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女子大生と考えるフォーラム
「食の安全と安心〜遺伝子組換え食品」開かれる

平成18年10月28日(土)大阪市北区、新阪急ビル会議室にて、第4回女子大生と考える「遺伝子組換え食品」が開かれました。初めに4校の学生による研究発表があり、ライター松永和紀さんによる話題提供があり、それから、会場参加者も一緒に全体討論を行いました。


1.「遺伝子組換えナタネと環境」 

神戸女学院 馬場貴子さん、倉木裕理さん、高梨愛子さん
初めに「遺伝子組換え食品は危険だと考えるか?」との問いに、会場はイエスとノーがおよそ3:7
ナタネと呼ばれるのは、アブラナとセイヨウアブラナ。菜の花と呼ばれる黄色い花は、ハクサイ、ダイコンなどにもつく。日本で昔から栽培されているのは、アブラナで、河川敷に生えているのは、セイヨウアブラナが日本の気候に馴化したもの。
ナタネはタカ受粉で交雑しやすく、日本のナタネの200万トンの輸入のうち、その半分が遺伝子組換え。
松永和紀さん(6月27日フードサイエンスより)の7つの疑問について調べた。

  1. 運搬中にこぼれては野外に出ることはあるのか→種の大きさは1ミリなので、ありえる
  2. 自生、増殖するか→交雑性が高く自生しうる
  3. 近縁種と交雑するか→他家受粉植物なので、交雑する
  4. 野外で組換えナタネの個体群を形成したり、遺伝子は安定して存在したりするか→交雑しやすいので、個体群を成したり、遺伝子は安定して存在しうる。知らない間に組換えナタネになってしまうのではないかと不安になったが、雑種崩壊が起こり、世代を重ねるうちに消えてしまい安定して残ることはないことがわかった。
  5. 個体群が拡大したり、遺伝子が拡散したりするか→花粉は風や鳥、虫に運ばれ、交雑性が高いので遺伝子も拡散するだろう。しかし、最後は雑種崩壊が起こるので、遺伝子の拡散の心配はない。
  6. これまであった生物種に被害や影響を与えるか→遺伝子レベルでは影響するが、生態系に影響は残らないはず。
食品としての安全性は、遺伝子組換えナタネから油が絞られるときにたんぱく質、DNAが除去されるので、食べても大丈夫。
ダイコンに交雑で組換え遺伝子は入らないのか→種子は離れ小島などで、交雑しないように栽培されており、種は毎年更新するので、ハクサイ、ダイコンは大丈夫 最後に「食卓にナタネが並ぶことへの抵抗感は」という質問に対して、初めに質問したときより、不安に対する回答が減っていた。


神戸女学院の学生の発表 会場の意見1



2.これなら食べたい遺伝子組換え食品

神戸女子大学 藤澤飛鳥さん
同大学生(家政学部で遺伝子組換えの講義を受けていない学生、管理栄養士で講義を受けている学生)183名にアンケートを実施
次の目的を持つ品目に対して、食べてもいいかどうかを尋ねた。
栄養素補給:ビタミンAの供給イネ、鉄供給イネ、必須アミノ酸供給ジャガイモ、高カロリー摂取ジャガイモ
ワクチン:ワクチン(コレラ)供給ジャガイモ、風邪予防イネ、花粉症軽減イネ
生産効率化:害虫抵抗性トウモロコシ、除草剤耐性ダイズ
ダイエット・健康効果:抗酸化作用トマト、コレステロール低下カラシナ、コレステロール低下ワタ、低カロリーテンサイ、目の疲労軽減イネ、整腸作用ジャガイモ、リラックス効果ダイズ
会場への質問:栄養強化イネは食べてもいい、と食べたくないは半々

アンケートの結果
ワクチン:食べたいは1−3割で、管理栄養士の方が低い。
生産効率化:2割以下。
ダイエット:3−5割が食べてもよい、という回答。これも管理栄養士が低め。ダイエットの関心が高いことがわかるが、管理栄養士で必須アミノ酸供給が高かったのが特徴的。
栄養素補:ビタミン、ミネラル補強はよいが、高カロリー摂取は嫌で、管理栄養士の方が食べたくない人が多かった。
結論として、学生の希望は、疲労回復、ダイエット、代謝をよくする、太らないが高く、ほしいものは、美白効果、美肌効果、髪の潤いなど。その他では、甘いトマト、ガン予防、免疫アップ、頭がよくなる。女子大生は害虫抵抗性などの生産効率化より、ダイエットなどに興味があることがわかった。
会場への質問:付与する形質(害虫抵抗性など生産者にメリットがある形質と、ダイエットや美白などに消費者にメリットがある形質)による差はなかった。

神戸女子大学の学生の発表 大阪樟蔭女子大学の学生の発表




3.遺伝子組換え食品の表示とは〜消費者の意識調査

大阪樟蔭女子大学 飯坂祥子さん、濱平智子さん
世界の組換え作物栽培面積は増加し、厚生労働省では、76品目の農作物の安全性を確認している(2006年8月)のに、店頭には遺伝子組換えでないという食品ばかり。そこで、店頭の食品やその表示は一般消費者に影響力が大きいものと考え、東大阪スーパーマーケットで対面アンケートを106名に対して行った。

  • 健康情報や食べ物に関心がある人は9割、遺伝子組換え技術や食品への関心は6割
  • 遺伝子組換え技術の利用が利益をもたらすは2割強、その研究が利益をもたらすは4割。
  • 遺伝子組換え技術の利用や研究が食糧生産技術に貢献すると思う人は、利用で4割弱、研究は4割強
  • 遺伝子組換え食品の表示をチェックする人は65%、値段が高くても組換え食品は避けたいと思う人は6割
  • 遺伝子組換えでないという表示に安心を感じる人は74%、表示がなくても安心感を持てる人は25%
  • 遺伝子組換え食品の表示については、遺伝子組換え原料(5%以下)が入っていても、非組換えと表示されると知っていた人は43%、混入の可能性があるときに不分別と表示されると知っていた人は75%、3割の人が醤油、油にも表示が必要だと考えていた。
以上をまとめると、1)一般消費者は健康より組換えへの関心が低い、2)遺伝子組換え技術の利用より研究への期待が高い、3)3分の2が表示を調べ、値段が高くても安全なものを買いたいと考えている、4)食品表示についての知識が乏しいだった。
結論として、産官学からの情報が不足しており、情報提供の努力不足ではないかと思った。これから、コミュニケーションがますます大事になる。消費者は、まず表示から勉強を始めてはどうか。
会場の意見:遺伝子組換えかどうか、表示のチェックをしている人がほとんどだった。

 
会場の意見2  




4.ヒトと環境に優しい遺伝子組換え方法

武庫川女子大学 瀧井幸男さん(担当した学生さんの代理で指導教官が発表)
糖化力を上げた遺伝子組換え麹菌の作製に成功したので、報告する。
遺伝子組換え麹菌の特徴:抗生物質マーカーを使わず(硝酸還元性)、セルフクローニングによって、一次元培養法を使った。糖化力を上げ、液化力を低下させ、求めていた形質が得られ、液体培養という制御しやすい系で、グルコアミラーゼ遺伝子を入れた麹菌ができた。
これからのこと:甘味料として使いたいが、食品は消費者理解の点で障害があるので、この麹菌を使って、古米、古古米を糖化し、アルコール燃料を作って、消費者が受け入れるきっかけにできないだろうか。

「食の安全性に関する情報をどう受け止めるか」 ライター松永和紀
バイオはばら色という時代に大学に入学したが、植物のことはわからないことも多いのだと知り、基礎研究である植物栄養学を専攻。毎日新聞に入社し、科学技術に懐疑的な思いも持ちながら取材していた。フリーランスになって7年。自分自身が懐疑的な心情から入り、取材の中で安全性審査がいかに厳しいか、ということを知った。自分の経験を鑑み、「みんなに知って判断してほしい」と思っている。立場は推進でも反対でもない。遺伝子組換え食品の安全性については安心しているが、環境安全性に関しては一部懸念も持っている。

ロシア人研究者イリーナ・エルマコバ氏によるラットの実験について
組換えダイズを母ラットに与えて繁殖への影響をみる毒性試験をしたところ、結果に有意差が出たと、ロシアの集会で発表したが、学術論文にはなっていない。英国食品基準庁が「この実験結果からは、まだ意味を読み取れない」と発表したこともあって、欧米では騒ぎにならなかったが、日本では全国6箇所でエルマコバ氏の講演会が行われ、新聞やテレビで報道された。
疑問点を整理すると、1)実験の飼料はどこから調達し、どう調し、どのような成分だったのかなどがはっきりしない。2)組換えダイズは実際に認可しされて10年あまりたつが、家畜はばたばた死んでいるのか、3)母ラットの飼育頭数は3−6頭、普通は20頭くらいで行う、4)コントロール群でも8%が死んでおり、飼育方法が悪いと考えられるなど
講演の特徴は、1)詳しい実験説明はしない、2)死にかけたラットの写真などを使う、3)ガンなど、ヒトへの影響をセンセーショナルに予測し強調
日本国内での対応は、厚生労働省はQA集で対応。バイテク情報普及会はメディアセミナーを開催した。参加したメディアのほとんどからは記事は出てこなかった。
このことから学ぶことは、「みなさん、情報を多角的に得てください」ということ。市民団体の主張は、「実験に不備があろうとも繁殖毒性試験に有意差が出たのは事実だから、国は繁殖毒性試験をすべき」であった。
調べたところ、東京都の報告書にマウスの繁殖試験結果が出ており、組み換えダイズと非組み換えダイズの摂取で優位な差はなかった。米国南ダコタ大の研究者も、マウス4世代にわたって与えた試験を行っており、これも差がなかった。長期の毒性試験は実施が難しく、数千万単位の費用がかかる。市民団体は、ただ実験をやれ、と要望するだけでなく、このような試験に私たちの税金を使うことの正当性やも検討すべきだ。
今回、報道したメディアがあったのは、記者の「遺伝子組換えは悪そうだ」という先入観、センセーショナルなニュースの追求、組換えダイズが有害だと発表した研究者が、ロシア科学アカデミー所属という肩書きだったことなど、舞台装置がそろっていたためではないか。

遺伝子組換え技術をどう考えるか
遺伝子組換えに対する科学的理解は確かに難しい。
例えば、アレルギーを起こす原因を調べるアレルゲン評価は、できたたんぱく質がアレルゲンとして知られているか、既知のアレルゲンと類似配列があるか、人工胃腸液で加熱処理して分解するかなどを順を追って調べる。不安な要素があれば、さらにステップの先に進んで調べる、というやり方だ。今まで調べられ、審査を通過した遺伝子組換え作物は、不安要素が出てこず、結果的に臨床的試験は必要なかった。この流れの説明はメディアではなかなか扱い切れない

北陸イネ裁判
反対派市民が、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター北陸研究センターが実施する遺伝子組換えイネの隔離圃場栽培実験に対して、ディフェンシン耐性菌の出現の不安があるなどの理由でで、試験栽培中止を求める仮処分を申し立てた。新潟地裁は認めず、東京高裁は地裁決定を支持、最高裁で棄却決定。2006年1月には、新潟地裁に本訴している。2006年北陸の説明会に行ったところ、市民の参加者は10名くらいだった。関係者を入れると全体で40名くらいいたが。

メディアの姿勢
北陸センターのできごとから、メディアの姿勢をみると、1)ハザードとリスクを、意図的、非意図的に区別しない (ハザードに確率が加味されてリスクになり、リスクが重要なのに。)、2)ゼロリスクがありえないことを伝えないという、傾向があった。また報道は、日本農業の象徴としてのイネに触られたくない気持ち、新潟コシヒカリへの危機感に沿うものだった。反対運動の中心となったのは、有機農家。彼らによる利益の主張だ、という視点が、メディアにはなかったと思う。

市民と社会の現状
食糧用油原料や飼料などとして大量に輸入しているのに、食べていない、輸入に依存していないと思い込んでいる。海外に作らせておいて、安全性に不安があるから作らない、食べない、と考えてしまうのはいかがなものか。行政も風評被害におびえてばかりのように見える。
背景には、誤った情報の氾濫や科学リテラシーの低さがある。遺伝子をいじることへの不安や畏れそのものは悪いことではないが、センセーショナルを好むメディアに踊らされていないか。メディアでは 「悪いニュースは(メディアにとって)いいニュース」というくらいだが、メディアを批判するだけでは限界がある。市民がしっかり情報をとって考えるべきだと思う。確かに日本には日本生まれのバイオ作物はないが、語ろうとしない研究者、企業にも問題はないだろうか。
国が審査したのだから信じなさい、というばかりで、丁寧に説明しなかった結果、誤解が固定しやすい。反対運動によって、研究できない状況にしてしまっていいのか。環境影響をみるための試験栽培や研究は続けていかなければいけない。
農業と市民生活の乖離が女子大生のアンケートから感じられた。農家に対する組換えの調査結果(農業技術通信社実施)では、農家の4割が組換えは必要で、場合によっては栽培したいと考えている。



全体討論

会場参加者、パネリスト全員、松永和紀さんに、コメンテーター伊藤潤子さん(コープこうべ理事)、司会佐々義子(くらしとバイオプラザ21)が加わり全体討論を行いました。

伊藤潤子さんによる総評
わかりやすい発表でした。切り口が自然科学だけでなく社会科学が入っていて、アプローチの方向として、よかった。機会を見つけていろんないろいろな場所で発表されるとよいと思う。
雑種崩壊をもう少し詳しく聞きたいところだった。女子大生はダイエットや美容に関心が高くて除草剤耐性などの関心が低かったことは興味深い。そのような状況も素直に受け止めたい。ニーズにフィットすれば、理解も、受け入れも進むということだろう。
管理栄養士を目指す学生の方が、栄養を強化した遺伝子組換え食品への関心が低いのは、栄養的に必要なものは食物で摂取すべきと学んできたからだろう。この2つの例は裏返しの関係ではないか。今後の調査や研究では、人間は知識によらず選択することもあると意識したアプローチが必要ではないかと考える。

発表者から
武庫川女子大学:市民の遺伝子組換え作物への受容の状況から、食品としてチャレンジしたいが、バイオ燃料にまず利用しようと思っている古いコメからこの菌を使って糖を作れないか、化粧品として使えないか、などを検討している。
神戸女学院:自分の調査で、ナタネを食べても大丈夫と結論していたのに、ダイエット嗜好が強いこと、スーパーマーケットの出口調査の認識とは異なることがわかった。いろいろな情報が入って新しい考えができるようになったので、やってよかったと思った。組換え反対の本を読んでいると危ないと思い、自分の中で安心、不安で揺れた。最後のアンケートでは、危ないと思う人が減ったので驚いた。
神戸女子大学:思っていたより、食べていいという人が多く、半々だった。他の人の意見も聞きたい。 大阪樟蔭大学:スーパー出口調査の結果と会場は一致していて、3分の2のが組換えの表示をチェックしていた。表示しか情報提供の接点がなく、規制や安全性審査を知らないのが現状。政府は安全性審査の経緯を示すきだと思った。授業で安全性審査を習ったが、出口調査で関心を持っている人が少ないのを感じ、身近なものでないのだと感じた。

会場も交えて
会場参加者:アンケートに答えてくれる人はもとから関心が高い人だと思う
大阪樟蔭大学:対面調査では、学校の名前を出して地元の関心をひくようにした。
会場参加者:表示を気にしているかどうか、と聞かれると「気にしている」と答えてしまう。聞き方の影響が大きいと思う
松永:アンケートは行政が政策を誘導するために、行っているような印象を受けることがある。アンケートは実施も、その結果の解釈も難しいものだと思う。学生さんはよくがんばってアンケート調査をしたと思うが、むしろ、どんな工夫をしたか教えてほしい。
大阪樟蔭:アンケート作成では、質問したい項目を統計学の先生に伝えて作成してもらった。同じ意味のことを逆の表現で二度尋ねる法式をとっている。例えば、「遺伝子組換えでないものを得るために、高いものを買いますか」「遺伝子組換えより高いと非組換え食品を買いますか」というように質問する。ふたつを比べて矛盾した回答があったときは除外して集計した。それは数件だった。
神戸女子大:アンケート作成で気をつけたのは、「安全性の審査が充たされているとします」という前提を入れたこと。
会場参加者:農業高校でカナダに実習に行ったことがある。人間の利益中心で害虫抵抗性や除草剤耐性は生産者にとってはいいが、自然から見るとどうかな、と思った。例えば、害虫がつかない稲を作ると、害虫がいなくなり、害虫を食べる鳥も食べ物を失うというように、食物連鎖に影響がでる。結局、全部組換え作物に変わっていくのだろうか。
会場参加者:除草剤耐性、害虫耐性に対しては、耐性生物ができる可能性が残るが、ヒトに対する栄養強化なら、耐性生物出現の心配はないので、そういう作物を作ったらいいと思う。
司会:食物連鎖の話がでたが、環境への遺伝子拡散についてはもっと試験が必要だというのはどういうことか
松永:例えば、塩害の場所に耐塩性植物を植えたら、繁茂して他の生物を駆逐する可能性もあるかもしれない。ケースバイケースで考えるべき。
会場参加者:確かに害虫がいなくなったら、害虫も鳥も死んでしまう。農薬を使って害虫を殺していいのか。遺伝子組換えだと何が嫌なのかを調べていくしかない
松永:植えた時の小動物、虫への影響などをイギリスでは調査をしっかりしており、EUや米国ではケースバイケースで考えようとしている。日本は、市民が雰囲気で捉えてしまい、細かく考えていこうとせず、白黒に分けてしまう傾向があるのではないか
瀧井:安心100%は誰もいえない。安全は科学でできるが、安心はできない。安全の積み重ねが安心を形成すると思う。
伊藤:成熟した民主主義はどこまで歩み寄れるかということだと思う。安全は科学、安心は個人の主観と切り捨てずに、安全と安心を重ねられるようにするみんなの努力が必要。知識のある研究者にさらなる努力をお願いしたい。 



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