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第4回バイオカフェ(銀座トリコロール)が開かれました

10月1日(土)、バイオカフェでは、「生の営みにリミットはあるのか〜極限環境の微生物たち」というお話を在京米国大使館農務部スペシャリスト浜本哲郎さんにうかがいました。私たちは、1気圧、服の着脱で0℃から40℃の環境の中で暮らしており、それでも暑い、寒いと文句をいっています。深い海など極限環境でも生物が生きられることを知って、驚きでした。 はじめに清水美保さんと市川昌枝さんによるバイオリンの二重奏が行われました。曲は、バッハのメヌエット3曲、ドボルザーク「家路」、ベートーベンのメヌエット聞き覚えのある楽しい小品ばかりでした。バイオカフェ始まって以来のアンコール!がありました。


浜本さんのお話

昨年、「極限環境の生命〜生物のすみかのひろがり 」(D. A. ワートン著)という南極のクマムシの研究家の本を翻訳しました。ポピュラーサイエンスというジャンルは日本では残念ながらあまり売れないもので、まだ再版の話はきていません。

極限環境とは
微生物の生育する環境の要素は温度や圧力などがありますが、極限環境というのは、深海の高圧(水深3000メートルだと300気圧)、高山の薄い空気と強い紫外線、砂漠の乾燥、海底の100−300℃の温泉などがあり、そのような環境で生育する微生物がいます。

深海
深海は水温が平均して2℃くらいで、太陽光線が届かない。高圧のために100℃以上の水が水蒸気にならずに湧き出す泉(熱水湧出口)があったりする。そのような泉は、ブラックスモーカーといって泥が黒い煙が湧き出すように見える。
私は「しんかい」という探査艇に乗って海底の泥の中の微生物を採取・研究していた。バラスト(バランスをとる金属球)を落としながら、海底に沈みそこで移動して、潜水艇外についているマニュピュレーターというマジックハンドのような道具で作業をし、残りのバラストを落とし浮上する。定員は正副パイロットと研究者の3名。高い水圧に耐えるために小さい窓が3つだけ。トイレもない。私は相模湾や奥尻沖で採取の経験がある。
海底は見た目には砂漠のような所で、目に見える生物は余りいない(シロウリガイ、ハオリムシ、目のないエビなど)。ミネラルのある泉のそばには生物が集まってくる。


このTシャツを着て「しんかい」に乗っていました 好評のバイオリン演奏

微生物の採取 高圧でしか生きられない微生物:高圧を保ったまま水面に帰ってくるようにする。
低温:不凍液を入れて温度を下げた水の中で振盪培養する。6−8℃で最もよく生える、マイナス5℃という低温でも旺盛に生える珍しい微生物を発見したことがある。
高温:太陽の影響を受けずに生きている生物は、イオウを酸化してエネルギーを得て生きているものもある。97℃を最も好む微生物もいた。

高圧: 深海から採取した高圧を好む微生物と地上の大腸菌を1,100,300、500気圧で培養すると、深海の微生物は気圧が低いと数が少なく、分裂がうまくできずソーセージ型の細胞の形が長くなる。地上の大腸菌は逆に、高圧で細胞が長くなる。

塩濃度: ケニアの大地溝帯では地表に地下のミネラルが噴出してきて、塩濃度は飽和溶解度の30%くらいになる。ここには赤い藻類を食べて、羽が赤くなったフラミンゴが住んでいた。
日本でも塩田から形が三角形で、20−30%の塩濃度を好む微生物が発見された。

環境因子と生物の多様性: 塩濃度を取れば、海の塩濃度は2−3%で魚が棲む、6−8%まで生きられる昆虫がいる。12%でも棲める軟体動物がいる。塩濃度が濃くなると棲める生物は減ってくる。高い山では生物種数が減ってくる。


もうすぐ、コーヒーやサンドイッチの登場

環境条件が厳しいところ
したがって、厳しい環境だと競争相手がいないので他の生物からのストレスが少ないという利点がある。極限環境に住む理由には、好んで住むときと、取り残されてしまって生息する場合がある。
ライフボックスというやり方で、環境条件の要素を3次元軸にとって(温度、気圧、塩濃度など)、生物が好む条件を満たしたところに点にうってみる。点群が時間(太古と今)でどのように移動したかを調べる。


  1. 太古での極限環境がそうでなくなった場合:太古から今に向けて、水中から地上(水がないところはかつては極限環境)に進出していった
  2. 太古での極限環境が現在も極限環境として残り、そこに取り残されている場合:高塩濃度:太古も今も取り残されて住み続けていると考えられる生物がいる。
  3. 太古での極限環境が一般の環境になり、一般の環境だったところが極限になった場合:酸素:嫌気性生物の世界であった酸素のない太古に、好気性の光合成生物が酸素を作った。酸素が増えた現代では、好気性生物が繁栄し、嫌気性生物がマイナーになった。


    質疑応答
         (○は会場参加者の発言。→はスピーカーの発言)

    〇低温、高圧で育つ微生物はどんな役に立つのか→
    低温で効率のよい酵素を持つ微生物が見つかれば、冷たい水でも働く酵素の入った洗剤が作れるのではないかと考えていた。微生物そのものが使えなくても、構造解析からどんな構造の酵素が低温でも働くのかを解明できると思う。高温、高圧になると遺伝子のスイッチを入れられるプロモーターと言われるDNA配列を見つけられれば、遺伝子の制御を温度や圧力で行うことができるかもしれない。当時は深海に行くことができるようになり、まず極限環境の微生物を採取してみるという時代だった。
    〇深海に出かけたのは高圧・低温の微生物が標的だったのか→そうです。
    〇常圧から高圧まで幅広い環境でも生える微生物もあるのか→1〜100気圧まで生えることができるものもある。しかし、細胞の形が長くなったり、生育が遅かったりする場合が多い。
    〇今は、発展途上国の土を持ってきて、その中から有用な物質をつくる微生物を見つけたときに、そこから得られる利益には、見つけた人と資源保有国の権利があるという厳しい規制があるが、海底の土の採取にはそのような規制はないのか→当時はなかった。
    〇南極の資源の利用は南極条約に定められている。公海はよいが、領土・領海はだめ。
    〇微生物資源の特許はあるのか→菌は公的な機関に寄託(菌を預けて登録し、同じ菌が見つかったときには、先に登録した人の特許権が認められる)する。
    〇バンク事業とは→ 寄託した菌を預かる仕事は、公的機関が予算をつけて行っている。バンクの微生物はその微生物にかかわる特許のよりどころとして重要である。
    〇酵素のほかにどんな役に立つことがあるか→多様な遺伝資源として重要である。
    〇とりあえず集めておけば、後から何かの役に立つことがあると思うが、最近はすぐに研究成果を問われる→厳しいようですね
    〇ガンのような病気に関係しないと予算がつかない→重点化して研究費を有効に使おうとしているが、重点化がすべてではなく、基礎研究も重要。ともに、研究成果の評価は難しい。
    〇私たちの体のたんぱく質は0〜50℃の間、1気圧くらいの中で働くようになっているが、極限環境に住む、たとえばエビの体のたんぱく質はどうなっているのか→積極的に適応して体内を高温に適応させてしまう場合と、防御的に適応して体を堅い殻で覆って高濃度の塩に耐える場合がある。
    また、たんぱく質が高温でも変性しないような3次構造を持っていたり、DNAの二重鎖は温度があがると解けて一本鎖になってしまうので、2本鎖が解けないようにたんぱく質がついていたり、DNAの結合(AとT、GとC)を強くするためにGC含有量が多くなっていたりすることがある。
    〇微生物にはグラム染色ができるかどうかで陽性、陰性という分類の仕方があるが、極限環境の微生物はどちらか→海に住むものは周りが水なので、グラム陰性が多いようだが、特に偏っているとは考えられない。高温・高塩濃度に住む微生物は細胞壁が細菌と異なるもの(古細菌)がある。これは細胞壁の脂質の構造が細菌とは異なっているためグラム染色では分類できない。形は大体が、桿菌(棒状)、球菌で、特に変わった形をしている傾向もない。
    〇人間が微生物の暮らし方、生き方から学べそうなことは→多くを研究していると直接使える成果がなくても、考え方のヒントになることはある。
    〇金属のバラストを落として、海の環境に影響はないのか→材質を忘れたが、影響のないもので、影響がでないように浮上する前に落とす場所を変えていた。
    〇江ノ島水族館で深海に住む、エビ、かに、カイを見たが、他にはいなかったか→北海道でエゾイバラガニというグロテスクなカニを見た。深海は低温なので、住む魚は脂が多くておいしいのではない。
    〇培養するときに、高圧の環境はどうやってつくるのか→ガスゲージつきにチタンのシリンダーで液体培養する。
    〇未知の微生物を持ってくるリスクはありますよね→環境が変わって生きられないのが普通だが、可能性としては考えられる。
    〇ウィルスは極限環境にいますか→極限環境に住む微生物についているウィルスはあると思うが、そういうウィルスそのものが極限環境に強いかどうかは別なこと。
    〇夢のある話をして下さい→火星に人間が住めるようにする!火星には水分子はある。温度差が大きく、大気組成も地球とは大きく異なる。酸素を作る微生物をたくさん送り込んで、酸素が星を覆うようにすると、温度差もなくなり人間の住める環境を作れるかもしれない。


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