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第4回「21世紀型科学教育の創造」ワークショップ開かれる

2006年12月10日(日)〜11日(月)、国立科学博物館において「21世紀型科学教育の創造」が開かれました。第4回である今年のテーマは「21世紀におけるサイエンスリテラシー」で、120名余りが参加しました。
「21世紀型科学教育の創造」は、科学系博物館、社会教育施設、学校教育関係者、NPOなどで活動している有志によって、2003年に立ち上げられました。1−2ヶ月に1回の勉強会を開いて活動し、年に1回のワークショップを開催しており、それぞれのテーマは、20003年「交流(Communication)」、2004年「サイエンスコミュニケーション(Science Communication)」、2005年「人々の科学との関わり(Public Engagement)」でした。
21世紀型科学教育の創造 http://www.sci-edu21.org/


基調講演「科学技術リテラシー」

国際基督教大学 北原和夫氏

科学技術リテラシー
科学技術の影響が色濃い私たちのくらしに、理科離れが問題になっています。実際には、専門家の間でも分野が違うと理解できない状況が起こっています。「Guns, Germs and Steel(J.Diamond著)」という本を読んで、700万年前の人類の誕生以来、私たちが現象から因果関係の推論し、将来の行動を決めることを繰り返しながら、言語を得、学び、科学技術を作り出してきた歴史を読み、科学的判断(イメージと推論)をするのは人間の本性だと思うようになりました。私たち特に子どもたちは人工的環境の中にあって科学的判断をする機会が減少してきて、生物進化の結果としての人間の在り方を失ってきています。科学リテラシーは科学技術創造立国という国益もさることながら、もっと深い人間性の復権ではないかと思います。
科学技術リテラシーは豊かな社会を築くための素養や学校教育と社会教育のゴールのようなものです。第一段階は電球の取替えのような「生活上必要なもの」、第二段階は科学技術のあり方について判断し社会の意思決定に参加するための「市民の良識」のような素養、第三段階は「専門的職業人として異分野と交流するための素養」です。
日本人の科学観には、人間は自然の一部と位置づけ他の生物の関係性を重視しています。また精神性が高く、技術・芸術・生活が一体化しているという特徴があります。これからの世界を考える上で重要なのではないでしょうか。しかし、現象の背後の普遍法則という視点は弱いかもしれません。米国で唱えられている「Science for all」という考え方に基づき、Science for all Japaneseを考えてみましょう。それは、成人が持つべき科学の知識、その考え方を整理して文章化すること、21世紀の地球と人類の将来を見通す叡智が科学技術リテラシーです。
また、私たちも生物として進化してきた歴史を忘れてはなりません。ある生物学者が「生物にはファジーな部分が残っていて、AとAでないものというような分類化は生理学的に生物にストレスを与える」ということを検証しています。リテラシーを考えるときには人間存在の生物学的な視点、すなわち生活の視点も大事だと思った次第です。

科学力とは
因果関係をイメージし考える時、全ての人は「イメージ」を共有できるはず。逆にイメージを上手に言語化・モデル化し伝達できれば、すべての人が、科学の楽しさを共有できるでしょう。
従って、理科好き、理科嫌いは作られるもので、イメージを持つ想像力は物つくりの経験、暗誦、素読、芸術、文学などから育まれるでしょう。私自身、アルキメデスの原理を利用した教材で理系と文系の学生に講義をしたところ、両者が興味を示した経験があります。答えの決まっている課題ではモデル化、想像力は育ちません。科学技術は身近なものであること、そして想像力と論理性を持って理解されるものです。同時に、科学技術リテラシーは意味を含めた「知」でもあります。科学力とは論理性と想像力なのです。
学術会議の物理学研究連絡委員会が、物理学科卒業後5年、15年後の人々を追跡調査したら、物理学研究者は少なく、殆どが技術者、経営者、教員などですが、現象に対してモデル化する力や原理に立ち返って考える力を得られたことはよかったという回答でした。

Publicな行為としての科学(物理オリンピックから)
物理オリンピックでは5時間の実験問題があり、自分が実験で得たデータの信頼性が厳しく問われていました。日本の実験教育では、こうあるべきだというデータを出すこと(理論の検証)ばかり重んじてきたように感じました。世界では測定の倫理性をが、中等教育でも重視されていることを感じました。残念なことですが、昨今のデータ捏造の背景にそういう姿勢があるかもしれません。ある意味で科学は、予想外ではあるが信頼性が確認されるデータを積み重ねながら進歩してきたともいえるのです。

むすび

  • 国民が共有すべき科学リテラシーの明示とそのための議論が必要である。
  • データ・知識の供給は信頼性を持ってなされるべきであるという科学技術の倫理性が重視されるべきである。
  • 中等教育の中身を充実し、高等学校の評価が大学入学者数とスポーツの成績のみ社会的に評価されるという現状を打破しなければならない。そのためにも高等教育機関も教育のゴールを明確化しなければならない。
科学(想像力と論理性)に基礎を置く安全で質の高い社会をめざし、生物としての人間を、我々自身が再確認する中で、科学技術リテラシーを身につけることで人間性を復権したいと思います。そして私たち科学者は、伝える喜びを持って活動していきたいと思います。





科学的リテラシーの普及に関する科学教育の国際的動向と科学コミュニケーションの役割

科学をかっこよく見せる
米国の高校科学コンテスト(International Science and Engineering Fair :ISEF)の様子をビデオで紹介します。ISEFは56年の歴史があり、40カ国から1500人が集まってポスター発表を行い、一般公開日には数万人の市民が見に来ます。多くの企業が協賛し、400程度の賞があり,1000人以上の博士号を持つ専門家が審査に当たり,総額4億円くらいの奨学金が与えられます。表彰式はハリウッッドのような雰囲気で、発表のうち13%は特許を取得するほど本格的なもの。このイベントを通じて、生徒はスターとして見なされ、自分の科学研究を通して、専門家や市民たちと、またスター同士で交流を深めます。

ISEFからの学び
科学コミュニケーションを普及し、科学の裾野を広げ、トップを伸ばすことが重要。この難しいふたつを工夫してつなげ、同時に進めるべきで、裾野を広げることはトップを増やすことになります。専門家のコミュニティ、社会のコミュニティ、学校教育の中にいたこどもがサイエンスコミュニケーションでつながっていくことも注目できます。
岡山県児童生徒科学研究発表会は、56年間の歴史があり、小学一年生も堂々と原稿を見ずに発表します。大事なことは、学校に生徒を閉じ込めないこと。前面に出ると生徒は成長し、科学コミュニケーションの主体者になっていくと期待されます。

海外の状況
1983年、米国では「Nation at risk:危機に立つ国家」という報告書が出され、科学技術の国益に対する重要性が明記されました。1995年には、全米科学教育スタンダードを策定しました。個人的意思決定、市民的・文化的な活動への参加ができる市民が持つべき知識や理解は、経済性向上のために必要だと述べています。物理・化学・地学・生物(物化地生)の他に自分にとって科学は何かを12年かけて学ぶ「科学教育」の姿が見えます。
カナダもアメリカと似た仕組みを作りました。
イギリスでは、学力低下から指導要領ができました。カリキュラムには科学的探究という領域があり、その中では計画する(P)、証拠を得る(O)、証拠の分析と考察すること(A)、評価すること(E)の能力が体系的に育成されます。イギリスでの観察実験は能動的創造活動志向が強く、日本では単純作業の正確さを求める傾向が強いと言えます。

PISA(学力到達度テスト)2006における科学的リテラシーの調査
PISAでは、「科学とテクノロジーが関係する諸々の状況において、市民は何を知っていて、何に価値を感じて、何をすることができることが重要であるか?」を問う中から、ほぼ義務教育を終えた15歳段階の生徒に期待される知識や能力、態度などを示し、各国での到達状況を測定しています。




「生活者における科学リテラシーへのアプローチ」

リビングサイエンスラボ 古田ゆかり

 生活と科学をテーマとして、雑誌や書籍の執筆をしていますが、そもそもライターとしての出発点は、環境問題でした。
 1980年代後半、ある環境の雑誌の編集部におりましたが、当時、環境は社会的なイシューであるという認識が一般的で、科学的な問題を論じるほどには成熟していませんでした。しかし、環境に関する記事を扱っていると、酸性雨、化学物質、ゴミ問題、プラスチック製品に対する理解、合成洗剤や石けんなど、科学の知識がなければ十分に理解できないと思われるものがほとんどです。環境の問題を一般の人が本当に理解して現実的な行動をするためには、科学の知識は不可欠だと強く感じ、それが現在の活動につながっていると思います。
しかし現在でも、一般の市民の方々は、高校卒業後理科を勉強していないという人が大勢いるように思います。「生活の科学」と「学校の理科」が乖離していて、身の回りに起こっているさまざまな問題や疑問の解決やその理解が、学校で習った理科の延長線上にあると感じることがなかなかできません。また、学生時代理科が苦手だった人は、生活の中でおこっている科学的な話題や問題を「科学がきらいだから」とシャットアウトしてしまう傾向があり、これは大きな問題だと感じています。
なぜなら、私たちの現在の暮らしは科学技術の成果に囲まれ、それに関係する社会的な問題も決して他人事ではいられない状況があるのに、苦手だったというだけで拒絶し、その判断や処理を専門家や企業、行政その他、「他者」に任せきりにしてしまいがちだからです。このような、科学的な要素を含む社会問題は、政策的な立場から言えば、科学的確証があるときは政策決定できますが、科学的確証がない場合、政策を実行するにあたって利害の対立が起こりやすく、社会的コストも大きいことから、政策決定が非常にしづらいのが実情です。これを解決するには、市民も参加して広く議論し、コンセンサスを作り、政策につなげていくことなのですが、市民に届く情報のバランスも悪く、思考や議論の習慣が十分でないこともあり、社会全体で議論する土壌が育っているとは言えません。

問題点は
生活者の科学への関心という点で問題に感じることには、次のようなことがあります。
1)科学技術について理解していないことをさして問題だと思わない、2)「きっと大丈夫だろう」という思い込みがある、3)科学技術について一から学ぶのはむずかしい・面倒だと感じる、4)学ぶ方法を知らない、5)解決のための商品を買うことで解決しようとする(根本問題を解決しようとしない)

科学の入り口
そのような状況を持つ市民の、サイエンスリテラシーへの意識を高めるには、「お得感」「役立つこと」がキーワードになるでしょう。科学的知識を応用することで、生活の中で役立ち、ムダもなく、合理的で、成果が顕著であり、創造することの楽しさに気づくことが、まずは入り口になるでしょう。例えば、台所は科学の宝庫で、素材と周辺環境の関係、南北の国の違い、農業と農産物、衛生、発酵科学、熱の利用などがあり、これを科学知として再編集すると、いろいろな工夫をしたり、理解が進んだり、ということが予想されます。
生活者が科学と関わるとき、次のようないくつかのフェーズに分けて考えると良いでしょう。それは、1.知る→2.役立てる→3.問題等を解決する、です。
市民を巻き込む切り口は、ニュース性、先端性、論争、身近な問題、開発段階へのコミット、よりよい選択へなどではないかと思います。
科学は、論理的な思考を身につけるのにとても適した学問で、科学的な課題だけではない別の問題の考え、解決する能力の育成に役立つことを理解してほしいと思います。

リビング・サイエンス宣言より
生活を主体とした科学のあり方は、既存の学問分野だけでなく、これらを複合的に、いわば領域横断的に活用することも必要です。ですから今までの学問の分け方にとらわれず、さまざまな分野から必要な知や情報を引き出し編集するということも、大切なことだと思います。 私が活動しているリビング・サイエンス ラボでは次のような5本の柱を立てて、学習プログラムの開発や、現在の科学知の再編集に取り組んでいます。
1)科学の知識を再編集しよう、2)生活者の視点から科学の技術のあり方を問い直そう、3)学問の垣根を超えて世界全体をとらえよう、4)専門家と非専門家のネットワークを確立しよう、5)楽しいサイエンスの学び方を探ろう




グループディスカッション(GD)

(敬称略)

第1日午後、第2日午前、グループ毎で、話題提供やディスカッションが行われました。

GD1 幼児教育とサイエンスリテラシー
話題提供1 ベネッセ次世代育成研究所 磯部頼子:遊びの中の幼児期のサイエンスリテラシー(感性、表現量、意欲や集中力)は身近な信頼関係、成功・失敗体験などから身につく。
話題提供2 多摩六都科学館 高柳雄一:科学館における幼児期のサイエンスリテラシーは好奇心。世の中にはわからないことが多いと気づき、わかったときの嬉しさが生まる。興味関心を高める工夫が必要。
まとめ:幼児期のサイエンスリテラシーは、将来の素地つくりで生きる根っこの部分にあたる。とりまく大人のサイエンスリテラシーが重要。

GD2 博物館・科学館・動物園とサイエンスリテラシー
話題提供1 科学技術館 山田英徳:科学館ではスタッフのスキルアップと来館者の楽しさを重視することが重要。
話題提供2 東京動物園協会 中川成生:来園者が科学的な目で動物園を見ることにより、生物多様性の認識、保全活動と環境への理解と意義が伝わるのではないか。
まとめ:科学の可視化、科学をかっこよく見せる手法研究が重要。

GD3 学校教育とサイエンスリテラシー
話題提供1 埼玉県立春日部女子高校 鈴木文二:地学を高等学校で必修にした経緯から、地学は総合的な学習として優れている。
話題提供2 君津市立小糸小学校 齋藤照恵:理科と国語を連携させた授業の報告。特に、理科の記録文作成は国語とよくつながる。
話題提供3 総合研究大学員大学 平田光司:実験結果への信頼性が重要。
まとめ:21世紀には社会のための科学を見通した科学教育のデザイン(科学リテラシーや課題解決力の育成、社会に開かれた学校像)が求められる。

GD4 くらし(健康・食品)とサイエンスリテラシー
話題提供1 NPO法人くらしとバイオプラザ21 佐々義子:市民のリテラシーとは具体的には、食品の選択と医療への同意ではないか。
話題提供2 国立科学博物館学習課 亀井修:ダイオキシン、平均寿命など、報道などに見られる数字のマジックに踊らされる私たち。
まとめ:くらしのサイエンスリテラシーは生きるリテラシーにつながるもので、知っている知識の使いまわし、科学の発達の現状認識も含まれる。科学館の役割も大きい。

GD5 ジャーナリズムとサイエンスリテラシー
話題提供 北海道大学COSTEP 難波美保
まとめ:いかに言語化(ストーリー化)し、いかに伝達するか。情報発信はリテラシーを養い、異分野交流にも貢献する。わかりやすさ、面白さ、正確さの調整が課題。市民のメディアリテラシーはジャーナリズムを育てる。

最後に実行委員長永井智哉氏より2日間のワークショップの総括が行われました。
「サイエンスリテラシーは社会・生活との関連の中で考えられるべきもので、サイエンスリテラシーを高めるための人材育成を含めた環境整備が必要である。並行して情報発信も行われなければならない。2007年は「社会の中のサイエンスリテラシー」をテーマとする」。



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