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ミニ講演会「リスク評価とリスクコミュニケーション」レポート

10月4日(月)くらしとバイオプラザ21では、J.H.マリアンスキー博士をお迎えしてミニ講演会「リスク評価とリスクコミュニケーション〜バイオ食品に関する個人的な経験を通じて〜バイオテクノロジーにより生産された食品に関する化学に基づく安全性評価」を(財)バイオインダストリー協会(JBA)において、(社)農林水産先端技術推進センターとJBAと共催で開きました。総勢40名を越す参加者でした。マリアンスキー博士はFDA(米国医薬品局)食品分野バイオテクノロジーコーディネーターで、食品に関わる国際的な分野で活躍されてきた方です。
現在、日本では「食の安全・安心」があたかも初めてのもののように扱われていますが、安心は安全性審査がしっかり継続されて得られるものであり、信頼もそれに従って構築されてくるものだと、改めて認識させられました。初めに、日本語で「バイオジャパンに行って組換え納豆を食べました。とてもおいしかった!」といわれ、流暢な日本語とそのホスピタリティに、最初から拍手が起こりました。


講演の要旨

○米国はバイオテクノロジーに関して科学に基づいてリスクアセスメントとリスクマネージメントに関する統合的なプロセスを利用している。食品安全性についてはFDA(米国医薬品庁)、植物防疫と環境についてはUSDA(米国農務省)、農薬の安全性や環境についてはEPA(米国環境庁)が安全性審査の決断にかかわっている。

○FDAでは、長官の要請に基づき、製品については企業から、科学文献やFDAの諮問委員会から情報を得、外部の専門家による諮問委員会(学会代表者、産業界、消費者の代表)、パブリックコメント、公聴会からも情報を得て、科学者が検討し、それらを総合して政策決定を行う。

○オークランドでの公聴会の事例紹介
ステージの左右にはFDAのパネルと学界のパネルが並ぶ。このような、FDAの政策説明を3回にわたって行い、合計35名のパネリスト、255名の一般からの発言(ひとり2分)、意見書を提出する権利があり35、000通のコメントを受け取った。

○情報は一般に公開される(国家安全に関する情報やビジネス上の秘密情報を除く)
 バイオ食品の場合は、企業秘密のようなものは余りないので、ほとんどすべてが、FDAによって開示されると考えてよい

○情報公開の重要性
情報を公開することの重要性とその中で一般からの情報が入ってくる
FDAは一般へは、ウェブサイトを充実させ、食品バイオテクノロジー小委員会を設置。
一般からのアクセスはインターネットで公開。郵便による資料請求ができる。消費者向けの出版物の発行(薬品、食品に関するもの。2ヶ月おき発行)の行っている。今はパソコンの「マウスの時代」。マウスをクリックすれば資料が入手できるようなサービスも考える必要があるかもしれない。

○ 現在のバイオテクノロジー政策は初期の経験が基礎になっている
1982年 ヒトインシュリンをFDAで認めた
1987年 バイオ食品に関するFDAによる検討を行った
1990年 初めてのバイオ食品成分キモシンの確認。
1994年 フレーバーセーバートマトは初めての遺伝子組換え食品として認めた

○FDAの食品バイオテクノロジー政策
連邦食品医薬品化粧品法(FFDCA)によって、科学に基づく規制で安全な食品の供給を定め、
199年に政策声明「食品の安全性の考え方:新しい食品は現存の食品と同程度に安全でなくてはならない」を発表した。
一般的な安全性評価の基準は、1)現存の食品を標準にする、2)新品種は既存の品種との関連を調べる、3)生化学的な評価、分子生物学的な評価(企業から提供されたデータ、文献などをもとにして化学的な性質、構造や機能、アレルギー源性、消化性、食品としての摂取量、毒性、栄養的な効果)
これはコーデックスの実質同等性の考え方に従っている。このテーマを扱った専門委員会のリーダーシップは日本の吉倉先生がとられた。その業績を評価したい。

○FDAは食品安全性に関する法的権限(差押さえ、禁止措置、起訴・告発)を持っている
食品 (FDA)
食品業界が食品の安全性と品質に責任を持つ;商品化前承認は不要
食品添加物 (FDA) - 商品化前承認(Pre-market approval)
例外: 「一般的に安全と認められている物質(GRAS)」と農薬
農薬 (EPA) - 商品化前承認の対象になる
植物に導入された防御物質(バイオ植物)
FDAのコンサルテーション(安全性審査)は任意のプロセスとして、企業には奨励している。任意でうまく働いている

全部の席が埋まった会場 マリアンスキー博士はまっすぐに背中を伸ばして、ゆっくりお話してくださいました


事務所で焼いた手作りクッキーを食べながらの質疑応答

質問1 FDAでは内部では科学の分野であるリスクアセスメントとリスクマネージメントを統合するということでしたが、科学者の意見は尊重されますか。
→FDA内の科学者は独立している。意思決定をする人間は科学者の勧告を理解し、参考にする。科学者の意見から逸脱することもあるが、とても重要視されている。
例をあげると、ネット上で「FDAの科学者は政策声明に同意していない」というコメントが掲載され、92年にはFDAが訴えられたことがあった。この訴訟の弁護にあたって、44000件の政策声明に至るすべてのメモ、スケジュール表が提出された。その中にFDAに対する「他の考え方もあるのではないか」という科学者のメモが入っていて、「FDAの科学者の意見は用いられていない」と解釈されたこともある。FDAの科学者があらゆる面について議論した上で、リスクマネージメントとリスクアセスメントを統合した経緯を長官が説明し、FDAはすべてに勝訴し、理解されるようになった。

質問2 日本でもリスクコミュニケーションとして集まりをしても、うまくいかないのですが、FDAでは今のやり方で十分だと思っていますか。
→公での情報開示の状況はインターネットでずいぶん様変わりした。一般の人の意見を受け入れる速度は速まっているが、まだ追いついていない。常に出来る限り、十分な説明をすること!が大事。

質問3 政府が科学的に環境、ヒトへの問題なしと承認した作物に対して、市民の心配を理由に自治体が栽培を規制する動きが日本には今ありますが、米国では市民の心配を理由に規制することはありますか。
→食品分野が私の専門で環境影響は専門ではないので。一般的にいって、連邦政府が州に指導をすることもあるが、全国レベルの国益にかかわらない限り州には干渉しない。

質問4 企業からの科学的データを提出してもらって評価するのは任意の制度だそうですが、「任意」とはどういう意味ですか。
→任意のコンサルテーション(安全性審査)とは、企業は新商品を市場に導入するときコンサルテーションを受ける義務ではないが、新技術を使った商品にはコンサルテーションを奨励している。この審査では、FDAのすべての科学者が納得するまで、その審査は完了しない。2002年、この制度の義務化を提案中。FDAには義務化する権限があるかどうかの法的な検討が必要。現行は任意だが、企業の方がコンサルテーションを求めてくる現状なので、今のままで十分うまくいっている。

質問5 今までは比較的に評価しやすいものが多かったと思うが、今後、高オレイン酸大豆油など成分を改変したものに対してはどんな評価をするのですか。
→将来、成分も改変された食品を評価する準備はすでにできている。高オレイン酸大豆油の評価をすでに行っており、そのように成分が変化したものを対象にするために、食品バイオ諮問委員会を設置している。

質問6 リスクコミュニケーションの意味は?
→私はコミュニケーションの専門ではない。FDAではコミュニケーションの正式定義はないが、コミュニケーションとは、どのように市民に情報を提供するか、どのように市民の情報を受理するか、どのように政策決定をしたかを市民に示すこと。市民はコミュニケーションの中で決定に参加したり理解を深めることもできる。

質問7 米国が開発している組換え食品は欧州や日本であまり受け入れられていないが、米国の受容との違いをどう考えたらいいか
→複雑な質問です。新しいもので自分が理解できないと歓迎されないのは当然。
1990年代はFDAにもずいぶん質問が来ていた。反対する人もいるが、説明すると米国では大体受け入れられている。新しいけれど安全だという説明が受け入れられたのはFDAへの信頼が厚かったからだと思う。

質問8 NHKのテレビでは「アメリカの消費者は組換えについて知らないから拒否が少ない」そうですが、公聴会に参加したりアクセスして来る人とはどんな人達ですか
→米国にもいろいろな人がいて、食品由来の病気やバイオテロへの関心は高いようだが、組換えには関心が高くないかもしれない。私は公衆衛生を伝える役目。広く懸念がある欧州とは、米国の状況は確かに異なっている。

質問9 実質的同等性の考え方に従った審査で、今までに通らなかった物はありますか?
→1992年に実質的同等性の考え方を発表したので、これに則って拒絶されないように開発されたものが、今までに承認された物なのだと思う。ブラジルナッツ由来のタンパクを使った大豆がはねられたことが思い出される。ブラジルナッツのアレルギーの人が多いので、開発、商品化は止められ、その結果、被害は出ていない。

質問10 既存の安全基準に対し否定的なデータがでたらどのように対応するのですか。
→FDAとしてはすべての安全性の疑問が解決されるまでは、市場に出ることを許可しない。すなわち、それまではレターを発行しない。

質問11 FDAが与えるのは許可ですか。
→FDAが行っているのは許可制でも承認制度でもなく、任意のプロセス。食品の安全性について、これ以上のするべき安全性試験はないと科学者が書名をしてレターを出す。FDAの科学者もそれに答えるコンサルテーションを申し込んだ企業も真剣に審査する。食品添加物はFDA、農薬はEPAの承認を受ける。食品はFDAの科学者の署名を受ける。




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