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第26回談話会レポート「原子力と付き合ってウン十年」

 2007年9月21日(金)、談話会が開かれました。お話は原子力研究開発機構広報部長久保稔さんによる「原子力と付き合ってウン十年」でした。米国留学時代に経験されたリスクコミュニケーション、「もんじゅ」をめぐるコミュニケーション、メディアトレーニングなどの貴重なお話に、活発な話し合いが行われました。

久保稔さん 会場風景


お話の主な内容

自己紹介
 高松出身。数学を専攻し確率計算をするような仕事をしようと思っていたが、1972年、動燃に入社し、原子力との縁が始まる。個人的には、この18年間、週末の農作業に精を出している。以前は無農薬、有機肥料による野菜作りにいそしんでいたが、今は、柿、プラム、ブルーベリーなどの果物栽培に転換中。

米国留学
 入社後、原子力留学生試験に合格し、米国サンディア国立研究所における、海外から受け入れた当時の第1期留学生として、1981−2年に米国ニューメキシコ州に滞在した。同研究所への留学生は私一人だったので、珍しさからか、大変歓迎された。約2年間、本来の研究目的である核燃料輸送の研究に加えて、危機管理(事故が起こって対応するのは事後対応であり、トラブルを未然に防ぐこと)が如何に重要であるのかについて学ぶことが出来た。Information Disclosure(情報公開)なども大変勉強になった。
当時、アメリカでは、金曜日に研究所の幹部候補生用の勉強会があり、私も参加する機会に恵まれた。CIAや核兵器の研究者なども同窓生であった。金曜日の午後は研究所では事故・トラブルが起こりやすいので、午前だけで研究業務が終わり、幹部候補生だけが研究所に残り、午後皆一緒になって勉強し当時は英語での授業で「苦しい、苦しい」と思ったが、今振り返ってみると、楽しい午後の一時であったような、懐かしい思い出になっている。

アメリカでのリスクコミュニケーションの勉強
「研究所では危険なものを扱って研究しているが、それが社会に役立つことを、一般の人にいかに伝えるか」を勉強した。例えば、拡散計算をしている友人の研究者も、研究の傍ら、ニューメキシコ州アルバカーキ市の健康・安全を守るために寄与しているという自負と認識を持って、テレビなどで発言していた。メディアトレーニング(専門家としてのインタビューの受け方、押し付けがましいことをいう人への対応の仕方、テレビでの話しの仕方等)も受けた。
 また、今で言う、「サイエンス・カフェー」的な活動にも私は興味があり、参加できる機会には積極的に出席したが、その集まりにはなかなか人が集まらないので、苦労した記憶がある。人集めのアイデアを出して、フォークダンスパーティを開き、講師・専門家を招いて30分程話をするプログラムを作ったりして、「サイエンス・カフェー」を行っていた。それでも飽きてきて、ダンスの種類を変えるなどして、人集めの工夫をしたりしていた。

原子力研究開発機構の広聴・広報活動とは
 原子力研究開発機構では、5年間の中期計画を立てながら活動している。
広報の基本姿勢は「ひとりひとりが広報マン」として、積極的な広報活動と報道対応、を行い、広聴活動を重視し、情報提供と情報公開を徹底して行う。
一般広報としては、1)外部の意見を聞く対話集会、2)報告会開催、3)展示会開催、4)講師の派遣(講師派遣依頼をもらって派遣するシステム)、5)インタネットでの広報(1000万件アクセス/月)とメルマガ配信、6)広報誌作成、7)展示館を活用したアウトリーチ活動(展示だけでなく、出前授業、実験教室も取り入れている)を行っている。特に、電気事業連合会や文部科学省所管法人などとの広報における連携、海外への情報発信、「もんじゅ」の新たな展開状況の広報などにも力を入れている。

理解促進活動
 原子力施設のそばには展示館があり、先程述べたように、展示館を利用したアウトリーチ活動を推進するとともに、研究者自らが小中高校生や市民の中に出て行き、出前授業、サイエンス・カフェ、SSHにも精力的に取り組んでいる。また、SPPなどにおける教員研修なども支援している。出前授業に出かける若い研究者には、一日の特別授業なので、いつも授業を行なっている教師の方にご迷惑がかからないように、黒子に徹し相手校の先生を盛り立てるように指導している。
例えば、サイエンスカフェでは、放射線によるガンの中性子補捉法治療(ガン治療の一つ)の話をしたら終わっても参加者が帰らず、話が白熱したこともある。有馬朗人先生、白川英樹先生にも展示館で講演や実験のお話をしていただいこともある。
 広報誌作成に当たってはでは、外部の意見を聞くのが大事なので、アンケート結果を重要視している。また、各研究拠点では、地元の人の話を直接聞くことが大事です。しかし、満足したというアンケート・データがあっても、鵜呑みにしてはいけない。その背景を十分理解することが重要である。また、絶え間ない広聴の努力が重要である。
原子力研究開発機構展示館 http://www.jaea.go.jp/09/9_3.shtml

「もんじゅ」運転再開に向けて
 1995年、高速増殖原型炉「もんじゅ」でナトリウム漏れが起こった。事故以前には広聴・広報を重要視していない傾向があったように思う。新しく赴任したもんじゅ所長菊池三郎氏は、「研究者は自ら市民と対話することに力を入れよ」と、自らも市民の中に入り説明に回った。現在も機構敦賀本部の関係者その努力を継続している。
今までにもんじゅの運転再開に向けた見学・対話活動は10年間で154万人に達した。
 見学等の参加者数は福井県の人口の約2倍に当たる。
 フォーラムへの参加者は高校生や大学生など3.7万人になった。
福井新聞の世論調査によると、2001年には「もんじゅ」再開容認が3割だったのが、2003年には5割、2005年には6割まで増えた。

メディアトレーニングとは
 メディアトレーニングとは、自分の研究成果発表、パネルディスカッション、記者会見時の説明・発表等の説明技術を学ぶもの。
1コースは1グループで4〜5名、3,4グループが限界で、受講生の特徴、性格、癖を理解して細やかな指導をする。例えば、ビデオを見て、互いで評価しあい、どちらの横顔の笑顔がいいかまでアドバイスする。
実際に事故・トラブルが想定される施設では、事前にスピーカ(スポークスマンに相当)を指名しており、関係者のメディアトレーニングを行っている。記者会見で、カメラ、ライトが入ると思考が停止するような感覚になり、答えるべき回答を忘れてしまいがちになる。質問に対して考えるときに、上をみると途方にくれているようにみえること、背中をいすにつけると偉そうに威張っているようにみえるなどを体験しながら学ぶ。
服装も、プレス発表のときは、明るい色系のシャツ、事故・トラブルのときは紺色などを配慮する。8月末にトラブル時の記者会見を行うことになったが、そのときはクールビズの時期だったが、ネクタイを着用して記者会見を行った。

研究成果・事故トラブルの情報を伝えるのは迅速に
 研究成果発表の配布資料には担当者の顔を入れ、誰が研究開発をしているのか顔が見えるようにしている。
4年程前は1件のプレス発表を行なうと、事故・トラブル発表の場合は記事件数として、20数件の新聞記事が掲載されたが、昨年は6件程度に減った。これはマスコミ関係者との勉強会、施設見学会などで「百聞は一見に如かず」の成果ではないかと考えている。
また、広く知ってもらいたい成果発表は何曜日にすると記事になりやすいかなども分析している。

情報公開の推進
 機構は情報公開法によって厳格に開示請求対応を行なうとともに、積極的な情報提供に力を入れている。2006年度は81件の開示請求があり、資料不存在の1件を除いて、全面開示か部分開示と判断し、公開した。
原子力の情報は、個人情報、ノウハウ情報、機微な情報を除いて、原則公開である。一方、外部有識者からなる情報公開委員会・検討部会を設置し、情報公開の推進にご意見を頂いている。また、情報公開請求を受け付ける窓口関係者は情報の共有化が重要であり、トラブル事例集を作成している。なお、機構の情報公開窓口関係者によるロールプレイングによる研修会も実施している。

 
参加者全員で記念写真  


質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • プレス発表の対象は誰か→関係の地元記者クラブ、東京では、文部科学省、経済産業省のプレスクラブで行い、70社に案内を出す。対象は、全国紙、地方紙と専門誌、科学新聞など、テレビ会社。平等の原則で全社同じ時刻に発表することにしている。
    • 一般の方々への情報提供のとして、→メディアを通して行なうことが一番効果的であるように考える。メディア向けに年間5回程度、毎週水曜日の勉強会(1クルーに4〜5テーマ。1回10社くらい参加)を開いており、メディアや関心のある人が参加している。原子力学会も勉強会を始めた。メーカーや電力会社の専門家も講師として説明することにしている。
    • 原子力へ理解を高めるために行っていることは→マスコミ対象には勉強会、一般向けには報告会や説明会を開催している。
    • プレスリリースは広報部から出すのか。1社が取材にきたときにはどう対応するのか→1社は特ダネだと思って来ているので、そういうときには他社にはいわない。正確な記事を書いてくれない人だとわかったら、その人個人の取材を拒否することはある。
    • IAEAに日本の職員はどのくらいいるのか→IAEA 職員全体で約2,200人くらいだと思いますが、そのうち、日本人職員は約50人位(内、コストフリー職員は2〜30人)。IAEAの予算の約20%を日本が出しているのに、日本人でいいポストについている人は少ないように思う。
    • 柏崎でIAEAに調査を依頼したのはなぜか→日本は地震国で地震の基準は日本が中心になって作ったものであったが、透明性のためにIAEAの視察をうけたと聞いている。結果的に、国際的に高い評価を得ることになった。
    • 世界の原子力発電所の数は増えているが、日本はどうなっていくと思うか→計画中、申請中の発電所などが10基くらいある。柏崎刈羽の火災は変圧器(の建物)で火事が出ているが、原子炉のような重要な箇所は大丈夫だったようだ。
    • 核廃棄物の処理場はどうなっているのか→四国の東洋町の話しはだめになった。フィンランドは唯一、最終処分地が決まった国。安全と安心の問題では、住民の了解をとるときにひとりひとりを攻めないこと、政治家も立場によって意見を変えないことが大事。臨界が起こる可能性がないので心配がない。
    • 最終処分場は自国で持つべきではないのか→バーゼル条約というのがあり、廃棄物の処分は自国で行なうことになっている。日本の使用済み燃料はフランスで再処理してもらって日本に廃棄物を持ち帰っている。
    • 原子力はクリーンエネルギーなのに、理解度が低いと思った→地球温暖化防止などで原子力には大きな可能性があるにもかかわらず、理解度は確かに低いように思える。将来の話になるとエネルギーの枯渇より、不安とか恐れの方が大きくなるようだ。エネルギー問題においては、解決すべき問題があるが、研究技術開発の絶え間ない努力が重要で、問題は解決できるものと信じている。
    • 原子力の記事を見ていると、不安を煽るものが減り、よくなっていると思う。基礎的なことを定量的に扱うような勉強を記者の人に学んでもらえるといいのではないか。
    • 事故のないときに、体内や食物中の自然放射性物質などの情報提供が大事だと思う。事故のときにいうと信頼されない。
    • 学校教育では原子力はどこで扱うのか→小学校だと社会科。
    • 家庭科の先生の卵に教えているが、私立文系型の人が多いので、科学に関係することの理解は難しいのではないかと思う。
    • 文系出身の人は理系のことがよく分からないからために、よく尋ねてわかろうとする人たちもいる。
    • メディアトレーニングを受けてみたい→アメリカでは17コースあったが、日本にはないようだ。出前講座のシステムがあるので、依頼してください。
    • お世話になっていても原子力エネルギーが身近に感じられない。人々の中に広まるといいと思った
    • 遺伝子組換え食品では、事故が起こっていないのに、危ないのではないかという状況。これは予防的観点からの対応だと思う→何かが起こってしまったときに、想定の範囲だったというと、それを知らなかったメディアに火をつけてしまうことになるので、注意しないといけないが、いろいろなケースを想定しておくのは大事。
    • いろいろな活動をされていることがわかった。がんばってください
    • 週刊誌とのトラブルはありましたか→新聞社、週刊誌と数は少ないものの、トラブルはあった。トラブルがあったときには抗議することとしている。
    • 世界の原子力の動向は→世界の現状は、概略を言えば、アメリカは環境問題で原子力推進。ドイツは反対、フランスは推進。イギリスは原子力エネルギーを見直し中。フィンランドは推進。スウェーデンは80%以上が原子力維持に変わってきて、原子力の見直しがされている状況。中国は推進。
    • 原子力の広報活動は活発だと思ったが、市民にそれが見えないと思った→心理学的に否定的な情報は頭の中に3倍残るのだそうで、事故・トラブルを出来るだけ少なくすることが重要である。
    • 学校教育に期待されても家庭科の時間数が減っていて、食の安全もうまく伝えられない状況。理科も減っている→教師は時間的にも大変忙しくて、余力が少ない状況だと理解している。原子力機構としても、アウトリーチ活動に力を入れており、若い人たちの理数科教育に微力ですが、支援したいと考えている。



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