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第21回談話会「食と健康のニュートリミクス」レポート

6月15日(木)標記談話会が開かれました。お話は東京農業大学客員教授荒井綜一先生の「食と健康のニュートリゲノミクス」でした。



荒井先生のお話の概要

1.医と食
中国には医食同源、ギリシャのヒポクラテスは「食を汝の薬とせん、薬を汝の食とせん」といい、医と食は一緒に考えられていたが、20世紀に入ると、食薬区分行政のために、別々になってしまった。私も以前は、「農学系の食の研究は医薬にふみこんではいけない」と教育されてきた。
鈴木梅太郎先生が米糠からオリザニン(ビタミンB1)を発見した。「これは脚気を治す特効薬といわれているが、薬でなく私たちの体に欠かせない栄養素」だといわれた。こうして、ビタミン栄養学が確立、実践された。ミネラル、脂質、たんぱく質の研究へ進んだ。
戦後、高度経済成長期になって嗜好(おいしさ)の研究が始まった。私も企業でインスタントコーヒー第一号の研究をしていたことがある。大学でもおいしさ、味、かおりの研究がさかんになり、食品化学、食品加工学という講座ができはじめた。こうして、栄養と嗜好が一緒に研究される潮流が昭和40−50年代まで続いた。

2.食品の機能
この反動から、過食、偏食、運動不足、喫煙、拒食の問題が顕在化してきた。20世紀末、生活習慣病、今はメタボリックシンドロームが注目されている。
栄養と嗜好の研究では十分でないということから、生活習慣病の一次予防のための基礎研究がはじまり、文部科学省の重点研究のひとつとして、「機能性食品科学」が始まった。食薬区分がはじめてひとつになり、医学と農学の研究者が一緒に研究をした。
食べ物の働きには、1)栄養が私たちの体に与える働き(一次機能)、2)味などの嗜好が私たちの体に与える働き(2次機能)、3)生理面(生体制御・防御面)での働き(3次機能)の3つがあり、機能性食品とは3次機能を持つ食品という意味。
厚生労働省が認可した機能性食品が、特定保健用食品となり、今は600品目以上。

3.私の研究の道のり
1968年、ダイズたんぱく質の酵素分解の研究から、たんぱく質分解酵素の逆反応を発見。この反応を使ってたんぱく質の栄養組成ができた。フェニルケトン尿症用のミルクを作った。
米たんぱく質オリザシスタチンの発見した。これにはヒトヘルペスウイルスの増殖を抑止する働きがあった。
たんぱく質分解酵素反応を利用してコメアレルゲンの低減化に成功し、酵素処理をしたファインライスとして商品化された。この低アレルゲン米は特定保健用食品第一号となり、Natureに1993年に掲載された。

4.世界の動き
2001年、ILSIヨーロッパが機能性食品の国際シンポジウムを開催した。
そこで、科学、産業、行政面からの取り組みが必要であるという討論が行われた。

  • 科学面:評価のための基礎解析(なぜ、症状のよくなったのか)
  • 産業面:製品開発と市場導入(どうやって売っていけばいいのか)
  • 行政:国際規格化と国際調整(国ごとの基準が異なっていると貿易摩擦がおこるので、今も調整が続いている)

5.バイオマーカー
バイオマーカーとは、機能性食品の効果を実際に病人に食べさせなくてもその効果を評価する指標。例えば、血液検査で肝臓の働きがわかるのは、血液の中のバイオマーカーを調べていることから。機能性食品を評価するバイオマーカーを見つけよう。
食品の有効成分の含量、血液での機能性食品の成分の量もマーカーにはならない。生体応答マーカー(あるものを食べたときに生体がどのように応答したか)はバイオマーカーになるので、これをヘルスクレームの根拠にしよう。これは、医者でなくても評価できる。
医者は中間的終点マーカー(症状がよくなったと診断する)によって病気リスク低減表示ができる。私たち農学者は生体応答マーカーを見つけて、それをもとに、機能性食品を作っている。

6.ヒトゲノムが解読されて
2001年、ヒトゲノムドラフト配列の論文が発表され、解析された遺伝情報を利用する科学の時代(ポストゲノム)になった。
食品分野にゲノム情報を利用するのが、「ニュートリゲノミクス」、安全の科学につかうのが「トキシコゲノミクス」、薬の分野への応用は「ファルマコゲノミクス」。
2003年、Nature reviewでミューラーとケルシュテンは「食べ物は直接、間接に遺伝子に作用するので、その遺伝子を解析できる。健康な人が何かを食べたあとの遺伝子を調べ、これを健康シグナルとし、体に異常が有るヒトが食べたときに遺伝子にあらわれる変化をストレスシグナルとした。このシグナルの違いを8000の遺伝子がのったチップで比較する。プレートで活性化した遺伝子、不活性化した遺伝子、どちらにも変化しない遺伝子を調べる。22、000の遺伝子ののったチップを使えば、食物の影響を調べられる(網羅的追求)

7.ニュートリゲノミクスの国際情勢と日本の現状
ウィスコンシン大学のプローラ 「老化抑制に必要なのはカロリー制限」であると、マクロアレイを使って証明した(1998年)。欧州と米国にニュートリゲノミクスの学会ができ、ふたつの流れになっており、日本も入って3極になりたいと思っている。
日本では、「食品中の非栄養性機能物質の解析と体系化に関する研究」が文部科学省科学技術振興調整費(10億円)によって行われ、物質科学や化学の研究者と生体科学の研究者が共同研究を行った。
非栄養性の機能物質のデータベースを作成した。例えば、ポリフェノールの種類とそれを含む食品群を整理し、ポリフェノールを含んだ食品のピラミッド図を作った。

8. 食品の相互作用
食品の成分間の相互作用(相殺効果、相乗効果、予期せぬ効果など)の研究はまだほとんど行われておらず、網羅的評価を行うにはゲノミクスが必要である。
例えば、ダイズイソフラボンとオリゴ糖には相乗作用があって、骨鬆症を予防する。βカロテンにはアレルギーをおさえる効果がある、複合カロテノイドの方が単独のカロテノイドを複数とるよりも、肝臓がン発生の予防に効果がある、など。実際にはいろいな食物を摂取しているので、ゲノミクスで相乗作用の実態がわかり、解明ができると、実際の食物摂取にあった研究ができる可能性がある。

9.ニュートリゲノミクスで見えてきたこと
次のような現象をニュートリゲノミクスで解明できるようになり、糖代謝、脂肪代謝のマップを考えることができるようにり、理由を究明できるようになる。それは人の体をシステムで捉えることにつながる。例えば、ダイズたんぱく質を長期摂取すると、コレステロールが下がる、セサミンにはアルコール代謝促進作用がある(セサミンはアルコール脱水酵素でなく、アセトアルデヒト脱水素酵素の働きを助けるので、悪酔いを軽減できる)、ココアのポリフェノールの抗肥満効果(ポリフェノールは肝臓での脂肪酸生合成や脂肪酸の輸送系を抑制する)、フラクトオリゴ糖が腸内の菌に変化を起こし、腸管免疫系を改善する(免疫増強、アレルギー低減化)

10.味の研究
ミラクリンは、すっぱいものを甘くする。私が発見したネオクリンはもっと強力。マレーシアの植物の種の中のたんぱく質で、レモンでも甘いオレンジのように感じる。甘さは砂糖の500倍甘さ。理由は、ネオクリンはヒト舌の甘さの受容体に働くため。ヒトの甘味受容体の遺伝子をヒトの細胞を使って培養し、ネオクリンの研究をした。ネオクリンに酸性の水素イオンを与えると、ネオクリンの二つのサブユニットが開いてヒトの甘味レセプターにとりつくことがわかった。糖尿病患者用の甘味料として研究をする上で、遺伝子情報を有効に利用できた。

11.まとめ
今は食物を与える効果を高所大所から研究することができる。疫学研究では、統計学、疫学が、物質科学の研究では農学が、生体科学では医学が、ニュートリゲノミクスでは、食品化学が、それぞれに融合・連携してこれからも研究が進むと思う。

お話しされる荒井先生 これがマイクロアレイです
参加者そろって


質疑応答

  • は参加者の発言、→はスピーカー
    • アレルゲン低減米の製造が中止になったそうだが、これに続くものは?→代わる米があるが、作り方は加熱などで異なる。他に低アレルゲンミルクがある。米、ダイズ、麦はそれぞれに別々に研究していくしかない。
    • コムギタンパクを低減したパン種の話を聞いたが→私の研究室の助手だった渡辺先生が学芸大学教授時代にこの研究を熱心に続けた。パンはうまくふくらまないが、クッキー、ウエハースでは実用化できている。
    • マイクロアレイの評価はどの時期で行うのか→2ヶ月食べ続けて効果がでるものと、セサミンのように3時間で効果がでるのもがあり、時期はものによって異なる。
    • 漢方薬の効き方をマイクロアレイで調べられないだろうか→中国でそういう研究が進んでいる。漢方の経験で得られてきた処方を科学的に評価したいということ。ハーブが悪玉コレステロールに有効であるということが、この方法でわかった。
    • 医食同源で食物を考えると、食物のとりすぎでも、薬のように副作用を考えないといけないのではないか→ダイズのイソフラボンの取りすぎなど、過剰摂取も安全性の問題になる。この他に食品の摂取における個人差も考慮しなくてはならない。このような差はSNPsのせいで現れ、栄養SNPsという。食塩を少しとっても血圧があがる人もいるし、影響しない人もいる。マイクロアレイは使い捨てで1枚20万円。まとめ買いをするなど苦労している。
    • ニュートリゲノミクスはダイエットと結びつくと大きなビジネスになるのではないか→米国のベンチャー企業は採血し肥満関連遺伝子を調べ、食べるとよい物、食べてもダイエット効果がない物を教えてくれる。唐辛子を食べるとだれでも代謝が促進されてやせるが1割くらいは唐辛子を食べてもやせない。パーソナライズドニュートリションとしてビジネスになっている
    • 個人差はサプリと薬の相互作用にも現れるのか→遺伝子の差は生まれながらにあるものと、後天的に出てくる(環境影響)ものがある。サプリと薬の組合せの研究は難しい。脳血栓の溶解剤を飲んでいる人は納豆を食べないように指導されるのは、薬と食べ物の組み合わせの問題。
    • 脳梗塞を予防するのに、納豆は夜食べろというが→夜、血圧が高くなる人がいて、その人は夜、血流が増えるので納豆を食べないほうがいいと思う。今の話と逆ですね。
    • チョウセンニンジンはタンク培養でつくると薬効がでないというが→チョウセンニンジンの効果は、植物体の全成分によっている。タンク培養だと落ちる要素があるのではないだろうか。
    • チョウセンニンジンをシステムバイオで捉えることができると、タンク培養が可能になるかもしれない→培養細胞を評価ができるようになると、品質を示すよい指標になるはず。
    • チョウセンニンジンはチベット産がいいと聞いたことがある→環境の影響を受ける要素があるのではないか
    • ウコンも南の土地でできたものでないとだめだと漢方でいわれている。栽培場所の影響はあるようだ→チョウセンニンジンの全遺伝子は変わっていないでしょうが、環境で変わる部分ができているのだろう
    • 遺伝子組換え作物に反対している消費者も多い。花粉症緩和米をどう考えられますか→遺伝子組換え食品の受容には評価方法の確立以外ない。ヒトに食品として与えるのは、摂取しすぎが心配。マイクロアレイで組換えダイズと非組換えダイズで差がないことを示す最初のスクリーニングに有効であると思う。この方法で差を徹底的に見ていくしかない。農水省は組換えダイズのレクチン(血液凝集)が増えていないことをマイクロアレイでみている。最後には、メタボロームで網羅的にみるのが安全性の評価として重要。毒性があるかもしれない、という部分をマイクロアレイで調べる食品総合研究所では、この方法で花粉症緩和米を扱っている。
    • 花粉症緩和の機能を持たせた米は医薬品で扱われるのがいいと思っている→臨床試験をするのには、ワクチンのような不安を感じる。食品として出してしまうと、食べ過ぎでアレルギーを誘発するかもしれない。病者食品として患者に与えるのがいいと思う。
    • 以前の談話会では医薬として扱うべきという意見があった。どんな戦略で扱っていくのがいいのか→減感作療法にも個人差があるはず。厚生労働省は簡単に許可しないと思う・。
    • 食薬区分の縦割り行政が今も続いている、安全に消費者の手に届くようにしてもらいたい
    • 産業界でも、機能性食品で健康になっては薬が売れなくなるという製薬会社の圧力があったりするようだ。→米国ではニュートラシューティカル(栄養医薬)といって、健康食品の錠剤があり、食と薬の両方から文句がきている。日本、欧州にはこれはないが、日本では、特保が錠剤にしはじめている。その例がコエンザイムQ10で薬の枠がはずれたとたん、食として扱われている。
    • ニュートリゲノミクスの認知があがるといいと思う。
    • ストレスシグナルの発現をいつみるのか。大量のサンプルが必要にならないか→効果を現象で抑えておいて、脂肪やコレステロールの変化が認められる段階から、チップで調べる。
    • プローラの説は、昔、学生時代に栄養学で「腹八分目」と習っていたのと同じと考えていいのか→プローラは、酸化障害が老化であるといっている。抗酸化物質の摂取が有効とされている。カロリーをとると、消化が進み、すなわち酸化が進むので、低カロリーを推奨しており、これを遺伝子で調べたことが優れた研究だった。



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