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茅場町バイオカフェレポート
「華麗なる微生物の世界〜その豊かな多様性」

平成18年9月22日(金)、茅場町サン茶房でバイオカフェが開かれました。スピーチは(独)製品評価技術基盤機構(NITE)の宮道慎二さんによる「華麗なる微生物の世界〜くらしへの応用」でした。初めに、松本宗雄さんにより、バイオリンで、「ラルゴエクスレッシボ」、「美しきローズマリー」が演奏されました。

松本さんの解説のお話もいつも好評 宮道さんはご自分を微生物の世界からやってきた宣教師といわれる


お話の概要

私は微生物の宣教師
私は自称、「微生物の世界からやってきた宣教師」。2ケ月ほど前、「微生物の世界」(丸善発売)という本を出版しました。5年をかけた私のライフワーク、実は、この本を作りたくて、32年間務めた明治製菓をやめました。この本には、世界240人の専門家から集めた1000枚の写真が掲載されています。海外を見渡しても「微生物の写真集」がありませんので、日本語と英語のバイリンガル編集にしました。今日は、この本に載せた微生物の写真を紹介しながら、みなさんを微生物の世界にご案内します。

微生物の種類
微生物といっても、バクテリア、アーキアは原核生物に属し、菌類、微細藻類は真核生物に属します。私たちも含めて動植物は真核生物です。DNAから見ると生物は、バクテリア、ユーカリア(真核生物)、アーキアという3つの系統(ドメイン)になり、現存している生物はこの系統樹の先端ということになります。

真核生物に取り込まれて、細胞内器官になった微生物
ある種の自由生活をしていたバクテリアが動物や植物の先祖の生物に寄生し、共生関係になり、更に進化してエネルギー生産工場とも言えるミトコンドリアという細胞内器官になったと考えられています。このように考えられるようになった証拠の一つは、ミトコンドリアの持つ小さなDNAを調べたところ、宿主の染色体DNAではなく、ある種のバクテリアのDNAとよく一致していたからです。
同じように自由生活をしていたバクテリアが植物の先祖の細胞に寄生、共生して葉緑体になったと考えられています。これも葉緑体も中のDNAがある種のシアノバクテリアのDNAと一致したので、オリジンであると考えられるようになりました。

微生物の世界へご案内
それでは、これから、写真集「微生物の世界」に載せた微生物の写真を紹介しながら、みなさんを魅惑に満ちた「微生物の世界」にご案内します。

  • 大腸菌:大腸菌は、私たちの腸内にたくさん生活しているバクテリアで、現在の地球上の生命の仕組みを解明したモデル生物です。鞭毛で泳ぐことができます。大きさは1マイクロメーター程度。1マイクロメーターは1ミリの1000の1。
  • ペスト菌:ペストは中世、人口の4分の1、5分の1を減らしてしまうぐらい、猛威をふるった病原細菌。今は薬で抑えることができる。
  • デロビブリオ:この写真は自分より数倍も体の大きいシュードモナスにヒルのように吸い付いて食べているとても貴重なベストショット。アメリカの教科書に載っていたこの写真を、どうしても写真集、「微生物の世界」に載せたくて作者のスプトル先生を探した。大変苦労した末に、ドイツの友人が古い住所録を見つけて教えてくれた。家族に手紙を書いたところ、96歳のご本人から返事が来てオリジナルの写真を借りることができた。ストルプ先生に出来上がった本を進呈したところ、先週「素晴らしい本をありがとう」というメールが来た。不思議な縁を感じる。
  • 根粒バクテリア:マメ類の根にこぶを作り、その中で生活している。植物は栄養源として窒素が必要だが、空中の窒素は利用できない。根粒バクテリアは空中の窒素を固定する能力があり、植物が利用できる形にしてダイズに提供、ダイズから糖分や水分をもらって共生している。フランキアという非マメ科につく根粒バクテリアもある。
  • ストロマトライト:オーストラリアなどにある、最古の生物の化石で、シアノバクテリアの化石と考えられている。10数億年前に形成されたストロマトライトを薄く切って観察すると、現存するシアノバクテリアの形と非常によく似た形態が見える。
  • セレウス菌:土壌に住んでいる胞子形成細菌で、院内感染の原因菌になることもある。
  • タンソ菌:9/11同時テロの後、白い粉が郵便で送りつけられて、郵便局員が死亡するというテロ事件があった。白い粉は胞子で、これから芽が出る。空気を好む好気性の菌
  • 破傷風菌:太鼓のバチ(ドラムスティック)の形をしている。こちらは空気を嫌う嫌気性。
  • 乳酸菌:ブルガリアヨーグルトの中の細菌を培養して撮った写真。これは食品でおなじみ
  • パン酵母:出芽法式で増えるが、有性生殖をすることもある。ビールやワインでもおなじみ
  • タフリナ:ソメイヨシノなどの植物病原菌で、テングス病をおこす。「天狗の巣」のように見えることからこの名前がついた。
  • 冬虫夏草:昆虫の天敵のカビ。虫が生きている間にカビがとりついて、体内を食べつくして、やがてきのこが虫の体から生えてくる。カビと虫が生命をつなぐ輪廻の思想を反映してか、古くから漢方薬になっている。アリにつくと「ありたけ」、セミにつくと「せみたけ」。
  • 変形菌:形や色がきれいで、アマチュアの間で愛好家が増えている
放線菌の話
アクチノマデュラ放線菌:この2種は私が世界で初めて発見し命名したもので、学名の後ろに「ミヤドウ」の名前が付きます。
ハービドスポラ放線菌:この放線菌は天皇陛下が皇太子だったころ、明治製菓の見学に来られたことから東宮御所の微生物調査をする機会を得た。松の下から新しい菌が見つかり、新属新種になった。
放線菌からいろんな抗生物質が見つかっている。その一つはタクロリムス(免疫抑制剤)で、この発見によって現在のような臓器移植が可能になったと言われている。最近では、タクロリムスは、アトピーにも有効であることが分かり、年商は1000億円にも達するそうだ。

極限環境に住む微生物
イエローストーン国立公園には、80−100度の環境にすむ高温性のバクテリアやアーキアが棲んでいる。分子生物学の実験に欠かせない、高温に耐える酵素が、ここに住む微生物から見つかったことは有名。
かって、死の世界と考えられていた海底火山の周辺に濃厚な生態系が存在することが分かってきた。高圧、高温、暗黒の深海で、噴出すマグマのエネルギーを利用した硫黄酸化細菌などが一次生産者となり、その食物連鎖の先にエビなどの大きな動物が住むようになる。このような極限環境は地球で生命が誕生した環境と似ているのではないかと、注目されるようになってきた。

会場写真 会場写真
会場写真

地球の歴史から見た微生物
30億年前、シアノバクテリアが生まれ、光合成をして酸素を出し始めた。発生した酸素は初めのうち海水に溶けていたが、やがて大気中に放出されるようになる。更にシアノバクテリアから葉緑素をもらった藻類や高等植物も誕生して光合成を始め、酸素の発生量が増え、大気の20%に達するまでになった。このように酸素を含む地球の大気は、数十億年をかけた生命の代謝活動の結果である。

生命誕生から現在までを1年にたとえると、
1月1日  生命誕生
2月    バクテリアとアーキアの分岐
4月    シアノバクテリアが酸素を作り出す
6月    バクテリアが進化をとげる
7月までは 「原核生物だけの時代」だといえる
8月    真核生物の誕生
10月   単細胞真核生物が多細胞化。
10月までは「微生物のだけの時代」だったといえる
11月6日 カンブリア大爆発
11月   オゾン層ができ、植物が上陸開始
12月9日  恐竜誕生
12月19日 哺乳類誕生
12月25日 恐竜の絶滅
12月31日正午 人類の誕生
      23時30分 現代人の誕生


「微生物の宣教師」の立場から、地球の生態系が微生物によって作られ、維持されていること、そして私たち人間はその生態系の頂点に生存していることを、まとめとしてお伝えしておきます。

話し合い
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • ミトコンドリアが細胞内に寄生するきっかけは何か。ひきつけるものはあったのか→想像するしかないが、例えば細胞壁のないバクテリアかアーキアが生まれ、えさのバクテリアを取り込んで消化するようになった。たまたま食べられた微生物が細胞内にいすわって寄生、共生となったかも知れない。取り込まれた細菌は、もはや独立して生きられる仕組みを失っているので、取り込まれた方にとっては退化といえるかもしれない。これを遺伝子の水平移動という。これに対して、親から子への受け渡しは遺伝子の垂直移動。ミトコンドリア、葉緑体の起源は、自然史を代表する劇的な遺伝子の水平移動といえる。
    • 遺伝子の水平移動が他に起こっているものはあるか→たくさんある。例えば、O157のベロ毒素は赤痢菌から水平移動したと考えられている。
    • 微生物のいろいろな形も遺伝子が決めているのか→微生物の多様な形態も、もちろん遺伝子によって決められている。
    • 微生物とそうでないものの定義は何か→個々の姿を肉眼で見ることができない微小な生物を微生物と考えたらいかがでしょう。キノコは、目で見えるので変だと思うかもしれないが、普段は顕微鏡でしか見えない菌糸で暮らしているので、微生物とされている。キノコは胞子をとばすための器官。
    • アーキアとはどんなものか→原核生物のすべてがバクテリアだと思われていたが、DNA解析の結果などからバクテリアとアーキア(古細菌といわれた時期もある)に分けられることが明らかになってきた。アーキアのほとんどは、極限環境に暮らす微生物で、高温とか高塩濃度と言った環境に生きている。
    • アーキアは地球で初めての生命体だったのか→一時期、アーキアが最も原始的な生物と考えられていたが、今では疑問視されている。おそらく、バクテリアとアーキアの分岐以前にオリジンになる生命体がいたのだろう
    • 微生物の写真はどうやって撮るのか→大きさによって違う。ウイルスは小さいので電子顕微鏡でしか、観察できない。細菌は、ウイルスより10倍ほど大きい1マイクロメーター程度あるので、光学顕微鏡でも見える。更に、10−100倍の菌類や藻類は、もちろん光学顕微鏡で見ることができる。電子顕微鏡は電子の強さで形を認識するので白黒写真になる。電子顕微鏡で大切なのは、観察用のサンプル作り。電子顕微鏡の中は非常に真空度が高いので、サンプルを乾燥させる必要がある。いかに生の形のまま乾燥して金などの粒子を蒸着するかがポイントになる。
    • 電子顕微鏡は色が出ないのに、宮道さんが発見した青い放線菌にどうしてアトラメンタリアと名づけられたのか→個々の姿は顕微鏡を使わないと見えないが、寒天上で培養した集合体は肉眼で観察できる。いっぱい集まった生育した集落はインク色に見えるので名づけた。
    • 胞子になる条件は何か→一般に、栄養状態などの環境が悪くなると胞子を作ることが多い。次の世代に命を引き継いでいきたいということかも知れない。
    • 胞子の寿命は→生物による。NITEでは真空でガラスにつめて低温で保存したり、−80度などで凍結して保存している。半永久的に保存できる。
    • どうすれば胞子は再び発芽するのか→容器を開いて、その微生物の好きな環境を与える。
    • 微生物にも絶滅の危機はあるのか→分からない。ある種の菌類は絶滅危惧種とされている。細菌の絶滅危惧種はないと思うけど分からない。
    • インドネシアやベトナムと日本の土に住んでいる微生物の違いは→暑いところにはそういう環境が好きな菌が多い、涼しいところには、涼しいのが好きな菌が多い
    • これからも新しい抗生物質は見つかるだろうか→長い歴史があるので、そう簡単には見つからなくなっている。これからは今までと同じやり方で見つけるのは難しい。
    • 放線菌が抗生物質を作る理由→自分の縄張りを守るために作っているというのは考えやすいが、真相は分からない。
    • 新しい抗生物質を見つけたとしても、耐性菌ができたらお手上げですか→病原菌と人間との戦いは続く。例えば、MRSAにきくバンコマイシンを使い始めると、この抗生物質にも耐性菌が出てきた。すると、この耐性菌に有効な物質が見つかってきている。
    • 顕微鏡を見るのが苦手だったが、今日は微生物にいろんな形があることがわかりました
    • こども向けの微生物の本を作ってください→日本微生物生態学会から、中高生向けに「微生物ってなに?」という本が、10月11日に出版されます。ぜひ、読んで下さい。
    • サイエンスカフェに参加したのは初めてだが、面白い話が聞けてよかった
    • 宮道さんが朝日新聞に出た8月13日は私の誕生日。不思議な縁を感じる。小学生以来顕微鏡をのぞいたことがなかった。土いじりを子供にさせない親もいる。こどもが理科の世界に入るようにするには、大人も興味を持つようでないと難しいと思いました
    • 北陸先端大学のサイエンスカフェをしている学生です。NPOのサイエンスカフェに参加したのは初めて。科学をわかりやすく伝えるのは大事な活動だと思います。



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