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バイオジャパン2005に於いてセミナー「先端技術と国民理解」が開かれました |
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前回まで4年おきに開催されていた「バイオジャパン」が、 今年は「バイオジャパン2005―ワールドビジネスフォーラムー」として9月7日から9日までパシフィコ横浜において開催されました。8日に行われたセミナーのひとつ「先端技術と国民理解」にくらしとバイオプラザ21の佐々義子主任研究員が講師として参加しましたので、その内容を報告します。
セミナーは中谷内一也氏(帝塚山大学心理福祉学部教授)が座長となり、「バイオテクノロジー」に関して、一般市民に情報発信している人(組織)3人がそれぞれの立場から、「一般市民は組換え食品についてどう感じているか」を、組換え食品の賛否は決めず、「日本人の先端技術の受容拒否」を切り口として20分ずつ話し、その後会場の参加者も含め意見交換を行い、一緒に考えることを目的に行われました。
それぞれの話とパネルディスカッションの概要は次の通りです。
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会場風景 |
講師の先生方 |
1.「リスク情報の読み方」小島正美氏(毎日新聞社生活家庭部 編集委員) |
- 米国の組換え作物の生産者は「農薬を減らしたい」との観点から「環境に良い事」をやっているにもかかわらず日本のマスコミは「交雑」などマイナス面を強調しすぎたのではないか?今年の在京6紙の組換えに関する記事の60〜70%は否定的なものであった。それは、記者は「問題点の指摘が任務である」と教えられる事、「行政が流す情報では、否定的な面を強調してとりあげる」などメディアに内在する問題があるからではないか。また、記事のスペースとして安全50%・危険50%と公平に扱ったとしても消費者の印象は安全10%・危険90%になりがちである。
- 市民団体は情報の流し方がうまく、行政・企業よりも行動力があり訴える際のネットワークがある。このため、たとえあやふやな情報でも、100回言えばそれが真実になってしまう。(新聞は情報の網羅性と速報性が重視されるメディアなので)記者は広く浅くの取材になりがちで勉強不足であるが、市民団体はリリースする力があり「書かせる技術」が上手。
- 最先端の技術でも突然でてきたわけではない。未知の技術のリスクは危ないといわれるが未知のベネフィットもある。専門家は「消費者が科学的根拠に基づかずに不安を持つこと」に嘆いているが、行動はしない。また、企業は「消費者が問題」とは言えない。専門家はもっとネットワークを作り、情報発信することが必要。特にセミナー等記者教育を繰り返しする必要があると思う。
2.「消費者のためのリスクコミュニケーション」熊澤夏子氏(食品と暮らしの安全基金 国際担当) |
- 消費者1人1人から集められた基金で食品と暮らしの安全を独自に調査しているNPO法人。消費者の立場から一般の人向けに情報発信しているが、殆どの日本の消費者はリスクというものを理解していないと思う。「ゼロリスク」「絶対安全」を求めがちであるがそのようなものは無い。「体質・アレルギーなど自分のリスクを知りなさい。それから、自分がその食品を買う事にどのようなリスクがあるのかという社会的なリスクを考えよう」というようなアドバイスをしている。
- 組換え食品のリスク分析で評価されているものは「食品としての安全に関するリスク」と「環境へのリスク」があり、考慮されていないものとして「生物学的環境学的リスク」「政治学的経済学的リスク」「心理学・倫理学・宗教学的リスク」がある。
- リスク分析の歴史を見ると、保険、投資など金融からから始まり環境、化学、食品の安全性へと広がってきた。
- 日本の食品行政では消費者保護と自然科学に基づいた政策が中心であるがEUではそれに加えて科学以外の要因(消費者の懸念、環境保護など)も考慮している。食品行政が自然科学だけに基づいて行われると消費者は不安になる。倫理学、心理学、経済学、政治学、生物学的のも考えねばならない。
- リスク情報提供だけでは不十分である。自然科学分野からだけではなく社会科学からも考えることが大事。消費者も行政、企業、いろいろなところから情報を得て考え、意見を述べることが必要である。
3.「バイオリテラシーの向上をめざして」佐々義子氏(くらしとバイオプラザ21 主任研究員) |
- 新しい科学技術が社会に登場したときの反応は次のようになる。
- 拒否:不利益を受ける人が多い
- 受け入れ:利益を受ける人が多い
- 無関心:利益がない。
大切なことは市民の選択は政策に反映されることになること。
- くらしとバイオの仕事として「バイオリテラシーの向上」がある。専門語が難しい
学習するのが面倒、差し迫った必要がないなどの理由で市民は無関心になる。
受け手を知り、ホスピタリティのある情報提供することが使命である。科学技術を利用してQOL(生活の質)を高めることは重要な事であるがその意思決定は市民がする。
「普通の市民」(バイオに特に興味を持っているわけではない人)との出会いの場を創るため、農場比較見学会、薬用植物観察会、発酵を学ぶ実験教室、談話会、バイオカフェなど、大規模ではない参加体験型のイベントを企画・実施し、双方向のコミュニケーションをはかっている。
- 効率的情報伝達方法として今までの経験から「個人をターゲットにした活動」、「子供という、家庭のオピニオンリーダーにアプローチする」、「場作りの工夫を継続的かつ広範囲にする」事などが重要と考える。
フロアーからの質問・意見(→は回答)
- (小島氏へ)記者勉強会を開いてもあまり来てくれない。今後は是非出席して欲しい。「伝言型」で記事を書く記者も多い。
→誤った記事が出た場合には指摘して欲しい。記者は「事実を書いた」「資料に基いて書いた」などと言うかもしれないが、誤った場合良心が咎めるものである。
- (熊澤氏へ)市民啓蒙の説明会を各地で開催して欲しい。
→興味を持っていない人に「情報を伝える」、「読ませる」ことは難しいものである。その点、インターネットの場合たまたま入り込んで読んでくれる場合もある。
中谷内座長からパネリストへの質問
- リスクマネージメントにおいて「不信」は大きなテーマ。どうすれば信頼を高めることに結びつくと考えるか?
(佐々氏)メッセージの到達度と満足度がポイントだが声・表情なども含めたスピーカーの態度が重要である。中立ではありえない。自分の思い・意見を正直に本音で語ることが一番だと考える。
(熊澤氏)信頼を高めようとするより一般の消費者には「誰も信頼するな」「両方の意見を聞いて自分で判断する力をつけるように」と言う。
(小島氏)地道に記事を書いても、TVでみのもんた氏がひとこと言えばひっくりかえる。消費者はメディアだけを通じて見ているため、リスクの大小を常に消費者に伝えていく努力が必要である。
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