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松柏軒バイオカフェレポート「有機栽培VS化学肥料」

2008年2月15日(金)女子栄養大学松柏軒(駒込)で、バイオカフェを開きました。 お話は、京都大学大学院農学研究科間藤徹さんによる「有機栽培VS化学肥料〜有機だから環境に優しい?安全?」でした。初めに、寺井庸裕さんによるチェロ演奏「BUNRAKU」でした。文楽の動きや三味線、浄瑠璃をすべてチェロで表現するという、黛敏郎さんが作曲されたなかなか聴くことができない曲が演奏されました。

寺井庸裕さんの演奏 間藤徹先生のお話

お話の概要

植物栄養学とは
私の専門は植物栄養学で昔は肥料学と呼ばれていた。簡単にいうと、「植物は何を食べるのか」という研究。
個々に植物栄養学の試験問題「高等植物が必要とする17の必須元素を元素記号で示しなさい」を使って、植物、動物、微生物は細胞では同じでも栄養では異なっていることを説明します。
植物の栄養は無機栄養で、動物はタンパクなど有機物。17の必須元素のうち、炭素C、水素H、酸素Oは空気と水からとり、残りの14元素は土壌の中から根を通じてとる。
植物には不要でヒトに必要なものに、ナトリウムNa(ヒトには塩分NaClが必要)、セレンSe(これがないと糖尿病になる)、コバルトCo(ビタミンB12の必須元素)がある。セレンのない土壌の植物を食べていたヒトがセレン欠乏症になり、こういう病気は風土病として扱われた。菜食主義者の方がセレンやナトリウムの欠乏症になることがある。
逆に、ホウ素Bは植物に必須で、動物には不要。実は私の専門はホウ素です。

化学肥料と有機栽培
肥料学では化学肥料の研究をするので、化学産業を推進したほうがいいのだが、研究を進めるうちに、化学肥料にも、有機栽培にも長所短所があることがわかった。今日は、理性的に両者について話したいと思います。
私たちは、体重1`あたりたんぱく質1cの栄養を必要とし、動物、魚、植物からたんぱく質を摂取している。家畜や魚も植物からたんぱく質をとっており、私たちも結局は植物からたんぱく質をとっていることになる。植物の栄養の3要素は窒素N、リンP、カリウムK。一般に土壌で不足するのはN。植物は、土壌のアンモニアか、硝酸を窒素源としてたんぱく質を合成し、これがヒトの食糧のもとになる。私たちはアンモニウムイオンや硝酸イオンからたんぱく質を体内で合成できない。

化学肥料の開発と窒素の循環
窒素サイクルとは、空気中の窒素が土壌のアンモニアや硝酸になる→植物によってたんぱく質になり、動物が摂食によって取り入れる。排泄物、生ゴミ、動物の死骸が分解されて、空気中の窒素になるが、これには、1200年かかる。私は京大の学生に、君たちは紫式部が吸っていた窒素を吸っていると説明している。
強調したいのは、食物の循環などが話題になるが、この循環も壮大な窒素サイクルの一部。窒素サイクルの中では、空気中の窒素が土壌のアンモニアに変わるところに一番時間がかかり、これが窒素循環の律則になっていることが、1850年ごろにわかった。そこで、この部分を速めるために19世紀末、窒素を補う必要から化学肥料の研究開発が加速。窒素はチリ硝石の硝酸ナトリウムから取り出されていたが、94年前、ハーバー・ボッシュ法で空中の窒素を取り込めるようになり化学肥料の始まりになった。
世界人口増加に対応して耕地面積が増え、食糧増産をしてきた。1980年頃、耕地面積ののびはとまったが、1960年ごろから化学肥料が出きて、増加した人口に食糧を供給することができた。
肥料はよいが、化学肥料は嫌いという人がいるが、自然の窒素サイクル(即ちたんぱく質の供給能力)で養えるのは、15-20億人。現在は石油から作られた化学肥料が50億人分のたんぱく質を供給していることになる。
生物が作れるタンパク質に含まれる窒素は1億4000万トン。2000年現在で、工業的に空気中の窒素から作り出しているアンモニアに含まれる窒素が1億トン、化石燃料の燃焼で地上に放出される二酸化窒素などに含まれる窒素が2000万トン、マメ科植物をたくさん栽培して、マメ科植物の根粒菌でタンパク質に変換される窒素が2000万トン。これらは人が関与して地表で増加する窒素分であり、その合計は1億4000万トン。もともと生物が作るタンパク質に含まれる窒素1億4000万トンと合計すると2億8000万トン、すなわち2倍の窒素が地表でタンパク質の形に変えられるようになった。
人間が化学肥料やマメ科植物の栽培で、土地に入れる窒素量は過剰な状態。魚がとれなかった湖に窒素が入りプランクトンが増えて魚が増えて魚がよくとれたり、アオコが発生し富栄養になるのは、窒素過多の現れ。逆に、沼沢地、川岸などの酸素が少ない地域では、微生物が硝酸塩などから酸素をとりこむので、窒素は空に帰る(脱窒)。

与える化学肥料の計算方法
米は10a(約30m四方位の土地)で平均して8俵(500Kg)とれる。明治維新の頃は200Kgだった。品種改良、肥料のおかげで増産できるようになった
8俵分の米の中の窒素の量から計算すると、10aに10Kgの窒素を入れなければならず、雨水や土壌から6Kg分は来るので、4Kgは補わなければならない。しかし、化学肥料は吸収率が低く、8Kgの肥料が必要。同じ収穫量を有機栽培で得るには、JAS有機で定められたたい肥が(堆肥窒素の利用率は低いので、4kgを吸収させるために)かなり大量に必要になる。(窒素4Kg相当)が必要になる。
私たちもビタミンCを、果物で取ったり、錠剤で補ったりするように、たい肥と化学肥料は使い方が違う。たい肥と化学肥料の欠点と長所は裏表の関係になっている。

化学肥料の問題
化学肥料の欠点は、ハーバー・ボッシュ法で窒素と水素を反応させてアンモニアを作るのに、高温高圧が必要なこと。水の電気分解して水素を作ると電気代がかかり、アンモニア合成には石油を多く使い二酸化炭素が大量に発生する。また、植物が化学肥料から吸収する窒素は少なく土壌に残ってしまう。つまり、1haあたり600Kgの窒素をまくと480Kgが土壌に残る。水田には100Kgの窒素、キュウリには600Kgまく。つまり、化学肥料はまきすぎに加え、吸収される能率が悪い。早く、沢山とりたいからといって、化学肥料を使うのはだめ!例えば、東南アジアの水稲は、20Kgの窒素で栽培されている。

たい肥の問題
畜糞からたい肥を作るといっても、乳牛、肉牛で糞の水分量が異なるなど、成分は一定しない。豚糞、牛糞、鶏糞、アブラカス、化学肥料などで、同量の窒素になるようにしてコマツナの栽培実験をしたが、成長は異なっていた。確かに化学肥料で栽培したコマツナは大きくなった。Nの量で比較すると、たい肥の肥料効率は化学肥料の6分の1。
すなわち、有機栽培だと、生産量は少なくなる。また、住宅街の有機農業は臭いを出せないなどの苦労がある。
私の友人のNさんは、化学肥料よりきれいでおいしい野菜をたい肥で作って2倍の価格で売っている。12万円の講習料で有機農業塾を同志社の社会活動とし2008年秋から開くといっている。例えば、ナスの照りを出すにはいわし粉、ナスの甘みはアブラカスなど、Nさんはこれは有機栽培技術だといい、マニュアルを作っている。彼は、自分が化学農薬アレルギーだったことから、有機栽培を始めた。
大量のたい肥を入れることは、環境には優しくないが、生産者には優しい。一方、たい肥を多く入れた畑の地下水には、硝酸塩が出ているのではないかと私は思う。また、有機栽培の野菜が小さくて色が悪いのは、窒素が足りないからで、こういうときには、硫安を少しまけばよく、たい肥を大量に入れるより環境にやさしい。こういう方法がいいと思う。
有機栽培の欠点は、生物に濃縮されて、土壌の重金属が増えること。その点、化学肥料は硫酸アンモニウムだけなので、重金属は増えない。
長野県で有機栽培のナスが枯れたというニュースがあった。海外の畜産農家でナス科の雑草用の除草剤を使った土地の牧草を食べた家畜の糞から作った畜産肥料をまいたために、その除草剤がまわりまわって、長野県で効いたという話。

自給率の問題
自給率100%にするには化学肥料を今の3倍の150万トンが必要。肥料を入れると収穫は増えるが、環境は汚染される。輸入している日本は外国で作って海外に環境汚染をおいてきていることになる。
バイオエタノールのトウモロコシはカーボン中立というが、窒素肥料を沢山使うことになるので、環境に対しては中立でないのではないか。日本で燃料用にコメを使うとしても、買取価格は50分の1になるので、栽培する農家は出てこないだろう。バイオエタノール輸入が最も現実的な方法ではないか。
食生活のたんぱく質の量から窒素量を換算すると、163万トン、昭和35年は115万トンだった。ということは、今は163万トンの窒素を日本列島に毎年捨てており、昭和35年はそれが115万トンだったことになる。だから、「輸入を減らそう!化学肥料を減らそう!石油から使う窒素はやめよう!」有機農業は安全で環境にやさしいというより、窒素がどうなっているかが大事で、たい肥を使っても、収量が余り減らないような技術開発が大事ではないか。例えば、窒素が少なくても育つ遺伝子組換え作物や収量が増える品種の開発など。
作物を作るためには窒素が絶対に必要。この窒素は今は化学肥料として与えている。しかし生ゴミや家畜糞にも窒素はたくさん含まれている。これまでは土つくりとか土壌を健康にするためという理由で土壌にこれらの堆肥が与えられてきたが、もっと積極的に家畜糞や生ゴミに含まれる窒素を肥料として利用して、その分の化学肥料を減らそうと試みよう。この生ゴミや家畜糞に含まれる窒素を、もうすこし工夫して作物の栽培に再度使うこと(リサイクルすること)、をこれから広めたい。このような窒素をリサイクル窒素と名づけ、広めていきたい。

まとめ
収量を増やしたいのは人の気持ち。有機は収量が落ちるが、そこそこの収量でよいと考える。一方、有機栽培は環境負荷が高く、生産者も有機栽培ではたちゆかない。高い野菜を理解して買ってくれるような消費者も大事。
化学肥料は少量で収穫が増えるので、農家も工夫しなくてもよくなる。逆に有機はよく考えないとできない。
生産者に「農の誇りとプライド」を取り返させるような有機栽培がいいと思う。


会場風景1 会場風景2
 
会場風景3  


話し合い
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 実家は小さい農家。そういう農家に有機農業で生き返ってほしいと思った。
    • 有機野菜見学会に参加し千葉に行ったが時期が不適切で見るものなかった。生産者の立場はわかってもらえなくてもいいやという印象を受けた。
    • 組換え技術を使って循環できる農業がしたいと思う。
    • 公務員として考えて、自給率アップのためには、食品廃棄を減らせばいいが、生活のレベルを落とさずどうやって施策を考えればよいのかを考えさせられた。
    • 日本国土に160万トンの窒素をまいたときの負荷はどの位か。有機たい肥をまくと重金属をまくことになるからよくないのか→短期間に供給しようとすると、大量のたい肥が必要。特に草のない冬は硝酸イオンが出てて地下水に入りコントロール不能。その点、化学肥料はコントロールが可能。大量のたい肥は土を酸性にするので、石灰をまいて中和する必要がある。窒素が多いと多様性がなくなる
    • リサイクル肥料が世の中に出回ったら有機栽培といえるのか→JAS法の有機認証によると、オカラも川の汚泥も産業廃棄物だから有機でなくなる。熱処理したたい肥もだめ。リサイクル肥料だから有機といえるかはそう簡単にいえない。
    • 有機は環境や体にいいというのはわかりやすい。しかし、世の中の人々はイメージで捉えているだけだということがわかった。こういう話を一杯してください
    • 中高生に理科を教えている。大人になったときに判断する力を養わないといけないと思った。今日示された図の一部は教科書に入れたいと思った。
    • 今日のお話をきいて、イネイネプロジェクト(稲をバイオ燃料にするという研究プロジェクト)に疑問を持った。もっと調べてみようと思った→イネイネニッポンはイネを大規模に栽培してエタノールを作ろうとする日本のプロジェクト。アメリカはトウモロコシだが、日本ではイネがよいと提案されている。しかしイネの栽培にも肥料が必要。このプロジェクトでは多收米とよぶ収量の高いイネを育種することが目的となっているが、多收(狭い面積でたくさんとれる)であっても収穫高にみあう窒素肥料やリン肥料は必要。日本になじんだコメからバイオエタノールがとれても、それで環境負荷が減るとは限らないのではないか。
    • 窒素サイクルという視点は初めてで新鮮だった。勉強になった。
    • 人間が生きていることが環境負荷だといつも思っている。自然界の窒素という大きな視点からうかがうことができた。普段の議論は小さい範囲でしかなされていないことがわかった。もっといろいろな場所でお話してください
    • 大気から土壌にもどるところのルートが細いということだが、それを改善する方法はないのか。マメ科植物を使ったら→窒素なしで育つ組換えイネがあったらどうですか。組換え技術が生かせるのではないかと思うが、市民がどう思うか?生ゴミをガスか溶融炉でエネルギーとお金をかけて燃やせば早く窒素に戻せる。たい肥は農家で使えないリサイクル肥料であるのが現状。宮崎では石油を使ってボイラーで燃やし始めた。
    • 燃やす以外にアンモニアを抜く方法はないのか→政策としてリサイクル窒素に補助金をかければ、できる技術はある。
    • 間藤先生の結論は?→まず、化学肥料は減らす。植物はタフで少ない肥料や偏った肥料でも対応できる。しかし、たい肥は効きが悪い。窒素固定に石油やエネルギーを大量に投入しているので、生ゴミや家畜糞から窒素を取り出してこれを化学肥料の代わりに使えるような技術開発を進める。さらに植物の力を十分に引き出すこと!


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