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談話会レポート「食品検査と輸入食品監視」

2008年4月18日(金)、第28回談話会を開きました。お話は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社品質保証部長伊藤澄夫さんによる「食品検査と輸入食品の監視」でした。長く検疫所に働いてこられたご経験、ご苦労から、食品検査の意味と現状について皆で考えたひと時でした。検査を多くしたからといって安全にはつながらないこと、検査にはかなりのコストと労力がかかり、検査員の仕事は厳しいことがわかりました。今回はお話の中で質疑も行いましたので、質疑も含めてお話に内容をまとめました。

伊藤澄夫さん 会場風景1


主なお話の内容

食品を取り巻く状況の変化
BSE、中国産野菜の残留農薬、食品偽装、中国産冷凍食品問題などがあるが、人が死亡したのは、健康食品による健康被害だけというのが現実です。以前は市民は味覚、価格や栄養を重要視したが、今は安全性や安心、機能性、簡便性まで求めるようになってきている。簡便性まで求めながら、添加物を避ければ賞味期間はどんどん短くなって当然。
安全は英語にもあるが、安心は英語になく、relief、easeと翻訳しているが、日本の安心志向は世界の非常識と思われてしまっている。
安心は安全と信頼に分かりやすさが加わったものだと思うが、科学者が説明すると、難しい単語が出てきて、聞きたくなくなる。私は安心には「わかりやすさ」も加えるべきだと考えている。

食の不安をめぐる状況
食品を購入するとき、国産食品か輸入食品の選択と、国内企業ならば営利と信頼のどちらを優先する企業かの選択がある(企業は営利であるべき)。そして、食の安全確保にはお金がかかる(良い肥料、飼料、原料を使う、安全性確認のための検査費用がかかる)。
食品安全委員会が食品安全モニターに行ったアンケートをみると、食品モニターの職務経験は、食品関係業務36%、研究職7%、医療・教育16%、その他が40%で、特に食品に関わっている人や科学的知識を持っている人までが、農薬、輸入食品添加物、遺伝子組換え食品に不安を感じていると回答している。本当に危ないのは微生物なのに(日本は木製まな板を使い、生食をする、世界でも珍しい国)。
一方、日本で行われているリスクコミュニケーションは一方的情報提供が多い。
食中毒による死亡原因は、キノコかフグ。日本は世界でも珍しい衛生的な国なのに、最も不安がっている

食品分析の特徴

  • サンプルが多様であること。例えば植物性食品では色素が%オーダーで入っていて検査を妨害する(しかし農薬、添加物はppmのレベル)、動物性食品には油が入っており検査の邪魔になる。
  • 測定濃度の違い:栄養成分、純度、確認試験は%のオーダー、食品添加物の残留確認はppm、農薬や動物用医薬品はppbオーダーで濃度も様々で検査の仕方も違う。用いる単位も、mgミリグラムまでは栄養学で使う単位だが、残留分析はμgマイクログラムの単位(10のマイナス6乗)、カビ毒はppb(Ngナノグラム10のマイナス9乗)の単位、ダイオキシンはppt(Pgピコグラムは10のマイナス12乗)と小さくなっていく。分析機器が進むと従来検出できなかったものが見えるようになりゼロを求める気持ちも高まる。
  • ホロビッツ式について説明します。彼は、長い間分析に携わり、自分持っているデータをすべてまとめた。すると濃度が小さくなればなるほど、ばらつきも広がることがわかった。ppmではプラスマイナス20%の標準偏差、ppbではプラスマイナス50%となる。ということは0.1ppmくらいまでは調べられたからいいのではないかと考える。
  • 検査の迅速性:消費までの期間が短いものほど、検査は迅速でないと困る。食べた後1週間して結果が出るなら、健康被害がないものの検査をして意味があるのか
  • ロットの大きさ、種類:穀類は5000トン単位で1ロット、野菜は100トン、一般食品はKg、高価な食品は一桁のKg。この中から約10〜100gを使って検査をする。1000トンの中の約10〜100gの検査によって1000トン単位で廃棄していいのだろうか。

試験法の選択:告示法(厚生労働省)、食品衛生検査指針(分析屋さんが使う)、衛生試験法、AOAC法などがある。告示法と食品衛生検査指針で検査するが、すべての食品に検査方法が決まっているわけではないので、異なる検査方法を組み合わせてよい方法を選んで検査する
検査の要素:精確性と再現性が高く、迅速に低価格でできる検査方法が選ばれる。
サンプルの扱い:室温(1-30℃)、冷蔵(1-10℃)、冷凍(-15℃以下)により検査するときの保管温度もことなり、温度管理が難しい。冷凍食品は冷凍したままで検査し、冷蔵食品はすぐに検査しなければならない。

輸入食品監視業務
昭和23年の青酸含有豆類による食中毒事件などの対応とともに輸入食品監視業務は発展してきている。
昭和26年 赤カビによる黄変米事件(タイ)がきっかけになり検疫所ができた。
昭和60年には、OTO(Office of Trade and investment Ombudsmanの略、「市場開放問題苦情処理体制」から関税障壁撤廃の要求がきた。
今は、検疫所があり、ポジティブリスト モニタリング制度もできた。
例えば、本当に消費者が望んでポジティブリストができたのか。実際にやっているのは日本だけ。日本は輸入が多く、自給率も低い。
輸入食品増加の理由は1)食糧自給率の低下、2)食生活の多様化、3)賃金格差、4)外食産業による原料調達、5)食品会社の海外展開、6)流通経路の短縮化、7)季節の影響が少ない、8)資源の枯渇が考えられる。
食品衛生法第27条には食品等の輸入の届出について書かれている。検疫の通過、届出書記載内容、添付文書 IPハンドリング確認文書について定められている。
届出書は(検査)は、年間200万件の書類審査がある。
東京の検疫所は8時間、約2000の食品等輸入届出書を5−6人が1日でみる。1つの書類を1分以内でみて5時までに終わらなければならない。検疫所の食品衛生監視員数は340人で、書類の審査に約200名、検査に約100名が関わっている。農薬の検査は100検体を10人でみている。
統計学的に考えて、検査が増えると、人手も必要になり、検査する人が増えると仕事も1.5から2倍に増える。
私が検査をしていたころは、書類も検査も両方やったけれど、今は検査で実験する人と、書類の見る人が分かれてしまっている。
1分で1件の検査書類を見るには、重点項目(輸入車、製造者、原材料、添加物など)が決まっているので、そこを気をつけながらみる。検査員の頭の中には、気をつけてみなくてはいけない項目の組み合わせが200通りくらい入っていて、目を通していく。実験では、未指定添加物が入っていないか、添加物の使用基準は守られているかの重点検査項目を調べる(重点項目でひっかかったら、回収になる)。

モニタリング検査 
モニタリング検査とは、間違いをみつけるよりも、きちんとできているか調べる検査。だから、違反の確率は低くて当たり前。通関しながら検疫所が無料で行う検査。
これに対して、命令検査は、厚生労働大臣が命令するもので、通関をとめて登録検査機関が実施する検査で、輸入者が検査料を負担し、違反の確率も高い。命令検査は健康被害が発生したとき、発生の恐れがあるときに検査命令がでる。1回目の違反以降、30%モニタリング検査を増やしている状況で、2回目の違反があったときも命令検査となる。
モニタリング調査は毎年のモニタリング計画に従って行う。
モニタリング計画では畜産食品、畜産加工品、水産食品、水産加工品、農産食品、農産加工品、その他の食料品(健康食品、スープ類、香味料など)、飲料、添加物・器具及び容器包装・おもちゃ、検査効果食品(抗生物質等、残留農薬、添加物、遺伝子組換え食品など)に対して、抗菌性物質等、残留農薬、成分規格など、カビ、遺伝子組換え食品などの検査項目を定め検査を行うことを決める。平成19年度の述べ検査件数は79,322件で、残留農薬の検査項目は502項目、抗菌性物質の検査項目は131項目だった。平成20年度は79,800件の予定。最近は、農産加工食品に対して、食品照射と遺伝子組換え食品とうい検査項目が増えた。

検査の現場
1キロずつのサンプルを1万件を持ってきて、粉砕・均一化し、抽出・精製し、調製した試料の機器分析(ガスクロマトグラフ、高速液体クロマトグラフなど)を行う。アウトになった場合は再検査になる。農薬の場合は調製過程で、植物の酵素でなくなってしまうこともある。
またサンプルを取るのは、大きなタンカーのダイズのプールの中で動くブルトーザーのそばであったり、冷凍室から手術用の器具で切り出してきたり、船に乗り移るときに足を滑らせて海に落ちることがあったり、検査員はまさに体をはってサンプル集めをしている。集めた後には、多数の項目の検査のための実験を黙々と行わなければならず、かなりきつい仕事。

モニタリングの結果
残留農薬などの違反状況は、ポジティブリストになったときには違反が増えたといわれたが、現在は違反数は減っている。
モニタリングの回数をふやしても、もうあまり結果はそう変わらないので、そんなに検査をしなくてはいいのではないか。検査のために検疫所のスタッフが本当によく働いていて、コストもかかっていることも知っていただきたい。
農薬は気をつけて減らすことができるが、外国で使ってよい食品添加物は、その国で使用をやめることはない。
2006年は、農薬と添加物の違反は増えたが、本当に危険なのは、微生物とカビ毒くらい。
自治体による検査結果を見ると日本でも違反はあるので、輸入食品だけが危険なのではない。国別の違反率は、中国0.6%、アメリカ1%、ベトナム1.2%で、平均すると0.7%。健康被害も起きておらず、中国産に対して騒ぎすぎではないか。
例えば、ドイツは、農作物を評価し人の健康に影響すると判断した場合に回収する。実際には検査結果が出たときには市場に出てしまって回収できないことが多い。通常の食生活においてADI(一日摂取許容量)を超えても健康被害が生じるとは判断しない。その結果基準違反は260件だが、回収させられたのは5件だけ。乳幼児食品の原材料となるものだけ回収し、健康被害は出ていない。
ベルギーでは、農薬の基準値を超えたときは再度分析し、その農作物についてリスクを調べて、健康に影響を及ぼす場合のみ、回収する。また、農作物の農薬の検査は行うが、加工品の検査はしていない。
日本の検査を見ていると、重箱の隅をつついて穴をあけて使えなくしているような感じがする。また、違反食品ばかりではないが、2000万トンもの食物を捨てている。 このことを本気で考えていかないといけないと感じています。


会場風景2 集合写真


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