5月28日、(独)医薬基盤研究所 薬用植物資源研究センターにおいて植物バイオに関する講演会と薬用植物観察会を日本科学未来館友の会との共催で行いました(28名参加)。午前中は講演会、組織培養で作出された植物の説明、研究室の見学、午後は栽培試験圃場、標本園、温室での植物観察と生薬保存庫で生薬の説明をしていただきました。
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木内文之センター長のお話「何故、薬用植物か」 |
昔は、薬はすべて自然界(特に植物)から得るものであった。@薬用植物は長い歴史の中で選び出されてきたものであり、A植物は、様々な化合物を作る能力を持っている。B植物が作る複雑な構造を持った物質を化学合成で正しく作るのは、現在の技術でもかなり難しいため、薬用植物は薬を作る材料として重要な役割を果たしている。
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吉松嘉代先生のお話「これからの薬用植物−植物バイオテクノロジーの利用と活用」 |
当センターでは、@わが国の薬用植物の安定供給を図るための栽培技術の確立等に関する研究とA薬用植物の薬としての品質の確保及び貴重な植物資源の保存を目指して研究を進めている。
以下に講演内容を概括する。
- 薬用植物の大量増殖法の確立
アマゾンの熱帯雨林の減少による資源の枯渇が心配されているトコン(生薬名は吐根で去痰薬、催吐剤、アメーバ赤痢治療薬)について、植物組織培養技術による苗の大量増殖法を検討した結果、1茎頂からの茎頂培養で年間100本の苗ができる技術を、不定根を材料とする方法で、1培養根から年間10万本以上の苗を大量増殖できる方法を確立した。
- 毛状根培養による薬用成分の生産
「ムラサキ」や「オタネニンジン」にリゾビウム・リゾジェネス(従来土壌細菌の名称はアグロバクテリウム・リゾジェネス)を感染させて毛状根を誘導し、培養することにより、実験室レベルで薬用成分を生産させることができた。
- 薬用植物への外来遺伝子導入技術の開発とその応用
有効な組換え体作出法が確立されていなかったオウレンへの外来遺伝子導入技術を確立し、薬用成分の蓄積に関与する遺伝子を導入した組換え体の作出に成功した。
- 遺伝資源の保存
植物バイオテクノロジーで得られた優良クローンを次世代に残していくために超低温(-150℃)下で保存する方法を検討し、資源の保管ができるようになってきた。
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講演される吉松先生 |
麻黄 |
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トコン |
ビンのなかで培養されている植物を見る参加者 |
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薬用植物および生薬の観察 |
生薬標本室では、動物の生薬や葛根湯で使われている生薬など実物を使っていくつかの生薬を紹介していただき、かじったり、匂いをかいだりしました。
野外と温室で栽培されている薬用植物を見ながら、生薬としては植物のどの部位が使われ、どんな薬効があるかをうかがいました。
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生薬について説明される渕野先生 |
温室で説明される木内センター長 |
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薬用植物について説明される飯田先生 |
ムラサキの花と根(根が紫になっている点に注目) |
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ケシについて説明される菱田先生 |
ジギタリス |
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オタネニンジン(ニンジン小屋で栽培しているものより、外のもののほうが丈夫) |
参加された皆さん |
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薬用植物&バイオ観察会を終えて |
今回の参加者は23歳から75歳まで全世代にわたっていました。アンケートでは、参加理由として「実際に薬用植物を見てみたい」が60%強、「最新の植物バイオの知識を得たい」が40%であり、参加後「面白かった」が92%。もっと薬用植物観察時間を長くしてほしいとの意見が多くあったものの参加者が納得できた薬用植物観察会でありました。
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