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食品照射専門部会が報告書
「食品への放射線照射について」を作成しました

原子力委員会は原子力政策大綱に基づき、2005年12月に食品照射専門部会を設置し、食品照射に関する現状などについて調査審議を行いました。2006年8月7日、9日には、東京、大阪で同部会報告書「食品への放射線照射について」に関するご意見を聞く会を開催しました。本報告の結論は、「文部科学省、厚生労働省、農林水産省等が、食品照射の妥当性を判断するための検討・評価を実施し、行政検査に用いる公定検知法を早く確立し、新しく照射食品が許可される場合の監視や指導、広聴・広報活動の推進などの取り組みが進められることが必要である」となっています。

この報告書から、1983年、すでに食品照射のCODEX規格が採択され、2000年には全日本スパイス協会からの要請があったことがわかりました。今回の報告書作成まで、ずいぶん時間がたってしまったという印象を受けますが、この報告書が、今後の動きのきっかけになることを期待します。私たちも恐れるだけでなく、まず知ることから始めたいと思いました。

10月3日より、寄せられた意見の概要・対応が以下に公開されています。
http://aec.jst.go.jp/jicst/NC/senmon/syokuhin/index.htm


なぜ、食品に放射線を照射するのか

食品の衛生を確保し、保存中の食品の損耗を防止して安定供給するために、食品に放射線を照射し、病原菌や腐敗菌の殺菌、害虫駆除、発芽防止などの処理を行います。サルモネラ菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌O157などの病原性微生物を比較的低線量で滅菌でき、加熱処理や化学薬剤処理などと同じく、有効な殺菌・殺虫技術であるといえます(ウイルスにはより高い線量が必要なため、あまり実用的でない)。
(原理)放射線が病原性細菌、害虫、作物の細胞のDNAに直接作用したり、細胞に含まれる水分が放射線分解してできる化学反応を起こし易い活性種(フリーラジカル)がDNAを切断したりして、細胞が正常に分裂増殖できなくなる効果(致死効果)を利用し、殺菌(微生物の増殖阻害)や発芽防止(芽のもとになる細胞の増殖阻害)などを行う。フリーラジカルは放射線照射でも加熱調理でも生成され、基本的には区別できず、通常はごく短時間で周囲の水分やDNAなどの成分と、あるいはフリーラジカル同士で反応し終わって消滅する。

具体的な照射の目的
発芽防止:ばれいしよ、たまねぎ、にんにく
害虫駆除、寄生虫の殺滅:穀類、豆類、生鮮・乾燥野菜、果実、カカオ豆、豚肉など
病原菌の殺菌:冷凍エビ、冷凍カエル脚、香辛料、乾燥野菜、肉類、飼料原料など(O157対策としてのハンバーガー用パテの照射はこれに属する)
腐敗菌の殺菌:穀類、果実、水産加工品、香辛料、乾燥野菜、アラビアガムなど
滅菌(完全な殺菌):宇宙食、病院食など


食品照射の歴史

1963年 米国FDA(食品・医薬品局)はベーコン及び穀物への放射線照射を許可
1967年 日本でも原子力委員会が「食品照射研究開発基本計画」策定、国家プロジェクトとして食品照射の研究を開始
1970年 日本を含む24カ国で「国際食品照射プロジェクト」を開始
1972年 食品衛生法に基づき、ばれいしよの発芽防止のための照射を許可
1974年 照射によるばれいしよの発芽防止が実用化、端境期に出荷開始
1980年 FAO(国連食糧農業機関)、WHO(世界保健機構)、IAEA(国際原子力機関)は「総平均線量10kGy(キログレイ:1Gyは1kgあたりに吸収された放射線のエネルギーが1ジュールであることを示す)以下で照射された食品には毒性学的な危険性なし」と結論
1983年 コーデックス委員会(国際食品規格委員会)が照射食品の一般規格(コーデックス規格)を採択
2000年 全日本スパイス協会から香辛料の微生物汚染低減化のための放射線照射許可の要請が出された
2005年12月 食品照射専門部会設置
2006年 報告書「食品への放射選照射について」作成


海外の状況

世界各国で殺菌技術のひとつとして放射線照射が行われており、2003年4月には31カ国及び台湾で20品目が実用化されています。特に香辛料では、EU加盟国、カナダ、米国、オーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国、タイなど、多くの国で食品照射が用いられています。 米国、オランダ、フランスでは、肉類にも食品照射を行っており、2003年、オーストラリア、ニュージーランドでは熱帯果実の食品照射も許可しました。


わが国における規制と表示

わが国では食品衛生法第11条「食品の製造・加工基準、保存基準」において、食品への放射線照射は原則禁止されています。しかし、ばれいしよの発芽防止のケースのみ許可されています。輸入時、国内流通時の監視・指導もこの法律に基づき行われており、輸入された食品に違法な照射が行われたかどうかの確認は輸入者、製造者からの文書の入手によって行われます。
平成13年1月から18年3月までに輸入食品から放射線照射が5件、国内流通時の監視・指導により1件の食品への放射線照射が見つかっています。放射照射が行われたかどうかを、最終製品から調べて判断するのは簡単ではありませんが、熱ルミネッセンス(TL)法、電子スピン共鳴(ESR)法、化学分析法などの9〜10種類の検知法がヨーロッパ標準分析法やコーデックス標準分析法として定められています。わが国では、行政検査に用いるための公的な検知法は未だに定められていませんが、国内の研究所や大学等でも、これらの国際的な検知法や、独自に開発・改良した新しい検知法を用いて依頼分析を実施したり、参考試験データを食品企業や流通業者に提供したり、独自の調査結果を公表したりしています。
放射線を照射した食品には、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)により、包装を開かなくても容易にみえるところに放射線を照射した旨が表示されるように義務付けられています。照射食品が社会に流通した際に、消費者の選択を確保するとともに、適切な流通管理の観点からも、照射食品であることを示す表示が必要だと考えられるからです。その表示の妥当性を保証するとともに、行政当局による規制の実効性を担保するためにも、少しでも早い検知法(照射したかどうかの判別法)の公的な認定が求められています。


どんな利点があるのか

・包装のまま照射して内部まで均一に処理でき、開封されるまで清潔さが保たれる。
・作業性がいい(食品の形状によらず、連続で大量に、短時間で処理できる)。
・加熱処理のように温度上昇を伴わないので、品質への影響が少ない。
・有害な化学物質を環境中に放出しない。

以上のように、加熱のできない生鮮品、冷蔵・冷凍品、香辛料あるいは乾燥野菜の殺菌、穀類や青果物の殺虫に適している。
たとえば香辛料は熱帯の地方で生産されるものが多く、1gに10−100万個の有芽胞菌など加熱しても死滅しにくい微生物が多く付着しており、輸入国ではエチレンオキサイド殺菌、気流式過熱蒸気殺菌、放射線照射による殺菌が行われています。しかし、エチレンオキサイド殺菌は、その残留毒性が懸念されて使えなくなり、現在日本で用いられているのは気流式過熱蒸気殺菌だけです。また、従来病害虫駆除のための燻蒸剤として使われてきた臭化メチルは、1992年にオゾン層破壊物質に指定され、一部の例外を除いて先進国においては2005年までにその使用を禁止することが求められているため、放射線による殺虫処理が有効な代替法となり得ます。


放射線照射施設の周辺環境への影響

放射線照射施設においては適切な放射線遮蔽措置が行われており、周辺環境への影響がないように設計・建設されています。対象が食品であっても、各種医療機器、食品包装材、理化学実験器具などの殺菌・滅菌のための照射施設の場合と何ら変わりません。また作業者が何らかの原因で偶発的に放射線を浴びるのを防ぐために、産業用、医療用、研究用を問わず放射線照射施設は幾重もの防護レベルのもとに設計されています。いうまでもなく、運用にあたっては、マニュアルの遵守や作業員の安全確保が行われています。放射線源として使用されるコバルト60は輸入に依存しており、放射性廃棄物として対象になるのはこの線源だけで、これは使用後、輸出元へ返還されています。
本報告書では触れていませんが、コバルト60のガンマ線と同様に電子線照射もよく使用されるそうです。電子線照射施設では、もともと放射性物質は使用しておらず、加速器の電源を切れば直ちに放射線の発生も止まります。


気になる報告と考え方

食品照射に関しては次のような不安・懸念があるといういくつかの報告があります。これらの懸念に対し報告書では、その後の研究の蓄積によって健全性に関してはいずれも問題はないと結論づけた国際的な共通認識をそれぞれ紹介しています。

  • 誘導放射能の生成
    電磁放射線エネルギーが食品の構成元素に誘導放射能を新たに生成する可能性があるのではないか (報告書より):この可能性を考慮して照射の上限がCODEX規格で定められていて、この範囲内であれば、感度の高い測定器でも検知できない程度のもの。
  • 放射線照射によって起こる化学反応
    放射線照射、加熱により食品には化学反応が起こる。特に脂質に放射線照射したときに生成される2−アルキルシクロブタノン類が生成される。その一種である2−ドデシルシクロブタノンがDNAに障害を起こしたという報告がある。 (報告書より):照射によって生じる食品成分の分解生成物のほとんどは調理などの加熱処理でも生じる。照射に特有の化合物として唯一報告されているのが2−アルキルシクロブタノン類であるが、その後の追試や動物実験などの結果、消費者の健康上のリスクにはならないとするWHOの見解や、2−ドデシルシクロブタノンには変異原性はないとする最近の研究結果を紹介している。
  • 照射タマネギの慢性毒性試験と世代試験
    放射線照射をしたタマネギをマウスに与えた実験で、照射タマネギを食べたマウスの赤血球が減少し、脾臓のはれが見られた。 (報告書より):マウスの症状は非照射のタマネギでも生じたもので、照射の影響ではなかった。次世代への影響はみられなかった。
  • 栄養失調児に細胞異常が起こった
    栄養失調児に照射小麦を与えたところ血中に染色体数が倍化した細胞の異常が起こったと報告された。 (報告書より):試験結果を注意深く解析したところ、有意の差はないと結論された。
  • ベビーフード事件
    1978年、ベビーフードの原料に用いる粉末野菜に無許可で照射による殺菌処理が行われた。 (報告書より):企業の責任感の欠如の問題であり、厚生労働省は監視・指導の留意点に関する通知を行った。
  • 異臭の発生
    肉類や食鳥になどに照射を行うと照射臭が発生することがある。 (報告書より):健全性における問題ではなく、商品価値の観点から適正な照射を行うことが重要。
  • 麺類への影響
    放射線照射した小麦は製麺適性が低下すると報告された。 (報告書より):健全性における問題ではなく、事業者が処理方法を選択する問題である。


参考サイト
日本原子力研究開発機構 高崎研究所 食品照射データベース
日本原子力研究開発機構 高崎研究所 食品照射Q&A



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