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第23回談話会 「ナノテクノロジーの社会的影響に対する国内外の取り組みと課題」レポート |
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2007年2月9日(金)に談話会が開催されました。(独)物質・材料研究機構 国際・広報室次長の竹村誠洋さんによる「ナノテクノロジーの社会的影響に対する国内外の取り組みと課題」でした。
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竹村さんのお話 |
会場風景 |
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1.ナノスケール(ナノという大きさ)について |
1mの10億分の1の単位をナノメートル(nm)という。因みに1mmは1000分の1メートル、1μmは100万分の1メートルである。インフルエンザウイルスは100nm、髪の毛の太さは60μm、ミジンコが2mmである。ナノ物質は非常に小さいものである。因みに、ナノを扱う大きさは、100nm以下を対象とする。代表的なナノ材料であるフラーレン、カーボンナノチューブの 直径はおのおの約1nm、数nmである。これらは今のところ、機械的性質を向上させるべく複合材料の原料として用いられることが多いが、今後は電気的特性を活かして半導体などのIT分野、さらに医療分野における用途を目指して研究開発が進められている。
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2.ナノテクノロジーの研究の推移 |
1974年に谷口紀男教授が初めて「ナノテクノロジー」という言葉を、極微細加工の分野において使用した。20世紀、ナノテクノロジー研究開発が最も進んでいたのは日本であり、1990年代に入り、アメリカ、ドイツなどがそれに遅れまいと日本のナノテクについて大々的に調査を行った。そうしてアメリカでは、クリントン大統領は2000年に国家ナノテク戦略(NNI:National Nanotechnology Initiative)を発表した。現在、日本、アメリカ、欧州での公的な予算は、それぞれおよそ1000億円である。
日本政府は単に研究開発資金を提供するだけでなく、その多方面にわたる支援にも積極的である。その代表例が文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトであり、研究機関・分野を超えた横断的かつ総合的な支援をミッションとする。具体的には14の選ばれた共用施設機関が最先端の大型施設・特殊設備の活用及び技術支援を広く実施し、ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンターが情報収集・発信及び研究者の交流促進を行っている。
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アメリカは2010-20年までのビジョン、2015年までに現れうる潜在的目標を掲げ、2015年までに現れうる潜在的目標の中に、「癌による死亡率ゼロ」や「空気、土壌、水源中のナノ粒子の制御」などを挙げている。ナノ分子は表面積が大きいメリットを活かし、水質浄化に使おうというのである。環境向けナノテクノロジーはアジア、オーストラリアなどでも開発に力を入れている。
ナノテクノロジーのライフサイエンス分野への適用としては、次の3つが挙げられている。
1)再生医療:人工骨などの再生医療材料の開発
2)ナノメディスン:制癌剤などをがん細胞に運ぶ標的治療への利用
3)診断技術:マイクロマシン応用マイクロ分析チップ開発による健康状態の把握や創薬への応用
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3.2つのナノ構造作製技術 |
トップダウンの技術:物を削って極限(nm)まで微細にして素材を作る技術
ボトムアップの技術:原子や分子を1つずつ積み上げて新しい特性を持つナノ物質を作り出す技術
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4.ナノテクノロジーに対するリスク不安 |
ナノテクノロジーを使ったもので顕在化したリスクはないが、ナノ物質をめぐる毒性試験結果の発表、カナダのNGOによるナノ材料工業生産の即刻停止の宣言や自己増殖するナノ粒子ロボットの群れが人間を襲うという内容のSF小説がある。実際にはリスク評価に必要な科学データはまだほとんどそろっていない。ナノテクについて科学的根拠に基づいた情報を発信し、一般市民への理解活動を進めることが大切である。
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5.ナノテクノロジーの社会的影響 |
ナノテクの社会的影響に関しては、世の中にそれほど製品として出ていない段階であり、どのような問題があるかは、はっきりしないが、予め、リスク・ベネフィットの想定、リスク評価をしておくことである。
ナノ材料のリスク評価管理においては労働者の安全衛生が最優先され、ついで消費者の安全衛生、環境の保護がある。
アメリカでは、省庁およびその研究機関は担当する製品、技術に応じてナノ材料安全性評価管理に関わり、その一方で省庁連携プログラムも遂行している。国家の研究予算の1割をEHS(環境、健康、安全)、ELSI(倫理的・法的・社会的問題)に充てている、とNNI関係者からよく聞いた。しかしその中には医療・環境向けの研究開発も含まれ、リスクに関するものに限定すれば、さらにその1割、金額にして年間10億円にも満たないのが実状である、と1年ほど前から言われている。国家主導以外の取り組みもあり、その代表がライス大学に設立されたナノテクセンターの主導により産・学・官・民・NGOから組織される国際組織であるICON(国際ナノテクノロジー会議:International Council on Nanotechnology)がある。
欧州では、EUプロジェクトではナノ材料の皮膚への影響に関する研究(NANODERM Project 2003.4.1〜、3年)や生産プロセスから消費者に至るまでのナノ材料のリスクアセスメントに関する調査研究(NANOSAFE Project 2003.4.1〜、15ヶ月、NANOSAFE2 2005.4〜)、英国政府委託による英国王立協会・王立工学アカデミーの調査報告書などがある(2004.7発行)。
日本では、2005年に文部科学省の科学技術振興調整費「ナノテクノロジーの社会受容促進に関する調査研究」で5つのワーキンググループが組織され、ナノマテリアルのリスク管理手法、健康影響、環境影響及びナノテクノロジーの倫理・社会影響、社会受容性促進のための技術評価・経済効果について検討されている。また、2006年度文部科学省の科学技術振興調整費「ナノテクノロジー影響の多領域専門家パネル」では、ナノテクノロジーの技術アセスメントとコミュニケーションの検討が含まれている。そのほか、経済産業省、厚生労働省のプロジェクトで安全性評価方法の標準化、ヒト健康影響の評価手法の開発に関する研究などがある。
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参加者全員で |
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話し合い |
は参加者、→はスピーカーの発言
- 日本でのナノテクの研究が進められてきているが、その評価は→研究からビジネスへの展開が求められる時期に来ている。
- 日本では毒性学者が非常に少ない。ある安全衛生の専門家によれば、日本を1とすると欧州は10、アメリカは100、とのことである。
- ナノテクの研究者、毒性を研究する学者、社会学者が同じ場でナノテクについて討論する場は徐々に増えている。
- 身の回りでナノテクが分かりにくい→商品がすくなく、イメージがわかないかもしれないが、商品としては化粧品やスポーツ用品がある。ボーリングやゴルフクラブにもフラーレンが使われている。
- フラーレンとは、サッカーボールの形をした分子(直径約0.7nm)である。
- 化粧品に用いられているナノ粒子は細胞の中に入るか→かつては二酸化チタンのナノ粒子は皮膚の角質層を透過しないという研究報告があったが、透過するという報告もあるようである。
- 東南アジアの水の浄化について→ナノ分子は表面積が大きいので効率のよいフィルターができ、水の中の不純物を除くことができる。
- 最近はナノ分野においても、大学や研究機関が実用化に向けた研究を進めるようになってきた。
- ナノテクの毒性試験はどのようにして行われるか→動物実験で、マウスに空気中に分散させたナノ物質を吸わせて行う方法や、ナノ粒子をコロイド状にして器官に投与する方法や皮膚に塗る方法がある。現状では従来から行っている方法と同じものが用いられるが、ナノ粒子の気中・液中分散技術の確立が課題の一つになっている。
- 自然界にナノ粒子はあるか→意図的に生産されるナノ粒子の他に、非意図的に環境中に放出されるナノ粒子があり、例えばディーゼル排ガス粒子がそうである。
- アスベストとカーボンナノチューブとの関係→アスベストの場合、10-20μmの長さが最も有害性が高いと言われている。これはマクロファージと同じ大きさであり、マクロファージがこの大きさのアスベストを食べようとする一方で、活性酸素を出して周囲に悪影響を及ぼすと考えられている。カーボンナノチューブの場合、アスベストと比べると短い場合が多いが、有害性と長さの関係についてはまだよくわかっていない。
- 体内動態について調査する方法は→標識にアイソトープ、蛍光物質や金のナノ粒子などを用いる方法がある。
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