従来の7-10倍の穀物が必要となる。
     政治的解決も重要と考える
  3. 第2世代、第3世代のバイオ燃料として
    1. 従来、放棄されていたセルロース系材料(廃材、稲ワラ、古紙など)よりエタノールを生産。これを解決、目指すべき目標としては、
      1. セルロースを糖類に変換する転換効率の向上があり、遺伝子組換え技術による安価で高効率のセルラーゼの開発が必要である。セルラーゼの固定化技術の開発も課題である。
      2. 遺伝子組換え技術によるヘミセルロース(リグニン)など他成分の利用効率の向上がある。リグニンはかなりきつい課題である。
    2. 遺伝子組換え技術によるバイオ燃料に特化した植物の創造
         目指すべき目標としては、
      1. バイオ燃料生産のための新植物の創造がある
        (例;ヤトロファの栽培があげられる(ヤトロファ・クルカスは耐乾性の多年生植物で、作物が育たない痩せた土地でもよく育つ。ディーゼル油生産用バイオ燃料の重要な原材料として全世界で栽培が開始されている)

        より長期的には、
      2. 遺伝子組換え技術による高レベル光合成能付加した植物の創造
      3. 遺伝子組換え技術による窒素肥料不要植物の創造(世界の石油消費量の2.3%は窒素肥料生産のために使われる)
      4. があげられる。

「荒漠地の緑化等環境問題への貢献」

    森林総合研究所生物工学研究領域長 篠原 健司氏

  1. 世界の荒漠地(乾燥地、未利用地、耕作疲弊地)は世界の陸地の30%
  2. 荒漠地における適正樹種としては、
    1. 低緯度のハードパン型乾燥、塩集積地域地域、酸性地域ではユウカリ(Acacia aneura,A.tetraggonophyllaなど)が主で、又、半乾燥地域では、アカシアとユウカリ(Eucalyptus camaldulensis、E.campaspeなど)がある
    2. 高緯度の塩集積地域や乾燥・半乾燥地域では、ポプラやヤナギ(Populus)が、又、酸性地域ではポプラがある。
  3. 遺伝子組換えの対象となってい主要な樹木としては、ハコヤナギ属(Poplus)、マツ属(Pinus)、ユーカリ属(Eucalyptus)が主体となっている。
  4. 日本における遺伝子組換え樹木の開発の現状は以下の通り
    1. ポプラ、ユーカリ、スギのゲノム情報の収集、整備、有用遺伝子の単離
    2. 組換えポプラの早期開花技術の開発
    3. 耐病、高セルロース(低リグニン)含有組換えのポプラの開発、環境ストレス耐性組換えユーカリ等の開発
    4. 雄性不稔組換えスギの開発
      (独)森林総合研究所、日本製紙、王子製紙、地球環境産業技術研究所(RITE)北海道大学、京都大学で進められている。 
  5. 隔離圃場で試験されているのは以下の通り
    1. 耐塩性ユーカリ(2005年から実施中) 筑波大と日本製紙
    2. 高セルロース生産性ポプラ(2007年から実施中)
      (独)森林総合研究所と京大
    3. 耐塩性ユーカリ(2008年から実施中) 筑波大と日本製紙


篠原 健司氏 岩永 勝氏


「国際的な貢献の可能性」
    農研機構作物研究所 所長  岩永 勝氏

 日本は、イネゲノムの解読などで先駆的な研究や分子生物学の分野での多くの研究論文を発表しており、高いレベルにある。しかし、GM作物を嫌う傾向から応用がおぼつかないこと、知的所有権の利用や安全性評価の経験が浅い、基礎研究の応用先がない(未利用の宝の山となっている)問題点がある。こうした中、研究の一例として、国際農林水産業研究センターとCIMMYT(メキシコに本部がある)と共同研究したDREB遺伝子を使った乾燥に強い植物を作出した成果が挙げられる。
    DREB遺伝子;Dehydration-Responsive Element Binding factorの略で、乾燥・塩・低温ストレスに対する耐性の向上に関与する遺伝子)
国際版の「産官学連研センター」を作り、主に開発途上国に科学・技術を提供していくことは意義がある。結果として、世界の食料安保に貢献し、日本の食料安保を可能にする。「科学技術立国」をもとに「科学技術支援外交」(国際貢献)ができ、基礎研究の応用がなされ、研究活動が活発となる。

講演後、パネルディスカッション「環境・エネルギー・食料の課題解決に貢献するゲノム育種の現状と将来展望」が行われました。講演資料は以下で見ることができます。
参考サイト  http://www.renkei.jst.go.jp/sympo/food01/entry.html

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