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バイオカフェ 「センスオブワンダー〜ハテナという生物」レポート |
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2007年6月8日(金)茅場町サン茶房でバイオカフェが開かれました。お話は筑波大学生命環境科学研究科井上勲さんによる「センスオブワンダー〜植物と動物の境界」でした。初めに山形一恵さんのフルートの演奏がありました。
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「私もスピーチが楽しみ」という山形さん |
「自然はワンダーでいっぱい」 |
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主なお話 |
はじめに
私は沖縄石垣島で生まれ、裏は山、反対側は海という環境で、自然や生き物は面白いなあと思って育った。中学生の時、「センスオブワンダー」という言葉を知り、これだ!と思った。これはレーチェルカーソンの著書の題名。米国にはそれ以前から、こういう言葉があったようだ。私は、子供たちに神秘さや不思議さに目を見はる感性を身につけてほしいと思っている。
私は、人間の作ったもので最大のものはハッブル望遠鏡だと思っている。宇宙の様々な姿を見せてくれる。私の最も好きなのは100億年前の宇宙の写真。こうしていろいろな星を見ていると、「地球も捨てたもんじゃない、生命の星だよ」と思う。
例えばNASAの観測衛星から、春になると北半球で緑が増えるのがわかる。これは、珪藻という生き物で、地球の大きな生産力になっている。ベーリング海の辺りがもやもや見えるのは、200分の1ミリのハプト藻という生物のせい。この生物は単細胞で、二酸化炭素固定をし、体は石灰でできている。この生物が海に沈んで隆起してくると、真っ白い断崖になる。昔のチョークは品質が悪く、削って顕微鏡でみるとこのハプト藻が見えたものだ。
私はルーペをいつも首から提げていて、苔や草花やいろんなものを見ている。こうして人生を2倍、楽しんでいると思っている。
いろいろな動物と植物
ウィキペデイアによると、「動物とは捕食し、運動する多細胞生物、植物とは、光合成をして運動しない生物で動物でないもの」となっている。これが常識。
例えば、ミドリムシはくねくねうごき、餌を食べず、光合成をする。ミドリムシが動物か植物かを理科の先生が質問することがあるが、こういう質問が生物嫌いをつくるのではないか。なぜならミドリムシはどちらでもなく、ミドリムシが正解だから。
動く植物はいろいろあり、ボルボックスはくるくる回る。ケイソウは激しく動き、周りの水環境をよくして光合成をしている。フトウモウ植物(コンブの仲間)は大腸菌などを捕まえて食べる。ウズベンモウソウ(アカシオをつくる)はストローのようなもので捉えた生物の体内の物を吸いとってしまう。もりをうちこんで手繰り寄せて食べる生物、鳥もちのように餌をぺたっとひっかけてとる生物など様々。
ウミウシには、光合成をする緑色のウミウシがいる。食べた物の葉緑体を体内に溜め込み、7ヶ月、盗んだ(中古の)葉緑体の光合成で食べずに暮らす。
サンゴの体内にはシンビオネニウムという藻類がいて光合成をしている。葉緑体がぬけると白いサンゴになる。サンゴは昼は植物として暮らしていることになる。
シャコガイの外套膜には葉緑体を持つ生物がいて、昼間は口を開いて光合成をする。
生物の分類
生物を分類するには、光合成をして生産をする生物を、「植物のような生き方をする生き物」、捕食して消費する生物を、「動物のような生き方をする生き物」と考えた方がいいようだ。そう考えると、オラウータンとライオンは動物そのものだが、アメーバは動物とはいえず、ワカメも厳密には植物ではない。
五界説では生物を大きく5つに分けて考える。1)モネラ界(大腸菌などの原核生物)、2)プロティタ界、3)真核生物(動物と植物と菌類)で、真核生物は、1)光合成をして生産者に進化したのが植物、2)捕食して消費者に進化したのは動物、3)従属栄養だが、酵素を出して分解者となったのが菌類の3つに分かれる。
以前は小さくてわからなかった生物も、今は電子顕微鏡で観察でき、遺伝子を調べることができ、調べられる生物が増えた。
真核生物には8つのスーパーグループ(オピストコンタ、アメーボゾア、植物、ケルコソア、アルベオラータ、ストラメノパイル、吸盤クリステ類、エクスカベート)があり、哺乳類もそのひとつのグループであるオピストコンタに属している。オピストコンタとは、鞭毛を細胞の後ろにもって尾をふって泳ぐ生物で、動物と菌類(ナメコ、しいたけ)は、生物の分類では兄弟ということになる。すなわちオピストコンタが進化して動物にも菌類にもなった。
光合成をする生物
光合成をするグループを9つのスーパーグループの中に点で示すと、まとっている部分が「本当の植物」で、光合成をする「偽の植物」が複数のスーパーグループに散らばっていることがわかる。
私たちは核とミトコンドリアがあり、それぞれが分裂し、娘細胞に渡される。植物は核、ミトコンドリア、葉緑体が分裂してDNAを受け継ぐ。この仕組みが確立すると植物になる。
光合成をして酸素を生み出す大きなグループはシアノバクテリア(原始的な生き物ですべての植物のもとになった。アオコをつくる)から進化した。
藍藻を食べた生物が植物体になったわけだが、進化の歴史でぱくっと食べたイベントは一度しか起こっていない。遺伝子をみると、葉緑体を持つ植物になった緑色植物、灰色植物、紅色植物が藍藻を食べて(共生)生まれた植物であることがわかる。これを、一次共生(一次植物)といい、核でみると光合成は複数起源だが、葉緑体はひとつの起源になっている。
藻類が多様化するとき、餌を食べて生きている生物が長い時間をかけて植物になる二次共生(二次植物)がある。二次共生で植物になるプロセスは、餌として食べていた植物をあるとき、消化せずに細胞の中で維持し、その方が得になって共生する。1−2週間共生し、光合成させて消化していく。だんだん長く光合成をして細胞内に保つようになる。やがて、宿主は、共生体のもつ余分なミトコンドリア、核を消し、食べられた植物細胞は宿主の奴隷にされてしまう。
例えば、マラリア(温暖化で台湾に北上してきている)には1996年の植物の痕跡があることがわかり、マラリア撲滅に除草剤がきくはずだということで、マラリアの葉緑体を標的にした特効薬つくりの研究が盛んに行われている。これも進化の研究の成果。
真核植物には、1次共生が3グループ、2次共生が7グループあり、植物多様性は2次植物のおかげで生まれている。水中では、黄色や茶色の二次植物が光合成をしている。地球の3分の2は二次植物で、二次植物の理解は地球の理解に役立つ。
たとえば、ハプト植物のつくる硫酸化合物が光分解をうけて雲をつくるときの核になる。雲は太陽光を反射し、地球を冷やす。ハプト植物は硫黄と水の循環に関わっていることになる。炭素循環という意味では二酸化炭素の固定にも関わっている。
ハテナ発見
1年前、発見した。不思議な生き方をするので、ハテナと名づけた。
分裂するときに一方に葉緑体を渡して緑色に、他方は透明になる。分裂したときには必ず右側が緑になる。これは葉緑体でなく共生体を持っている状態だということがわかった。捕食もする。植物的な生き方ができるものと動物的な生き方ができるもの(食べる口)に分裂し、動物的な生き方をしていたものが植物的な生き方ができるように進化する。ハテナは共生体が植物になる最後の状態。現在は、植物になるとはどういうことかを研究中。
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会場風景 |
「つりざおで釣るようにエサをとる生物もいますよ」 |
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話し合い |
は参加者、→はスピーカーの発言
- ハテナはどこにいるの→砂浜の1−2センチの深さ
- 和歌山県で発見したそうですが→私たちは行く先々で海などの水を汲んできて、棲んでいる生物を調べる。和歌山大学の珪藻学会で汲んだ海水の中にいた。鞭毛の動きに特色がある共生体で、真核生物の新しい仲間だったので、ハテナとなづけた。
- 分裂して一方が緑になり、他方は捕食するというが、次にどうなるのか→二次共生、三次共生の研究をしたいが、培養できないので、とってきて調べるしかない。次にどうなるかはわからない。分裂した細胞を3ヶ月維持できるが、分裂はしない。自然界に餌の現れる周期で白い方がまず緑になる。捕まえたハテナの96%は緑。
- 餌の発生が分裂の引き金になるのか→イエス。餌が分かれば、分裂を起こせる。すでに研究を始めて7−8年になるが、まだわからない。
- ハテナとつけた理由は→初めは発見者の名前で「オカモトムシ」と呼んでいた。「はてな?」だからハテナとした。フランス語は「h」を発音しないので、アテナになる。
- 動物と植物とどちらが賢いと思いますか→地球環境維持する上で偉いのは酸素を産生した藍藻。21%の酸素分圧は藍藻が作った。鉄の鉱床はランソウが25−30億年前に作った。
- ミドリウミウシは、共生しているが、共生体とミドリウミウシ自身の細胞分裂は同調しているのか→いいえ。ミドリウミウシの細胞に共生体を持たない細胞もある。
- 同調しなくて生きていかれるのか→ミドリゾウリムシはクロレラを食べて消化している。酸性の攻撃と消化に耐えて食胞から逃げ出したクロレラは、決まった場所に配置されて消化酵素の攻撃を受けずに増えて生きている。
- どういう分配で消化されたり、生き残るのか、どのくらいの期間なのか→ウミウシも細胞内にクロレラを持つ。他のウミウシはクロレラそのものを持っている。
- ヒトも葉緑体を持てるようになるか→仕組みがわかれば遺伝子組換えでできるかもしれないが、私はそういう研究はしたくない。私はこうしておいしいコーヒーを飲みたいし、昼休みに日向ぼっこばかりしていたくない。
- 地球外には違うエネルギーの取り込み方をする生物はあるのか→原子力エネルギーを使う生物がありえるのか。
- 生物は捕食か、光合成する生き方しかないのか→寄生という生き方もあるが、寄生は別の生き方だが、エネルギーとして別な取り込み方ではない。
- 熱水鉱床にハオリムシという生き物がいるそうだが→体内で化学合成をしている口のない動物。共生しているバクテリアが化学合成をしてくれている。
- 生物はDNA、RNAで生きているのか→イエス。ウイルスにはRNAで生きているものもいるが、すべてDNAとRNA。
- 生命の出現の必然は何だと思うか→ロシアのオパーリンの生命起源説などがある。生命には情報が伝わって代謝ができる仕組みがあればいい。RNAは酵素の機能と核酸として情報を伝える機能ができる。だから、最初の生命はRNAを使っていたのだろう。そこで、RNAワールドというシナリオができた。しかし、どうやって膜の中に代謝物質、遺伝物質を囲い込んだかという問題になるとわからなくなってしまう。雷や宇宙線で基本的な物質であるアミノ酸、アルデヒドができた。これは隕石でわかっている。また、遺伝物質が膜に包まれたという話があるが、膜の内外の物質のやりとりの実現が大変でこの説明もつかない。最初は膜の外側に遺伝物質などが付着して仕組みが発達したところで裏返しになったという説もある。例えば、大腸菌の持つ2枚の膜は裏返しで、陥没していくようになると囲い込んでいく。証拠がないので夢の世界。理論生物学者は毎日それで楽しんで研究している。
- ハテナが見つかるのは1箇所だけか→現在、3箇所で見つかったので、世界中で見つかり始めるだろう。私が発見すると、研究者の仲間がいるメルボルン、デンマークと見つかることが今までにもあった。ハテナはまだ他の国では見つかっていない。
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