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バイオカフェ(千葉県立現代産業科学館)レポート「家庭の衛生」 |
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6月11日(土)、昨年に引き続き、千葉県立現代産業科学館で開かれた「科学の祭典」にお邪魔し、バイオカフェを開きました。お話は小島みゆきさん(花王生活者研究センター)による「家庭の衛生〜毎日、元気にくらすために」でした。はじめに、高橋はるかさんのバイオリン演奏があり、モーツアルトのメヌエット、G線上のアリアなどが演奏されました。
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外は雨でも会場にはバイオリンのやわらかい調べ |
高橋さんのバイオリン演奏 |
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小島さんのお話 |
1. ばい菌って何
ばい菌は漢字で「黴菌」と書き、これは黴(かび)や細菌という意味。大腸菌は細菌に属し、水虫の原因になる白癬菌は黴に属する。ばい菌というと汚いもの、というイメージだが、納豆、チーズなどの発酵食品つくりに役立っているのも細菌や黴の仲間。
届出によると、食中毒の2−3割が起こっている場所は家庭で、欧米では7-8割が家庭から発生していると推測されている。その原因は細菌、ウイルス。
この細菌、カビ(真菌)、ウイルスを、生物として比べてみると、最も高等で植物に近いのは黴、最も下等で生きた細胞に寄生しないと生きられないのがウイルス。
細菌も、黴もウイルスも微生物という呼び方をすることができるが、微生物の研究は進んでいるとはいえ、わかっていないことも多い。たとえば、ノロウイルスが食中毒の原因だったということも最近わかったばかり。
微生物の中で、細菌は乾燥に弱いので、衛生上、条件を整えると絶ちやすいし、寒天培地で培養できるので研究もしやすい。しかし、ウイルスは生きた細胞に寄生するので培養が難しく、設備が整った実験室でないと研究も難しい。従って、わかっていないことも多い。
2. ばい菌はどこにいるの
家庭の中で黴や細菌のいる場所の調査をした。ウイルスは研究が難しいので、その居場所もよくわかっていない。
一番、細菌が多いのは台所。一般的にはトイレが多いと思われていたが、乾燥部分が多く細菌はあまりいなかった。台所は濡れた所や道具が多いので細菌も多いと考えられる。もともと、細菌は食物についてくるので、調理する台所に細菌がいるのは当然。まな板などに菌が広がっていくことが問題。
黴は空気中にいるので、これを絶つことは不可能で家中にいる。特に多いのは玄関(靴などについてくるのではないか?)。
入ってきた菌や黴が、家の中で広がらないような注意が必要。
家の中のいろいろなところから、スタンプでばい菌や黴を集めて、どこにどのくらいいるかを調べた。この研究から、きれいになった食卓を不衛生な台ふきでふくことで、大腸菌群(不衛生な環境の指標とされている)が移って増えてしましまうことなどがわかった。
3. ばい菌はどうやって体に入ってくるの
家族が食中毒になったときに、直接食べたものを疑うことが多いが、実際には、手や道具などを介して広がった菌が原因になることもある。例えば、生たまごに菌がついていた場合、オムレツを作るときにこぼした溶きたまごを台ふきでふき、その台拭きでふいた食卓に落とした食べ物を食べて、初めにたまごにいた菌が体に入ることがある。生の食品には細菌がついているので、調理中の手や道具の除菌が大事!
4.ばい菌ってどうやって伝わるの
保健室に風邪でやってきたときに、自分が風邪を引いた原因を聞いたところ、友人や家族が風邪をひいていた、雨で服が濡れてしまったなどの理由があったが、最後に、空気感染でうつるから仕方ないと答えた生徒が多かった。
クイズ「次の3つの場合、どれで風邪がうつるでしょうか」
- 風邪を引いた人に接した
- 風邪をひいた人と同じコップを使った→会場はこれが一番多かった
- 風邪をひいた人と金網の仕切りのある部屋で3日暮らした(アメリカの実験の報告がある)
会場で一番多かったのは「風邪を引いた人と同じコップを使ったとき」。風邪がうつるのは、飛沫と接触による感染。空気感染はない。菌やウイルスが飛沫や接触で感染するのは、かなり近い範囲にいた場合だけだと考えられる。
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小島さんのお話 |
暗箱を使って実験 |
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ペットボトルは手渡されたときに移ったクリームで光って見えた |
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「実験」
1番目の人が手に蛍光で光るクリームをつける。その人の持ったペットボトルを2番目の人が受け取る。はじめの人の手、ペットボトル、2番目の人の手に紫外線を当てると、光る面積は減っていくが、それぞれが光ることが確認された。このように、ウイルスや細菌などは、手を介して移っていくことがわかる。
かつて、ある高校のバスケットボール部員が大事な試合の前にインフルエンザでばたばた倒れたことがあった。同じペットボトルでスポーツドリンクを飲んだり、同じボールをさわることから、ウイルスが広がったと考えられた。そこでは、翌年から同じペットボトルか飲まないように注意するようになった。
アメリカでは、手洗い指導をした学校と指導しない学校の欠席人数を比較した研究報告があり、それぞれ、2.3人、3.4人と、欠席者は増えている。
5.どんな手洗いをすればいいのか
日本では厚生労働省が大量処理施設用のマニュアルの中で、1分間の手洗いを規定しているだけ。普通の人にとって1分はとても長い。実際にトイレで調査したら、石鹸を使わない人の手洗いは平均2−3秒。石鹸を使う人は石鹸4秒、すすぎが6秒のあわせて10秒だった。
「高校生100人の手洗いの調査」を行ったところ、最短は0.7秒。最多は2秒で、片手ずつ水に通す人と、両手で素早く洗う人がいた。そのうち、石鹸をつけた人はたったの4名。手に残ったばい菌を調べると、同じ2秒でも片手ずつでは汚れは落ちないが、こすりあわせるだけでもそれなりに落ちる。
石鹸を使わなくても、水洗い10秒はそこそこの効果があるが、その時間でも長く感じる。しかし、石鹸をつけると、ヌルヌルがとれるまで洗うので、10秒手洗いも簡単。残っていた大腸菌群ばい菌は1個だった。
家庭では、石鹸をつけて10秒程度洗えば、まあいいのではないかと考えられる。また、手洗いの後に髪の毛を直す人がいるが、髪の毛をさわると、また菌がついてしまうことも覚えておくとよい。
洗えていない場所は指の間。指先、手のひらと指の間、指の間が洗えていれば、まあいいでしょう。手首を洗えば完璧。
風邪の予防には、ウイルスは手から手にうつるものだと認識し、飛沫感染を受ける距離にいくときには注意が必要でしょう。
6. 除菌と殺菌の違い
家庭用品では、「除菌」という表示しかきないので、消費者は菌を殺す度合いを表示からは判断することができない。医薬部外品や、医薬品はたとえ同じ原料をつかっていても「殺菌」「消毒」などの表示ができる。まな板など、食物のばい菌を介しやすい道具の消毒には、次亜塩素酸が入っているものと表示されているものが効果が高い。現在のところ除菌の基準はないが、今いる菌の数が100〜1000分の1以下に除菌という判断がされることが多い。
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質疑応答 |
は参加者の発言、→はスピーカー
- 私は手洗いが嫌いだったが、結婚して帰宅したら手を洗うように教育された。そのせいか、結婚してから風邪をひかなくなったようだ→手洗いの効果が現れた好例ですね。
- 除菌は菌数が100分の1以下になることだといわれましたが、初めから多く菌がいたときの100分の1と、少なかったときの100分の1では意味が違うのではないですか→鋭い質問。菌の強さにもよるし、この基準には問題があるとされていても、まだ決められていないのが現状です。
- 手を洗うときに、蛇口に水をかけるように指導されたけれど→蛇口から、食中毒の菌がひろがったと考えられる事例があり、手を洗い始めるときに蛇口に水をかけるのは効果があると考えられる。
- 食べ物は落としても3秒以内なら食べても大丈夫だという「3秒ルール」は本当ですか→大事なのは落ちた場所。3秒という時間は根拠がないと思う
- 仕事柄、30秒手洗いは家でも実践している→家庭では、調理前に石鹸で洗う人が意外と少ない。家庭では、生の肉や魚に菌がいるので、はじめに生野菜などを切ってしまい、後から生肉を扱うように順番に気をつけてほしい。まな板や包丁は使ったら洗剤で洗う。消毒で効果があるのは天日干しと熱湯消毒、除菌剤(次亜塩素酸がふくまれているもの、プールの消毒のにおいがする)の使用。
- 天日干しが効果的なのは、よく乾燥するから?→ばい菌は自分のまわりに水分を閉じ込めるバリアをつくるので、外からみて乾いても菌が生きていることがある。天日干しは乾燥と紫外線で二重の効果がある
- 風邪をひかないようにするには衛生的な環境より、丈夫な体ではないか→病原性の高い菌がくれば、丈夫でも感染してしまうので、やはり衛生には気をつけてほしい
- ある程度雑菌がいるほうがいいのではないか→微生物はあらゆるところにいるので、心配されるような無菌状態を作ることは不可能と考えていいと思う。
- 大腸菌群は大腸(腸管をとおって出てくる菌が多い)にいるので、その名前がついた。大腸菌にも非常にたくさんの種類があり、大腸菌群の中でも病気を起こすようなものはそんなにいない。
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