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第17回茅場町バイオカフェ「アジアの村にみる農と安全」レポート

4月14日(金)、バイオカフェをひらきました。
スピーカーは東京農業大学教授の夏秋啓子さん。タイトルは「アジアの村にみる農と安全」でした。演奏は、澤田新さんと小川真理絵さんによるクラリネットの二重奏。グリーンスリーブス
海の見える町(魔女の宅急便より)、ユーモレスクなどの親しみのある5曲が演奏されました。

クラリネットの二重奏 珍しい写真をたくさんみせてくださった夏秋先生


お話の概要

私は作物保護の勉強をしているうちに、熱帯の作物の病気の研究をするようになり、アジアの村の人たちと接するようになりました。4つの国を紹介しながら、私たちの日本の農業や食べ物のことを一緒に考えましょう。

スタートしたばかり、でも伸びている国“ベトナム”
稲の輸出国としても伸びているベトナムですが、キャベツ、ネギ、トマトなど、いろいろな野菜も作っています。今、注目されているのはクリーンベジタブル作り。クリーンベジタブルとは重金属や寄生虫が入っていず、畑には化学肥料が蓄積されていない、見た目がよい野菜のこと。逆に言うと、この基準を満たさない野菜が多いということにもなる。南部では有機栽培をしている村を訪問したが、ベトナム国内には有機野菜のマーケットがないので、農家は手間の割りに利益がなく、意欲はあまり高くない。一方で、有機栽培で差別化し、ホーチミン市のホテルや航空会社のケータリングに、高く売って利益をあげている会社もある。害虫の被害を小さくするために、粘着テープを使ったり、多数の海外の種子のなかから病気に強い品種を選択したり、と工夫している。会社の創立者は、「自分のやり方を見て、よいと思った農家がまねることで、よい方法は広まっていく」という。さらに、ウイルスに感染していないジャガイモの苗の作り方を習い、特別な施設もない場所で苗をたくさん作って売っている農家もある。一般に、ベトナムの人はとても働き者で、将来、大きく伸びていく国であると感じる。

すでに離陸した国“タイ”
村に生活の様子の聞き取り調査に行く。東京農業大学では、私のような野菜の病気の研究者、女性問題の専門家、社会科学者など色々な分野の研究者がチームを作って村に入る。
他の研究者が、貯金などの生活の立ち入ったこと(!)までも聞いてくれるので、野菜の病気について知るだけでなく、いろいろな研究者との質疑応答を総合して、農家の考え方、さらには、防除に対する取り組み方、特に防除コストなどをよく理解できる。
日本や欧州への輸出向けのアスパラガス、ベビーコーンを栽培している農家へ行くと、虫が来ないように神様に花を供えている。その様子をみると、無農薬で栽培するのに苦労していることがわかる。農薬の代わりにニーム(マメ科)を煎じたもの、カタツムリなどをつぶして瓶で発酵させたものなど身近な素材を使って工夫いる。成分分析をすると、その中には日本で使えるものもあるかもしれないし、安全だといえない成分があるかもしれない。
日本人用のアスパラには油紙のキャップをかぶせてまっすぐになるように育て、眼のよい若い娘さんたちが、長さをまっすぐにそろえて出荷する作業をしている。日当は約450円程度と人件費が安いが、アジアにはもっと人件費の安い国もあり、タイは国が主導して有機栽培の認証制度をで他の国との差別化を図っている。

無農薬バナナを輸出している“フィリピン”
フィリピンやマレーシアは輸出用のバナナを栽培している。輸出用はきれいにして出さないといけないので、花が咲くと袋をかけて適期に収穫。切り口から出る粘液で実が黒くならないように、プールで洗って出荷している。
フィリピンのネグロス島の村では困窮した経済を助けるため、日本のNPOなどが無農薬バナナを買い入れている。無農薬を掲げたために不自然な栽培をしないように、裏山などで農薬を使わない粗放栽培で栽培されている現地で2番目に人気の品種のバナナを輸出用としている。
フィピンからの留学生が粗放栽培のバナナが少しでも高品質で日本に到着するよう、栽培法や洗浄法について研究してきた。現地の知恵、日本の科学の成果を留学生が結びつけ、アジアの農業に貢献できるような研究ができればと願っている。

経済が進むと農業も進む“インドネシア”
インドネシアはホテルにきれいな野菜をおろすなどのマーケットがあり、経済も進んできている。経済が進むと農業の形も進むのは、どこの国でも同じだ。しかし、農村に行けば、竹を割ってプランター代わりにして苗床をつくり、軒下におくなどの知恵を働かせて丈夫な野菜作りを行っている。一方、農家の生産費の中で防除費はとても多い。農薬の散布回数も多いが、それが、農薬の品質のせいなのか、病原菌や害虫に抵抗性がついているのか、あるいは、熱帯の気候のせいで農薬の効果が十分に発揮できないのかはわからないが。
ウイルス病は農薬では防除できず、どこでも問題となっている。日本デルモンテが、トマトの植物ワクチンを開発。トマトの苗に弱いウイルス液をスプレイし、細かい粉をかけて、粘着テープをはずしたコロコロローラーで圧迫して傷をつけて、接種する。
インドネシアの農家に教えたところ、研究者は関心を示し技術は伝わったが、農家には広まっていない。どのような品質のトマトを作りたいかが、日本とインドネシアではちがうことも大きい。
タバコのウイルス病防除にもこの技術が利用できないかと思っているが、世の中は禁煙志向なので、関係者から難しいのではないかといわれた。とはいえ、タバコのウイルスを抑えることでトマトなどのほかの作物への拡大を抑えるという利用方法もあると考えている。

安心と安全は一緒ですか
安全でも心が安心しないことがある。例えば、公園は安全でも母親は安心できないから、公園遊びに付き添う。お金があればいろいろなものが買えるが、お金で自分だけの安全や安心を買う、そういう日本人のくらしをどう考えればいいのか。安全と安心が合体するようなハートと頭を持っていきたいと思う。


会場風景1 会場風景2


質疑応答
(・は参加者、→はスピーカーの発言)

・日本が農薬の基準をかえると、アジアの国にはどうなるのか→東南アジアの国にもそれぞれ基準がある。印象では、農薬はかなり使っている。カンボジアやミャンマーは貧しく余り農薬を使えない。例えば、インドネシアは雨季には3日に1回かけているが、安い農薬なので効かないのか、散布しすぎて耐性ができ効かなくなっているのか、本当に3日に1回の散布が必要な気候なのかはわからない。大量に散布しても残留しているということではない。散布した袋を立てた棒にかぶせて見えるようにしている農家もある。日本は農薬を使わないことがいいことだと思っているので、日本とは違っている。
・袋を見せているのはなぜ→農薬を使えるくらい豊かであることを誇示する農家もある。
・日本の農家では、袋を立てて「農薬散布中につき立ち入り禁止」を示すことはある。
・コロコロをするのは、日本の麦踏みを思い出しました。麦踏みとは圧迫することの意味が異なっている→デルモンテではスプレーガンで大量に接種している、評判がよく、よく売れている。
・トマトのワクチン接種の時期は→苗の大きさは葉が2−3枚の時期。
・インドネシアでは、どうしてきれいなトマトが売れないのか→ほとんどがソースになるので、つぶしてつかっている。マクドナルド用のトマトには使えるかもしれないと思う。研究者は先端技術が好きだが、途上国には売れ先の見える技術でないと役に立たない。
・私は新潟出身で、実家は農家。見ばえがよくて危ない野菜と、見ばえが悪くて安全な野菜と皆さんはどちらを選びますか。
・曲がったきゅうりはいいが傷がついたきゅうりは嫌。
・レタスに傷がつくと、植物が虫に食べられたことを植物体のほかの部位に知らせるための揮発性物質を分泌したりする。傷にできる物質には危険なものがあることもある。
・新鮮なときに食べきるのは無駄をなくすため、栄養価が減る前に食べるため意味がある。
・あなたにとって安心な野菜はどんなものですか→普通に80−90歳まで生きられればいいと思っている。いろいろな国に行くことがあり、危なそうなものを食べることもあるが、誤差の範囲だと思う。多種のものを食べて偏らないこと、危ないと思った物は減らすことがいいと思う。私たちはウイルスのついたものも昔から長く食べてきて生きてきている。「長く食べてきたもの」も安心の基準になっている。
・無農薬で育てた野菜は安心できる。
・デパートの野菜に作っている人の写真がついていて、本人が説明していた。その人と言葉を交わして、安心した気持ちになった。
・見栄えがいい野菜は安心できる。
・生産者とのつながりが感じられるものがいい。
・世田谷に住んでいて、近くの農家のおじさんがつくっているのでいいと思って買っている。
・自分で手にとって選べるのがいい。袋ものは防腐処理をしていると聞いた→袋に入っているから、防腐処理をしているということはない。
・袋に入っていると、ひとつひとつがよく見えないので不安。
・輸入よりも国産を選ぶ。国産は運送距離が短く新鮮。農家の人の写真があるのもいい。
・国産を買うと自給率アップにつながるような気がしていたが、今日、一生懸命に東南アジアの人たちが野菜栽培をしていることを知り、東南アジアの野菜を食べたほうがいいのかなと思った→国に東南アジアの野菜の研究費を要求すると、国産を脅かすようになるという。実際にアジアの国々ではオーストラリア人などが指導して、日本人のことを考えないで栽培しているので、それなら、私たちが関わってもいいと思うのだが。例えばタイから輸入されているピーナッツもやしのように日本と競合しないものならいいのではないか。いろんな野菜がいろんなところから、それぞれの旬の季節に輸入されるのならいいのではないか。
・新鮮で農家の顔が見える野菜が安心できる。日本の農家を守りたいと思う→日本と競合しない方法や品種を考えないといけないと思う
・東京農大の学生は農業をするだろうか→日本には就農する機会がないので、海外の農家の指導に行く学生がある。日本は農家の人数が広い土地で少ない人数で作る方向。必要なのは人より土地。日本の農業には優れた技術があり、きれいなもの、おいしいものをつくるのが上手なので、これを生かしていきたい。
・青いバナナが輸出されるのはなぜ→青いバナナが日本に輸出されるので、日本人は黄色い方がおいしいのに、なぜ青いバナナが好きなのかといわれる。黄色いバナナにはミバエが卵を産み、日本に害虫が入る危険があるが、青いバナナには卵をうまない。バナナは箱をあけてよく検査してから追熟といって、日本に来てから黄色く熟すようにする。マンゴは温湯処理で殺虫して輸出する。バナナは青酸ガスで燻蒸もするが揮発して残留しないので危険はない。フィリピンには多くの種類のバナナがあるが、日本に入ってくる種類は少ない。最近、フィリピンは安いバナナを中国に売り、日本にスペシャルバナナを売っている。
・個人的には無農薬、農薬は関係ないと思っている。農薬をかけたら水洗するなどの情報がついていれば対応できる。無農薬と書いてあると、どこまで無農薬かがわからずかえって心配→有機栽培はJAS法で認証しているので、法律制定以前よりは有機の意味が不明瞭なものは減っている。農薬を散布したからといって農薬が野菜に残留しているわけではない。日本の残留農薬の基準は厳しい。むしろ私自身は、昆虫への影響や植物上に住んでいる微生物のために農薬の使い方に気をつけるのが大切だと思う。
・虫がつくと作物は全滅してしまう。安定生産のための農薬は必要であると思う→農家の経済が確保されることが大事。



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