くらしとバイオプラザ21

くらしとバイオニュース

ホーム
What's New

くらしとバイオニュース

バイオイベント情報

やさしいバイオ

リンク集

バイオカフェ

くらしとバイオプラザ21とは


茅場町バイオカフェレポート
「食品報道におけるメディアの功罪」

2008年2月8日(金)、茅場町バイオカフェを開きました。お話は、Food Science Webmaster中野栄子さんによる「食品報道におけるメディアの功罪」でした。はじめに目黒裕子さんによるフルートの演奏がありました。

フルートの演奏 中野栄子さんのお話

お話の概要

自己紹介
日経BP社でFood ScienceというサイトのWeb masterをしており、専門家や関係者に読んでもらっている。科学をベースに、食品安全、食品の事故や事件、機能性食品などの取材をしている。記者は取材して記事を書くとデスクから「裏をとっているか」と聞かれる。裏とは証拠のことで、ニュースは証拠を調べて作る。Food Scienceを始めて、裏をとることと証拠の重要さを感じている。記者という仕事は、浅く広くそれぞれの分野の権威者に教えて頂き、その断片を組み合わせて分かりやすく事実を伝えることだと思う。

2007年は「発掘!あるある大辞典II」で始まった
年末、清水寺でその年を象徴している字として、「偽」が一位になり、「食」、「嘘」、「疑」、「誤」が選ばれ、「食品企業が嘘をいったことを社長が謝った」年だったと改めて感じた。
振り返ると、2007年1月、発掘あるある大辞典は、製作会社社長交代から番組中止となった。これは、楽しく食の話題を提供する番組なので、脚色まではよかったが、捏造の域に入ってしまった。実験データなしに結果を出し、負のスパイラルが動き出してしまった。
その背景には、第一に、記者、番組制作者、メディアに携わる人たちの不勉強がある。専門家でなくても取材し正しく書くべきだが、勉強する機会も時間もなく、視聴者も捏造を見破れなかった。第二に、様々な関係者の利害が一致したこと。ダイエットという皆の願望に重なるテーマで、メディアもスポンサーも都合がよかった。取材された科学者の一部にはテレビを使って売名行為をしたいと思う科学者もいたかもしれない。多くの関係者の利害が一致してしまった結果。

冷凍餃子の事件
1月30日、冷凍餃子による食中毒の報道があった。中国製品については、歯磨き、ペットフードなど危ないという情報はあったが、一部のメディアは冷静に捉え「中国からの輸入に日本の食の5分の1が依存している現状から考えて、そんなに危険とはいえない」と書いてきた。しかし、駅で見かけたスポーツ新聞では「中国で毒が入られたか」となっていた。今回は残留農薬でなく、何らかの犯罪事件であることが明らかになりつつあるようだ。

冷凍餃子に対してメディア報道に問題はなかったか
○31日、朝のテレビで、「中国から160万件輸入しているのに、20万件しか検査していないそうです」(ビデオ録画していないため、数字は記憶の範囲)という発言は、全部検査していないのがいけないという論調。
○冷凍食品は検査ができないので残留農薬の検査はしなくていいのか?
○元検疫所職員の発言で、「海外からの輸入されている食品の検査は書類だけで、一部しか検査していない」
○「メタミドホスはサリンと同じひどい毒薬」という表現があった。作用の仕組みは同じでも、毒性が全く違う。
以上は嘘はいっていないが、危険を煽るような意見で、おかしいのではないか
輸入冷凍ホウレンソウの残留農薬の問題からその基準が厳しくなったこともあり、30-31日段階から農薬の専門家には、「検出された農薬が高濃度で残留農薬でありえない」という発言もあった。しかし、2月に入り、残留農薬が原因ではなさそうだとなった後でも、中国の農薬は怖いという映像が繰り返し流されている。

食品報道の嘘の背景
正しいことを伝えずに恐れをあおる報道がなぜ出てくるのか。
問題1:記者の科学リテラシーが低く、よく知らない。→基礎的な情報をメディアに提供し続けることが必要。
問題2:メディアも企業だから出版物が売れ、視聴率が上がるように、捏造ぎりぎりのことを書く。

報道への反論
2006年、ロシアの女性科学者が組換えダイズによるネズミの免疫不全を発表し、日本中を講演して歩いた。それを鵜呑みにした報道もあった。これに対して、日本の研究者が科学者の発言の不備を訴えた結果、テレビなどで謝罪の場面があった。
一方、科学的に間違ったことが書かれている本が大ヒットすると、出版社は売り続ける。
問題ある報道に対しては、すぐに解決できなくても、反論やアクションを行うべきだと思う。私もそういう活動は応援したいと思っている。

日本人の捉え方
記者の科学リテラシーは低く、確かに検査の本質、検査の意味はよく理解されていない。日本人は人間ドックに代表されるように、検査やお墨付きが好き。検査しなくても、お墨付きやOKという印が好き。その代表例が全頭検査。全部検査をすることが安心確保に直結している。
また、冷凍餃子以外の中国製品も全部だめという雰囲気もあった。実際には、中国冷凍餃子で健康被害を訴えた人は4300人いたが、メタミドホスによる健康被害が認められたのは千葉と兵庫の10名だけ。もちろん4300人の中には今回のメタミドホスが原因で体調不良になった方もいらっしゃるだろうが、因果関係は証明されなかった。ただし、4300人が重篤な健康被害にあったわけではない。数字が感情的に受けとめられた。
「全部だめ」という報道はよくないし、不用意に「危ない」といわない方がいいと思う。その結果、困った風評が起こり、BSEで鶏や豚まで売れなくなったこともあった。
この背景に根強いゼロリスク信仰がある。ゼロリスクがないことを伝えるのも、個々の報道の他にも重要。食育の中でこそ、食の安全の考え方、ゼロリスクは存在しないことを教えるべき。8800人にゼロリスクに関する調査をして正確に回答できたのは30名しかいないほど、ゼロリスクの理解は難しい。

食品添加物
無添加、不使用を求めるようになり、そういう消費者を意識して、無添加、組換え不使用と表示する、悪循環が生まれる。表示を詳しく書くことで大量廃棄が増えている。
日本人は天然が好き。人工的な食品添加物は嫌い。実際には天然の方が危ないことがあるのを知ってもらうことが大事。
韓国では、優良誤認を避けるために、食品添加物を使っていないことを表す「MSG不使用」の表示を禁止した。日本でも不使用表示を禁止にすべきではないか。食品添加物嫌いが増え、食品回収が増え、食糧自給率の低い日本に不利益がもたらされている。

不要な食品回収の現状を伝えるべき
食品表示ラベルの製造所を示す6桁の数字の間に間違ってハイフンが入って印刷されたために食品を回収したというニュースがあった。これは謝罪すればよいことで、回収はしなくてもいいのでないか。この回収には、市民の中からも批判の声があがった。
回収のお詫び広告が新聞に出て、「健康被害はないが、回収する」というと、回収することが国民を不安に陥れ、回収が増えると消費者の不安は増大する。
回収→大量廃棄→食糧自給率低下の悪循環を断ち切るべきで、安全と安心のギャップをリスクコミュニケーションで縮めなくてはならない。それには、このような食品回収の現状を伝えることも大事ではないか

まとめ〜リスクコミュニケーションの難しさ
○ 問題のある報道はあるが、食の問題を顕在化したという効用はあるのではないか。
○ 意図的、確信的な煽動的報道にどう対処するのか
○ 記者も勉強して、記者も情報発信元と一体となって活動すれば、社会に役立つ
○ 記者というのはこういうものだと知った上で情報をください



会場風景1 会場風景2


話し合い
  • は参加者、→はスピーカーの発言
      • フードサイエンスの読者。中国餃子事件は食糧自給率を上げ、冷凍食品や中食への依存を考え直すきっかけになるといい。繰り返し、正しいことは伝えていかなくてはと思う。この道を進んでください。私もサイトを持っていて、応援していきたい。
      • マスコミは、締め切りに追われるので、勉強できないのか→私は出版社ですが、私の分かる範囲で新聞についてお話します。科学部は特別で異動は少ないが、よく問題になるのは社会面の記事。社会部は、科学に関連していも、社会との繋がりの中で記事にするので、科学部とはスタンスが異なる。社会部の人は科学的バックグランドがない。一生懸命に取材して勉強して記事を書くが、売名的な科学者の影響を受け、変な記事を書くこともある。社会部の人も勉強し、アクセスすべき研究者もわかってきている
      • 遺伝子組換え植物の研究者。メディアに説明してもちゃんと書いてくれない。どうすればよいのか→最近はよい研究者に取材するようになってきていると思う。
      • 以前は賛成と反対のオピニオンをぶつけているだけの記事が多かったが→研究者の情報発信が増えたこと、日本科学技術振興機構(JST)が親切でわかりやすいプレスリリースしていること。大学も法人化されて企業のような広報部が研究成果を紹介してくれること、サイエンスコミュニケーターの活躍などのおかげでよくなっていると思う。
      • 科学者はどうしたらいいか→沢山プレスリリースをして下さい。新製品発表や決算だけでなく、技術士会や研究者グループがしているような意見表明をするといいと思う。
      • 記者の代わりに記事を書く感覚ですね→そういう情報は記事を書くきっかけになる。
      • 専門家もいろいろあるが、取材先の専門家で論調が決まっている。編集方針が先に決まっていて、それにあった専門家にコメントを取りに行くのか。白紙でコメントをとるのか→新聞は編集の方針がある。日経はGM推進と聞いているが、私のいる出版社はいろいろな本を出しているので、立場は複雑になる。しかし、正しい報道をしなくてはならないし、両論併記は余りよくない。その点、新聞の社説には主張がある。
      • 無記名記事は偏っている気がする→一記者の持つ、限られた人脈だと、いつも似た科学者が登場することもあり、新聞に比べ週刊誌にはその傾向が強いかもしれない。週刊誌には、売り込んでくる専門家もいる。
      • 日本人はリスク・ベネフィットを比べて考えるのが不得意。権威ある人が決めてくれればいいと人も多い。すると取材する専門家に決まってしまう。NHKはひとりだったが、CNNは二人の先生が両論を説明していた。公正な報道はありえないのではないか。
      • 記者にリテラシーがなくてもいいが、物事には表裏あることはわかっていてほしい。
      • 科学者は積極的に表立って報道に対し、反論したり意見表明したりしてほしい。それが取り上げられるといい。ようにしてほしい。思っているだけではだめだと思う。
      • 困った時だけでなく、大衆の目に触れる形の報道がしょっちゅう出るといい。少しずつ変わっていると思うが、なかなか根が深い。
      • 韓国ではMSGの不使用表示を禁止したというが、日本でそれはできるだろうか。消費者団体が黙っていないのではないか。韓国で反対運動はなかったのか。
      • 中国では組換えに対して激しい反対運動はない。輸入に依存していることが市民に知られている→中国の組換え不使用表示の場合はゼロなので、食用油に不使用表示はない。日本には不使用表示、5%の閾値、任意表示などがあり、状況は複雑。
      • 安全と安心は違う。科学者が言う安全の中に安心がより小さい円としてある。→天然を安心だと思う市民は多いが、科学者が安全だといっても安心しないこともある。
      • 安全と安心は別のもの。安全でなくても安心することもある。
      • 安全と安心は重なった方がいいのか→GMOや食品添加物のように科学で安全だとわかっているものは安心してもらいたい。


    copyright © 2008 Life Bio Plaza 21 all rights reserved.
    アンケート投票 ご意見・お問い合せ