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第14回茅場町バイオカフェ
「品種改良の歴史と遺伝子組換え技術」レポート

1月20日、茅場町バイオカフェはサン茶房に場所を移して開かれました。 スピーカーは筑波大学渡邉和男さん、お話は「品種改良の歴史と遺伝子組換え技術」。 はじめに飯島さんと西村さんのフルートの二重奏。初めての会場でしたが、たくさんの参加者を得て、賑やかに行うことができました。

華やかなフルートの二重奏 珍しい野菜やお芋の写真


渡邉さんのお話の概要

品種改良のはじまり
イネの栽培は縄文時代の終わりから弥生時代にさかのぼる。それまで人間は季節の作物を集めて食べていた。人間が稲やコムギと関わるようになって1万年くらい。
例えば、にんじんと人のかかわりの起源は地中海で700年前。ジャガイモの原産地はペルーボリビアの高地。

品種改良は
人は植物を拾って、その中からよい品質のものを選んできたのが品種改良のおこり。
近代的品種改良は100年くらいの歴史で、育種家といわれる人が活躍するようになった。始めは偶然起こるいい品種の発見に頼っていたが、今では科学的知識(細胞遺伝学、遺伝学など)の周辺の知識が品種改良を助けている。
ジャガイモの品種改良が始まって200年くらい。ジャガイモは芋でふやすが、品種改良のときは種をとり、薬品処理して発芽させる。実生栽培は、約150日、 種イモからの栽培で90−120日かかる。ジャガイモは年に1作(2−3作できるが)で品種改良をすると平均10年かかる。ジャガイモの野生種の芋は小さく病気への抵抗性があるが、食されているジャガイモはウィルスに弱く、感染すると収量は半減。3年同じイモを継続増殖し、使用すると3割しか収穫できなくなる。ウイルスに強い野生種とよい品種と交配してもなかなかこどもはできない。交配の生殖の原理がわかってきて、病気に強い雑種ができるのには30年かかり、できたのが10年前。

多様な食べ物への知識
日本は食べ物が豊富だが、海外には、南米原産の木になる果物のチリモヤやトマトの仲間のペッピーノなど、多くの種類の食べ物がある。
豆(キマメ)、メロンのグループなど、バショウの仲間のバナナからは繊維を使ったり、水分から飲み物が作れる。
品種改良で新しい作物を作り出す方法もあるが、いろいろな食べ物があるのに、使い切っていない現実もあり、多種類の食物に関する知識の普及も必要。
アフリカの主食はトウモロコシで、原産地は中米で、アフリカでの食経験は400年。

食べ物の知識
食べ物の使い方を知らないのは危険なこと。材料があっても知識がないとうまく回らない。
例えば生のダイズや緑になったジャガイモを食べるとおなかを壊す。アフリカの多くの人々は文字がないので、口頭で食の知識を伝えている。ケニアのように都市化が進んだ所では、伝統的な生活が変化するという側面もある。
アフリカではピジョンピー(キマメ)という豆を裏庭で栽培して食べたり、いろいな雑穀を食べていた。
種が機械化で画一化されると病気でいっせいにだめになる。多様にいろいろな豆が混ざっていれば全滅はしない。
農家が知識を維持しながら保存しないと多様性はすぐに失われる。資源は知識として守りましょうというだけでなく、活用しないと守れない。生活としての知識が大切。

知的財産権
農業や品種はみんなの共通の財産だったが、バイオテクノロジーで資源は加工されて特許で保護されるものになってきた。お金を払わないと使えないことになる。対価が公平に支払われるようにという取り決めが進められている。特定の権利者だけが資源をもっていればいいのでなく、情報を共有して知識も一緒に守っていかないといけない。

絶滅種の保護・種子の保存
ラタンは500種類くらいある竹の仲間で森に生えていて、製品を作る。森のラタンを使うと絶滅してしまうので、組織培養などのバイオ技術を用いてラタンを守っている。
サツマイモの生産の90%はアジアで、日本は少ないが、品種保存や品種改良は日本が一番、世界に貢献している
作物は栽培し続けていないと、絶滅したり、環境が破壊されることがあるので、世界的なネットワークで努力する必要がある。遺伝子組換えを使わないときから、大変な努力が培われてきた。可能性のある資源があっても知識の共有が進まないとみんなで分け合って使うことができない。
通常のコムギから従来の品種改良で穂を大きくすることはできる。手間をかけて人の目で選抜する従来の品種改良を進めても、コムギの収量は供給に追いつかない現実がある。

多様な食べ物
世界的にみると農家は小さい規模で栽培しており、都市に集中した都市生活者の食料は小さな規模の農家の収穫によって供給されている。人間が食べられる植物は8万種あるといわれているが、人間が積極的に使っているのは300種、重点的産業が形成されているのは30種。
例えば、南米でコムギを輸入している国が自国でとれるサツマイモの粉を30%まぜてパンにする政策もありうる(発想の転換)。ソルガム(トウモロコシ)、ミレット(ひえ)などは日本で特別なときにしか使わないが、これを主食にしている人たちも世界にはいる。
日本で使われ始めたひよこまめのように、いろんな食材のあることが知らされていない現実。
日本は第二次大戦前はダイズを一生懸命に作り、品種も多く持っていたが、今は自給率は2%、ダイズの品種の種類も減った。これは人為的に品種の減少が起こったことになる。
南米には300種の野生種が採集されていたが今は半減している。こういう環境変化に対して、国際的に保存活動が合意されて行われている。
和歌山のヤマユリは養豚をやめた人が逃がした豚が食べてなくなってしまった。ヒゴギクは昭和40年代には300種あったが、保存していないので、ほとんどない。アサガオは日本のバイオリソースプロジェクトや個人の趣味で保存され残っている。クワイはおせち料理で使うがほかの時期にはつかわない、稲刈りの後に副産物としてくわいを食べていたが、農法が変わり、くわいは特別に栽培しないとなくなっていく。
ものを守るだけでなく、使い方が変わると失われることもある。興味をもって保存しないとだめ。興味を持つことが大事。

平和、食料、資源
食料は平等に分配されてもうまくいかない。アフガニスタンは国が崩壊して農業ができなくなってしまったように、紛争が起こった後には、食料保障、人口増加から食料が質や量ともに必要とされる。
地球の緑はどんどん失われており、日本は土地管理ができているが、東南アジアには洪水で農地がすぐに失われている所が多くある。天然資源がなくなりつつあり、世界中が同じ生活水準でくらしたいとすれば、世界中の食料やエネルギーは足りなくなってくるはず。
科学技術はどのように政策にとりこまれていくのか。ダイズやトウモロコシからプラスチックが作られるなどのバイオテクノロジーは役に立つだろうか。

品種改良
育種とは品種改良のことで、今は遺伝子工学をとりこんだ品種改良も行われるようになった。
今まで使われてきた技術では食料問題や環境問題はおいつかない。従来の育種では近縁種しか使えないが、組換え技術だと全生物を利用でき、従来の育種は15年かかるが、遺伝子組換え技術だと従来の3分の1くらいではできるだろう。
今まで行ってきた選抜という方法だと、ジャガイモの5万粒から10万粒まいて、数十の株から目指したものに近いものができればいいという割合。
通常の品種改良はやってみないとわからないが遺伝子組換え技術だと高い精度で予想でき、高い確率で望んだ形質の作物が得られる。できた作物の性質や成分は安全性審査があるために遺伝子組換えの方が(特に遺伝子工学の情報)よくわかっている。環境への影響は、遺伝子組換え体は段階的、体系的に評価するが、通常の品種改良で作られた作物については評価していない。実験は5年でも評価を行うと10数年にかかる。遺伝子組換え技術に対しては社会経済的評価も行われ、地域社会への影響の評価もはじまっている。

遺伝子組換え体の研究開発と規制
1975年、アシロマ会議を開催して以来、ルール作りをしながら研究・開発が進められている。2004年には、カルタヘナ法が施行した。ルールの仕組みについて一般大衆に伝わっていない。遺伝子組換え体の取り扱いのルールは、技術はよくても使う人が悪である場合も想定したり、問題なく研究に使えるかどうかも評価して作られている。

遺伝子組換えユーカリ
実験は科学者。研究を先に進めていいかの議論は市民とともに進める。
ユーカリは紙が作れる(オーストラリア、チリなど)植物で、収穫までに10年かかるが、その間に旱魃がくると木が枯れてしまうと投資が無駄になる。水がなくてもかれないユーカリを遺伝子組換え技術で作れる見通しはあるが、緑を回復したい場所に植えていいかどうかは市民と共に考えたい。文部科学省の審査を受けて、問いかけをしながら、筑波大学では、現在、ユーカリを隔離ほ場で育てている。このユーカリは隔離温室2年、網室で2年の評価をし、生態学、生化学などの多くの化学分析、ほかの生物への影響の調査しながら実験を進めている。(現在、商品化されている作物は食品の評価もうけている)

今後の挑戦
世界にはまだ大事な資源がいろいろある。
ジャガイモの野生種(アンデス)は殺虫剤などで守られないので、モウセンゴケのようにダニやアブラムシから身を守る仕組みがあり低分子のねばねばする物質を出す。この機能は品種改良で付与するのには30年かかるので、遺伝子を見つければもっと早く使える。これも資源の有効利用のひとつ。

会場風景1 会場風景2


質疑応答
(・は参加者、→はスピーカー)

・科学者は研究をするときに、肝臓の遺伝子を植物に入れていいのだろうか、こんなことをしていいのだろうか、と考えると思うが→医療について生命倫理がある。こういう生物を使っていいのか、という問いかけは大学の実験への倫理審査は世界でできている。2002年、ELSI(倫理的法的社会的問題の検討)は遺伝子組換え技術にも必要だといわれるようになった。
・カラシナのデフェンシンをいれると耐性菌ができる→ディフェンシンという病気に抵抗性を示す物質は植物や動物、微生物にある。ディフェンシンをつくる遺伝子をカラシナから取り出して稲に入れて、本当に病気に強くなるのかという栽培試験が今、新潟県で行われた。病気がディフェンシン耐性を持つのではないかという疑問がある。植物の品種改良では、抵抗性を持つ品種を改良する作業はやってきている。虫や病気も共に進化はするが、管理の仕方で進化を抑えられている。抗生物質ではないので、ディフェンシン耐性を持つスーパー病原菌ができることはないだろう、と経験的に考えられているが、今後それを調べていくべき。技術を否定すべきではない。
・個人レベルで遺伝子組換えはできるのか。装置の費用はどのくらいかかるか→法律の規制で装置より材料が手に入らない。遺伝子組換えにはノウハウがあるので、実験設備があってもだれもができるわけではない。当座は無理だと思う。
・次世代を救う技術として組換え技術や遺伝子工学は期待できると思う。発展途上国ではどのようにみられているのか→農業バイオには技術的に大きな投資が行われている。ブラジルなどは人材もあり、投資もされていて、試験栽培もしている。タイ、マレーシアは試験の数が多く、研究開発のための研究も行われている。欧州は組換え技術に反対でもイタリアで日本4倍、フランスで日本の8倍の試験研究をしつつ、市民感情を見ながら導入しようとしている。
EUの表示の閾値はネイチャーバイオテクノロジーという科学雑誌に実施不可能な基準であると指摘されている。現在の技術では検出できないだろう。EUには組換え食品が実際には入ってきていないので、0.9%と決めていても問題になっていないが、実際に入ってくると実現できないだろう。日本の5%は実現可能。
・BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)は遺伝子組換えに積極的のようだが→ブラジルは生産者の要望が高く解禁、中国は自国生産していてアジアに波及効果が多きい、アルゼンチンは輸出国。インドは自国で組換えワタを開発し生産。パキスタンの稲の技術は日本より高く、パパイヤの開発をしていてマーケットができれば輸出品にしたいだろう。


〜サン茶房は、黄色い日よけのあるかわいらしい喫茶店です。次回はどうぞおいでください〜


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