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バイオカフェレポート「日本人とクワガタムシ」 |
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2007年4月13日(金)、茅場町サン茶房にて標記バイオカフェを開きました。スピーチは国立環境研究所五箇公一さんによる「日本人とクワガタムシ」でした。クワガタムシの遺伝子の国内外の分布から、ビジネスとしてのクワガタブーム、その根底にある日本人のクワガタ好き。考えれば考えるほど、深く考えさせられるお話でした。始まりは松本宗雄さんによるバイオリン演奏でした。
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松本さんのバイオリン演奏 |
五箇先生のお話 |
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お話の概要 |
生物の多様性とは
私は外来生物に関わる生物の多様性の保護のための研究をしている。
「生物多様性条約」では、保護しないと生物多様性が失われてしまうので、生物多様性も自国の持ち物として大事にすることを目的としている。
地球の歴史から見ると、今までに6回の生物の大絶滅が起こっており、そのひとつは恐竜の大絶滅で200万の生物種が失われたが、それは100−200万年の時間をかけて起こったことだった。現在は1年に4万種滅ぼしていると研究者は言っており、これは人間が意図的開発で絶滅させている。また、以前の絶滅はゆっくりしていたので、その間にそれまで陰を潜めていた哺乳類が多様に種分化して栄えていくプロセスがあった。進化速度が絶滅速度とつりあい、確保されていた。このままだと、100−200年で生物の半分は滅ぶのではないか。
外来生物種とは
生物の絶滅の理由は3つある。@生息環境の破壊(海洋汚染や熱帯林の)、A乱獲、B侵入種の影響(外来生物がスピードを持って移動している)
エイリアン・スピーシーズ(外来生物種)とは、本来いなかった生き物が持ってこられることで、なじめなくて死ぬのが普通だが、侵略的侵入種は、在来種を駆逐する。
例えば、明治時代に入れた大型肉食種のブラックバス、漫画ラスカル流行で飼われ捨てられて増えてたアライグマ、ハブ退治のために入れられたが効果がなかったマングース(ハブは夜行性、マングースは昼間活動)、夜店でミドリガメとして売られたミシシッピアカミミガメ、植物のセイタカアワダチソウ(アメリカから)などがある。
侵入種による生態影響
捕食、競合、遺伝的汚染(交尾で雑種ができる)、寄生生物の持込などの影響がある。放射性物質や化学物質は分解してなくなる。生物は遺伝子レベルで増え続ける(定着し、不規則に増え、進化もする)
逆に日本のクズはアメリカで大繁殖し、日米で同じ景色ができる。つまり生物相の均質化が起こる。
生き物も渡り鳥のように移動するが、それは生物のスピードによるもので、人間による生物のスピードを無視した移送は、35億年かけてつくられた生物という遺産に影響を与える。この生物多様性という進化の遺産は一度失うと取り戻せない。
現在、日本には、1年に8億匹の生物が生きて輸入されている現状。環境省が定めた「外来生物法」は在来生物を守る法律で、特定外来生物が生態系に悪影響を及ぼす場合、それを輸入、飼育、譲渡、野外に逃がすなどしたら、法人は1億円、個人は300万の罰金を決めている。そこで、輸入する生物をレッドカード、イエロー、ブルーとカード分けしているが、実施には、駆除に莫大な予算がかかる生物は指定されておらず、できるところから駆除している現状。
クワガタブーム
日本人はクワガタムシが好きで、1999年から輸入が始まり、昆虫産業は500億円の大マーケット。ペット店では1年中買えて、ネット販売では生きたまま宅配されている。このために全世界の1500種のクワガタのうち700種が輸入されている。そのうち、100万匹は申請をして輸入されているが、個人輸入は含まれておらず、日本国内増やされるので、累計5億匹くらいいると試算される。
一方、日本にも固有のクワガタムシがいて、島国ならでは多様性もあるが、生息環境悪化で絶滅の危機にある。アジアにも近縁種は日本の祖先にあたる。同じヒラタクワガタでも日本、スマトラ、フィリピンで大きさが異なり、大きい外国産が人気。
クワガタのDNA
私は、日本の小さいヒラタクワガタのDNAを調べてデータベース化して残す研究をしている。方法は、ヒラタクワガタの中足の筋肉からDNAをとり、増やして解析し、個体ごとの塩基配列状況を記録している。そのDNAの系統樹を調べると、個体間の遺伝的な関係の近さがわかる。
日本列島のヒラタクワガタの遺伝の家系図を調べたら、島国特有の遺伝的な多様性を持っていることがわかった。このように、我が国には日本固有の遺伝子があり、固有性と多様性に満ちたヒラタクワガタが棲んでいる。
遺伝子の家系図からいつ日本のどこから入ってきたかを調べたら、150−10万年前に沖縄経由で入ってきたものと、5万年に陸続きだった朝鮮半島からのものがあった。
アジアのヒラタクワガタはマレー半島を境に北と南に遺伝子が分かれている。
日本には北の流れが琉球と朝鮮半島経由のふたつに分かれて入ってきた。日本はヒラタクワガタが最後にたどり着いたところで、最も新しい子孫がいることになる。
日本のヒラタクワガタと外来の交雑実験
大きな外来オスと小さい日本のメスの交雑はできなかったが、日本では大きいツママヒラタオスと外来では小さいスマトラオオヒラタメスの雑種が新種として生まれ、現在実験室には4世代目が生まれている。
これは、リング種といって、同じ祖先が違うところへ移動し、異所的種分化が起こり、500万年後にその子孫同士で交雑ができてしまったことになる。500万年の進化の違いはヒトとチンパンジーくらい遺伝的には違っている。外来種が入ってくることで、そんなに遺伝的に離れた生物が野外で交雑してしまうのは問題があるのではないか。実際に愛好家が日本で最終したクワガタに外来種のDNAを持ったものが見つかっている
毎年、輸入され、毎年捨てられていると、外来クワガタが越冬できずに死んでも、外来の血はやがて日本のクワガタに入ってしまうだろう。
ジャングルで採集したクワガタにダニなどがついて入ってくると、ジャングルでおとなしくしていた寄生虫が増えてしまうこともある。なぜなら、寄生生物が、爆発的に増えて宿主を殺すのは寄生虫としてもいい戦略でなく、寄生生物を爆発的に発生させる(ブレーク)のは、人間が無理な移動をするからで、寄生生物は悪くない。バクテリア、ウィルスは検疫対象になっていない。アフリカ産のカエルに寄生しているカエルツボカビがペットと一緒に入ってきたので、日本中のカエルを集めて、今、環境研究所で調査中。同時に、寄生生物にも棲む所によって多様性がある。
昆虫のトレードの社会問題
東南アジアのアンタエウスクワガタは1万円だが、ネパール、インド、ブータンのクワガタは50万円で日本で売られる。高価なのは国外の持ち出し禁止国だから希少価値があり密輸される。日本のディーラーに売ろうとしているクワガタ業者も出てくる。
乱獲された外国のクワガタはどうなるかというと、農林業を放棄してしまう農民、自然資源の破壊、地場産業の破壊、外国のクワガタの絶滅の危機が起こっている。
日本は南の資源をむさぼっていることを意識すべきだ。日本が輸入をやめても、崩壊してしまったアジアの農家や失われた自然は元に戻らない。クワガタの規制を検討しているが、飼育禁止になると、飼っている人は罰金になるので猶予期間中に、皆が逃がして、かえって問題が発生するだろう。「逃がさないで、捨てないでキャンペーン」を実施し、こうして普及・啓発運動をしている。
日本人は異常なクワガタ好き
国際会議でヒヤリングしたところ、アジアの中でクワガタが好きな国民はいなかった。日本の男子は世代を越えてクワガタ好き。
日本にはノコギリクワガタの名前の方言が多くあり、日本はクワガタを昔から愛好していたことがわかる。江戸時代に正確なクワガタを描いた絵が残っており、これも江戸時代でのクワガタ好きがうかがわれる。
日本人の祖先はおおよそ琉球人、本土人、アイヌ人。一緒につれてきている生物があるらしいことがわかってきている。たとえば犬は縄文人のペット、弥生人の食用であった。
日本のヒラタクワガタの遺伝子の多様性から振り返ると、遺伝子の拡大は人間の里山文化と共に広がるなど短期間に起こったと考えられる
里山文化(田んぼ、雑木林)は閉鎖系の村社会の知恵で、切り株の朽木を土にできるのはクワガタ(体内の共生菌が窒素固定する)だけ。クワガタはよい土を作ると人々は知っていたのではないか。様々な大陸の生き物が里山という生活様式の中で定着し、大事にされ進化してきた。しかし、現在、山、川、森を要素とした里山文化を日本人が放棄している。
また、夜間光も昆虫を惑わすもので困ったものである。
クワガタは買わずに取るものという原点に立ち返り、昆虫採集の記録、記憶を呼び起こそう!
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会場風景1 |
会場風景2 |
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話し合い |
は参加者、→はスピーカーの発言
- 最後までうかがいタイトルの意味がわかった。話が日本人の祖先まで発展すると思っていなかった。1万年前にクワガタが来たとすると縄文のブナの森が里山につながったと考えるのはどうか→縄文時代にブナは持ち込まれており、ブナの遺伝子が日本中均一なのは意識して持ち歩かれたためと考えられる。
- カダヤシが外来種に指定されたそうだが→各自治体で駆除、除去活動をしているが、逃げるし、増えるのでゼロになった事例は世界でもほとんどない。例えばマングースの駆除も20年で5万匹から1万匹に減ったが、罠にかかりにくくなり、予算が減って完全駆除には至らない。もし、カダヤシが完全にいなくなると蚊が大発生するだろうから、駆除・除去のあとのリスクも評価しなくてはならない。増えてしまったものは諦め、今いるものをいかに守るかが大事。
- 今日のような話はどのくらい話しておられるのですか→侵入種が問題になって5年くらい。研究所公開などで5000人くらい。テレビにも出たがなかなか広がらない。学校教育に取り込んでいきたい。実際に侵入種の研究チームの実態は私ひとりなので、大変。
- 学校にも話に来てくださいますか→はい。
- とっても面白いお話だった。環境省は歴史が短く予算が少なくご苦労でしょう。農林水産省の防疫との関係は→クワガタ輸入は植物防疫法で禁止されていたが、WTOの規制緩和の対象になり、輸入されるようになった。しかし、クワガタは農業害虫でないので、よく輸入をここまで食い止めてくれたとも言える、規制緩和後は環境省ががんばっているが、米国の環境省EPAは国家戦略として予算をつけているのに比べると日本の生物資材、環境資材への国家戦略は弱い!例えば、京都の町が帰る度に変化していて、米が空爆を躊躇したほどの町を変えている日本の現状に暗澹たる気持ち
- 焼畑農業でクワガタは死ぬがどうなるのか→東南アジア、アフリカなどの森林伐採や焼畑がいろいろな生物種の減少につながり問題になっている。
- ヒラタクワガタ以外のクワガタの遺伝子汚染はどうか→遺伝的多様性はヒラタクワガタが高く、輸入量が多いので、これを優先して研究している。オオクワガタの交雑実験もしているが、雑種ができず高価で逃がす人がいないので、余り深刻ではない。ヒラタは1ペア1980円くらいの値段で、ホームセンターで大量に売られている。規制緩和以前は100-1000万円で取引されていた密輸時代もあるが、そのころは逃がしたりせず問題にならなかった。
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