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米国視察レポートNO.5「ワシントン編」

本視察最終日、ワシントンの農務省、農業協会などを訪ね意見交換を行いました。特に多くの業界団体の方とのランチは、大変興味深いものでした。組換え小麦の商品化の遅れは「ビジネスとしての企業の選択である」と聞いていましたが、このランチのときに小麦という直接食べる食品であるための市民の不安も、理由のひとつであることがわかりました。米国で遺伝子組換えへの懸念が大きくないのは、リスクの考え方の浸透、手続きの透明性、安全性審査への信頼があるからだといわれてきましたが、新しい技術への懸念は、日本と同じように存在するのだと感じました。しかし、すべての関係者が「市民の懸念は教育で解決していく」という意見を異口同音に述べたことも印象的でした。

情報提供や説明を「 」で、私達との質疑応答を○で示します。

1. 米国農業協会 会長 シュトールマン氏

シュトールマンさんは3-4月日本で米国生産者が語るセミナーに参加され彼自身、テキサス州でコメ生産、畜産をされています。

「米国の消費者はバイオテク食品(コーンシロップ、コーンスターチなど)を特に気にしていないし、食の安全性にかかわる問題が起きたことはない。バイオテク農作物を生産しているのは18カ国、700万の農家でそのうち85%が発展途上国の貧しい農家。利用者の数は増加中。欧州は輸出に対して厳しい態度をとっているが、食品科学広報センター(IFIC)が欧州で実施したアンケートからは従来の食品と同程度に安心だと認識されていることがわかる」

○薬品づくりについては?→グリーンファクトリーといわれ有望。規模は小さいが農家のビジネスチャンスでもあるので、工程管理で交雑の問題をクリアしていきたい。

○日本の市場をどう思うか。→教育、情報提供が必要だと思う。反対派は感情に基づく扇動をしているようだ。これからも事実を示していく。日本を閉ざされた市場とは思わない。

○EUで5月にBTコーンの輸入を認めたが、その後どのようになっているのか→スイートコーンは大きな輸出品ではない。EUはWTOに違反していると思う。認めても実態は変わっていない、トレーサビリティのための我々の負担も大きい。安全性の問題ではないので、WTOで戦っていく。メキシコ、日本、中国など他にも有望な市場はある。

○油、コーンシロップは高度に加工しているが、豆腐のように直接食べる組換え食品は米国にあるか→コーンフレーク、コーンミール、組換えキモシンを使ったチーズがある。

シュトールマン氏(向かって右)と全日程をご一緒したガスギルさん  APHISのヘロン博士  ゴールドバーグ議員


2.米国農務省動植物検疫局 ヘロン博士
  (APHIS:Animal and Plant Health Inspection Service)

「1986年米国では、バイオの規制、組換えの安全な扱いが保障されるよう、組換えの規制がAPHIS、環境局(EPA)、食品医薬局(FDA)から出された。組換えは30年以上の歴史があり、農業、医薬、環境に利用されている。我々の任務は動植物保護の観点から規制からはずれるかどうかの判断をすること。殺虫剤関係はEPA、食料と飼料はFDAが担当」

○土壌微生物を保つことが安定した生産の決め手だと思うが→土壌微生物の重要性には着目し、農業研究センターやメリーランド州立ランドグランド大学で調査、研究中。

○ 旱魃に強い植物の改良が必要だと思うが→同感、現在研究中。

○ 害虫抵抗性獲得について、どう思うか→1990年の農薬開発の時から問題になっていた。適切な管理技術が必要。

○ 医薬品の場合は交雑や種子の混入や拡散の管理が難しいと思うが→現在、FDAで規制見直し中。環境評価方法の検討や隔離圃場などの小規模栽培も一案ではないか。


3.下院農業委員会専門スタッフ ゴールドバーグ氏

「農業委員会は下院にある20の委員会のひとつで40人のメンバーがおり、栄養補助、食品の安全、森林などを幅広くカバーしている。議員にはそれぞれバックグランドがあり、この委員会には技術面の担当者もいる。私は動物やヒトへの安全性や害虫の問題を担当。
規制はAPHIS、EPA、FDAと複雑だが透明性があり、APHISは植物保護法、動物保護法、で動植物の健康を扱う。次にEPAで病害虫の管理や殺虫剤耐性、殺鼠剤、カビの防止などを連邦法に従って判断する。食品の安全性はFDAで食品医薬品化粧品法に従い管理する。
最近は遺伝子組換えでは、スタックトジーン(複数の抵抗性を付与)も出回っている。
EUは製品でなく、プロセスを規制しようとしているので不満を持っている。
バイオテクノロジーは生産者が成功するツール。住宅地の拡大で耕地が減少することに対しては、農薬を増やすのではなく、強い農作物を作ることが必要。バイオの将来は明るいと思っている。この委員会の立場はバイオにフレンドリーで、グッドランド委員長は世界中で普及活動をしている」

4.ランチタイムには8名の業界団体などの方々と熱い意見交換

集まってくださったのは、アメリカ種子協会副会長カンデン氏(1883年創立。850の種子会社が加盟。会長はタキイUSAボールベネット氏)、北米の製粉協会会長ベイガ氏(米国やカナダの46社が加盟。小麦、トウモロコシ、オーツ麦を扱っている)、小麦生産者協会コポック氏(除草剤小麦の誕生を願っているが、現在は安全性ではなく、市民のバイテク小麦の受け入れに問題があり商品化を遅らせている。小麦への研究投資も少なく、作付け面積も減少中。小麦は競争力のためにも付加価値が必要)、ダウケミカル社ショーデット氏(農業団体のひとつとして参加)、モンサント社連邦政府規制担当トラビス氏、米国トウモロコシ製油協会の貿易通商コンサルタント、グレナー氏、米国コメ協会副会長カミング氏(コメの生産と精米を行っており、日本は最大の輸出国)、米国ダイズ協会パブロア氏。

○小麦を市民が受け入れないのは→消費者は心配していないが、食品メーカーが市民の遺伝子組換え小麦への懸念にリスクを見ているから。理由は科学的ではない。教育が必要。

○ IFICのアンケートで小麦の拒否は安全性によらないとのことだが、どんなアンケートか→アンケートでは「バイオは心配ですか」という自由回答形式の設問をした。そこで懸念を示すものが3%だったので、小麦を受け入れない根拠は安全性によらないと解釈した。

〇組換えダイズ・トウモロコシ導入時には、市民の受容やグリーンピースの反対はどうだったか→トウモロコシやダイズは食品の主成分ではないから受容されやすかったと思う。反対するグループの体制が整う前に承認されてしまった。

○ 薬用のコメの市民の受け入れはどうか→ヒト用のコメは商業化されていない。

○ ラクトフェリンを強化したコメの許可が下りなかったのはなぜ→カリフォルニア州当局の判断。食用コメとの交雑の問題を、距離を離すことで解決することになった。

○ 生分解プラスチックや燃料など食品以外のものの規制はどのようにするのか→これらはコーンスターチから作っているので、より厳しい管理が必要。

○ハーキュレックス(パイオニア社製の害虫抵抗性の品種)のスイートコーンで作る予定は→なし


ランチタイムの熱い意見交換  ペン次官
米国農務省正面。中に入るときは飛行機なみの厳重なチェック   IFICのベンソン氏

5.米国農務省 ペン次官

「新技術を採用して農業は躍進してきた。家畜の力が機械になり、1930-40年にハイブリッドコーンから化学肥料や殺虫剤が使われるようになり、今は遺伝子組換え技術になった。コーンの46%、ダイズの80%、ワタの60%が組換えになっている。野菜や果物にもバイオテクノロジーは利用されており、今まで問題は起きていない」

○市民の信頼の獲得のためにしたことは→すべての機関が科学を駆使し食品の安全を100年守ってきた。政府は安全性試験を行い、国民のセーフガードになってきたので、食品安全への信頼が高い。EUで懸念が起こるのは信頼されていないのではないか。

○ 除草剤耐性小麦の商品化が遅れている理由は→開発会社がビジネス面から「待つ」と判断した。EPA、APHISの判断が得られるまで商業化はできない。ただし、メキシコ政府が旱魃抵抗性小麦の野外試験を最近認可したので、今後、旱魃抵抗性と除草剤耐性の組み合わせが出てくるだろう。
FDAが認可した遺伝子組換え食品リスト http://www.cfsan.fda.gov/~lrd/biocon.html

○日本の市民の不安に対して何かできることはあるか→バイオテクノロジーへの信用を高めてもらえるように、政府から情報提供を行い、評価プロセスの透明性を保ち、この米国視察ツアーのようなプログラムを通じ、オピニオンリーダーへ情報提供したい。

○パパイヤの日本への輸入のためにやっていることは→1998-9年からやっているが、この間に日本では食品安全委員会が立ち上がり、評価プロセスが変わったために時間がかかっている。このような状況下でも情報提供を続け、審査が早く完了することを期待。日本でも高品質のパパイヤを楽しんでいただきたい。

○ バイオ小麦は将来、どれくらい実用化され、どれくらいの比率で広がると思うか→
小麦の生産性向上はトウモロコシなどの主要作物ほど早くできなかった。技術的な発展が他の作物以上に必要。世界の生産者が小麦へのバイオ技術導入による生産性向上に期待。ある市場で他の食品に比べ市民の受け入れの準備ができていなかったので、開発者は市民の受け入れや市場導入を待っている状態だと理解している。研究終了後は商業化前の規制のクリアの段階になる。米国市民はトウモロコシ、ダイズ同様に小麦の受容を捉えている。

○ このような意見交換と視察のツアーはまた実施するのか→一般論としてイエス。あらゆる作物団体や業界がUSDAと協力してバイオの情報を提供している。安全性には透明性が重要なので、こういうプログラムを継続していきたい。最大の顧客である日本にも、安全性、品質を理解してもらえるように情報提供をしていく。

○バイオ(遺伝子組換え)は米国経済の上、どんな位置づけか→重要。商業化された部分は小さいが、食料供給、飢餓に貢献できるし、多大な進歩が期待できる。

○農業の後継者の養成のために何をしているか→米国の農場は家族経営。若者は一般に都会好き。若者や家族経営について教育や指導を行うヤングファーマープログラムやファミリーファーマープログラムを行っている。

○バイオテクノロジーを理解するのは難しいが、教育との連携はどうか→市民の教育が大事。とにかく説明し続けること!

6.食品科学広報センター(IFIC)ベンソン氏

「バイオの受け入れに対して市民の懸念が問題になっているが、これは新技術にはつきもの。消毒やワクチン接種を医療関係者すら受けいれなかった時代もあると聞いている。種痘では動物からとったものを体内に入れるので抵抗があったそうだ。安全性評価が適切に行われ、情報があれば受け入れられていくはず。たとえば、2003年12月米国BSE発生のときに国際諮問委員会が行った提言には、1.教育の重要性、2.公的なコミュニケーションと民間のコミュニケーションの両方が大切、3.トレーサビリティ、情報へのアクセス、透明性は市民の信頼を高めるとあり、産官学が多くの団体と連携して説明し続けなくてはならないとしている。そして科学とコミュニケーションは単純でわかりやすくなければならない」

○ ネットワークで大事なことは何か→まず始めること!専門家会議を次々に増やしていく。

○ 情報へのアクセスとはどんなことか→インターネットはどんどん重要になる。

○ もしベンソンさんが組換え小麦の責任者ならば何をするか→FDAが安全と判断したものは安全なので、小麦の商業環境が変わるまでは、何もしないと思う。

○ グリーンピースを説得できると思うか→時間をかければできると思う。

○ 米国市民の受け入れと日本のためらいの差を埋めるためにできることは何か→日本の市民をよく知っている人がプログラムを作り、コミュニケーターが連携することが重要。

○ 日本のダイズと米国の小麦は国民のためらい、食品メーカーの消極性で似ていると思うがどう思うか→メッセージを単純にして伝えていくのがいいと思う。





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