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ISAAA(国際アグリバイオ事業団) 2006年遺伝子組換え作物栽培の報告書ができました |
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1月31日(水)、バイテク情報普及会(通称CBIJ)主催により、メディアセミナー「世界の遺伝子組換え作物、2006年も栽培面積拡大」が開かれました。ISAAA会長クライブ・ジェイムス氏より、2006年度の世界の遺伝子組換え作物の栽培状況などの説明が行われました。
ISAAAとは http://www.isaaa.org/
非営利慈善団体で、知識(我々がめざすもの)と情報(共通の議論のカギになる)の共有と、貧困や飢餓の軽減への貢献をふたつの使命としている。
世界の状況
世界人口は60億人。農業は世界最大の産業で、その年間生産量は65億トン。このうち、穀物生産の成長率は2.1%だが、これでは不十分で、飢餓や栄養失調に苦しむ人々は8億5200万人、貧困層は13億人。これらの問題解決には2050年までに作物生産を持続的に2倍にしなくてはならない。しかし、危機感が人々に広く共有されていないことは問題である。
食糧生産を2倍にするには伝統的手法のみでは不可能。遺伝子組換え技術は、万能ではないが重要な技術であるので、従来技術と併せて用いれば、飢餓・貧困の軽減に貢献できるだろう。
遺伝子組換え食品の受容においては、1)食の安全(表示とトレーサビリティ)、2)環境への影響(生物多様性の保全と共存)、3)遺伝子組換え技術の管理、4)倫理的配慮が議論されている。
2006年に起こった画期的なできごと
世界の遺伝子組換え作物耕作面積は、13%増加し、1億200万ha(日本国土の3倍)になった。世界の遺伝子組換え作物の生産者は1030万人となり、その9割以上は発展途上国の人たちだった。栽培している国は22カ国にのぼった。このように、11年間で栽培面積が60倍に増えたことは、農家の人たちの大きな支持を示している。
世界の全大陸において栽培が増加し、米国は世界最大。発展途上国での栽培も増えている、EUでも栽培国は増えており、スペイン、フランス、ドイツ、ポルトガル、チェコ、スロバキアの6カ国になった。
世界で初めての多年生遺伝子組換え作物であるアルファルファが、飼料として認められた。スタック作物といって、複数の形質を与えられた遺伝子組換え作物が作られるようになった。
作物ごとの世界の遺伝子組換え作物栽培面積の割合は、ダイズ、ワタ、カノーラ、トウモロコシでそれぞれ64%、38%、18%、17%で、開発途上国(中国、インド、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ)での導入が増え、13億人の農業者がこれらの国で栽培している。
発展途上国に遺伝子組換え作物栽培
中国では、小規模農家がBtワタを栽培しており、10億ドルの利益を上げている。中国政府はバイオテクノロジーに大きな研究費も与えている。インドでは、Btワタの栽培面積は1年で3倍になった。病虫害に弱かったナスを遺伝子組換えで改良した品種が今後広く使われるようになるだろう。アルゼンチンでは遺伝子組換えダイズと遺伝子組換えワタから利益をあげている。ブラジルは22%増で、南米で1番。南アフリカでも組換えトウモロコシが3倍になり、食品用(ホワイトコーン)と飼料用(デントコーン)の両方に使われている。
遺伝子組換え作物のまとめ
生産性、所得が向上しており、同時に大幅な農薬軽減ができ、水保全や二酸化炭素の削減に貢献することができる。
社会的には小規模農家の貧困低減に貢献できたことが大きく評価できるだろう。
遺伝子組換え作物のこれから
スタック作物の開発を続けると、よい品質の新しい作物を安い価格で世に出ることになるだろう。例えば、2009年には、ビタミンAコメ(ほかのパラでも出てきますが、用語統一したほうがいいと思います)が商品化するだろう。オメガ3脂肪酸を多く含む油を作るダイズ、旱魃に強いトウモロコシなどの品種も期待できる
アジアでは、パキスタン、ベトナムなどの新しい栽培国が出てくるだろう。南米では、ブラジルが主導国の立場で伸びていくだろう。アフリカでもケニア、エジプトなどの栽培国が徐々に増えていくだろう。
米国、ブラジル主導でバイオ燃料に使える遺伝子組換え作物の利用が進むだろう
知識と情報の共有
遺伝子組換え作物の研究・開発と拡大の基盤として責任ある管理、知識と情報の共有を進め、コミュニケーションを経て消費者の意思決定がなされることが重要である。
ISAAAでは情報の共有のために、年次報告発行のほかに、毎週1回メールを出している(購読者数は200カ国、27万5000人)。
発展途上国に遺伝子組換え作物栽培という選択肢を与えることが、これから10年の課題。
ノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーログ博士は人々people、貧しさpoverty、平和peaceの3Pが大事で、貧しさ、飢餓の中では平和を生まれないといっている。私たちはこういう気持ちで進んでいく。
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質疑応答 |
は参加者、→はスピーカーの発言
- 安全と安心が混同されていますが、安全は知識をベースにしており、安心させるためのどんな努力をしていますか→科学者は事実に基づいて考え行動するが、一般の人々は認識やイメージで行動し、現状が最もよいと考えやすい。初めて自動車が走ったときには、注意をひく人が赤い旗を持って前を走ったそうだ。人々の変化は一晩では起こらない。適切な知識を持って個人が自分で意思決定ができるようになるように、自主性をもって選べるようにしていきたい。
- 消費者に利益が見えない遺伝子組換え作物も消費者の役に立っていることをつたえられないだろうか。→第一世代組み換え作物は農薬軽減や作業者への暴露削減に役立ち、貧困軽減にも役立った。これらの貢献はいろいろな報告書でも明らかにされつつある。このようなメリットが遺伝子組換え作物から得られなかったら、作物の値段はもっと高くなっていただろう。これは現実だが、消費者に見えない利益である。一方、Btトウモロコシでは、結果的にマイコトキシンのようなカビ毒が減っている。また、オメガ3ダイズ油、ビタミンA強化米(上記コメント)のような消費者が明らかな利点が見える作物は消費者に大きなインパクトとクリアな利点を示すだろう。
- フランス、ポルトガルではどんな農家がどんな目的で栽培しているのか→スペインはBTトウモロコシ栽培し、欧州をリードしている。主に飼料用で、虫による食害が減った結果としてカビ毒が少ないことなどからトウモロコシの4分の1がBTトウモロコシになっている。フランスもBTトウモロコシ栽培を始めるだろう。欧州では今年で10倍の伸びが見られた。ロシアではバイテクジャガイモを、栄養改善、農薬削減とウォッカの原料として利用しようとしている。
- 欧州での栽培拡大が加速する気配があり、経済の競争原理が働いている。欧州では、先端技術を利用しないと競争に負けるという気運がある
- ドイツの状況は→ドイツは過去数年小規模にBTトウモロコシを栽培してきた。政権交代や法改正とともに、栽培の拡大が期待される。チェコも伸びが期待される。ブルガリアは10万haの除草剤耐性ダイズを栽培しており、急激に拡大中。ルーマニアは法規制を緩和して利用する方向にある。これらの国の栽培は欧州全域に影響を与えるだろう。
- コムギは今後どうなりますか→トウモロコシ、コメ、コムギの3大穀物において、トウモロコシの開発はおおむね済んでおり、ビタミンA強化米は2009年に出てくる。コムギでは、カビによる被害を大幅におさえることが期待され、今後9年の間に開発がさらに進められていくだろう。
- 種子の特許は特定の国が発展途上国に大きな権力を得る可能性があると心配されているが、どうしたらそういうことを防げるのか→最初5年は、この技術を持ついくつかの民間会社がコントロールをしてきたが、最近は中国やブラジルの公的機関が特許をとっており、その特許料で次の研究開発費用を得る仕組みを作っている。こうして今では大小の発展途上国が新しい技術・開発を進めている状況。2期目の10年は公平な状況ができつつある。
- 組換えイネの現状を教えてください。普及開発はだれが主導しているのか→世界のコメの9割はアジアで生産されており、中国が主導している。その他にインド、フィリピンも参入してきている。
- 中国の遺伝子組換え作物の状況は→民間・公的機関で作られるワタの3分の2がBTワタ。組換えコメの試験栽培が進み、6%収量増加。中国には1億300万の農家がイネを栽培しており、トウモロコシやコメを飼料にして食肉を生産?する方針。また、15種類の組換え作物を開発中。
- ゴールデンライスの状況は→国際イネ研究所が主導し、複数の途上国が関与し進めている。民間企業で開発した技術が無償で提供されている。フィリピンで圃場試験が今年から始まるだろう。商業栽培の承認は早くて2009年ごろになるだろう。
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