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遺伝子組換え農作物に関する第2回コミュニケーション
GMOとどう向き合うか

 2008年1月29日(火)、大手町サンケイプラザにおいて農林水産省主催遺伝子組換え農作物に関する第2回コミュニケーションが開かれ、約300名の参加者がありました。これは、9月25日に開催された「遺伝子組換え農作物に関する〜第1回大規模コミュニケーション会合」に続くもので、およそ半分がリピーターということでした。
 生産現場から「農薬を減らせといわれても、農薬を減らして作れる品種がない」、産業の視点では「GMOが輸入されなければ、日本の畜産業、飲料製造業、食用油の業界は壊滅状況になる」と、GMOなしには現在の私たちの生活や産業は成り立たないという意見があり、活気に満ちた議論が行われました。一方、行政からは、病害虫抵抗性、機能性成分、燃料に着目した新しい遺伝子組換え作物の開発開始が今後の重点課題として示され、今まで蓄積された花粉症緩和米などの研究成果やコミュニケーション活動に関する今後の進め方については語られることはありませんでした。


行政からの情報提供「GMO(遺伝子組換え農作物)をとりまく状況」

農林水産省技術会議技術安全課長 横田敏恭課長

利用の現状
世界のGMOは1996年に栽培が始まり、現在、1億200万ヘクタール栽培されており、アジア、南米、北米、モラトリアムだった欧州で栽培されている。
除草剤耐性・害虫抵抗性を持つ作物では、コスト、労力、燃料費の節約ができ、不耕起栽培による表土流出がおさえられる。北米の農家の所得は数から10数%増加。

害虫抵抗性農作物
空からの散布ではまきむらが生じるが、組換えトウモロコシだとアワノメイガの被害を抑えられる。殺虫成分が植物体内で作られるが、ヒトの健康に悪影響がないことが調べられている。
例えば、ジャガイモのソラニン(芽や緑色の部分)を2.5キロ毎日食べ続ければ、健康被害が出るかもしれないが、そんなに食べることはなく、皮を厚くむけば取り除ける。このほかにもインゲン豆のレクチン、生ダイズには消化阻害酵素、キャッサバの青酸(シアン)化合物などの毒性物質が知られているが、被害がないように扱われている。
青酸化合物の少ないキャッサバの品種を開発したら、ノブタに食べられてしまったという話もある。植物には、それぞれ毒性成分があり、組換えだから絶対安全とはいえないし、遺伝子組換え作物も普通に食べていれば問題はない。

食糧危機
世界人口は増加しているのに、収穫規模は横ばい。技術も進歩しているが、追いつかず、餓死者が出ている。またバイオ燃料が注目され、食用とエネルギー用で農作物の取り合いも起こっている。

日本の農業の状況
日本の農業従事者の平均年齢は62歳で、65歳以上の農業経営者は45%で、1戸あたり平均1.2ヘクタールと米国の100分の1の経営面積。
畜産物や油脂の生産には、数倍の穀物が必要で、例えば牛肉1`には11キロの穀物が必要で、ブタは7キロ、鶏は4キロ、ダイズ油は5キロ、ナタネ油は2キロ。
例えば国産ダイズは主に豆腐、納豆に加工されている。アメリカ、ブラジル、カナダから輸入されるダイズには、かなりの割合で遺伝子組換え大豆が含まれている。しかし、海外の大規模経営では当然のことで、輸入業者やメーカーは、非組換えダイズ獲得で奔走している。

安全性確保
食品としての視点からは、食品安全委員会が安全性審査をしている。チェックしている項目は、導入された遺伝子の周辺の配列、各種の栄養素は変化、導入された遺伝子が作るたんぱく質の分解しやすさ(アレルギー誘発性を含む)などで100項目に及ぶ。
この他、飼料の安全性を農林水産省、環境への影響について環境省と農林水産省が審査している。
実際には、実験室などの閉鎖系での試験に対して、学識経験者の意見聴取が行われる。次に、幅広い学識経験者から意見聴取を行い隔離ほ場での試験栽培について検討する。
周辺の野生生物を駆逐しないか、有害物質を生産しないか、交雑による置き換わりが起こらないかを生物多様性影響として評価する
わが国では、栽培後の土壌の微生物相はどうか、遺伝子組換え植物を土にすきこんでも次に植えた植物の生育に差がないか、花粉は変化していないかなど100以上の項目を評価。

身近に利用されているGM技術
医薬品(インシュリン、インターフェロン、抗生物質)や洗剤の酵素(プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ)には遺伝子組換え技術が利用されている。
遺伝子組換え作物の世界の栽培面積をみると、ダイズが半分以上、トウモロコシで2割が遺伝子組換えで、主にモンサント、シンジェンターなど海外の企業で開発されたもの。
私たちは、人間にとって都合の悪い性質を育種の中で変化させながら、栽培してきた。人にとって都合のよい突然変異したものもあり、温州みかん、梨などがある。
変異(遺伝子の変化)は普通に起こっている。

これからの進め方
2008年1月15日遺伝子組換え農作物などの研究開発の進め方に関する検討会(学識経験者、ジャーナリストなど10名)の最終取りまとめを行い、HPに公開した。次のような農作物の開発を重点分野とした。
安全・安心につながる交雑提言技術の開発
減農薬、低コスト、労力削減が期待される病害虫抵抗性農作物の開発
バイオマス利用祖新が期待されるエネルギー効率の優れた農作物の開発
国際貢献に寄与できる農作物
健康増進効果が期待される機能性成分を高めた農作物
具体的には、複合病害虫抵抗性・多収性農作物と機能性成分を高めた農作物は今から開発を開始し、2013年に実用化を目指す。
また、コミュニケーションをこれから5年は着実に続け、中国の遺伝子組換え分野での躍進も意識し、研究開発と同時に知的財産権も獲得していく。




パネルディスカッション

コーディネーター北野大さん(明治大学理工学部教授)
パネリスト伊藤潤子さん(生活協同組合コープこうべ参与)
田部井豊さん(独立行政法人農業生物資源研究所遺伝子組換え推進室長)
飛田恵理子(特定非営利活動法人東京都地域婦人団体連盟生活環境部長) 
福西義幸さん(農事組合法人 酒人ふぁーむ理事企画管理部長) 
三石誠司さん(宮城大学職産業学部フードビジネス学科教授) 
山崎正志さん(農業生産法人有限会社アグリ山崎代表取締役)

初めに、田部井さんから遺伝子組換え技術に関する説明がありました。

「遺伝子組換え技術は育種のひとつであり、品種改良には放射線を使った突然変異育種、細胞融合、胚培養などの技術がある。また、遺伝子組換え技術を用いると、目的の形質の遺伝子の導入は3ヶ月でできるが、目的の形質の遺伝子を取り出し、安全性審査を行うので、すぐに出来上がるわけではない。まとめると、遺伝子組換え技術は、従来の作物に目的の形質を1-2個入れられるきめの細かい技術だといえる」

次に三石さんから、遺伝子組換え技術と社会について説明がありました。

「新しい技術が生まれると、従来法で十分だったのではないかという議論が必ず出てくるもの。新しい技術を盲目的受容、完全否定するのは現実的でなく、どこで折り合いをつけるのか大事。
現代は国際交流により人や情報が入ってくる時代で、どの国でも同じような問題を抱えている。米国は、遺伝子組換え技術を取り入れて発展している。欧州は共存に取り組みつつ、様々な視点を取り入れ明確な答えが出ないものに取り組んでいる。日本の家庭はコンビニとスーパーマーケットに食糧を供給される状況の中でこの20年を暮らしてきた。我々も国際競争を視野に入れて話し合っていきたい」

北野さんのコーディネートにより、パネリストと会場参加者が議論しました。

遺伝子組換え技術についてどう思うか
生産者:栽培する立場から。遺伝子組換え技術は人間が行き続けていくための策だと思う。私たちも地域社会で20世紀に組みかえられた農民だと思う。集落と地域を守るために20年前、私たちは自らの意思で農業を継いだ。農業も地域を守る技術として続くと思う。
生産者:安全を意識し有機栽培をしている。消費者に受容されない限り、組換え作物は栽培しない。この技術の開発が進み環境影響も大丈夫だとわかれば、私も再検討するかもしれない。この技術への可能性は感じている。食用で受容されないなら、工業用はどうか。
市民:消費者は遺伝子組換えに対してアンケートでは不安だと答えても、不分別原料を用いた食用油の方が良く売れている現実もある。組換えが不安な理由を精査すべき。食品安全委員会設置により食の安全への管理と評価はずいぶん変わってきた。我々が求めてできた制度だから、生産者、消費者、行政の皆で食の安全を育てていかなくてはならない。
市民:平成15年度国勢調査、平成18年度東京都の調査で消費者の7割が組換えは不安だと回答。消費者の不安は表示義務の対象外の製品に多い。どこに組換え原料が使われているかの情報が少ない。特許戦略と工業の発達のせいでアジアの農家が失職した。10年という年月は、評価するには短い。欧州のような伝統を重んじ、慎重な取り組みに学ぶべき。地域に根ざした作物を大切にし、表示を含めた情報提供や報告書の解説をしてほしい。
研究者:遺伝子組換え技術は基礎研究と育種には不可欠。つぶしてしまうのはもったいない技術。研究者はこの技術を用いてよい品種を作りたいと思っている。問題が発生したら、それが遺伝子組換え技術に起因するのか、農業の問題なのかと整理して考えることが重要。例えば、インド北部で遺伝子ワタの生産は増加、中部は減少しているが、これには適地栽培の課題が含まれており、一概に成功・失敗はいえない。科学的安全と科学的効果を分けて考えることが大事で、研究者としてはひとつひとつの問題に真摯に向かいたいと思う。

市民はどんな仕組みを求めているのか
研究者:現実の問題について論じるときに、白黒つけられないグレーな部分があるといわれるが、あえて極論をとると見えない部分が見えてくることがあると考えて発言する。例えば、遺伝子組換え作物を100%と拒否したら、輸入飼料に依存している日本の畜産業、輸入トウモロコシから作るコーンスターチを使う飲料製造業、食用油の産業は壊滅的状態になる。日本の企業は、生き残りにためにどんな選択をしていくのか。
米国は平均して1エーカーから150ブッシェル生産。今は300-400ブッシェルを目指して、食用・工業用に対応しようと進めている。
また、人間というものは命令されて、何かをするのは嫌いなもの。生産者、消費者に強制するのでなく、選択肢を残す仕組みを用意するのがいい。
市民:科学者に新しい技術が暴走しないようにコントロールすることはできるのか、リスクの防止ができるのかがわかれば、消費者は受容するのではないか。そのようなときに、企業戦略や特許が先にあるのでは、市民に理解はされないだろう。市民に実際に情報が届くのは表示だけだと思う。

農業のこれから
生産者:行政から農薬を3分の1に減らすようにという指導があったが、農薬を減らしても栽培できる病気や害虫に弱い品種は何かという問いに答えはなかった。これが現実ではないか。
生産者:日本はGMOを大量に輸入していながら、国内で栽培できないのはおかしい。市民のBSEに不安に応えるために牛肉輸入を止めたのなら、市民が不安を抱くGMOの輸入も止めるべきではないのか。実行計画をつくれるのは農林水産省だけ。
横田課長:実際の栽培に関するルール作りを農林水産省で進めなくてはならない。

安全と安心
市民:不安を分析し、感覚的なものについてしっかり取り組んで行くべきで、既にGMOの恩恵を受けていることに関しては全員で共有化すべき
研究者:予期せぬ事には、突然変異もあるが、審査過程の問題もある。試験・審査段階はやり直しがきくので問題ない。
生産者:安全と安心は別物。安心のための啓発の努力が必要
市民:安全と安心は別だといっても議論は終わってしまうだけ。その間を埋めなくてはならない。
生産者:安全と安心の距離を縮めるのが有機栽培だと考えている

コーディネーターによるまとめ
安全と安心の距離はこれからの課題。この技術に対しては、将来の発展を考えて、長期的な評価が必要。しかし、GMOを受容したくない人のための選択肢を設けて進むのが、成熟した社会ではないか。



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