バイオ技術と私たちの生活の関わりについて、「個人遺伝情報保護と人権」・「人体組織の利用と規制」・「バイオ技術の公共理解に向けた国内外の活動」などに関する講演会が、財団法人バイオインダストリー協会の主催により2005年2月24日(木)日本科学未来館において開催されました。くらしとバイオプラザ21からも、日頃の活動から得られた情報提供のあり方についてお話をさせていただきました。
はじめの三つの講演ではバイオ技術と私達の関わりについての規制、歴史、世界の状況が説明されました。私達の活動はこれらのすべてに連なっており、特にパブリックエンゲージメントという考え方は、私達の活動そのものであることが実感できる意味のある講演会でした。
講演の主な内容は次の通りです。
1.遺伝情報と人権―ユネスコ「ヒト遺伝データ国際宣言」を中心に
北海道大学大学院文学研究科 倫理学講座助教授 蔵田伸雄氏
2003年10月、ユネスコ総会で「ヒト遺伝データ国際宣言」が採択された。これは、「世界人権宣言」を基礎に97年に採択された「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」の内容を具体化したものである。この宣言では、「人の遺伝データを収集、処理、使用、保存する際には、平等・正義・連帯を守る事」「人権、人の尊厳、基本的自由を保護する事」「遺伝データは診断や医学研究を目的とするときだけに集める事ができ、差別を意図したデータ収集を行ってはならない」とされ、個人遺伝情報の適切な取り扱いを各国政府や関係機関に求めている。
2.人体組織の研究利用とその規制
(株)科学技術文明研究所 所長 米本昌平氏
生命科学の進歩と技術の向上によりヒト組織・細胞の利用価値が増している。その利用に関して各国とも薬事法をはじめいろいろな方法で規制しているが、最近、新型の感染症の出現、臓器・組織の売買や無断採取の問題が表面化し、包括的な法律の作成が世界的に試みられている。ヨーロッパでは、04年EU人体組織細胞指令が公布され、06年を各国での施行期限として、臨床応用のための人体細胞組織取り扱い事業については許認可制度を、個々の細胞組織の利用について登録制度を求めている。日本では、ヒトの臓器・組織・細胞の研究利用についての包括的な規制が存在せず、複数の法令・指針・自主規制が判断基準となっている。また、医薬品承認申請目的以外の基礎研究におけるヒト組織・細胞利用の基準も明確ではない。
3.バイオテクノロジーの公共理解を得るための基礎研究
― 特に、ヨーロッパの科学館の展示を対象として ―
千葉県立中央博物館 上席研究員 牛島薫氏
科学館は来館者にとって、バイオテクノロジーの情報源としての信頼性がマスコミ、国、企業、市民団体より高いことが昨年度の調査でわかった。(現状では難しく、なかなか展示テーマとしては取り扱われていないが)科学技術の社会への関わりを倫理面について考える場を設ける必要性を感じており、欧州の先進的な科学館の現状を調査した。以前はバイオテクノロジーなどの科学技術に対する公衆理解(Public
Understanding)促進については、科学技術館を中心として推進されてきたが、科学技術の公衆理解を促進するだけでは市民の不安が解消されない実態がイタリアなどの調査に示されており、近年はイギリスが中心となって推進している対話を基としたPublic Engagement(公衆参画)へと移りつつあることが判明した。
4.バイオの国民動向調査
NPO法人くらしとバイオプラザ21 主任研究員 佐々義子氏
バイオの技術はよく管理された上で活用されなくてはならず、そのリスクとベネフィットについて情報が開示され、市民が理解し、選択できるような環境の整備が重要である。しかし、先端技術は進歩も目覚しく、専門的であるため理解が難しい。現状では市民にとってわかりやすい情報提供のあり方、情報提供の方法、場の提供についての研究や情報の交換が行われていない。公衆理解(PU)の推進においては常に効率ばかりが重要視されてきたが、NPO法人くらしとバイオプラザ21で主催又は共催したイベントや情報提供を分析した結果、双方向性のある対話型、体験型の情報提供を行った方が参加した市民の理解も進み、バイオテクノロジーへの受容度も高まることがわかった。PU促進の近道が定まらない現状では、このような地道な少人数を対象とした活動を繰り返していくことが、最も効果があり、その繰り返しの中で、人数規模が異なるケースにおける有効な対応方法についてもヒントが得られ、国民理解推進に向けた具体的提案につなげていくことが可能になると考えられた。
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