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生物関連教科書の検定に対する意見書について

 生物科学学会連合(代表:日本細胞生物学会会長 永田和宏)が生物関連教科書の検定に対する意見書を1月16日付けで遠山敦子文部科学大臣に提出しました。生物科学学会連合には日本生物教育学会、日本遺伝学会、(社)日本植物学会、(社)日本動物学会など19の関連学会が加入しています。生命科学が著しく進展している現在において、くらしとバイオプラザ21では、かねがね医療現場におけるインフォームドコンセントの充実などのためにも、私たち市民もバイオテクノロジーを「読み書きそろばん」のように学んでいくのが望ましいのではないかと考えていました。医学部を受験する学生が生物学を高等学校で専攻していなくていいのでしょうか。あるいはこどもたちの理科離れは大丈夫でしょうか。そのような考え方の土台になるのは学校での生物学教育であると捉え、この意見書の提出にいたった背景や意見書の内容について調べてみました。


経緯

 平成14年4月から小中学校では新学習指導要領が実施され、来年度からは高等学校においても実施されることになっています。
 新しい学習指導要領の主なポイント(平成14年度から実施)は完全学校週5日制のもとで「ゆとり」の中で「特色ある教育」を各学校が展開すること。特に高等学校では、将来の進路選択にかかわらず一定の知識や技能を身につけさせつつ、それぞれの分野について深く高度に学び能力を伸ばすこと。具体的には外国語、情報が必修教科に追加され、最低合計単位数(普通科)は今までの38単位から31単位に削減されました。

 新しい学習指導要領の主なポイント

 昨年4月よりすでに使用されている小中学校の理科教科書について教科書執筆者や編集者、教科「理科」関連学会協議会から疑義が出されています。さらに昨年4月に公表された高等学校の理科と数学教科書の検定の結果に対する意見書が、同年7月、理数系学会教育連絡会((社)日本物理学会、(社)日本化学会、(社)日本数学会、生物科学学会連合などが加盟)から提出されました。
 生物科学学会連合では授業時間削減に伴う各教科・科目の内容の削減とそれに伴う児童生徒の学力低下を問題であるとし、科学技術立国を目指すわが国において理科はもっとも重視すべき科目ではないかとした上で、今回、理科教科書検定結果に対する意見書を提出しました。

 高等学校学習指導要領 第1章総則
 高等学校学習指導要領 普通教育に関する各教科 理科


提出された意見書の主な内容

 生物学関連教科書検定において、特に「生物I」教科書の検定について問題が多くあり、これは世界的に進行している生命科学の発展に逆行するものです。
 たとえば「進化」の学習は重要であるのにかかわらず、履修者の少ない「生物II」に移行したために、「進化」に関わる部分は学習指導要領外であることを理由に削除されてしまいました。生物の共通性や多様性を学ぶときにも「進化」との関連に触れることができなくなり、科学的な自然観を育てることを妨げるのではないかと懸念されています。
 「生体防御」の章で「血液はどこで作られるのか」が削除されたり、「ワクチン・予防接種」や「血液の凝固やその阻止法」についての記述が削除されています。人間として自分や家族の身体の安全や健康について知り、考えていくことが難しくなる不安があるのではないかとされています。この遠因として、人の健康に関する記述が「生物」と「保健体育」に分割されていることも指摘されています。
 その他にも「環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)」の学習の削除、「イオン」の学習を中学理科から高校「理科総合A」に移行したために生じる弊害、文部省学術用語集と教科書で用いていることばの整合性がとれていないことなどが問題とされており、「教科書検定制度そのものを根本的に見直すべき時期に来ているのではないか」という大きな問題も投げかけられています。

 意見書全文
 「高等教育フォーラム」ホームページ〜日本の理科教育が危ない〜



 以上が意見書の中の「進化」の削除によって起こると考えられる問題を中心とした概要です。同意見書によると米国では高校生物の教科書で人の健康維持、エイズの感染メカニズム、喫煙と肺がんなど、生徒たちのこれからの生活にかかわりのある問題までが、具体的に示されているそうです。このような扱いも生物学の学習をより身近なものにするのではないでしょうか。
 日本でも、京都工芸繊維大学アドミッションセンターの左巻(さまき)健男教授らが、文科省の検定を経ていない、理想の教科書を自主編集したというニュースもあります(11月24日読売新聞)。今回、問題になっている「生物の進化」や「イオン」の項目も含まれ、中学校1−3年の計3冊で総ページ数は現行の教科書のほぼ倍の900ページだそうです。
 日本人全員が生物学の専門家になるわけではありませんし、その必要もありません。けれども知る、知らないにかかわらず、私たちの身体では、複雑な生化学反応が刻々と起こっていて、そのおかげで私たちは生き続けることができているのです。それが生命の素晴らしさです。若い人たちが自分の身体という素敵な「生物学の実験室」を持ちながら、生命のありがたさや大切さを知らず、さらにそれを学ぶ機会を手放して生きていくことはとても残念なことです。学校教育を終えた大人にも魅力的な生物の教科書が作られることを望みます。





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