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第10回バイオカフェ(茅場町リリー)「生物多様性とは」開かれる |
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10月7日(金)、筑波大学渡邉和男さんをお招きしてバイオカフェ「生物多様性とは〜栄枯盛衰と共存共栄のカギ」が開かれました。「農作物は天然・自然ではありません」に始まり、現在、作成中というプー君という犬を主人公にした絵本の原案を使って、生き物同士の関係、食物連鎖、身近な生き物をと通してみる生態系について考えるきっかけになるようなお話をしていただきました。
はじめに馬渡さんが大学の授業の合間に駆けつけてくださり、フルート演奏。曲目はガボット、メヌエット(アルルの娘)、トロイメライ。
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馬渡さんのフルート演奏 |
手振りを交えて話される渡邉先生 |
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渡邉和男さんのお話の概要 |
ことばの定義
「生物多様性」とは多くの異なる種類の生き物が調和をもって共存していることで、これと環境との相互作用で「生態系」ができあがります。この中には生物の依存・捕食・寄生の関係(食物連鎖)があります。人為の加わっていないことを「天然・自然」といい、農作物にはすべて人為が加えられています。「遺伝的多様性」はひとつの種の中で多様な性質・特性を持った個体があることです。
生物多様性が失われている
地球の歴史の中で、新しい種が生まれ、滅びるバランスが保たれてきましたが、人間の生産活動と環境破壊でバランスがくずれ、種が激減しています。
絶滅危惧種にはメダカ、タナゴ、ニホンタンポポ、サクラソウ、ヤマユリ、サンショウウオ、クロマグロなどがあります。また、この陰には、セイタカアワダチソウ、ブラックバスのような外来種による侵略もあります。
しかし、日本の食材を考え見ると、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、大豆、トマト、にんじん、インゲンなど、ほとんどの食材が外来です。一方、貝塚を調べると、ヒトは木の実、草、貝など1年で10000種類くらいのものを食べていたことがわかり、外来生物がなくても多種の物を食べていたようです。
生物の戦い
琵琶湖や利根川水系にブラックバスなどのような外来魚が放され、日本の小さなタナゴなどが食べられてしまうなど、外来生物と日本の生物の戦いは話題になっています。地球温暖化の影響でコウベモグラが北上し、アズマモグラと箱根あたりで縄張り争いをしているという研究報告もあります。
遺伝資源の保全
世界中で生物や遺伝資源を保全するためにジーンバンクやシードバンクなどが作られ、生物・遺伝子資源の保全にあたっています。植物園や動物園、特定保護地区も同じ役目を果たしています。生息域以外で保全するには、手間と費用がかり、保全できる種が特定され、かつ包括的な生態系の保全にはつながらないという問題が残ります。一度失われた種は再生できません。遺伝子を保管しても、人間は単細胞の生命を作り出すことはできないのです。
プー君のお話
生物の多様性や生態系について伝えるための絵本(主人公は犬のプー君)を作っています。今日はそのあらすじをここで紹介し、みなさんと一緒に考えたいと思います。
プー君は仲間ともう少し広い庭がほしいと思っていたので、プー君のお父さんは引越しすることにしました
庭には落葉樹と常緑樹を植え、池にはめだかを飼うことにしました
プー君は広い庭で思いっきり走り回れるようになりました
庭には虫や鳥がくるようになりました。木苺の樹に何かがまきついているのをプー君は見つけました。ツルのようでした。
プー君に庭に植えた樹には葉を食べる虫、実を食べる鳥がやってきました。虫や鳥にはそれぞれ、好きな葉や花が決まっているからです。それらの虫を食べる肉食のカマキリやトンボ、それを食べるかえるやトカゲもやってきました。(生物多様性はある程度構築できるのです)
そしてそのトカゲも次にはヘビのえさになるかもしれず、ヘビももっと大きな動物に食べられていきます。
この関係は食物連鎖といって生産者(植物)を底辺にして、その上に次々とそれらを食べる動物(消費者)を重ねたピラミッドのような形の図で表すことができます
プー君は庭でいろんな生き物の仲間が増えて幸せでした。時々プー君は死んだ生き物も見つけましたが、その死骸を食べる生物がいて、生命はつながり、循環していることを知りました
プー君はいろんな生き物には食べたり食べられたりという関係があり、生き物は互いを必要として生きていること教えられました。
プー君は自分が死んだら、お父さんが土に埋めてくれて、自分の体は微生物に分解され、土になり、そこに種が飛んできて芽が出て一本の樹になるのだと、考えるようになりました。
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会場風景1 |
会場風景2 |
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話し合い |
(〇は参加者、→はスピーカー)
〇外来生物が日本の生物に取って代わってしまうのは、外来生物の進化と関係があるのか→人間の持ち込む生物については侵略性を評価し注意できるが、鳥が種を運んだり、中国から飛んできたイチョウの花粉で日本のイチョウが受粉することは規制できない。法律で規制するのは原種が急激になくなってきている場合。
〇草取りをすると、草が対抗して進化すると聞いた→植物は周りにライバルになる植物が多いときは発芽しなかったり、土中までは除草剤が効かないので、土中にいたり、長期的に子孫を残せるような戦略をもっているようにみえる
〇アリを減らそうと女王アリを殺したら、女王アリだらけになったと聞いた→アリは菌を育てるなど賢く、情報伝達もできる。卵を産む女王アリの数、働きアリの数を調整して社会を形成。ハチも同じ
〇45億年前地球誕生、35億年前生命誕生、今は種は増加中か、平衡状態か→地球のみぞ知る。古生物学から見ると条件が整うと種は増える。12年前にできた生物多様性条約は種の保存と持続的利用について述べた経済・環境条約でもある。
〇ひまわりはなぜ回り、首をたれるのか。野菜も太陽をむく→神のみぞ知る。ヒマワリの種の部分を大きくしたのは人間の都合で、その重さで首をたれるのではないか。野生のヒマワリは花が小さい。ジャガイモも豆のような大きさが1万年かかって今のような大きさになった。太陽に対しては光合成に好都合な方向に葉や花の向きを変える
〇花は見てもらいたくて咲くはずだと思うが→花は種を作るために鳥や虫に対して魅力的であろうとしている。自分の血統を守るために地味な花が短時間しか開かないイネは自家受粉する。
〇光合成を行うのは葉。花が太陽を向くと温度があがり、虫が集まるという効果もあるのではないか。
〇桜の大木には生の営みをコントロールする脳にあたる部分はあるように思えるが→植物のすべての細胞は分化全能性があり、葉、茎、根、花に分化していく。大木の場合は支える役目をする幹のような組織は生きていない。生きている部分は少ない。植物は脳ではなく、植物分子学の研究によると細胞から低分子のシグナルがでることがわかり、情報伝達して、植物体としての制御をしている。
〇挿し木で根が出るのはなぜ→トマトのトップを切るとわき芽が出る。トップを切られたシグナルが伝わるから。挿し木ではオーキシンという成長を促すホルモンの一種の粉をつけると茎から根になれ!という命令がきて発根する。
細胞には全能性があるが、1細胞から植物体にはなれず、いくつかの細胞の塊になると外的刺激に対して植物体を形成する。ヒトは1細胞が卵割し、胚になる。大腸菌や酵母は1細胞から増えることができる。
〇樹に虫がつくと鳥を呼んで、必要な数の虫を残して食べてもらうと聞いた→樹木は虫に食べられると揮発性の物質を出して、他の樹木に虫の害に対する抵抗性の物質を誘導させるという研究はある。
〇モーツアルトを聞かせるとイネがおいしくなるという農家の人にあったことがある。ロックはだめだそうだ→コーネル大学には光や温度以外の外的刺激を植物は理解するといっている研究者がいる。音が振動の刺激を与えることは考えられる。
〇現在の単一耕作は多様性保全にどんな影響を与えているのか→現在の世界の生産と消費のバランスは取れるはずだが、政治・経済的な理由から豊作と飢饉が共存している。たとえば東西エチオピアは道路がないために一方が豊作、他方が飢饉でも米国が支援している。これも政治・経済の理由による偏りの事例。
ミャンマーで自給自足している農家は50種類ほどを栽培し、換金用にトウモロコシを作っている。日本が単一耕作をしているのは、省力化のために効率がよい方を選択しているためで、日本の農家は50種類も栽培していない。
昔の日本の水田には、雑草作物でアワやヒエも生えていてこれらも食用にしたし、タニシやドジョウも食べた。クワイも水田雑草が食用に変えられたもの。こういうことが生活習慣、文化、伝統であり、これらを守ることと生態系保全は深く関わっている。
たとえば組換え農作物を作っても、日本に昔から生えている植物とは競争しない。メキシコのようにトウモロコシの原産地なら組換えトウモロコシは原種に影響を与える。つまり、環境に影響を与えるのは遺伝子組換え農作物よりもその使い方。
〇GMOとは何か→遺伝子組換え生物。
〇日本に組換えナタネははびこらないとはどういうことか→メキシコで組換えトウモロコシがこぼれると放っておいても育つが日本では越冬できず、日本の雑草に負けるだろう。これと同じで、こぼれナタネがこぼれ種から生えても、そこに生え続けるようになることはまずないと考えられる。
〇非組換えナタネはどうなるのか。→今、日本中が菜の花だらけになっているかというそうではない。同じアブラナ科の大根や白菜と交雑しているかというと、そうなっていない。
種の交雑が難しいので品種改良して種を作るのも難しい。だから、種子会社が作って販売している。
〇自分で種をとっても同じ作物にならないと聞くが→種子を買えない国では自家採種をするが、日本では規格にあわないと売れないし、よい品質のものはF1といって一代限りの種子なので、日本の農家は毎年、種子を買っている。
〇組換えはどうやって作るのか→ひとつの細胞から試験管の中で植物体に育て、試験をしながら、種子をとり増やしていく。
この日、会場から「もっとお話を聞きたい」という声が多く、1月20日(金)にも渡邊先生にバイオカフェ(茅場町リリー)でお話しいただくことになりました。
タイトル「品種改良の歴史と遺伝子組換え技術」
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