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第2回松柏軒バイオカフェ 「うま味のお話〜アミノ酸の科学」 |
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9月13日(水)、松柏軒バイオカフェシリーズの第2回。お話は味の素褐レ問山野井昭雄さんによる「うま味の話〜アミノ酸の科学」でした。
初めに、今村恭子さんと桑原さやかさん姉妹による、バイオリンとピアノの演奏。「アミノ酸は生きるときに不可欠な生命の源であるそうですね。それならば、旋律に響きの広がりは不可欠なもの。ひとつの楽器だと、旋律は動けても、響きに広がりがでてきません」という今村さんの前置きの後、バッハの平均率がピアノで演奏されました。これにグノーが旋律をつけて響きに広がりを出した「アベマリア」がピアノとバイオリンで演奏されました。
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音楽演奏 |
山野井さんのお話 |
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お話の概要 |
アミノ酸の工業生産のはじまり
東京帝国大学教授であった池田菊苗博士は科学者としての知的好奇心から、湯豆腐を作るとき昆布を敷いて煮るとおいしいことの秘密を明かそうと、大量の昆布を煮出して舌で味わう通称「ベロメーター」を駆使して分画、分析をし、遂にその本体がグルタミン酸(*)であることをつきとめた。
グルタミン酸自体は、19世紀後半、ドイツのリットハウゼンがコムギのたんぱく質の構成成分のアミノ酸のひとつとして発見していた。しかし、これがうま味のもとであることを世界で始めて明らかにしたのが池田博士であった。(*Phからして実際の型はグルタミン酸1ナトリウム)。
知的好奇心に基づく心理追求の研究であったが、うま味の本体を解明し、それを手にしたとき、これは調理料になるのではないかと考えた博士は特許を出している。
当時、二代目の鈴木三郎助は葉山で海藻からヨードを採取する仕事をしていたが、池田博士の研究の話を聞き、池田博士を訪ねた。池田博士の強い勧めもあって工業化を決断、これがうま味調味料「味の素」のスタートとなった。
アミノ酸を理解する一助として、たんぱく質とアミノ酸の関係を述べると、20種類あるアミノ酸がいろいろな順序で数百から数千個つながったものがたんぱく質。従ってたんぱく質を酸や酵素で分解してバラバラにすると20種類のアミノ酸の混合物になる。このアミノ酸のひとつがグルタミン酸である。ちなみにでん粉はブドウ糖が数千個つながったもの。
グルタミン酸はじめアミノ酸は、以前はダイズや小麦のたんぱく質をバラバラに分解して作っていたが、今は糖源をえさにこれをアミノ酸にかえる能力のある微生物を使って製造されている。丁度、糖源をえさに酵母がアルコールを作るように。
日本の発明の歴史
黒船が来航し、また、英国艦隊から長州が攻撃を受けた時、日本は圧倒的な軍事力の差に驚き、その基盤である科学技術の格差を知った。明治維新後、科学技術の振興に努め、「富国強兵殖産興業」を図った。欧米の先進技術を学び入れる、この状況の中で、わが国で発明され、工業化された数少ない例である「三大発明」として宣伝されたのが、豊田佐吉(豊田自動織機)、御木本幸吉(真珠養殖)、池田・鈴木連合(グルタミン酸ナトリウム)。
参考サイト http://www.ajinomoto.co.jp/press/2002_05_22.html
食のありかた
3年ごとに味の素社が全国の主婦を対象に実施している食についての実態とニーズ調査がある。すでに15年以上も継続しており、実に貴重な資料が得られている。この間に、メニューや加工食品の種類などは、時の流れと共に多少の変動があるが、そのベースには4つのニーズがあり、揺るぎない。すなわち、「簡」、「健」、「良」、「絆」の4つである。ひとつの食品でこの4つをすべて満足させるのが理想だが、実現は難しい。特に家族が一緒に食卓を囲み、会話を楽しむ「絆」を満足させる食品やメニューは何か。相当に難しいが、今後、「食育」との関連で、「絆」を強めるメニューや食品の開発が求められよう。アミノ酸の利用開発は、4つのキーワードのうち、「良」と「健」に関わる。つまり「良」=美味しさ、「健」=健康に有用。
たんぱく質やでん粉は無味。分子が大きく、舌にある味覚細胞に反応品から。しかし、バラバラにして小さい分子にしたアミノ酸やブドウ糖は味覚細胞と反応し、味を感ずる。アミノ酸が二つつながったアスパルテームは砂糖の200倍の甘味を発揮する。ご飯をよく噛んでいると、唾液の中のでんぷんを切る酵素がでんぷんを小さくして、味覚細胞の受容体に付いて、私たちは甘味を感じる。
アミノ酸の威力
加齢による機能低下は仕方ないが、人間は「ピンピンコロリ(PPK)」と、健康寿命の延伸が望まれる。例えばがんは遺伝子変化によるが、がん化には複数の遺伝子の変化が必要のようだ。すなわち、がん化のための複数遺伝子のワンセットが一度に同時に変化してがんになるというよりは、順次変化していくと考えると、食と環境によってその変化をとめられないか、つまり発症を抑制する、予防することが可能か、すなわちアミノ酸の機能を含めて、食事などでピンピンコロリ化に貢献できないか。
「アミノバイタル」という製品のアミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシンが中心)は筋肉の疲労回復に効く。運動選手が愛用している。筋肉増強剤のドーピングとは、もちろん違う。
グルタミンは肝機能に関わり、二日酔いしにくくなるなどの効果がある。
グリシンは早く深い睡眠に入り、また寝覚めがすっきりする効果がある。
アルギニンは肝機能効果や免疫機能を向上させる
もちろん、グルタミン酸はうま味を持ち、食品を美味しくする働きがある。
このように、アミノ酸には、いろいろな有効な働きがある。まだ、これから解明される機能がたくさん残っていると考えられている、今後、期待できる分野である。
リジンの話
ねずみの実験で、リジン欠乏の餌を与え、同時にいろいろな成分を溶かした飲料を用意すると、ねずみはリジンを溶かした水をよく飲むことが判った。このデータは生体が欲している成分は嗜好にも関与するのではないかということを示唆している。但し、これはネズミの実験で、例えば人間が食事で一番初めに手を出す食品の成分が不足しているか、否かはわからないが。
小麦のたんぱく質グルテンにはリジンの含量が少ないことが判っている。そこでパンを主食としている地域、例えばシリアで、リジンを加えたパンと普通のパンを食べた子供の、背の伸び具合や、血液検査を行ったところ、リジン添加のパンを食した方が、他のすべてのアミノ酸が良く吸収、利用されていることがわかった。
これは、「桶の理論」といって、桶を形作る板の1枚1枚をそれぞれのアミノ酸にたとえると、1枚でも短い板があると、桶の水はそこからこぼれてしまい、もっと背の高い板が他にいくらあっても1番背の低いたより上には水面はないことと同じで、1種類でも不足のアミノ酸があると、そのレベルに他のアミノ酸も揃ってしまい、それを超える量はすべて無駄になってしまう。不足しやすいリジンを少し加えただけで、他のアミノ酸も有効に働き、顕著な効果が現れた。免疫力にも効果があった。
同じように、家畜に対しても不足しているリジンを餌に添加すると、他のアミノ酸の有効利用の度合いが上がり、結果として、同じ体重を獲得するのに、与える餌の量が減る。その結果、排泄物も少なくなる。リジンは現在、豚及び鶏の餌への飼料添加物として世界的に重用されているが、餌の効果的利用と共に環境上も優しい効果を与えている。但し、牛は反芻胃中の微生物が好物のリジンを食べてしまい、牛の腸まで届かないので、現状では使えない。
シェフのお料理を科学する!
シェフのおいしい料理は長い間の体験に基づく技で作られている。すなわち五感をフルに働かせて、美味探求を行う。この匠の技とその作品の美味しさのなぞを科学の光を当ててできるだけ明らかにできないか、そして装置化できないか、味の素社の研究陣が挑戦し、成果をあげた。
たとえばホワイトソースは小麦粉、バター、牛乳から成るが、一流のシェフが作ったものと、そうでないものとの差は大きい。シェフの作品はツルリという感じでのど越しが滑らかだが、一般の素人が作ったものは、糊っぽいものや粉っぽいものなどいろいろで、シェフの作品との差は歴然としている。
匠の技はいわば暗黙知なので、作品や調理動作の解析データからこれを形式知化し、そのデータを基に装置化するプロセスで、前者は食品化学部門、後者は食品工学部門の研究所員が担当した。
では、この匠の技と、アミノ酸はどう関連するのか、ひとつのヒントとして、例えばイタリア人はチーズとトマトをうまく使っておいしいメニューを作るが、実はチーズもトマトもグルタミン酸の含量が非常に多い代表的な食材なのだ。言い換えれば「味の素」を加えなくても、チーズやトマトなどの多く含まれるうま味成分を匠に活用していたことになる。
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会場風景1 |
会場風景2 |
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話し合い |
は参加者、→はスピーカーの発言
- トマトとチーズを使うと、うま味の相乗効果があるのか→うま味には、グアニル酸(干ししいたけ。核酸系と呼ばれる)、イノシンン酸(動物系)、グルタミン酸(植物系)がある。動物と植物からだしをとるのは両方のうま味の相乗効果。但しチーズは発酵しているので、イノシン酸などは分解してほとんど無い。
- ドライトマトとトマトでうま味に違いはあるのか→グルタミン酸はこわれにくいので、共に残っていて、従って余り違いはないと思う。
- シリアをリジンの実験に選んだ理由は→シリアは動物性タンパクの摂取が少なく、コムギが中心の食事をしているので、効果を調べるのに適していた。
- ブタの飼料にリジンを加えると飼料の分量が減ったという理論を人間に応用し、リジンを足すことで、食事量が減って、ダイエットにならないか←今は、日本では栄養過多の時代。パンと野菜を食べてリジンを加えても、このバランスでは逆に栄養失調になるでしょう。ブタの飼料にリジンを加えるのは、ブタをやせさせるためでなく、生育をよくし、かつ、飼料の全量を減らすことが目的。
- グリシンを使った睡眠のための商品名は←グリナというサプリメントで通信販売をしている。
- 疲れたとき甘味がほしくなるが、アスパルテームでもよいのか→アスパルテームは、甘味は200倍でもカロリーが低いので、疲労回復には利用できない。
- アミノ酸の効用はこれからも発見されるだろうか←イエス。20種類のアミノ酸の2分子体の組み合わせは、理論的には380種類ある。これらの機能を調べたら面白いと思う。
- アミノ酸を用いた化粧品があるが、どういう働きがあるのか←一般に洗顔料はアルカリ性が多いが肌と同じ微酸性で、また皮膚の栄養になるアミノ酸が皮膚からも吸収される。
- 吸収は皮膚と口からのどちらが有効か←口からの方が速い。以前、白髪染めが皮膚から吸収されて、高熱、全身に薬疹が出る症状が出た患者が出たそうだ。皮膚からの吸収にも気をつけないといけないと思った。一般に体内に蓄積する物質には気をつけたほうがいい。
- 世界の人口増加に向けて、リジンを加えた食料を作ると、栄養が有効に使われるのに役立つだろうか。そのときは、昆布などの原料を大量に使うのか←リジンは微生物が合成するので、抽出のために特定の原料を大量に使うことはない。大事なことは産生を高めるために、微生物を改良すること。人口増加に対しては、雑草をおいしく食べる研究をしたらいいと思っている。象は草食で、あんなに体が大きくなる。シロアリのように木の繊維を食べられる生物が、飢饉には生き残れるのではないか
- アミノ酸を特定保健食品としてとりすぎて、副作用のようなものが起きたりしないのか←特定保健用食品は人体への影響を調べてデータを出して審査を受けている。
- トクホ(特定保健用食品)のアミノ酸は自然界からのものか←うま味を持つグルタミン酸は微生物の発酵でつくっても、昆布などの自然界の天然物から取り出しても同じ
- チャイニーズレストランシンドローム(CRS)は今もありますか→チャイニーズレスタランシンドロームとは、アメリカの中華料理店で食事をした人が、食べて30分後に、顔が熱くなるなどの症状が出たことがあった。中華料理をおいしくするにはグルタミン酸が必須。CRSになったといった人にグルタミン酸を入れたスープを食べてもらう試験をハーバード大学、シカゴ大学、カリフォルニア大学で試験をしたが、CRSを示すはっきりとしたデータが得られなかった。それで、FDA(米国食品医薬品局)から、GRAS(generally recognized as safe)食品添加物からの変更の必要性なしと判定され、依然、GRAS物質の位置はゆるぎない。GRASというのは、砂糖、食塩と同じように安全だと認められることを意味する。
参考サイト
食の文化センター: http://www.syokubunka.or.jp/doc/index.html
食とくらしの小さな博物館:http://www.ajinomoto.co.jp/museum/??hiroba=museum
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