(財)関西文化学術研究都市推進機構、NPO法人けいはんな文化学術協会、奈良先端科学技術大学院大学、日本植物生理学会の共同主催により2004年12月13日(月)、ぱ・る・るプラザ京都において開催されました。
このシンポジウムは「遺伝子組換え植物やそれから作られる食品に不安は感じるとともに、情報が少ないと考えている人が多い」という現実を背景に、そのような状況を生み出している要因をさまざまな立場から探ることを目的に開かれました。遺伝子組換え植物の最新情報を提供し、立場の異なるパネリストにより問題点を洗い出し、議論することを目指して、会場には200名以上が集まりました。このシンポジウムは、文部科学省の「サイエンス・メディエーター制度の推進」という科学技術政策提言調査研究の一環でもありました。シンポジウム会場では詳しいアンケートも行われ、その分析結果も、科学技術の前の専門家と非専門家との距離を近づけるための研究に役立てられるとのことです。
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会場風景 |
田部井豊氏(農業生物資源研究所)
(1)「遺伝子組換え作物とは」−組換え技術は品種改良のひとつ (2)「国外の遺伝子組換え作物の現状」−大豆、トウモロコシ、ワタ、ナタネなどを中心に米国、アルゼンチン、カナダ、中国をはじめ栽培面積・栽培国が増えている (3)「国内消費」−大豆、トウモロコシを中心に大量に消費されている。(4)「安全性審査」−組換え体自体の安全性、遺伝子産物(タンパク質等)の安全性が厚生労働省、食品安全委員会などにより審査されている (5)「表示の仕組み」−食品衛生法、JAS法により表示基準が制定されている。不使用(使っていません)表示義務のある食品は無い (6)「消費者の不安と栽培規制」 などが主な内容でした。。
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田部井先生による基調講演 |
パネルディスカッション「遺伝子組換え植物の論点整理」 |
パネリストは講演者の田部井氏をはじめ、伊藤潤子(コープこうべ)、小島正美(毎日新聞)、坂本智美(日本モンサント)、澤田純一(国立医薬品食品衛生研究所)、長友勝利(バイオ作物懇話会)、南史朗(滋賀県庁)、三村徹郎(神戸大学)の各氏で、「くらしとバイオプラザ21」佐々義子がコーディネーターをつとめました。
パネルディスカッションの概要は以下の通りです。
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食品としての安全性 |
小島氏より「読者の声として、組換え作物を長期的に食べても安全なのか?」と聞かれるが との質問があり、澤田氏が「(動物を使っての長期毒性試験は行なってはいないが、)長期にわたって食することを前提に考えていろいろな点から審査して安全性が確認されている」と説明した。
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環境への影響 |
長友氏より「通常大豆には除草剤を2〜3回使うが、除草剤耐性大豆の場合には1回の散布ですみ農薬・労力の削減になり環境への影響も少なく消費者の希望にも沿う」また、「大豆や稲が交雑して困ったという経験はない」との話があった。
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大企業の権利の独占 |
大企業だけが種子を独占支配しているのでは?という声に対し、坂本氏より「たとえどんなに良い技術であっても、良い品種に使われなければ生産者は使ってくれない。種子そのものはそれらを改良している200社以上の別の会社が販売しているので、弊社の独占はありえない」との説明があった。
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倫理の問題 |
三村氏「倫理の問題はそれぞれ各個人が考えている。遺伝子の研究をしたからと言って非難すべきではない。社会としてのコンセンサス作りが重要」との発言があり、倫理はすべてに通じるものでなく、個人的な背景が強く働いていることも考慮すべきと議論が進みました。そのほか、国内での栽培、食品の表示、消費者とのコミュニケーションについても活発な話し合いがなされました。
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8人のパネラーとコーディネーター |
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会場との質疑応答 |
Q:中国で組換え稲作との新聞記事を見たが、日本の場合は?
A:研究は行われているが、(ゴールデンライスは別として)一般向け栽培にはまだ時間がかかる。
Q:リスクコミュニケーションの観点でどのような活動をしているか?
A1:全国をまわり、行政・農家・一般の人と話をしている。研究者にはもっと国民 に情報発信する努力をして欲しいと感じている。
A2:対話を続けている。反対の意見を持っている人を排除しない倫理観を持つ事が必要と思っている。
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最後に |
最後に、遺伝子組換え植物の認知や理解を高めることは大変に難しいことから、このような情報提供については、他者に要求することが多い傾向があるので、パネリスト全員から、「自分の立場として今後どうしたいか」について、一言ずつ次のような発言がありました。
伊藤:一般の人の理解度は向上しているが、同時にお互いの考え方を理解する事が大事。安全と安心は同じではないと理解した上で、その中間を埋める努力をして行きたい。
小島:自分の考えが絶対に正しいとは思わない。組換えについては生産者の事も考えなければならないと考えている。
坂本:企業が情報を一番持っており責任もあると認識している。話を聞いて欲しいと思うし、科学的な議論もしたい。
澤田:リスクコミュニケーションの不足を埋めるような努力をしてゆきたい。
田部井:遺伝子組換え植物についてはさまざまな考えを持っている人たちがおり、互いを尊重しつつ「共存」できるように皆で考えてゆく事が大切。
長友:今日の「飽食」は新しい技術があったからこそ。試験栽培や研究は重要である。
南:立場が異なっても、各々、遺伝子組換え植物への理解のための努力が必要。行政として「研究者」・「生産者」が職責を果たせるよう努めていきたい。
三村:リスクコミュニケーションの基盤を作るのは教育であると意識して、大学の研究者も教育に取り組んでいくべきだと思う。
さらに、本日の司会進行をつとめた小泉望氏(奈良先端科学技術大学院大学)からも
「表示の見直し、栽培規制と共存する仕組み作り、コミュニケーションシステムの確立に取り組むことが大切」との発言があり、パネルディスカッションが終了しました。
最後に「サイエンスメディエーター制度の推進」のプロジェクト代表高橋克忠(けいはんな文化学術協会)氏よりまとめのコメントがありました。それは、「市民は理解の難しい分野についてもしっかり捉えているので、安心は科学的側面になじまないと言われているが、粘り強く、真摯に不安が軽減するように説明責任を果たし、それが評価される社会環境をつくることが大切。長期的には幼少期からの教育環境の整備も取り組まなくてはならない問題」ということでした。
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シンポジウムを終えて |
遺伝子組換え植物関連のシンポというと、すでに議論は終わったと考えられている項目(かつての混入事故など)についての発言が重なり、時間の多くを使ってしまうことがよくありました。今回、開催事務局はそのような問題や、個人の考えに基づくために水掛け論になりやすい問題(好き嫌い、漠然とした感覚など)には踏み込まない、という姿勢を示し、タイムキーパーを決めて発言時間を厳しく守るというルールのもとに、ひとりでも多くの発言が得られるように、シンポジウムに臨みました。
コミュニケーションが大切といいながら、このような大人数ではなかなか、納得のいくようなディスカッションはできないものですが、上記のようなルールのお陰で、現在、話題になっている「国内のおける遺伝子組換え作物の栽培」、「食品の表示」を中心とした論点の整理ができたのではないかと考えています。
まだまだ、互いにコミュニケーションを図るという段階には進んでいません。これが、ひとつの問題提起となり、多くの人々の間で議論が巻き起こることを期待します。
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