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「筑波大学で無許可遺伝子組換えトウモロコシ栽培」の
記事のその後

 「安全審査のないまま組換え植物が栽培された」という記事(昨年11月6日)が新聞各紙で報道されました。そのことに関する報告書「筑波大学遺伝子組換え植物の栽培に関わる調査報告書」(11月29日)が筑波大学の調査委員会から出され、12月19日に同大ホームページに掲載されました。トウモロコシ栽培の経緯、どんな調査が行われたのか、環境への影響があったのかどうか、今後の取り組みについて整理してみました。

 筑波大学遺伝子組換え植物の栽培に関わる調査報告書


はじめの報道

 「筑波大学遺伝子実験センターで国の指針に基づく安全審査を行わず、遺伝子組換えトウモロコシを栽培していたことがわかり文部科学省は5日までに同センターに再発防止策をとるように指導した」(昨年11月6日読売新聞より引用)という報道がありました。日本では遺伝子組換え植物を研究のために大学、研究所で栽培するときには文部科学省の組換えDNA実験指針に、また、一般ほ場で栽培するときには、栽培された農作物が環境に悪い影響を与えないように農林水産省の指針に従って行うように指導されています(指針は法律よりも拘束力が弱い)。今回栽培されたトウモロコシは文部科学省の確認を受けていませんでした。

対象 使用する場所 所管する省庁
遺伝子組換え生物 大学、付属施設、民間や国立研究所など 文部科学省
遺伝子組換え農作物 畑、温室など 農林水産省
遺伝子組換え食品 民間企業の工場など 厚生労働省
遺伝子組換え医薬品 民間企業の工場など 厚生労働省
遺伝子組換え生物 民間企業の工場、土壌汚染された地域など 経済産業省

 組換えDNA実験指針
 農林水産分野等における組換え体の利用のための指針


経緯

平成 11年9月 種子会社より技術開発を目的として遺伝子組換えトウモロコシ(Btll及びEvent176)が分与され、種子保管庫に保管された。
平成 14年3月 遺伝子実験センターに隔離ほ場(*)が設置された。
平成 14年4〜5月 遺伝子実験センターで遺伝子組換えトウモロコシのBtll及びEvent176の2種類の品種の実験栽培が隔離ほ場で行われることが了解された。
平成 14年6月 Btll及びEvent176の種子1,000粒を隔離ほ場に撒き、3分の1に間引いて300個体が栽培された。
平成 14年10月 組換えトウモロコシを収穫し、温室で乾燥させた。
平成 14年11月1日 2系統の遺伝子組換えトウモロコシは農林水産省の隔離ほ場での環境影響評価が終了しており、食品及び飼料としての安全性が確認されていたが、Event176は一般栽培が認められていなかったことがわかった。文部科学省の担当官が来学し、環境へ重大な影響を与える可能性が低いと判断した。

* 隔離ほ場:対象となる組換え植物の栽培等が行われる環境を模した一定の画された区域内に設けられるほ場。組換え植物の生殖・繁殖様式,生理学的性質及び開放系における利用形態並びに周辺の生物相を考慮したうえで、その区域外で組換え植物が自然に増殖したり、花粉等が区域外の植物に影響を与えないよう管理されている。具体的にはフェンスで囲まれ、関係者以外が立ち入らないようになっており、作業者は靴を履き替えて作業をしたり、使った水は直接下水に流さないようになっている。


Event176とはどんな品種か

 今回栽培された遺伝子組換えトウモロコシの一方、Event 176は一般栽培の安全性審査のみ行われておらず、他の審査はすべて終わっています。

 「遺伝子組換え植物(GMO)の栽培試験状況」より抜粋

 表の中の「閉鎖系」は、文部科学省の指針に基づく閉鎖系温室での実験、「非閉鎖系」は、同指針に基づく非閉鎖温室での実験、「隔離ほ場」は、農林水産省の指針に基づく隔離ほ場での試験を意味しています。* は輸入目的のための安全性確認に加え、新たに栽培を目的とする安全性確認のための、隔離ほ場試験の安全性確認がなされた年度を示しています。「栽培目的」は、国内の一般ほ場での栽培に関する確認、「輸入目的」は、加工を目的とする輸入の安全性に関する確認を意味しています。「食品」は、食品衛生法(厚生労働省)に基づく食品としての安全性に関する審査の終了、「飼料」は、農林水産省の指針に基づく家畜飼料としての安全性に関する確認を意味しています。

トウモロコシ
品種/系統
開発者 隔離ほ場
申請者
特性 導入遺伝子 安全性確認状況
(確認した国、国内で確認された年度)
閉鎖系 非閉鎖系 隔離ほ場 栽培目的 輸入目的 食品 飼料
Bt11 ノースラップキング 農業環境技術研究所、(社)農林水産先端技術産業振興センター 害虫抵抗性 Btタンパク質産生遺伝子 USA USA 1996
2001*
2002 1996
2002*
2001 1996
Event176 シンジェンタシード(チバシード) 農業環境技術研究所、(社)農林水産先端技術産業振興センター 害虫抵抗性
除草剤耐性
Btタンパク質産生遺伝子、グルホシネート耐性 USA USA - 1996
2002*
1996 2001 1996


今回調査された内容

 土壌と周辺で栽培されていたトウモロコシへの影響について調べるために1)〜3)の調査を行い、両方とも影響を与えていなかったことがわかりました。

調査の目的:
1. 土壌に変化を及ぼさなかったかどうか。
2. 遺伝子組換えトウモロコシの花粉が飛んで周辺で栽培されていたトウモロコシと交雑を起こしていないか。

調査の内容:

1)レタスの発芽率の試験による土壌の安全性確認
 ほ場中の4地点(何も栽培しなかった地点、サツマイモを栽培した地点、Bt11を栽培した地点、Event176を栽培した地点)から土を採取してレタスの種子30粒を栽培した。レタスの発芽率を試験した結果、85%以上の発芽率を示しているので、Event176を栽培したために発芽率が変化するような物質が存在する可能性は極めて低く、土壌の安全性は変わっていない。よって、この近隣の土壌にも影響していないと結論した。

2)通常トウモロコシに組換え遺伝子が混入していないかの検査
 農林技術センターで同じ時期に栽培したトウモロコシからとれた種子を発芽させてそこに含まれる遺伝子を調べたが、Event176と同じBt遺伝子は検出されなかった。Event176の花粉が飛散して農林技術センターで栽培していたトウモロコシにBt遺伝子が混入している可能性はきわめて低いと考えられる。

3)大学周辺で栽培されていたトウモロコシへの影響
 大学周辺の上野地区と柴崎地区にトウモロコシ栽培した畑があったが、いずれも1.5〜2キロメートル離れているのでそこまで花粉が飛ぶ可能性は極めて低く、通常のトウモロコシの開花期が6月下旬〜7月上旬であるのに対し、Event176は遅く栽培されたので、時期的にも遺伝子組換えトウモロコシの花粉が市内で栽培されているトウモロコシに混入する可能性は極めて低いと考えられる。
 公刊論文によるとトウモロコシの花粉は約20メートル以内で81%が落下するとされている。


再発防止のための対策

主に次のような改善項目が示されました。

研究者:組換えDNA実験に従事する研究者が文部科学省、厚生労働省、農林水産省の告知などを熟知し、ガイドラインなどを十分に理解するなど再発防止に努めること。

遺伝子実験センター:遺伝子実験センターは研究や業務を行うときの十分な安全管理システムを確立し、栽培に関わる人たちは使用ルールを作ってこれに従い、組換えDNA実験安全委員会と連携してダブルチェックシステムを確立すること。

組換えDNA実験安全委員会:組換えDNA実験安全委員会は審査、立ち入り検査などを行うとともに講習会などを開催して再発防止策を検討すること。


 以上が「筑波大学遺伝子組換え植物の栽培に関わる調査員会調査報告」の概要です。無許可トウモロコシという言葉が出たときには、よほど危険な品種が栽培されていたのではないか、という不安もありましたが、文部科学省への確認手続きに問題があったこと、土壌と周辺に栽培されたトウモロコシには特に影響がなかったことがわかりました。
 今後、市民がこのような不安を感じることがないように、再発防止のための対策はしっかり守って実施していただきたいものです。また、11月6日の報道から調査委員会の報告の公表まで、何も情報開示がされなかったことや公表後も報告書に触れたニュースがほとんどなかったことが市民の不安を大きくしたのではないでしょうか。11月6日には、文部科学省の担当官が来学し緊急の危険はない、と判断していたのですから、まずその情報を開示して、調査の意味や進捗状況も公表した方がよかったと思います。このような情報開示は、問題が生じたときの科学的な対応の様子が市民にも見えるという意味で、市民にとってもよい勉強、よい経験になったことでしょう。





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