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茅場町バイオカフェ「インフルエンザあれこれ」
〜ワクチンは受けるべき?! |
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2007年2月2日(金)、茅場町サン茶房にて、バイオカフェを開きました。お話は、国立感染症研究所感染症情報センター岡部信彦さんによる「インフルエンザワクチンあれこれ」でした。始まりは馬渡郁代さんによるフルート演奏。ユーモレスク、愛の木陰などなじみのある曲が演奏されました。
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馬渡さんの学生最後の演奏。 馬渡さん今までありがとうございました。 |
浮世絵も登場する岡部先生のお話。 インフルエンザを漢字で書くと。。。 |
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お話の概要 |
インフルエンザとは
江戸時代に横綱谷風の連勝記録がとまったという記録があり、その原因が「はやり風邪」だったことから、「タニカゼ」と呼ばれた。「アンポンカゼ」「リュウキュウカゼ」などの呼び名があり、どこからかやってきて流行ると認識されていた。
1835年、「医療生始」という書物には「印弗魯英撒(いんふりゅえんざ)」の説明がある。
風が吹くとかかる病気、寒くてなる病気、誰かからうつる病気などで、のどが痛い・咳や鼻水がでる、微熱があるなどの軽い病気をまとめて「風邪(かぜ)」と呼ぶ。これに対して、悪寒、高熱、全身の痛みなど強い症状がでるのがインフエンザ。90%以上は自然に治る病気だが、膨大な数の人がかかるので、中にはインフルエンザ脳症や肺炎で亡くなる子どもや老人があらわれる。インフルエンザは大多数は治る、合併症に要注意である。
インフルエンザの感染力
インフルエンザは全国5000箇所の小児科や内科から情報を得ている(インフルエンザ定点)。毎年インフルエンザシーズンには、80―150万人がかかったとこの定点から報告され、ここから推計すると日本の人口の10数%がかかっていることになる。インフルエンザに関連した死者は毎年数千人から1万数千人となる。一般的に感染には、次の3つの形がある
1)接触による感染:直接、またはモノを介して接触
2)飛沫感染:ウイルスが唾液やしぶきなどに含まれ、ヒトがしゃべると1メートルくらい飛び、感染源となる。これはマスクで飛散が防止できる。
3)空気感染:粒子は飛沫より小さくエアロゾルとなって空気中に漂う。換気扇やエアコンなどを通じて、広域に広がる。例)結核、はしか、水ぼうそう
インフルエンザは主に飛沫感染であり、接触感染もある。
インフルエンザの経過と予防
インフルエンザウイルスをヒトに実験的に感染させ経過を観察したところ、ウイルスが鼻から入って1−2日で悪寒、高熱があらわれる。数日間、倦怠感、発熱があり、解熱後もだるさやくしゃみ、咳などが続く。インフルエンザ・ウィルスは、症状が現れる前から熱が下がってもなお、患者から出るので、長い間他人にうつしやすい。かかり始め、本人はたいしたことがないと思ってもウィルスをまいているので、うつしてしまう。学校保健法という法律では、インフルエンザにかかると熱が下がってもさらに2日間は休むことが決まっている。これは症状が安定することを確認するため。解熱しても他人にうつす可能性がある間は休むべきだというルールである。しかし、社会人にはそのような法律はなく、大人は大体少しでもよくなると仕事に出るので、これもインフルエンザを広めやすいことになる。
手洗い、うがい、マスクは日本特有の習慣(しつけやマナー)となっている。高い効果があるわけではないが、他人にうつす確率を低めることは間違いがなく、日本は衛生的な配慮があるといえる。この伝統、習慣を捨てる手はない。
手洗いは、接触感染の確率を確実に低くする、感染予防の基本です。うがいは万全とはいえないが、のどを清潔にするというのでは意味が高い。マスクをかけると予防より、具合の悪い人から、ウィルスなどを撒き散らすのを防げる「エチケットマスク」の役目を果たす。もちろん医療用のマスクにはウイルスをも通さないマスクがある。冬は駅前でティッシュの代わりに安価なマスクを配ってもらえると効果がでるかもしれないと思っている。
インフルエンザウイルスの種類とワクチンつくり
インフルエンザウイルスには大きく分けて3つの型がある A型、B型、C型があり、現在ヒトの間で流行しているのはA型の2種類{ソ連型(H1N1)とA型香港型(H3N1)}とB型。
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面の突起の組みあわせで144種類もあるが、このうちヒトの間で流行しているのは、ソ連型(H1N1)と香港型(H3N1)の2種類だけ。
毎年流行るインフルエンザウイルスの遺伝子レベルでの変化などを分析し、翌年の流行の中心となりそうなウイルスの種類を予測してワクチンを作るので、インフルエンザは毎年製造することになり、また毎年接種しないと良い効果は得られないことになる。
インフルエンザワクチンは、はしかやポリオのワクチンの持つ100%近い効果はないが、接種を受けたグループと、受けなかったグループでは、症状の重さ、入院の割合、死亡する割合などで明らかな差がある。しかし、ワクチンを受けた人でも、熱の出ることもあり、肺炎になることもある。その時にワクチンを受けたから高い熱ではなくて良かったとはなかなか思わない。「お金をかけて痛い思いをしたのに、熱がでた」ということになるので、ワクチンの効果の評価は難しい。ワクチン接種は、家を出るときに、カギをかけるようなもの、かけなくても泥棒はくるが、カギは安心のためにかけ、防止の一手段になる。
インフルエンザの特徴と治療
インフルエンザは数からいえば免疫が少ない(かかった経験の少ない)子供が圧倒的に多くかかる。成人そして高齢者になるとそれまでの経験の蓄積から、そうはかからない。しかし、一旦かかると高齢者は肺炎を合併しやすく死に至ることが少なくない。
日本はかつて流行対策として子供への集団接種から始まったが、今は考え方として高齢者の健康管理が中心となっている。そして再び多数の小児への接種の是非が議論されている。
タミフルを代表とする抗インフルエンザウイルス薬はよくきく薬で、服用しはじめた翌日から翌々日には大体熱が下がる、発熱から48時間以内で使用する、というのは、それを過ぎると副作用が出るとか効果がなくなるというわけではない。しかし遅くなって使えば、自然に経過したのか、薬の効果かはわからず、意味がなくなる。もともと5−6日寝ていればなおるのに、なぜ日本人はそんなに高い薬を求め、少しでも早く治して学校へ行ったり仕事をしようとするのか、という考えがある。高価なので買えない、医療費の過剰の使い方を制限するため通常での使用を行わない、とする国も多い。
ワクチンの種類
ワクチンには生ワクチンと不活性化ワクチンがある。
生ワクチン:病原性をほとんどなくした微生物(弱毒化する)をワクチンとして用い、体内に自然に病気にかかったときにできるものに近い強い免疫ができるしくみを利用している。接種回数は少ない。例)ポリオ、はしか、おたふく
生ワクチンで有名な話は小児麻痺(ポリオ)。1960年代、日本では年間4000−6000人のポリオ患者が出た。日本はポリオワクチンの開発中だったが、一般の人々からもワクチンを求める声は強く、海外から緊急輸入し今でいう臨床治験などなく子ども達に緊急投与をしたという歴史がある。以後我が国からポリオは一掃され、現在世界での発生は2000人を切っている。
不活化ワクチン:微生物を完全に殺し(不活化する)その一部などをワクチンとして利用する。免疫の出来具合は生ワクチンに比べて低く、接種回数も多くなる。例)インフルエンザ、日本脳炎、ジフテリア・百日咳・破傷風
インフルエンザワクチンはさらに毎年のように細かいタイプの変化があるので、その年用に作られたものを受ける必要が出てくる。
インフルエンザワクチンの作り方
鶏卵の中にウィルスをいれて、ウイルスを増やす(培養する)。その時の条件はウイルスがもっとも増えやすい体温くらいの温度、湿度80%。寒くて、乾燥しているときに、インフルエンザが流行るのは、ヒトに広がりやすく、体内に潜り込みやすいのであって、ウイルスが寒さや乾燥で強くなるわけではない。
増えたウイルスを回収し、その表面にある脂質を分解し、突起だけを集めてワクチンをつくる。この操作によって、ヒトにワクチンとして接種したときの発熱の割合を減らすことが出来るが、一方では免疫を作らせる効果がやや弱くなってしまう。つまり効果の高いワクチンを作ろうとすると、発熱率の高いワクチンとなってしまう。このあたりのバランスが微妙である。
ワクチンと予防
ある病気の患者数が減ると、病気への恐れが減る。それは大変良いことであるが、警戒感もなくなりワクチンを受けない人が多くなる。しかしこれは、きちんと皆で押さえ込んでいるから病気が少なくなっているのであって、目の前からすっかり姿を消したわけではない。
新型インフルエンザあるいはSARSの時のように、ある感染症が発生したときには普段ある病気八尾さえ混んでいる病気にタイしてまで構っていられなくなる、気が回らなくなる可能性がある。ポリオ、はしか、結核、風疹、ジフテリアは目の前から減っていても、消えたのではなく、押さえ込んでいるだけ。他の病気に目がいってしまうと、押さえ込まれて減ってしまった病気がまた出てきやすいことを覚えておいていただきたい。その時になって「さあ!」といっても遅い。普段出来ることは普段やっておく必要がある。明日からでも出来ます。普段から、できるだけ、忘れないように!
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会場風景1 |
会場風景2 |
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質疑応答 |
は参加者、→はスピーカーの発言
- インフルエンザのうつりやすさとうつりにくさはどう違うのか。→日常のインフルエンザのうつりやすさは、ウイルスの型によって大きく変わるわけではない。その人の持つ、抵抗力の強さ、これまでの感染の経験の蓄積による免疫の強さ、そしてその時の環境などが影響するだろう。
- 鳥インフルエンザはヒトにかかりにくいのはなぜ?→トリの間で流行するインフルエンザウイルスとヒトの間で流行するインフルエンザウイルスでは、同じA型インフルエンザウイルスの分類の中ではあるが遺伝子配列の一部がほんの少し異なる。ここが鳥のインフルエンザウイルスのヒトへのうつりにくさの決め手となる。かつてはトリのインフルエンザが人に直接うつることはないといわれていたが、1997年香港で鶏の間でのH5N1インフルエンザウイルスが大流行したときに、18人の患者発生(6人死亡)があり、濃厚な接触時には偶然感染する可能性のあることが明らかになった。しかしそれでも、さらに感染したヒトからその他のヒトへの感染の拡がりはない。ウイルスの遺伝子の配列はトリ型のままで、ヒト型への変異は見られていないためと説明されている。そのウイルスの遺伝子の配列がヒト型に変化すると、ヒトからヒトへ感染が広がることが心配されている点である。つまり、ヒトにとっての新型インフルエンザウイルスの登場となる。
- インフルエンザは体調によって感染しやすかったり、そうでなかったりするのか→あり得る。この場合は免疫力というより抵抗力の問題。たとえばのどに十分な湿り気があると、のどの粘膜表面の水分や小さい毛(絨毛)の動きでウイルスをはねかえすことができ、感染しにくくなるが、体調が悪いとこれらの作用がうまく働かなくなることが考えられる。
- ウイルスが体内に入る入り口はどこか→ウイルスによって異なるがインフルエンザウイルスは鼻と喉から入る(呼吸器感染)。目の粘膜からも入る。おなかからは入ってこない。一方ノロウイルスは呼吸器からの感染というより、便や吐物に含まれたウイルスを、直接的、間接的にさわり、それが口に入り、消化管に入る(経口感染)。B型肝炎ウイルスはは口に入ったくらいでは大丈夫だが、そこの傷口があると入りやすくなる。傷口や血管内にウイルスが入り込めば、そこから広がる。性行為によっても感染する。
- マスクについた飛沫が自分にうつることは→その人はすでにウイルスを持っているので新たにうつることはないが、そのマスクをヒトに貸したりしたらうつるだろう。
- タミフルによって熱が早く下がるのであれば、死亡率が減る効果があるのではないか。→熱が早めにおさまれば、呼吸器の細胞の痛みも少なくてすむであろうし、体力も消耗しないですむ。その結果として肺炎の合併などの割合は少なくなり、死者数も少なくなる可能性がある。タミフルが直接肺炎や脳症に効くわけではない。
- インフルエンザはヒトの熱で死ぬので、解熱しない方がいいのか→発熱は人体が活発に病原体と戦っている結果であるとも言える。またウイルスは体温以上の高温では活性が低下する。従ってちょっと熱が出た程度ですぐ熱だけを下げようとするのはあまり得策ではない。しかし現実では熱によって苦痛が増加すれば、若干下げて少しでも楽にするのはやむを得ない。熱が下る=治癒ではないことを理解する必要がある。
- ウイルスはマスクを通過してしまうのではないか→マスクは数ミクロンのレベルまでブロックできるので、ウイルスを含んだ飛沫などの粒子を防ぐことはできる。しかしウイルスそのものはミクロン以下の大きさであり、通常のマスクは通ってしまう。N95というマスクはウイルスもブロックできるが、その分目が細かいので息苦しくなり、一般向けではない。
- インフルエンザの予防接種で予測が外れる、外れないとはどういうことか→流行したウイルスの中からその構造の変化を詳細に分析し、翌シーズンにその変化したウイルスがどの程度流行の中心になるかなどを予測し、インフルエンザワクチンは毎年生産される。この時予測したウイルス(ワクチン)と現実に流行したウイルと構造がずれることがある。さらに変異が激しかった場合などである。その構造の違いの程度によっては、ワクチンによって出来た免疫が現実に流行しているウイルスに対して十分な効果が発揮できないことがある。kjのようなときは「予測がはずれた」ことになる。
- ワクチンはどこでつくっているのか→日本では、5社でつくっている。自分の国で自分の国のワクチンをまかなえる国は世界に数カ国。日本はそのひとつ。
- 日本はワクチンを外国に売らないのか→日本国内向けが中心
- 子供ときに、扁桃腺があると高熱がよくでるのでとったほうがいいと昔言われたが、母が取らない方がいいといって手術をしなかった。この判断はよかったのか→扁桃は微生物への抵抗力をつくる場所なので、扁桃腺をとると病気になりやすくなる。しかし、一方扁桃腺に微生物がすみつくと何度も高熱が出るので、扁桃腺をとってしまうとこれを防ぐことが出来、またその微生物がいることによる合併症の発生を低下させることができる。熱が出るだけで扁桃腺をとるかとらないかの判断は難しいが、今、質問された方のその時の健康状態、今の健康状態から判断すれば母上の判断は正しかったのでは。人は軽い病気はある程度かかりながら丈夫な大人になる。けんかと同じで少々のことは馴れてたほうがいい。しかし、重篤な病気は、もちろん、無理やりにでも抑え込むべきであろう。
- 昔、ワクチンは強制的に接種していたが、事故はどのくらいあったのか→国が決めている予防注射(定期接種)によって起こった例については、かなり詳細にデーターがとられている。必ずしも医学的にその因果関係が明らかになったわけではないが、インフルエンザワクチン接種後に亡くなった方は、数千万接種に一人以下の割合。
- 死亡者数は公開しているか→医学的な原因は分析しきれないが、数は公開されている。
- 予防接種は体の調子がいいときにするのがいいわけだが、時期を待っているうちに機会を失うこともある。→不安と流行の度合いのバランスによる。今流行している病気でなければ、少し様子を見るということは慎重だろう。しかし目の前で流行が広がっているような場合は、万一の副反応を考えて慎重になるより、目の前の病気にかかる危険性を防ぐことが優先されるだろう。日本人はおおむね慎重。多くの海外の国では、急性疾患で熱が出たとき以外は、出来ると判断しやっておいた方が良いという考え方が強い。
- インフルエンザウイルスは夏もいるのか→夏にもいるが、患者数は多くない。夏に発熱した患者を調べると、インフルエンザウイルスの感染だったことはよくある。しかし病気の季節性、流行していないときにウイルスはどこ潜んでいるかなど、科学的にも興味が注がれるところであるが、不明であるとしか言わざるを得ない。
- 新型インフルエンザというときの、「新型」の意味は?→厳密にはこれまでに人類が経験したことのない新しいタイプのインフルエンザウイルスをさすが、「新型インフルエンザによる世界的流行(パンデミック)」のように現在使われている新型インフルエンザには、かなり以前に人類の間で流行したウイルスが再来したウイルスも意味として含まれている。
- スペイン風邪はインフルエンザだったと聞いた事があるが→スペインかぜという言い方が誤解の元で、正確にはスペインインフルエンザという。英語では Spain Influenzaという。
- 小児科のお医者さんをしていらして、患者さんからインフルエンザをうつされたことはありますか→小児科の外来をしていた頃、1日100−150人診察したが、早めにかかって免疫が出来るのか、インフルエンザにかかったことがない。ワクチンも接種しなかった。今はデスクワークが中心であり、また結構年にもなったし、さらにいまの立場でワクチンもしないでインフルエンザにかかったのではみっともないので毎年接種を受けている。
- リスク管理の立場からみて、院内感染のデータはあるのか→公的な連続的なデータはとられていない。個別発生に関するデーター、あるいは院内感染の原因となりやすい耐性菌に関するデーターはある。
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