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バイオカフェレポート 「だましのテクニック アゲハに見る擬態の不思議」 |
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第41回バイオカフェが2008年4月11日(金)に茅場町サン茶房で開催されました。松本宗雄さんのバイオリン演奏で始まりました。本日のスピーカーは、東京大学大学院教授の
藤原晴彦さんで、お題は「だましのテクニック アゲハに見る擬態の不思議」でした。
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バイオリン演奏をする松本さん |
お話をされている藤原先生 |
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お話の概要 |
1.昆虫とは
- 地球上で約4億年前に出現し、段階的に、翅が形成されたり、翅の重ねあわせがおこったり、完全変態する方向で進化した。昆虫の8割以上が完全変態(卵→幼虫→蛹→成虫)する。
- 少し前の推定で生物種165万種の約半分(80万種)を占めており、乾燥に強い硬い表皮を持ち、翅で飛び廻り、いろいろな場所で生活できる。言い換えれば、昆虫の種の数が膨大であり、遺伝的多様性があるということで、あらゆる環境にも適応できる能力を持つ。
- その大きさは、小型の昆虫として体長0.38mmのクロムクゲキノコムシから大型のナナフシの1種は体長50cmである。サイズのバリエーションも大きい。大型の昆虫は、最小の哺乳類ジャコウネズミ(体長3.8cm、體重2.5g)よりは大きい。最大の原生動物 P.palustris 直径2mm以上よりも小さい。
2.情報戦略としての擬態について
昆虫は、動物や鳥などに食べられないような「似せてだます」様々な工夫をしている。
(藤原先生の著書「似せてだます 擬態の不思議な世界」(株)科学同人には、昆虫の擬態例を口絵で紹介、分かりやすく、説明してあります。)
- 強いモデルに似せる(ベイツ型擬態)
アリ(アリ毒)とハチ(敵を刺す鋭い針を持つ)は昆虫界では強い。これらに似せる昆虫がいる。
- 無害で花粉を運ぶ益虫であるハナアブは、ハチの黒と黄色の体色(警戒色)をもち、自らに危険性があることを示す擬態とブンブンと飛び方にもハチに似せている。
- アリ(毒をもつ)に似せたアリグモがいる。
- シロオビアゲハの雌は、ベニモンアゲハ(毒チョウ)の翅の紋様を似せている。
- 植物の形や色に似せ目立たなくする隠微 (カムフラージュ) 型擬態
- コノハムシは、広葉樹の葉そっくりに色、形を似せる。
- シクイコノハギスは、まるで体の一部が枯れ落ちた枝ように似せる。
- カギシロスジアオシャクは、コナラの芽に似せる。
- アゲハの終齢幼虫は、柑橘類の葉っぱに似せる など
- 目立つための標識型擬態
- 鳥の糞に擬態しているアゲハの幼虫。
- 目玉模様で相手を威嚇したり、相手を錯覚させる。
- 隠微 (カムフラージュ) 型で攻撃的なペッカム型擬態:
代表的なのはハナカマキリで、体全体を一輪の蘭の花そのものに似せ、近づいてきたチョウを食べてしまう。
3.アゲハの様々な擬態戦略とその研究
1)擬態戦略
- アゲハの幼虫は巧みな擬態戦略を持っている。4齢幼虫では鳥の糞に似せ、5齢幼虫は葉の色(緑色)に似せている。
- 蛹では、太くてごつごつした幹にいるときは幹の色(茶色)に、細くすべすべした枝には緑色に擬態している。
2)アゲハの脱皮と昆虫ホルモンとの関係
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図1 アゲハの脱皮と昆虫ホルモンの関係の模式図 |
藤原先生の研究室では、アゲハの脱皮と昆虫ホルモンの研究をテーマの一つとしてされている。最近、以下の事を明らかにした。
アゲハの脱皮に関する昆虫ホルモンとして幼若ホルモン(JH)と脱皮ホルモン(エクジソン)があり、この二つのホルモンの体内での濃度調節により脱皮が進んでいる。
3回目の脱皮(3齢幼虫→4齢幼虫(鳥の糞状))はJHが十分にあり、エクジソンが細胞レベルで最大になったときにおこる。
4回目の脱皮(4齢幼虫(鳥の糞状)→葉の色をした5齢成虫)は細胞内のJHが少なくなり、エクジソンが細胞レベルで最大になったときにおこる。
葉の色をした5齢幼虫から蛹への脱皮は5齢幼虫の体内でJHがなくなり、エクジソンが細胞レベルで最大になったときにおこる。
このように進むことは、3回目の脱皮をした直後の4齢幼虫にJHを塗ったところ、緑色の幼虫にならず、鳥の糞のような姿のまま大きくなることを確認できた。
JHの濃度が5齢幼虫の紋様のパターンを決定している可能性が高いことを示している。
4.役に立たない研究の価値
擬態というテーマで研究をしているが、生産活動とは離れており、あまり役に立たない研究と思う。しかし、こうした研究もあって良いと思う。
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話し合い |
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は参加者、→はスピーカーの発言 |
- 昆虫の雌雄の決定はどの段階で決定されるか?
→染色体で決まっている。昆虫では性転換はない。
- 昆虫の進化はどこで起きたか?
→海に近い陸地ではないか。海にはカニやエビのような甲殻類はいるが、昆虫はいない。昆虫は、海には戻れなかった、又、塩水(しおみず)に弱いようだ。
- クモは昆虫ではないということですが?
→クモは遺伝子レベルも昆虫とは離れている。
- 似せる擬態 昆虫には学習能力があるか
→学習の能力はない。 カムフラージュの例として、産業革命により石炭を大量に使うようになり、大気中に煤が多くなり、周りが黒くなりつつあった時、オオシモフリエダシャクというガが、それまでの白いものが食べられ、黒いものが生き残るようになった。
- オーストラリアのパースに住んでいるが、昆虫は少ない。おそらく乾燥しているからなと思うが、このように考えてよいですか?
→昆虫は乾燥に弱い、乾燥欧州でも日本やアジアに比べて昆虫は少ない。
- 翅の形態に注目して、昆虫の分類がされ、昆虫の系統樹が作られてきたが、最近のゲノム配列の研究から問題はないか
→大きな問題は無く、系統樹は良くできている。
- 生き物で昆虫は約48%占めているが、重量に換算してもいえるか
→昆虫は、地上にも地下にもたくさんいるが重量についてはわからない。
- 昆虫は変態をして成虫になるが、卵から、直接、成虫になることには何か制約(問題)があるのか、どうしてこのような面倒なことをしたのか
→卵、幼虫、蛹、成虫と変態する各段階で役割分担ができていて、生きていくうえでの優位性があると考えられる。別の言葉で言えば、遺伝子のネットワークの組み合わせがうまくいくように、進化の過程でトライ&エラーを繰り返した結果、変態するようになったと考えられる。
- 昆虫の未来について
→ヒトは滅びても昆虫は生き残るのではと思う。圧倒的に種が多いからで、条件としては、植物が存在しなければならないでしょう。微生物も残りそうだ。
- 著書に「擬態似せてだます」キーワードに説明されているがそのポイントは
→擬態とは、情報発信者(偽態者)、似せるべきモデル、情報受信者、この三者が存在する現象といってもよい。オレオレ詐欺は典型的な擬態と見られるのでないか。
- 先生のお話を聞いて、昆虫の擬態行動はサラリーマンにと似ていると思った。
- 昆虫が生活に利用された例がありますか。
→昆虫がタンパク源として話題になった。一例として、カイコを食べることもあった。山マユは高級中華料理に使われている。又、食用とは別に、カイコの糞からはクロロフィルが取り出されていた。
- 幼若ホルモンを塗る実験をされていますが、幼若ホルモンは何処から手に入れていますか。
→合成品で買っています。今は、この合成品を買い求めるのが大変で、外国から買っています。外国では研究用で商売にならないようなものも作っていて懐が深いですね。
<先生から擬態のような研究は役に立たないとの説明に対して>
- 産業や農業で役に立つのではないか、
- 小柴さんがノーベル賞を受賞されたときのインタビューに「何に役に立つか」という質問に対して「人類の知的財産になる」と答えていた。
- 野暮とイキという言葉があるが、昆虫の研究はイキに相当すると思う
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