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セミナーレポート 「世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する状況:2007年」 |
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2008年2月29日(金)、大手町ファーストスクエアウエストタワーで、バイテク情報普及会主催による特別セミナー「世界の遺伝子組み換え作物の商業栽培に関する状況:2007年〜国際アグリバイオ事業団(ISAAA)2007年次報告の発表及び今後の世界的インパクトを予測」が行われました。ランディーホーティア氏よりISAAAの紹介があった後、ISAAA会長クライブ・ジェームズ氏による2007年の遺伝子組換え作物の商業栽培の状況に関する報告がありました。
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ランディー・ホーテア氏 |
クライブ・ジェームズ氏 |
「遺伝子組み換え作物の過去・現在・未来(1996年〜2007年) |
1.遺伝子組換え作物1996年〜2007年の商業栽培について
- 累積栽培面積は6億9000万ヘクタール(ha)であり、日本の農地面積の138倍、日本の国土面積の18倍に相当する。
- 12年間で栽培面積は67倍に増加した。これまでには例がない作物技術である。
- 12年間で23カ国が商業栽培し、従事した農業生産者は約5500万人。
- 作物の収量は5%〜50%の増加、累計農業所得は340億ドル増加した。
- 農薬は累計で28万9000千トンa.i.(有効成分)を削減、環境面に貢献した。
- 小規模農業生産者(2007年は1100万人、2006年は930万人)の貧困を軽減できた。
- 一つの遺伝子組換え品種に2〜3の異なる形質を付与した「スタック」と呼ぶ品種の利用が、特に、この4-5年で増加してきた。因みに、スタック形質農産物は、2006年から2007年の間に66%と最も増加した形質群であり、一方、害虫抵抗性は7%、除草剤耐性は3%の伸びであった。
2.課題―世界の食糧・飼料・繊維・燃料の安定的確保、貧困・飢餓の軽減
世界の総人口は、1999年が60億人、2050年には90億人になると予測されている。また一方、飢餓、栄養失調に苦しむ人が8国5200万人、貧困に苦しむ人が13億人いる。このような状況下で2050年までに同じ土地面積(約15億ha)で食糧、飼料、繊維の生産量を持続的に2倍にする課題があり、農業への投資は必須であり、遺伝子組み換え技術と伝統的な作物の改良とを組み合わせ対応することが重要である。
3.2007年の遺伝子組換え作物の実績から
- 栽培面積は、1億1430万ha (日本の国土面積の約3倍、日本の耕地面積の約23倍)で、2006年に比較して1230万ha(日本の耕地面積の約4.5倍)または12%増加した。世界の耕地面積15億haの8%にあたる。
- 2007年における遺伝子組換え作物を栽培する国はチリとポーランドが加わり、23カ国となった。内訳は12カ国が発展途上国、11カ国が先進国であり、すべての大陸で栽培されるようになった。
- 主要な遺伝子組換え作物のうち、大豆の栽培面積は9100万haでその64%(5824万ha)が遺伝子組換え栽培面積である。同様に、トウモロコシは1億4800万haで24%(3552万ha)、ワタは3500万haで35%(1225万ha)、ナタネは2700万haで20%(540万ha)となっている。
- 遺伝子組換え作物を商業栽培している国は23カ国、遺伝子組換え作物の食料及び飼料用としての輸入と環境への放出について規制当局より認可を受けている国は、29カ国で、遺伝子組換え作物を認可している国は52カ国となっている。
- 栽培品目数は12品目:
大豆、トウモロコシ、ワタ、ナタネ、スカッシュ、パパイア、アルファルファ、トマト、ポプラ、ペチュニア、甘唐辛子及びカーネーション
栽培国は23カ国:
アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、インド、中国、パラグアイ、南アフリカ、ウルグアイ、フィリピン、オーストラリア、スペイン、メキシコ、コロンビア、チリ、フランス、ホンジュラス、チェコ共和国、ポルトガル、ドイツ、スロバキア、ルーマニア、ポーランド
参考サイト:http://www.cbijapan.com/news/2008/n080215_1.html
- バイオ燃料に約1120万ha分の遺伝子組換え作物が使われた。
アメリカでは約700万ha分の遺伝子組換えトウモロコシと約340万ha分の遺伝子組換え大豆が、ブラジルでは約75万ha分の遺伝子組換え大豆が、カナダでは約4.5万haの遺伝子組換えナタネがバイオディーゼルに使われた。
4.2015年MDG(ミレニアム開発)目標と持続的な農業に対する遺伝子組換え作物の貢献
2015年までに貧困及び飢餓を50%減少させるための《5つの目標》は次の通り。
- 持続可能型の作物生産体制による世界の作物生産性の向上、食糧・飼料・繊維の安全保障の強化及び生物多様性の保護
・5年以内に利用可能となる干ばつ耐性と耐塩性など、非生物ストレスの制御を付与した遺伝子組換え作物の作出。
・新しい形質群の付与により生産高を増やすだけでなく、オメガ3の油やプロビタミン含有量などを増やした栄養を強化した食料の提供(ゴールデンライス:2012年までに認可の予定)。
・遺伝子組換えコメの製品化による食料の安全保障と貧困の緩和
- 貧困と飢餓の緩和への貢献
世界の最貧困層の50%が小規模で資源の乏しい農業生産者、20%が土地を持たない農業労働者である。これらの農業従事者において、遺伝子組換えワタは1996年から2005年までの10年間で農業生産者の収入増加に大きく貢献した。次の10年でも遺伝子組換えワタも更に大きな貢献が認められる。また、遺伝子組換えトウモロコシを栽培したり、インド、フィリピン、バングラディッシュが開発中の遺伝子組換えナスの栽培が可能となり、収入増加が期待されている。
- 環境に及ぼす影響の低減
・今後、利用可能となる遺伝子組換え作物は、窒素効率を向上させた作物である。この作物は、窒素関連の汚染物質による地球温暖化、帯水層やメコンなどの三角州の汚染の緩和に利用できる。
・干ばつ耐性を持つ最初の遺伝子組換えトウモロコシが2011年に商業化される予定で、土地の有効活用と生産確保が期待される。
- 気候変動の緩和と温室効果ガスの削減
干ばつ、洪水、温度の変化の広範化と深刻化が予想されるため、変化の多い気候に十分適応するよう作物を改良することが急務である。遺伝子組換え技術は「変化に対応した育種の迅速化」と気候変動の影響緩和に利用することができる。遺伝子組換え作物では、農地の大半を耕す必要がないため、既に、CO2排出量の削減、土壌と水分の保持、農薬散布の削減、CO2封じ込めに貢献している。
- コスト効果に優れたバイオ燃料製造への貢献
バイオテクノロジーにより、非生物ストレス(干ばつ、塩分など)や生物ストレス(害虫、雑草、病気)に耐性の作物の作出と単位面積あたりの生産高を増すこと及びバイオ燃料の後処理プロセスのための効率の良い酵素を開発することにより可能となる。
5.2007年〜2015年の予測
遺伝子組換え作物栽培国数、農業生産者数及び栽培面積の予測は下の表の通りで、2015年には2007年の2倍規模と予想される。
| 2007年 | 2015年 |
遺伝子組換え作物栽培国数 | 23 | 〜40 |
遺伝子組換え作物農業生産者数 | 1200万 | 〜1億 |
遺伝子組換え栽培面積 | 1億1400万ha | 〜2億ha |
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質疑応答 |
Q:日本は遺伝子組換え作物の栽培が進んでいない。23の遺伝子組換え作物の栽培国を見てこられて、栽培できるように進めるためのアドバイスがあれば教えてほしい。
A:実際に遺伝子組換え作物の栽培をしている国(先進国、開発途上国のいくつか)を訪問し、次のような意見交換をした。
- 国として栽培を実施するあたり、どんなリスク(問題)があり、そのリスクをどのように回避 (解決)できたのか、また、どんなメリットを考えたのか、栽培開始に至った経緯・理由、栽培後のメリット及び遺伝子組み換え作物を導入していなかったらどのようになっていたかなどを尋ねる。
- 遺伝子組換え作物を栽培している現場に行き、農業従事者に従来の栽培法と遺伝子組み換え作物を栽培する方法について、遺伝子組換え作物を栽培した後とを比較し、生産量増減、農薬の撒布回数及び使用量、実作業時間、収益の変化などを尋ねる。
Q:イランは遺伝子組換え作物を栽培していたが、2007年で実績がないのはなぜか
A:2005年-2006年には遺伝子組換えイネ(品種名:トランボン、高品質であるが収量が低い)を栽培していたが、政権の交代があり、2007年は栽培していない。農民には受け入れられたと思っている。
ISAAAについて
ISAAAのミッションは「作物の生産性と所得の増加を支援し、環境の安全と持続可能な農業の発展の促進に貢献する」こと。国際ネットワークの拠点を、アメリカ、フィリピン、ケニアにおき、発展途上国の飢餓と貧困の軽減を目指し、発展途上地域の資源の乏しい農業者のために適切に先進国の農業バイオテクノロジーの技術移転を促進するために活動している。
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