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つくば農場見学会(一般農場と組換え作物隔離圃場比較見学会)報告

7月29日(金)につくば農場見学会(バスツア)を開催しました。連日気温が30℃越え、湿度も70%以上の真夏日で、そよとも風の吹かない猛暑でした。体力を考えキャンセルされた方が2名でしたが、23名の参加者が熱中症にもならず頑張って見学しました。遠く愛知から親子の参加を含め3組の親子参加があり、年齢は11歳から76歳の元気な皆さんでした。立っているだけで頭がくらくらするなか熱心に説明される研究者、汗をぬぐいながらその説明を傾聴する参加者の姿に感動を覚えました。見学、講演、帰路のバスなどで熱心な意見交換がされ大変意義深いものでした。当日は、農林水産技術会議事務局筑波事務所の根本広報官により、スムーズに7見学会場を案内していただきました。


見本園

有名なひとめぼれ、秋田こまちなど沢山の品種の稲が20〜30cm間隔で植えてあります。寒冷地用のキララが穂をつけているだけで他はまだでした。開花時期が品種によって大きく異なります。稲は自家受粉でこのようにくっ付けて植えても交雑は見られないとのことでした。
次にハーブ、野菜、穀類などの見本園ではレモングラスの爽やかな香り、ステビアの甘い葉をしゃぶりながらの見学でした。同じソバでもダッタンソバは背丈が低く、隣のソバと比較して違いがよく分かりました。いろいろな珍しいものを見ることができました。
雑草園には赤まんま、せいたか泡立ち草、エノコグサなどよく見かける雑草が何種類もありました。ナスビに非常に似ているワルナスビは間違って触ると棘があり痛くとれにくいそうです。雑草は、種が一度にとれず、増やそうとしてもなかなか上手く増えないそうです。ここでは研究用として各種の種子を全国の研究機関に供給しているそうです。


見本園で香西先生(中央農業総合研究センター)
から説明を聞く参加者
見本園で観察する参加者
見本園での栽培品目


つくばリサーチギャラリー

農林水産省の研究機関のほとんどがつくば市にあります。その研究所の最近の研究成果や新しく開発された農林水産技術が紹介されています。農業の大切さを理解してもらう展示もあります。
新聞発表された研究所の成果が展示されています。イネ全ゲノム塩基配列の完全解読が平成16年12月に達成されました。国際プロジェクトとして日本を含む10カ国で国際コンソーシアムが組織され協力して達成されました。日本はこのプロジェクトの中心メンバーとして全ゲノムの半数の解読を担当しました。島村農林水産大臣を囲んだ関係者の誇らしげな笑顔の記念写真が印象的でした。
水田の環境保全能力について分かりやすく説明されています。水田は単に稲を育てるだけでなく日本の国土にとっては環境保全で大切な役割を担っています。祖先が営々と築いた棚田が代表しています。貴重な水資源の確保、地形の保全、CO2の吸収などを経済的に試算すると11兆8000億円に及ぶそうです。
食用油の廃油を燃料として再利用する研究開発が進んでいます。BDF(Bio Diesel Fuel)と呼びます。廃油を超臨界メタノールで分解しグリセリンを生成させない画期的な方法です。植物性廃油のディーゼルエンジン燃料として再利用するのも近いように思えました。


つくばリサーチギャラリー 花粉症緩和米イネの栽培をしている隔離圃場で
説明される岡先生(農業生物資源研究所)と見学者


隔離圃場

周りを高いフェンスで囲い、監視カメラが所々に付いています。研究作業者以外は出入りできないようになっています。
花粉症緩和米の田植えが先月(6月8日)に行われ、8アールの広い水田に青々と茂っています。まだ穂は出ていませんでした。遺伝子組換え稲ですが、特別な形をしたものでもなく普通の稲です。上にはネットが張られていました。作業用の機械・道具などは内部で全部清掃されます。交雑の可能性をなくすため周囲の稲作農家からこの隔離圃場は250メーター以上離しています。稲の花粉は26メーター離すと交雑の可能性がほとんどありません。更に、花粉の飛ぶデータをとるためモチゴメを植えたポットを周囲に置きモニタリングを行っています。このモチゴメを採取して交雑を見ます(キセニア)。また、周りの生物にどんな影響があるか、カメムシ、ウンカなどをモニタリングします。
スギ花粉の花粉症の抗原になる抗原タンパク(エピトープ)遺伝子を「きたあけ」の稲にいれました。このお米を食べることにより減感作療法となり、根治療法を狙ったものです。
今回の栽培により花粉症緩和米を300kgとり、サル、ラットの試験用の試料を採取するのが目的だそうです。


組換えダイズ栽培試験圃場

農業環境技術研究所では、組換え作物と近縁の作物との交雑を調査する目的で、ダイズ(Glycine max)(組換えダイズ、非組換えダイズ)と近縁のツルマメ(Glycine soja)との交雑実験が3年間の計画で行われている。
自然交雑率と距離との関係を調べるにあたっては、組換えダイズ、ツルマメ、非組換えダイズの種まきを数回に分けて栽培し、開花時期をあわせたりしている。特に、お互いの開花時期をあわせることが非常に大変であるとの説明があった。また、ダイズとツルマメを隣接させて栽培し、交雑がしやすいようにする実験群もあった。


実験圃場での組換えダイズとツルマメとの
自然交雑実験の説明をする松尾先生
花の位置を明確にするための表示板


展示農場

見学者のために遺伝子組換え作物が展示用として植えてありました。害虫抵抗性トウモロコシ、除草剤耐性大豆でした。周りには野ウサギが入れないように網が張られています。
除草剤(グリホサート)耐性大豆と非組換え大豆が植えられてあり、グリホサートが散布されても除草剤耐性大豆は枯れません。除草剤を散布しないと雑草が生い茂り大豆が生育しなく雑草の中に埋没してどこにあるか分かりません。雑草の強さを知り驚きました。非組換え大豆は雑草を取り除く必要があり、その作業量が並大抵でないことを理解しました。大豆は10メーター離すと交雑しません。データを取るため同じマメ科のツルマメを植えて自然交雑を観察しています。
害虫抵抗性トウモロコシは害虫アワノメイガの殺虫性タンパクの遺伝子を組入れたものです。飼料用にするデントコーンに遺伝子を組換えてあります。
当たり前のことですが、組換えと非組換え作物の概観は何にも変わりないことをあらためて認識させられました。この展示農場は一般の人達に組換え作物がどのようなものか実物を見学しながら理解を深めることが出来るようになっています。


除草剤を例にした遺伝子組換え展示農場 遺伝子組換え実験を実施している閉鎖系温室


バイオプラントリサーチセンター

有用な遺伝子を取ったり、組換え作物を作ったりしている遺伝子組換え研究施設です。1階の閉鎖系温室の見学をしました。完全閉鎖の温室(閉鎖系温室)、一部外気を入れる温室(特定網室)などです。中に入るには靴を履き替え白衣に着替えなければなりません。この施設全体が今は稲に集中しているとのことでした。花粉症緩和米のほか草型改変米などイネゲノム解読の成果を基礎に研究が進められています。遺伝子組換え技術の研究にモデル植物としてシロイヌナズナを用いて研究するのは、ゲノムサイズが小さいこととライフサイクルが2ヵ月と短いためだそうです。
また、研究者から遺伝子組換え作物の遺伝子導入のアグロバクテリウム法について易しい説明がありました。


講演「遺伝子組換え農作物の開発について」

田部井 豊先生(植物細胞工学研究チーム)

1) 品種改良(育種)について
2) 遺伝子組換え技術の特徴
3) 安全性評価 生物多様性への影響 食品としての安全性
4) 実用化されている組換え農作物とその特徴
5) 現在、開発中の組換え作物
6) 試験栽培する際の留意点と実際の対応
以上の内容で実例を示しながら分かり易いお話でした。個々の項目について詳細な報告は割愛させていただきます。
昔から品種改良として行って来ている掛け合わせの育種と遺伝子組換え技術とどこが異なるかの説明がありました。品種改良はどんな方法でも同じ原理で望ましい性質の遺伝子を確保し残して行くものです。育種の素材が掛け合わせ可能な種にないときは、突然変異や遺伝子組換え技術を利用することになります。遺伝子組換え技術は、従来の品種改良に比べてみると、品種が本来持っていた特性を変えることなく新しい形質を導入できることと、全生物の遺伝子を利用して品種改良できる技術です。
商業用に世界で栽培されている組換え大豆は全体の56%であり、トウモロコシは14%となってきています。米国、中国、カナダなど日本を除いた17カ国が商業栽培を行っています。最近は、従来遺伝子組換え技術に反対であったEUが受け入れるようになり、EUでは組換え非組換えとの共存法のためのガイドラインが示され、デンマークでは共存のための法律が作られていることが説明されました。
安全性については花粉症緩和米の試験栽培の例を示し、交雑を含め環境への影響について最大限に配慮して行われているとのことでありました。


質疑応答を答える田部井先生 農場見学に参加された皆さん

質疑応答

・ 遺伝子組換え作物は消費者へのメリットがはっきりしない。生産者へのメリットは分かるが。
→確かに安いとかうまいなどの直接のメリットは今のものにはない。第二世代と言われるものに花粉症によいもの、糖尿病に効果があるものなどが開発されている。ただ、農業は国の基本産業で若者が農業に魅力を感じるようにしなければならない。経済的で、効率のよい農業技術が組換えで可能になると考える。

・ 従来EUは遺伝子組換え作物に反対であった。なぜ、賛成になったのか。
→従来はアメリカが特許を持ちどんどんEUに輸出する恐れがあり、それを阻止するために反対していたと思われる。現在は特許が切れてEUでも自由に研究開発ができるようになったからではないか。

・ 風評被害はメディアの影響が大きいと言うが研究者にも問題があると思う。
→メディアへは、科学的な記事として書いてもらいたいとお願いしているが、それ以前に、研究者も質問を受けたら記者に分かりやすくタイムリーに答える努力が必要である。

帰りのバスでの参加者の感想
・ 大変に貴重な体験となりました。インターネットでこの見学会を知り、すごく得をした気がしています。
・ 欧州がなぜ今まで反対していたかよく分かった。今日の見学会は猛暑とともに思い出となりました。
・ 非組換えの表示を見て安全と思っていた主婦ですが、花粉症緩和米等の最新の研究を見てもっと勉強したいと思った。情報をもっと出していただきたい。
・ 欧州の政治的反対が分かった。日本は組換え作物が受け入れられるためには時間が要すると思う。BDF(Bio Diesel Fuel)に期待する。
・ 百聞は一見にしかず。今日は見ると聞くと一緒でよかった。第一線の研究者が一生懸命で安心した。
・ 日本の農業を製造業として成り立たせるバイオテクノロジーが世の中から認知されないといけないと感じた。
・ 主婦のほとんどが組換え作物は悪いと思っている。今日は研究者が猛暑にも係わらず一生懸命に分かりやすく説明してくれた。勉強になった。
・ 田舎に帰って農業の再生に取り組みたい。メディアのハシクレですが、発信する側が大事で、ナタネのコボレタネについてもタイムリーに情報を発信すべきである。
・ 暑い暑いなかでの見学でしたが勉強になりました。遺伝子組換え作物が医療に貢献できるのも近いと期待しています。
・ 花粉症緩和米、糖尿病米などに大変に興味を覚えました。お茶まで用意していただき、親切にお世話してくれた「くらしとバイオプラザ21」の皆様に感謝しております。
・ 高校の教師ですが、現場を見学できて生徒にお土産ができました。食料を増産する技術として大切であることが分かりました。


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