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メディアセミナー報告
「世界の食糧危機問題の現状と今後の展望」

2008年6月4日(水)、ホテル・ヴィラフォンテーヌ汐留で標記セミナーがバイテク情報普及会によって開かれました。お話は、有路昌彦さん(写真 アミタ持続可能経済研究所 主席研究員)による「世界の食糧危機問題の現状と今後の展望〜持続可能な食糧供給と農業環境における、遺伝子組換え作物の位置付け〜」でした。

有路昌彦さん


主な講演の内容

I.食べ物の現状

1.食べ物を作る側で見ると

  1. 資源の枯渇:特に水産物で著しい。
  2. 世界海面漁業漁獲量は1988年ごろから7,000万トン頭打ちとなっている。これに消費が増加(人口増)している一方で、魚がいなくなっている。一例を示すと、ウナギは、欧州のシラスが中国に輸出され、中国で養殖された後、日本に入ってくるが、欧州のシラスが95%いなくなり枯渇状態である。また、ウナギの飼料は、子魚や大豆の高騰により、産業として危うくなっている。又、クロマグロやメバチも減っている。
  3. 環境変動については、農作物では、地球温暖化、干ばつによる耕地適地の減少(オーストラリアの小麦、アメリカ中央平原、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン)により生産量が減っており、水産物では、地球温暖化による水産資源の分布が減少している。
  4. 耕地拡大の限界については、地球レベルでは、耕地適地の伸びは僅か、むしろ、減少傾向にある。
  5. 単収については、技術進歩では超えられない限界にまできている。
  6. 生産コストの増大については、原油価格の高騰による燃料費の増大、農産物の燃料用(バイオエタノール等)需要増大による飼料用農産物価格の高騰、これによる肉畜類が高騰、全ての食糧が高くなる状況にある。

2.食べ物を買う側の現状

  食用需要が増大している
  1. 国際人口の増加及び特にBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)各国の消費の増大がある。
  2. 石油価格高騰による燃料需要の増大により食用にすべき農産物をバイオエタノールの生産に使われるようになった。従来はヒトを中心とした需要量のみを考えればよかったのに、車による消費(バイオエタノール)を考えなくてはならなくなった。現状、車への需要と貧しい人が増えている。

3.経済的な影響

  1. サブプライム問題によって発生した莫大な資金フローの受け皿となっている 
  2. 食糧のように確実に不足し、値上がりする可能性があるものは、投機の対象となり、実質の価格より高くなる。
  3. その結果、政情的不安も世界的に発生しうる。
  4. フードセキュリティとしては、金融もエネルギーも全て影響するものとなってしまっている。
上記1.2.3を中心とした食糧危機の問題は、世界会議の開催を余儀なくされ、6月初旬の国連食糧農業機関(FAO)主催の「食糧サミット」が開催され、7月北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)などで取り上げられる予定であり、国際問題となっている。
又、現実に、主要な農産物のダイズ、トーモロコシ及び小麦の価格は確実に高騰している。長期的に見ても下がることは考えられない。

こうした中でどうすればよいか考える必要がある。その一つとして、遺伝子組換え作物を考えてみる。

II.遺伝子組換え作物についての便益(メリット)とリスクについては以下のことがあげられる。

1.遺伝子組換え作物の便益について

  1. 食糧の大幅な増産が可能になる(例 虫害がなくなり安定生産できる)。
  2. 特に温暖化にも対応した生産が可能である(遺伝子の活用により)。
  3. 資源・エネルギーの節約が可能になる(農薬の撒布回数の減による農薬使用量及び農薬散布にかかわるエネルギー、草取りエネルギーの減)。
  4. バイオエタノールは組換え作物で生産できる。
  5. 残留農薬のリスクを下げる(農薬の使用回数の減による使用量の減)。
  6. 食品に新たな機能が付加できる。

2.遺伝子組換え作物のリスク

  1. 食品の安全性は?
  2. 環境への影響は?
  3. 経済への影響は?
  4. 誰かの損害になるのか? など
便益とリスクをポイントにして組換え作物を評価する上で重要なのは、@便益における期待される効果(直接の効果と他の効果)を金額であらわすこと、Aリスクをきちんと分析し、損失(リスクと他の費用)についても金額換算をし、@とA両者の費用対効果を比較する(天秤にかける)ことにより判断することが合理的であり、感情論にならないようにと強調した。又、従来の品種改良と違うが、品質への影響、健康上、環境上で得られている情報を言い悪いではなく、意味する中身を正確に・誠実に伝え、従来品と遺伝子組換え作物とを天秤にかけ、遺伝子組換え作物がどのようにあるかを理解してもらうのが大切である。
又、現状においては、@消費者は、メディア情報が9割と店頭の情報であり、「情報が十分にいきわたっていない。情報に偏りがある。情報源が限られている。」、A大丈夫なら食べたいけれど、信頼できない、別の言葉で言えば、潜在需要はあるけれど信頼という条件がある。これらの条件では遺伝子組換え作物の消費が進まないのは当然である。正しい情報が、映像(テレビ)や書き物(新聞等)においても伝えられるようすることが大切である。




質疑応答

Q.遺伝子組換え食品について先生は賛成ですか、反対ですか
A.
1.食品安全委員会による安全性の審査手続きを経た遺伝子組換え作物の栽培、食品であれば問題は無い。今後審査される遺伝子組換え作物及び食品については、健康へのリスク、環境リスクの評価は必要であり、また、その評価のプロセスはとても大切であり、注目していきたい。
2.反対者を拒絶したり、感情論で対応するのではなく、繰り返しあきらめないで話し合う、向き合って付き合う必要がある。
3.サイレントマジョリティの人たちの意見を明らかにしていきたい。

Q.アメリカでの昨年、遺伝子組換えダイズの栽培面積ははダイズ栽培面積の90%を超え、同様にトーモロコシの栽培は約70%。日本は完全に輸入を拒絶はできないのではないか。
A.便益を考えて、品目ごとに消費者の選択を積み上げていくのが良いと思う。

Q.コメの遺伝子組換えについてはどうか
A.日本における必要か必要でないかは、便益とリスクとを天秤にかけて(数値化して)判断するのが良い。

Q.国民的合意というが、例えば、アンケートの結果のみで国民的合意という場合もあるが、国民的合意を安易に使われていないか
A.
1.メディアの果たす役割は大きい。丁寧に説明し、正しく伝わるようにメディアの人たちにも努力してもらいたい。
2.情報の共有化に関して話し合いを行う場合、例えば、遺伝子組換えについての情報を持ちよく知っているグループと、まだ情報が少なくこれから学んでいこうとするグループとに分け、レベルを合わせて行うとうまくいく。話し合いの中では、無理に理解してもらおうとはせず、別の面から考えて見たらとか便益とリスクをもう少し出しましょうとかで進めると良い。

Q.アンケートについてお考えになっていること
A.例えば、BSEに関して、@情報を与えずに、AA情報を与えて、BB情報を与えて、アンケートをとると結果が随分変わることを経験している。しっかり情報を伝えていく(与える)ことがいかに大事であるかがわかる。

Q.バイオテクノロジーのような新技術(進化していく分野)について実用化を進める場合の考えは
A.科学の進歩、世の中の進歩については、現在の科学で判断することであり、後で、又、変わってくるものであり、PDCA(Plan Do Check Action)のサイクルをまわして、更新していくのが良いと思う。



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