2月7日(月)コクヨホールにおいて「サイエンスコミュニケーションのひろがり〜縫い目のない文化を実現するために」が文部科学省科学技術政策研究所http://www.nistep.go.jp/index-j.html
(NISTEP)主催で開かれました。縫い目のない文化とは、文系と理系、科学と芸術というように、分けて考えられがちな文化をひとつの統合されたものと捉えることです。私たちは文系、理系に関わる人達をあたかも別な種類の人間で、ひとりの人の理解できる文化は理系か文系のどちらかしかないように思いますが、過去の天才といわれる人を見ると、レオナルド・ダ・ヴィンチのように両方の分野で才能を発揮した人たちがいるわけです。サイエンスという言語を通じて生まれる文化を楽しむことは、「文系の人」にも「理系の人」にも許されているはず。また、そのようなものの見方、柔軟な考え方、感じ方を養うにはどうしたらいいのか、国内外のスピーカーから興味深い話題が提供されました。
「科学茶房」と名づけられた懇親会場は、暗い照明の中に、ダイヤモンドをつらねたように見える水の芸術作品や、DNAアートが展示され、とてもおしゃれな雰囲気。「ゾウの時間ネズミの時間」で有名な本川達雄先生(東京工業大学)の歌声も直接うかがうことができました。多くのいろいろな立場の人が、サイエンスを柔軟に捉えることの面白さを伝える努力を少しずつしたら、理科離れ現象も減速するのではないでしょうか。
講演の主な内容は以下の通りです。
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会場風景 |
科学茶房ではDNAアートが展示され、参加者は討論に熱が入っても足元に注意! |
「好奇と歓喜〜科学は文化の一部となる」 オーブリー・マニング(エジンバラ大学名誉教授)
「C.P.スノーは著書「ふたつの文化と科学革命」の中で理系・文系は分けて考えるべきものでなく、このような考え方は社会の損失になると40年余り前に述べているが、現在のイギリスで、この問題が解決されているとはいえない。今の教育の中で、理科が総合的に扱われていないことが科学離れの大きな原因のひとつだと考えられる」ゆっくりと社会が変わるように気長に努力していくことが大事だと、科学茶房でも強調されていた。
「知の方法としての科学〜生きている砂「有孔虫」と進化の叙事詩」 リン・マーギュリス(マサーチュセッツ大学アマースト校教授)
参加者に6種類の放散虫のカードのどれかが配られ、これを使ったゲームをして、「科学は体を動かし、参加するもの」であることを体感。光合成をする緑色のナメクジの一種など珍しい生物を紹介するビデオも上映された。マーギュリス先生はこのような科学を楽しむ教育プログラムを3種類創られ、多くの参加者が体験しているという。
「ヨーロッパのサイエンスコミュニケーション」 ステーヴン・ミラー(ロンドン大学ユニヴァーシティカレッジ教授)
「1980年代半ば、科学者はなんらかの形で資金面での研究支援をしている一般市民に対してコミュニケーションをとる義務があると考えるようになった。しかし、これは一方通行、トップダウンのコミュニケーションだった。今では対話と討論、専門家と非専門家の双方向的コミュニケーション、合意形成が謳われている。科学者やメディアはコミュニケーションの手法について学び、市民とのコミュニケーションを大切にしていくことが重要」
「韓国における科学技術公衆理解」 チョ・スックギョ(韓国科学財団国際部長)
「1876年朝鮮王朝では、「東道西器」の理念のもと、西洋の科学技術の積極的な取り入れが始まった。科学の普及は1930年代の「韓国発明者協会」の活動に進んだが、日本の植民地政策の中で中止に追い込まれた。1970年、朴大統領のセマウル運動(生活水準改善のための経済発展プログラム)がスタートし、自然資源の少ない韓国にとって、科学技術発展と人材は重要な要因と位置づけられた。2000年代に入り、韓国でも科学離れの傾向はあるが、市民、生徒、オピニオンリーダー、研究者など、それぞれに向けて「科学技術公衆理解」の発展のため、長期的なあらゆるプログラムが走っている」まだ顕著な成果は現れていなくても、この方向を守っていく姿勢が強調されていた。
「こどもカルチャーに科学を持ち込む」 イラン・チャバイ(ニュー・キュリオシティショップ代表)
「こどものときは誰でも、ふたつの文化を区別することなく受け入れているのに、成長するに従って科学への関心を失っていくことが多い。ゲームを使って子供のときから、縫い目のない文化としての科学が根付くことを目標にしている。ロールプレイコンピューターゲームを用いることで、子供の時代から縫い目のない文化を根付かせることに対する議論が起こることも期待している」
「おしゃれな科学」 渡辺政隆(科学技術政策研究所上席研究官)
「江戸時代、土井利位(としつら)は雪の結晶を観察し『雪華図説』を遺し、これは着物や刀の鍔のデザインに用いられたが、これはまだ博物学の域にあるものであった。1936年、北海道大学の中谷宇吉郎博士のグループが世界で初めて、科学的に人工雪の作成に成功し、今ではイベントなどで人工雪が使われている。中谷先生のお嬢さんである中谷芙二子さんは人工霧を利用した「霧の彫刻」に取り組んでおられる。このように、おしゃれな科学は芸術へと昇華していく」
「アート+サイエンス=カルチャー」 木村政司(日本大学藝術学部教授)
昆虫好きだった木村先生は、中学校で理科の先生が好きでなくて科学嫌いになってしまった。大学で、博物館の面白さにとりつかれて、今では科学と芸術の境界をなくした活動に取り組んでいる。「サイエンティストとアーティストのコラボレーションを進め、そのすばらしさを伝えていきたい。」
「科学のひらめきとかがやき」
司会 高柳雄一(電気通信大学教授)
ゲスト 中谷日出(NHK解説委員)
植木淳朗(慶応義塾大学環境情報学部大学院)
中谷さんは国内外の広いネットワークを駆使して、楽しいサイエンスを紹介する番組を制作している。植木さんからは、対話する声が振動に変換され、コミュニケーションを深めるおしゃれな椅子のデザインなど環境情報学を学ぶ方たちの作品の紹介。
会場との質疑応答が行われた。
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