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第12回バイオカフェ(茅場町リリー)レポート「くすりができるまで」

11月18日(金)茅場町リリーで第12回バイオカフェが開かれました。関西経済連合会田端信一さんから「くすりができるまで〜くすりになるもの・ならないもの」というお話をいただきました。
初めに、高橋晴香さんがガボット(ゴセック)、G線上のアリア(バッハ)などをバイオリンで演奏されました。回収したアンケートの1枚には、「親しみのあるメロディを生で聞けて嬉しかった!」というご意見が一番上に書かれていました。

親しみのあるメロディ 譜面台に紙芝居をのせて


田端さんのお話の概要

くすりの歴史
中国では秦の始皇帝が徐福に不老不死の仙薬を探させたり、民間療法として野山の植物を用いた記録が古くから残っています。日本では江戸時代頃からガマの油が売られたという記録がありますが、東洋では経験則に基づく草根木皮を用いた内科的・全身治療がベースとなっていました。一方、西洋では体に入った悪いものを呪術で追い出そうとする発想で、医療と宗教が渾然一体の時代が長く続きましたが、15世紀ルネッサンス期に初めて人体解剖が行われ、16世紀には床屋医師パレによって外科手術が施されました。東洋とは対照的に西洋では外科的なアプローチ主流の医療が進んだといえそうです。
17世紀になると経験則から見つけた体によい物の成分を抽出して用いるようになり、更にその効果を高め、副作用を小さくする目的から有効成分に科学的な修飾を加えるという順序で薬が作られるようになりました。

伝染病との闘い
例えば天然痘は旧大陸で古くからある伝染病でしたが、大航海時代に新大陸に渡りインカ帝国、アステカ帝国滅亡の原因となりました。19世紀にインドから英国に持ち込まれたコレラ、14世紀にモンゴルから運ばれ欧州で猛威をふるったペストなど、伝染病は戦争や遠征といった人の移動とともに広まった歴史があります。19世紀末に顕微鏡で次々に病原菌が発見され、後にペニシリンやサルファ剤などが創製されるまで、人類の伝染病との闘いは圧倒的に伝染病優位でした。致死的感染症(伝染病)が激減して人類の寿命が大きく延びたのは20世紀に入ってからです。現在、がんや生活習慣病が注目されていますが、人の寿命が延びた事がその最大の要因と言えます。但し、ウィルスに効く薬は未だ十分効果を示すものがありません。インフルエンザ、SARS、エイズなど、まだまだ解決されない感染症は数多くあります。

アスピリンの発見
つまよう枝が柳から作られていたことからわかるように、柳に鎮痛効果があることは古くから知られていました。その有効成分としてサリチル酸が抽出されたのが19世紀です。リウマチなどに使われましたが胃痛の副作用が強く、多くの患者さんを苦しめました。バイエル社はこのサリチル酸に化学修飾を加え副作用を抑えることに成功しました。これが鎮痛剤の大ベストセラー、アスピリンです。この薬は1899年の発売ですから100年以上は働いているということになります。また、最近の研究からアスピリンが血小板の凝集を抑える働きも明らかにされ、2000年には少量で心筋梗塞や脳卒中の再発予防の効能が追加されました。経験則での使用から人による化学修飾、作用メカニズム解明から論理的な使用法開発に至った薬開発のお手本と言えそうな薬です。

くすりの効き方
くすりはその効き方を4つの型に分けてみることができます。1)体に不足分した成分を補う(ビタミン類、鉄、インスリンなど)、2)体内に侵入した細菌を殺し、ヒトには作用しない(抗生物質、抗菌剤など)3)ヒト本来の機能を調整する(抗アレルギー、抗潰瘍薬など)、4)その他

くすりのできるまでの流れ
基礎研究:候補化合物の合成〜安全性・有効性を確認するための試験の積み重ね
第1相試験:少数の健常人を対象に安全性を確認する臨床試験
第2相試験:少数の患者さんを対象に安全性・有効性を確認する臨床試験
第3相試験:多数の患者さんを対象に安全性・有効性を総合的に確認する臨床試験(既存の汎用薬との比較対照試験を含む)。
薬は有効であること以外にも体内にとどまる時間、物質としての安定性、経済的な妥当性、投与可能な量にすること、従来の薬より優れていることなどが求められる。結果的には候補化合物が合成されてから薬として市販に至る確率は8、000分の1程度とハードルは極めて高い。

これからのくすり
バイオ医薬品(遺伝子組換え微生物に作られるヒトインシュリン、インターフェロンなど)の登場も含めて、近年、医薬品の性能は着実にアップしてきているものの、まだまだ治療効果の及ばないケース、病気も数多いのが実際です。ヒトゲノム情報の解読を契機にゲノム創薬(遺伝情報を基に論理的なドラッグデザインを目指す)やオーダーメード医療(個人の体質に関する遺伝子情報をもとにその人に最適な治療法を選択しようとする取り組み)といった新たなアプローチが世界的に進められています。解読された遺伝子情報が人類の新たな医療の進歩に福音となるよう期待しましょう。


質疑応答
(〇は参加者、→はスピーカー)

プラセボ効果とは何か→クスリと無害なほかの物質をクスリだと思って飲み比べると、クスリでなくても効果がでることがある。本来の免疫力が高まることによって効果が出ているかもしれない。

寿命は抗生物質が延ばしたといえるのか→大きく貢献したのは間違いない。併せて衛生環境の向上も乳児死亡率の低下に貢献している。
クスリは普通白い錠剤が多いのはなぜか。→識別しやすくするために色素を使っていたこともあるが、色素の発がん性等が問題になり今は白が主流。薬の識別は錠剤の色ばかりでなく、刻印やパッケージなどで工夫されている。錠剤の中の薬効成分は微量なので、そのものの色を周りの製剤材料でコントロール可能、錠剤を白くするのは容易。

学生バイトで新薬の試験に参加すると聞いた。→第2,3相試験の協力者を新聞で募集することはある。但し、体内に薬成分が存在しない人を対象とするので、集めるのがなかなか大変。既に何らかの治療薬を飲んでいる場合はウォッシュアウト期間も必要となる。
海外では保険が高くて入れない人が治療を受けたくて参加する場合やキリスト教精神でボランティア参加するお国柄もある。

人種で薬の効果は違うのか。→YES。人種や民族による遺伝子の偏りが薬の作用度合いに反映されることがある。
アイスランドではバイオバンクといって、健康情報とゲノム情報のデータベースを作るプロジェクトが先行している。島国で遺伝子が解析しやすいという背景もあった。日本でも始まった。
地中海熱はギリシャ人しかかからないと聞いたことがある

最近、新しい薬が出にくい理由は。→既知のレセプターとリガンドというカギと鍵穴(ヒトの持つ受容体)の関係をもとに見つけられる薬は、ほぼ、居つけ尽くしてしまったとも言われている。遺伝子情報をもとに新しいレセプター、リガンド探しが続けられている。ゲノム創薬の重要なアプローチの一つです。 

ヒトのクスリの何分の1でイヌやネコに与えてもいいのか。→単純な体重比ではだめではないか。
動物実験には意味があるのか。→意味は薄れつつある面もあるが、他に置き換える手法がまだまだ不十分。ヒトとねずみではデータ上、比較的よく相関すると言われるものの、ヒトでの臨床試験スタートから世の中に薬として出るのが確率が8%ということは、ネズミに効いてヒトに効く確率が8%とも考えられる。また、ヒト特有の病気を研究対象とする際はヒト組織や細胞を用いて試験を重ねることとなる。
プラシボ(偽薬)効果を調べるために、一方の患者に小麦粉を与えるのは人道的に問題ではないか。→実際は比較する既存薬がない場合に限ってプラセボとの比較が認められるため、既存薬がある場合はこれと比較するのが原則。現時点で人道的な問題とはなっていない。
今、世の中に出ているクスリがそんなによい比較基準なのか、私は疑問を感じる。
動物実験は必要だと思う。ヒトが初めて体内に取り込む異物なので、動物実験で無作用量を割り出すことは大事だと思う。動物実験はクスリの効果よりもヒトに初めて投与する物質の安全性確保のために行う。
○クスリは逆から読むとリスクになる。有効性にはリスクがあると覚えてほしいと思う。

会場風景


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