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第6回銀座トリコロールバイオカフェ
「新聞記者から見た鳥インフルエンザ」レポート

1月28日(土)銀座トリコロールにおいて第 回バイオカフェが開かれました。スピーカーは毎日新聞生活家庭部記者の小島正美さん。 始まりは高田一平さんによる、バイオカフェ初のクラリネットの演奏。


高田さんの演奏 幅広いお話をされる小島さん


小島さんのお話の概要

鳥インフルエンザの取材をしていて、リスクの構図という意味でBSEとの共通点が多いと思ったので、そのような視点から話したいと思う。

▼鳥インフルエンザの取材の始まり
茨城県で2005年に発生してから主に取材を開始した。発生した場所は茨城県の東部に集中していた。茨城県内では約1200万羽の採卵鶏が飼育されており、発生区域で感染した600万羽のうち約320万羽はすでに焼却処分され、残る250万羽がどうなるか注目される状態が続く。
茨城での鳥インフルエンザはH5N2型という弱毒性のもの(ウィルスは、NとHの2種類のスパイクを持つスパイクタイヤのような形をしており、HとNという2種類の糖タンパクのスパイクを使って相手の細胞に入りこむ)で、前年に山口や京都で起きたH5N1の強毒型とは異なる。

▼なぜ東南アジアで大発生しているのか。鳥と人が密接に暮らしているので、人に移るようになった。2005年11月(WHO調べ)現在、ベトナム、タイ、インドネシア、カンボジア、中国で65人が死亡。その後も増え続けている。
最近は東ヨーロッパにもひろがり、世界中に広がっている。

▼今までの事例
スペイン風邪はH1N1型。1918年発生当時にはスペイン風邪とよばれていたが、風邪は呼吸器だけに感染、ウィルスは全身に感染するので、正確には風邪と呼ぶのはおかしいいが、当時はそこまで分からなかった。もともとの感染源は鳥からであったことが後に判明。
1957年から発生したアジア風邪はH2N2型、1968年から発生したホンコン風邪はH3N2型で、これらも元をたどれば、渡り鳥からきたものだった。
 野生の渡り鳥は昔から各地で飛んでいたわけだが、庭先で1−2羽飼っていた時代には感染しても広がらなかったといわれている。近代的な養鶏業が今日の広大な感染を招いたというわけだ。

▼日本で懸念材料になったのは、弱毒型のウイルスが強く変異する恐れだった。
農林水産省の対応は当初「早期発見して殺処分が原則」だった。このため、鳥の体からウィルスが検出されても、過去に感染した跡を示す抗体が検出されても、すべて殺処分にしていた。ところが、2005年夏、ウィンドウレス(窓無し)鶏舎の場合は、抗体が見つかったときには殺処分しなくてもいいという判断〔2005年8月〕に変わった。ウイルスが見つかった場合だけ殺すという方針に変えたのだ。
 しかし、生産者からは@ウインドウレスだけ例外にするのは不公平だA窓無し鶏舎では8〜10段の棚で鶏を飼育しているため、強制換気をしなければいけない。そうなると換気扇で空気を循環させねばならず、もしウイルスがいれば、換気扇を通じて、ウイルスが外へ出てしまう、いう反発が起きた。
 ならば、ワクチン(ウイルスを不活化させたもの)を接種して、ウイルスの量を減らす方が人への感染リスク、鶏同士の感染を減らすとの考えから、私はワクチン接種を推す記事を書いた。それが9月20日の記事だ。これに対し、同じ毎日の別の記者から反論が来た。それに私が再反論をするという展開となった。

◎小島さんの記事(9月20日) 「ワクチン前向きに検討を」
 ワクチンの接種で感染リスクは下がる。その効果も実験で証明された。殺処分だけで十分なのか。ワクチン接種で変異した例はない。殺処分の費用は1000円/羽もかかるが、ワクチンなら10円程度で済む。税金で殺処分費用を出すのはいかがなものか
◎10月6日 望月さんの記事「安全性の証明は不十分」
 農林水産省が備蓄していたワクチン接種後、5ヶ月で死に始めた事実を根拠に、ワクチンの効果なしと反論。BSEの全頭検査も税金で実施しているのだから、殺処分の費用に国民は納得するだろう。
◎ 11月3日 小島さんの記事 「根拠薄い強毒性への変異」
そもそもワクチンの効力は時間とともに落ちる。効果が落ちたら、再びワクチンを接種すればよい、殺処分にも感染リスクが伴う。殺処分にかかわる人たちが感染するのだから、殺処分がベストとは必ずしもいえない。

 望月記者の取材に応じた獣医は「予防のためにワクチンを打つのは危険だが、今回の茨城のような場合には限定的にワクチン接種はやるべきだ」といったのに、それを正確に書かなかったということも分かった。こういうことは私自身も自戒としたい。
 毎日での記事論争は小島さんの再反論で終わった形になっている(ワクチン接種は可能になるのか?)
 こうした中、望月記者の反論は農林水産省の考えに沿ったものだ。はワクチンを打つと発症の程度は抑えられるが、感染そのものを100%抑えることができないから、感染の発見を見逃すとかえって拡大するという見解。これは理屈では成り立つが、イタリアのようにおとり鶏を使って、感染を監視するシステムがちゃんとしていれば発見はできると考えている。
この記者の目の記事に関して、読者からのメールに「毎日新聞は過去にワクチン接種はウイルス感染を広げると書いていたから、ワクチン接種は怖いものと思っていた」というものがあった。ワクチンは危ないという刷り込みが政府の過去の発表などで生じているのではと感じた。

▼有機農業を営む人たちが、普段は小さなリスクに過敏なのに、鳥インフルエンザでは「抗体が見つかったくらいで殺すのはおかしい」と言っていたのが興味深い。平飼いの鶏の方が野生の鳥から感染しやすいので、このままだと鶏舎はウインドウレスになってしまう。それへの危機感からだろう。

▼トリインフルエンザによる死者
感染した鶏を殺せば、消費者に被害が及ばないと農林水産省は考えているようだが、実際には、オランダでは従事した獣医が感染して死亡。日本で初めてBSE関連の死者が出たのは獣医の自殺だった。日本の鳥インフルエンザでは養鶏業の経営者夫婦が自殺(鳥インフルエンザが出たことを隠して自分で消毒などを進めていたが、拡大してしまった)。つまり、消費者の側に感染による犠牲者が出る前に、まず生産者から死者が出た。
このことはBSEと鳥インフルエンザに共通している。

▼ウインドウレス鶏舎の鶏はどうなる。
農水省はウインドウレス鶏舎を推奨している。ウインドレスで監視中の鳥はどうなるのか。農水省の対応は、初めは殺処分→8月殺さなくていい→12月にはウィンドウレス1鶏舎でも見つかったら、残りの鶏舎の鶏も殺処分、とくるくる方針が変わった。
本来なら250万羽は食用に出荷できるはずだが、どうやら焼却に回るようだ。
食鳥業者(と殺する業者)では、焼却されて鶏が来ないので、130名のうち30名を解雇。鳥を解体しても引き取る業者はいない。食品加工業者も買わないといっている。
一方、ウィンドウレスの卵はいまも売られている。おかしな話だ。卵も鶏肉も安全なのに、消費者が買わないリスクを恐れ、すべて焼却処分にする。なんとかならないのか。

▼消費者団体の対応
消費者団体が安全だから買いましょう!といえばいいと思う
パルシステム生協に取材「契約している養鶏業者なら、引き取ってもよい。主婦連などの消費者団体は「農水省や厚生労働省の安全宣言を信用していないから、買う運動はしない」といっている。
 消費者団体は生産者を救う活動を、なぜ、しないのだろうか。不思議だ。

▼メディアの影響
鳥インフルエンザが、人に感染しやすい新型に変わると、65万人が死ぬという政府の予想は大げさではないか。これをそのまま報道すると不安だけが大きくなるのでは。
「殺人ウィルス渡り鳥が飛んでくる」といった見出しで報道する週刊誌もあるが、無責任すぎると思う。
京都大学の美馬さんは日経BPに「いまはスペイン風邪の時代とは違う。1960年以降、過去に何回も大発生はあったが、それほどの死者は出ていない。65万人は大げさ。危ないを言い過ぎ」といわれており、「あぶないといって、だれが得をするのか考えよう」とも言っている。「1億人も死ぬだろう」と発言した研究者もいたが、どうみても危険を煽っているとしかみえない。
BSEとの共通点
・経済の問題:BSEでは3000億円以上の経済損失を出しているのに、それに見合うリスクを回避していない。輸入禁止の意味はあるのか
・消費者重視で生産者が犠牲になっているのではないか。
・政府の審議会に疫学の専門家がいない。病理学者ばかり。
実際のリスクはゼロに近いのに、それが正確に報道されていない。


寒い日に集まってくださったみなさん クラリネットはこのように格納されていて、演奏前に組み立てられる


質疑応答
(・は参加者、→はスピーカー)

・ウィンドウレス鶏舎で抗体を持った鳥の産んだ卵は売っていいのか
→抗体があっても安全だ。野生の鳥でも抗体はもっている。生の鶏肉の刺身でも食べなければ大丈夫だろう。むしろ、鶏肉を料理したまな板から細菌がうつることがあるので熱湯消毒が大事
・食品に対して消費者が持つ、気持ち悪いという気持ちをどうはずしていくのか
→背骨のある子牛の肉の方が若いので、日本の老齢な和牛より安全という考え方もある。輸入禁止となった牛は、生後半年もたっていない若い子牛だったから、リスクでいえば、食べても全く問題ない牛肉だった。
→1回きりの説明では伝えきれない 繰り返し書かないとだめ
・メディアに惑わされてしまう
・リスクを考えるときにはその大きさが重要
・科学的に大丈夫と頭でわかっていても日本人の安心感はレベルが高く、外国より厳しい。日本人は清潔感が高い。メーカーは悪いほうに想像が広がってしまう。煽る見出しが多いと国民は刷り込まれてしまう。
・みんなが、学んで実践しないといけない 
・生産者の顔を見たいと思っている人が多い
・値段が高くても生産者の顔写真があるとよく売れるのが実態。
・メディア、テレビがわかりやすく、広がりやすい。
→ただし、メディアは利益をあげないとだめ。メディアに誰が情報を流すかが大事だと思う。イギリス政府は15歳以下は携帯を使わないようにという勧告を出している。これはあまり知られていない。
・携帯電話の会社が困るから、日本にそのニュースは定着しないだろう。→リスクが過剰に報道されているというのはどういう構図なのか
・オール電化はアスベストと同じ、と生協がいうとニュースになるが。
・リスクを上回る利益があがるところに仕事は集まる
・野菜を買うときは、無農薬、無添加は同じ値段なら選ぶ
・今の利便性をどこまでみるか、薬はリスクに対しべ病気をなおす利益が大きい
→産業総合研究所 リスクの評価をしているが、情報の出し方が下手
→トリハロメタンは揮発して吸っている量のほうが多い。飲んでも少ないので、浄水器を設置してもリスクの削減効果は低い 
→生産者の情報を送るのが少ない 消費者重視ばかり 農業新聞はでていても
・農林水産省のワクチン備蓄は効力が落ちるので、毎年入札して安いのを購入する
→ワクチン反対派には国産ワクチン開発に関係する人もいる。
→欧州は動物殺し反対運動が強い。 EUが殺さなくなると影響がくるかも。
・母はアメリカの牛は怖がって買わない。人は大丈夫といっても東南アジアの人はなくなることは意識しないといけない。ルール違反の牛をアメリカは引き取るべきだと思う
・いい方法があっても、リスクが少なくても、実際に守られるかが大事。守られるように行政がしかけないと
→日本はと畜するときに牛にピッシング(失神させた牛の頭部にワイヤ状の器具を挿入して脳神経組織を破壊する作業。これをしないと、解体作業中に牛の脚が激しく動いて現場職員がけがをする危険がある)をしている。これをするとBSEの検査を正確にできない恐れがあり、異常プリオンが血液に混じる恐れがある。欧米はとっくにやめている。リスクの考え方によると、日本では作業者のリスクを重くみていることになる。


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