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第20回談話会レポート「男と女は遺伝で決まる?」 |
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4月28日(金)、談話会が開かれました。慶應義塾大学医学部小児科学教室助教授で、小児科診療副部長の長谷川奉延先生が「男と女は遺伝で決まる?」というテーマでお話を約1時間、その後の1時間は、参加者17名を交えて、活発に話し合いをしました。
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長谷川先生のお話の概要 |
お話に先立って、先生は、小児科の中にいて、遺伝のこと、ホルモンの病気ことに関心を持ち、診療、研究、教育(学生および若い医者を教育すること)が仕事であり、また、興味を持って研究をしていることについて一般の方に情報を正しく理解していただくことも大事な仕事と思っていますと述べられました。
今日伝えたいことは、ヒトの性(男性か女性)あるいは動物の性(オスかメス)は、遺伝と環境で決まるということ
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長谷川先生は優しく語る小児科のお医者様 |
会場風景1 |
- お話に出てくるKey wordの説明
- 遺伝
遺伝とは、生殖によって親から子へと伝わる現象あるいは形質
血液型、顔つき、身長などは遺伝するが、妊娠中の風疹ウイルスが子供に感染するのは母子感染であって遺伝ではない。血液型は遺伝のみで決定するが、顔つきや身長は、遺伝と環境の両者が関与する。
- 遺伝子
遺伝子とは、遺伝を規定する因子で、ヒトでは22,000ペアある。ヒトは60兆個の細胞でできているがいずれの細胞にも22,000ペアの遺伝子がある。
- 染色体
遺伝子は46本(23対)の染色体という箱にパッケージされている。
- ヒトには次の6つの性があると考えています。
| 男性 | 女性 |
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染色体 | 46,XY | 46,XX |
性腺 | 精巣 | 卵巣 |
内性器 | 副精巣など | 子宮、卵管 |
外性器 | 陰茎、陰嚢 | 陰核、陰唇 |
Gender identity | 男性 | 女性 |
法律上の性 | 男性 | 女性 |
胎生(お母さんのおなかの中にいる赤ちゃん)初期の性腺、内性器および外性器のおおもとは男女同じで。
Gender identityとは自分を男と思うか女と思うかということ。
通常のヒトは、この6つの性はすべて一致(すべて男あるいはすべて女)する。しかし、女であるが外陰部のみが男性に見える病気のヒトとか性同一性障害のヒトでは、6つの性のすべてが一致しているわけでない。
- 染色体の性は遺伝で決まるか?
染色体の性は遺伝で決まる。受精すると染色体は、女性のX性染色体が男のX性染色体と対を作れば女となり、男性のY性染色体と対を作れば男となる。
- 性腺・内性器・外性器の性は遺伝で決まるか?
性腺・内性器・外性器の性は遺伝で決まる。受精卵から妊娠4-8週までの未分化性腺までは、男女の区別は全くない。将来の性腺(精巣又は卵巣)のおおもとは同じ未分化性腺である。精巣ができるとアンドロゲンと抗ミューラーホルモンが働く(破線で示す)ことにより内性器と外性器は男性となる。二つのホルモンが働かない場合(点線で示す)には内性器および外性器は女性となる。もともと女性になるべき内性器及び外性器のおおもとにホルモンが働き、ねじ曲げることにより男となるようだ。性腺、内性器、外性器は全て遺伝子の働きによって男女が決まる。
一方、性腺・内性器・外性器は、環境の影響を受ける。例えば、内分泌撹乱物質がその代表である。
内分泌撹乱物質は、プラスチックで作られた食器、哺乳瓶、ラップなどに含まれる。量は極めて少ないが、我々は、日常生活で必ず内分泌撹乱物質に暴露している。
1960年代に、流産の予防薬として使われたDES(ジエチルスチルベストール)という内分泌撹乱物質は、母体から胎児に移行し、生まれてきた男の赤ちゃんの外性器の女性化が数%(推測)の頻度で発生した。
《付記:内分泌撹乱物質》動物の体内に取り込まれた際に、その生体内で本来正常に営まれるホルモン作用に影響を与える外因性の物質(ダイオキシン、ビスフェノールA、フタル酸エステル、DESなど)
- Gender identityは遺伝で決まるか?
Gender identityは、環境と遺伝で決まる。
- 環境が重要であるという例
オーストラリアで、法律上女性であった子を、両親は生まれたときから男として育ててきた。この子は、13歳の時(2004年)、自分は男である。法律上の性が女性のままでは自分には耐えられないといって男として認めるように訴訟を起こした。裁判所はこれを認め、法律上の性を男性に変更した。本人は手術をして性転換をした。
この例は、生まれた後に、男として育てるという環境がGender identityに影響を及ぼしたと考えるのが妥当である。
- 遺伝による例(John-Joan case)
胎児期の脳に精巣からのアンドロゲンの暴露があるかないかで、Gender identityが決まるという考え方。
Johnは、男の子で、包茎の手術をしたときに、外科医が誤って陰茎を切断してしまった。両親は、男として育てることは無理と考えて、精巣も摘出し、女の子(Joanと名を変える)として育てた。思春期を迎えたとき、Joanは、自分は男であると主張し、Johnと名前をかえた上で法律上の性を男性に変更した。その後、女性と結婚し、男性として生きた。
この例は、胎児期の脳が精巣からのアンドロゲンにより男性化された、即ち、遺伝によると考えると納得がいく。
- 動物の性はどのように決まるか?
- 動物における性とは
定義:精巣(精子を作る)があるのはオスであり、卵巣(卵子を作る)があるのはメスである。
- 遺伝的 vs 環境的
性が遺伝で決まる場合と環境で決まる場合を以下にお話をする。
- 遺伝的な性の決定
遺伝的に決まる場合は、受精した時点で性は決定している。
ヘミ接合性―オスの例 ヒトXYはオス(ホモ接合性YYはメス)
ヘミ接合性―メスの例 トリZWはメス(ホモ接合性ZZはオス)
常染色体と性染色体の比 ハエ オス:112233X & 112233XY(Xが1つ)
メス:112233XX & 1122XXY(Xが2つ)
- 環境的な性の決定
受精後(発生開始後)に性が決定する。
- 物理・化学的要因
孵卵温度依存性の例として爬虫類があげられる。卵から殻を破って雛が出てくるときの温度が高くなると、トカゲはオスに、カメはメスになる。地球温暖化で気温が2℃上がるとカメは全てメスになって、全滅してしまう危険性がある。
孵卵pH依存性の例としてカダヤシ(熱帯魚)があげられる。卵から子が生まれるとき周りの水のpHが低いとオスに、pHが高いとメスになる。人為的にオスとかメスを作ることができる。
- 個体におかれた社会状況
雌雄同体の例として、カタツムリやウミウシがあげられる。
非同時雌雄同体(性転換できるタイプ)で雌性先熟(メスがオスになる)の例としてベラ(魚類)があげられる。メスのうちで一番大きいベラがオスになる。雄性先熟(オスがメスになる)の例としてクマノミ(魚類)があげられる。
双方向性の例としてダルマハゼがあげられ、オスがメスになることも、メスがオスになることもある。
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会場風景2 |
参加者全員で |
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質疑応答 |
Q 性の決定に関して進化との関係がありますか
A 進化の過程でオスメスができたようにも思えます。しかし、種の保存を考えると必ずしもオスとメスの区別があることが有利かどうかはわかりません。
Q 男が高級か? 女が高級か?
A 考え方によるので、いちがいにどちらが高位と決めることは難しいです。
Q 性を決定している遺伝子はY染色体上にありますか
A 精巣を作る遺伝子はY染色体上にあります。内性器や外性器を作る遺伝子は別の染色体上にあります。
Q ヒトの体外受精で何らかの方法で男女の産み分けができますか
A 産み分けはできない
Q それでは精子の重さの差で男女の産み分けができますか
A やはり難しいです
Q 男と女がわかりにくいときには、法律で性を決めなくても良いのでは
A 日本では、法律上、男女のいずれであるかを決めなくてはなりません。
法律上へ決定するのにどちらがハッピーであるか、あるいは、こちらがless unhappyを考えるかが第一と思います。
Q 外性器異常の頻度は?
A 正確な統計データはないが軽いものを含めると1/1000ぐらいか。内分泌撹乱物質の影響で男性の外陰部が女性化しているケースが増えていると考えられている。
Q 子供を教育するのに重要な時期がありますか
A オオカミ少年の例がありますね。子供の教育には、時期と環境の両方が大切ですね。
Q 生物はメス化しているか
A 内分泌撹乱物質の暴露により生物はメス化してきていると考えられている。
Q パソコン作業など電磁波の影響を受け女の子が生まれる頻度が高まるか
A あまり影響はないと思う
Q 男と女の比率について
A 一部を見れば男と女の比率に偏りがあるかもしれないが、広く見れば偏りはない
Q 異常な子供が生まれた場合どのように対応されていますか
A 私の勤める大学病院では、病態を考えた上でのチーム医療(小児内分泌科、臨床遺伝科、産婦人科、泌尿器科、小児外科、形成外科)を行っています。
Q カウンセラーはいるのですか
A 臨床心理士がいます
Q 法律上の性は男と女以外はあるのですか
A 欧米では、男、女、その他というように第3の性を認めているところもあります。
Q 戸籍上の性に意味がありますか
A 人口の男女比を算出するときなどは、戸籍上の性があると正確な計算ができます。
Q 子を育てる親について思うことがありますか
A 子供は両親の影響を最も受ける。できちゃった結婚では、親としての心の準備期間が少ないので責任観が低い傾向があるように感じています。
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