バイオカフェレポート「健康によい渋柿！よもやま話」

平成18年10月7日（土）、銀座トリコロールにおいて第9回バイオカフェを開きました。スピーチは島根大学生物資源科学部板村裕之さんによる「健康によい渋柿！よもやま話」でした。初めに、北政扶美子さんと三瓶真菜さんによる小さなハープの二重奏。ハープを初めて間近に見る人も多く楽器の説明を交えながら、「カンタータ」、「美しき青きドナウ」、「シチリアーノ」が演奏されました。

軽妙な板村先生の語り	ハープの演奏

板村先生のお話の概要

健康長寿プロジェクト
私は島根大学健康長寿重点プロジェクトを担当しており、そこで得られた知見を伝えるためにサイエンスカフェを継続的に開催している。大きな目標としては、日本は寿命がのびている反面、高血圧、ガンなど楽しく生きて楽しく死ねる社会を目指している。果物をよく食べるとガンにかかりにくくなる　ファイヴアデー運動。果物を食べてガンにならないようにしようと運動が日本でも行われている。

甘い柿と渋い柿
柿は甘柿と渋柿に分かれる。見た目では分けられない。
タンニン（渋みの正体）に注目して分類すると
完全甘ガキ：種子の有無によらず、甘くなる。少し褐斑が生じる
例）富有柿、伊豆柿、次郎柿　
不完全甘ガキ：種が入る時期になると種からアセトアルデヒドが出て、タンニンを不溶化して、褐斑が現れ渋みが減る。
例）西村早生（わせ）、
アセトアルデヒド（CH₃CHO）によって種の周りは甘いが、全体は渋い。
完全渋ガキ：種からアセトアルデヒドが出ないので、種のにかかわらず甘くならない
例）西条柿、堂上蜂屋柿、清道柿
不完全渋ガキ：種から出るアセトアルデヒドで、種の回りの渋が抜けて、褐斑を生じる。（種無しでは渋は抜けない）　
例）会津身不知（みしらず）、平核無（ひらたねなし）
韓国や中国はほとんど渋柿で、中国に1品種完全甘柿があるだけ。
遺伝的にみると、完全甘柿は劣性ホモ。日本には突然変異体としてできた完全甘柿がある。

タンニン
渋みの正体はカキタンニン。柿のタンニンの分子量は１３、０００くらいだが、お茶のカテキンは１００−２００。タンニンはポリフェノールに属する。ポリフェノールの分子構造は、ベンゼン環（C₆H₆）にOH（水酸基）がついたフェノール（石炭酸）がたくさん集まったもの。お茶のカテキンはベンゼン環を二つ持ち、分子は小さい。

植物細胞には老廃物がたまる液胞がある。柿の細胞の液胞を噛みつぶしたときに、可溶性タンニンが出て唾液や水に溶けて、舌の味蕾細胞のタンパク質と結合する。しびれた感覚が脳にとどき、渋みを感じる。
タンニンとアルデヒド類は結合して不溶性になる性質がある。シックハウスの原因になるホルムアルデヒドを建築材に柿の成分を入れて吸着させ、シックハウスの防止に使っている。
脱渋（渋みを抜く）には、柿をビニールに入れて、ドライアイスをいれると、柿が嫌気呼吸をしてアセトアルデヒドを出すことができる。
渋み物質は高分子のタンパクや高分子の多糖類と結合しやすい性質を持っていて、抗酸化性が強い。
渋みができるのは、花がさくころからで、子房中に渋が蓄積して、渋くなる。りんごにも、小さいときには柿と同じように多くのポリフェノールが含まれているが、それが開花期から抜けていく。

柿渋の利用
柿渋は４−６月の実が青くて、渋の多いときにしぼりとり、3年くらい発酵させて、糖類をなくして渋の成分だけにしてつくる。宝蓮坊という柿（奈良、京都に多く栽培されている）を使う。
染料として用い、染物も作れる。これは、高分子に吸着する性質を生かしたもの。番傘に渋を縫ったり、魚網にぬって繊維を強固にするのに利用してきた。
６化クロムが有害物質として使用できなくなったので、船の防錆剤として柿渋を使っている。鉄と結合すると黒くなる。
携帯電話の基盤に使われている金を回収するのに、柿渋を金だけに吸着するように変化させて利用する研究も進んでいる。
血管を広げる作用があり、血圧降下剤として使える
柿のへたは漢方薬でしゃっくりに利く
柿の葉はビタミンCが多いのでお茶にして飲むことができる
柿にはカロチノイドという赤い色素があり、ビタミンAが豊富。これに対してりんごやブルベリーの色素はアントシアニン（フラボノイド）。
このように、柿にはタンニン、カロテン、ポリフェノール（タンニン、単量体）、フラボノイドなど、様々な抗酸化物をひとつに含んでいて、昔から重宝に利用されている。簡単柿酢（熟した柿を細かく切って酢に一日つける。柿：酢が１：２の割合。10倍の水に薄めてハチミツなどを加えて飲む）は高血圧によい。

悪酔い防止
悪酔い防止のサプリとして、柿の葉エキスのカプセルを出雲市の会社から発売しており、その開発の基になる研究に関わった。
1976年に、柿ジュースを飲んだウサギと飲まないウサギにアルコールを摂取させた後のアルコール血中濃度が3分の１くらいになることが発見された。それとは別に、私は柿ジュースをあらかじめ与えたマウスの血中濃度が低くなることを確認した。
さらに、人にもインフォームドコンセントをとって実験（柿２００ｇを食べた後、清酒半合を15分かけて飲んでもらう）をした。血液検査をしたら柿を食べた人たちの血中濃度の方が低かった。可溶性のタンニンがアルコールを吸着して、血中濃度が下がるのだと考えている。また柿に含まれるナイアシンがアセトアルデヒド分解酵素に働きかけるので、分解が進むのかもしれない。アルコールを飲むと脳内のセロトニンが分解される（うつと同じ状態）　脳内セロトニンを補う働きが柿渋にあるかもしれない。ナイアシンは補酵素の働きをする

〜会場のボランティアの協力を得て、実験をしました〜

実験１．柿のタンニンの観察
甘がき、渋柿、中間の下記を半分に切る。鉄を含めたろ紙に切り口をスタンプして変化を比べる→渋柿が一番黒くなり、中間、甘がきの順で跡（ろ紙の塩化第二鉄とタンニンの酸化還元反応）ができた。

実験２．タンニンはたんぱく質に吸着するか
１０％のポリエチレングリコール溶液に柿渋と甘柿の絞り汁を入れる。両方に白い沈殿物（タンニンをトラップ）ができた。この方法は、できた白い沈殿を除いた残りの液から酵素を取り出すのに使う
柿渋を清酒のおり落としに使って、清酒のタンパクを柿渋でトラップすることから、卵白（タンパク質が主成分）に柿渋と甘柿の絞り汁を入れてみる→白くにごる

3種類の柿を使って実験	渋柿のスタンプ一番、濃く残った
柿の絞り汁は卵白のタンパクと結合して白濁する

話し合い

• 渋柿は劣性ホモだというが、不完全渋柿はどうなるのか→渋柿の劣性ホモというのは、両親から劣性の遺伝子をもらっている場合。一方が優性で、他方が劣性だと表現形は不完全渋柿になる。
• 柿の育種は本当に大変で「桃栗3年柿９年、ゆずの大馬鹿15年」というくらい時間がかかる。接木を利用して短縮化を図ることもやっている。広島で、太秋、新秋という柿の新種ができた。苗木はとっても高い。
• 一方、柿の人気は５０歳以上に多く、若い人に人気がない。その点、近年、広島で開発された太秋や新秋は柿の甘さに、二十世紀梨のぱりぱり感があり若い人に人気。
• こどもの時に聞き伝えで柿は接木をしないと甘くならないと聞いた→最近使われている野菜の種はF１種子といって雑種だが、よい形質はその一代限りしかでないので、毎年種子を購入しないといけない。企業にとってF１を作りだす元の系統は企業秘密なので絶対に出さない。一方、果樹は変わり枝が突然変異で出やすい。その枝の断片さえあれば、それを接木してよい苗木ができる。できた果樹は台木の影響は受けない。果樹はよい形質をもった木を大事にして、それと同じものを挿し木、接木で増やすので、遺伝子はクローン（同じ）になっている。だから、いい品種が出た農家は見学させないし、秘密にして大事にする。
• 北京では、日本の感覚で１万円くらいの「黄金なし」が売れていた。いい果物は高く売れるので、種苗の扱いについては、国際的に神経質になっている。
• 私は長野の市田柿が好きだが健康への効果は同じか→実験はしていないが、健康効果は同じだと思う。市田柿はアンポ柿（福島では硫黄で燻じょうして干し柿を作る。渋みがぬけて、いつまでも中が柔らかい）と似ているから。判乾燥の干し柿は、胃の中で不溶化していた渋が可溶化し効果を発揮するから。電子レンジで加熱しても不溶化タンニンが溶けて、渋味がもどる。干し柿で有名なのは、市田柿と会津のあんぽ柿。韓国は一家に1本柿があるくらい大事にしていて、都会に住む家族は実家の柿の実を送ってもらっており、今は柿ブームで柿は大きな市場になっている。
• 柿の種からセトアルデヒドが出て熟すときに甘くなるというが、そういうときにカラスがくる。収穫前にカラスに取られないようにするにはどうしたらいいか→からすが来る前、渋いときにとって渋抜きするのも人の知恵
• カラスが柿のおいしくなっていることを見つける目印になるものは何→色がつくと甘くなるので、色を見分けている、やわらかくなったときに渋が抜けるので、つついてみて判別することも考えられる。鳥よけには、ネットや大きな音をだすなど工夫されている。私は、すべて収穫せず最後に鳥のために柿を残すようにしている。

会場風景１	会場風景２