9月8日(水)、21日(火)に第2、3回個人遺伝情報保護合同委員会が開かれました。
個人情報保護法が来年4月施行されるにあたり、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(三省指針と呼ばれている)が保護法の趣旨にかなうものであるか、平成13年3月に告知されてから、研究の進展等に伴い、現状とずれている点はないかを検討することが合同委員会の目的です。事業者等が個人情報保護法に対応するため、指針等に示された準備をする時間を充分確保できるよう、指針見直しの方向性を10月中に明らかにし、11月には指針の修正案をパブリックコメントにかけるというスケジュールを守ることを内閣府から強く要求されています。
個人遺伝情報の扱いについては、日本では、その取扱いは三省指針で示されています。それは、ヒトゲノム・遺伝子解析「研究」をしている機関(国の研究機関や国立病院が多い。企業でこの様な研究をしている所は小数。)が対象です。また、昨年、指針の後から個人情報保護法が作られたという経緯があるので、委員からは法律を踏まえた指針の見直しをすべき時期なのに、このような慌ただしいスケジュールでは検討不十分だとする意見が毎回出されます。垣添座長は同じようにお考えになりながらも、委員会としてタイムリミットを守らなくてはならないという厳しいお立場で臨んでおられるのが感じられます。個人情報保護法が成立したのは去年の5月ですが、この委員会が三省それぞれ走り出していたところに、合同委員会となったのは8月。9月に開かれた2回の委員会では、指針を作るという立場での議論が進められており、以下の項目について、駆け足で議論が行われました。個人遺伝情報はとても大切な問題なので、せめて昨年末辺りから議論を開始することはできなかったのでしょうか。大体まとまった主な項目と、積み残しとなった議論についてレポートします。
議論の根底には以下のふたつの課題があり、このバランスをどうとるのかが、合同委員会の目指すところです。
・個人情報保護は、医療を始めとする国民の利益に貢献する
・個人遺伝情報は、その特質から尊厳のあるものとして扱われなければならない
第2回は個人情報の定義に関わる議論が多く、法学関係の委員の方が活発で、第3回は研究の進展に伴う指針見直しの議論がなされ、医学関係の方が活発でした。ということは、委員でも、相手の分野になると理解が難しい状態の中で議論をしていることを示しています。筆者もドキドキしつつも、「市民が安心して、試料収集に協力したり、選択したりできるには何が必要か」という発言をしています。他の委員がそれに同意してくださることが多く、法学・医学専門の委員の方も、共通して市民の理解の重要性を認識しているのではないかと感じます。
第2、3回会議の議事要旨
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0002502/index.html
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0002520/index.html
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意見のまとまった項目 |
保護すべき個人情報とは何か
・誰のものか識別・特定できることをもって個人情報とする。連結不可能な情報は識別できないからこの扱いに含まれない。これは世界的な考え方(グローバルスタンダード)に一致。文部科学省ライフサイエンス課事務局も同じ認識
・ヒト由来のモノ(組織など)はすべて個人遺伝情報として扱われるべき。これはユネスコガイドラインの考えにも沿っている。
匿名化した情報を再び連結するケースとはどんなときか、どんな扱いをするのか
・難病が見つかった方の追跡調査で必要な場合(ドイツではガンの追跡調査での匿名化が行われている)
・生活習慣病、臨床情報などの情報が、研究を深めるときに必要になる場合は、更なる情報が加わって新しい番号やコードを与えて再び匿名化して扱う。
データベースの中の個人遺伝情報とその管理
・市民にわかりやすく、信頼されるように情報収集と管理の機関という組み合わせで考えるのがいいのではないか。
・情報管理者しか情報の照合ができないなど、その位置づけが法で規定されていればいい。
・個人遺伝情報やデータベースを扱う研究者などに高い倫理観を求められていることが認識されるように指針に示すべき。
・長期にわたって、連結が続くと対応表が漏洩する可能性があることにも配慮する
情報管理者の責任
・収集した個人遺伝情報が研究に有効に役立てられるように、再び連結して臨床情報を利用できるような仕組みにするときには、個人情報管理者の責務がより重要になる
・法律的に管理の責任を問われるように定めるかどうかが大事。
・個人情報管理者の責務の重要性を文書に明らかにする
安全管理措置、データ内容の正確性
・別添という形などで具体的な措置の内容を示す。
・データバンクは薬の効果が正確に発表されていないという事例もあり、「正確性確保」の文言を入れる
試料等の適正な取得、亡くなった人の個人遺伝情報の扱い、代理人の概念
・試料等を取得する際には、その提供者に対しての充分な説明と自由意志による同意を受ける。同意は文書によって得ること。
・生存しているヒトにかかわる情報であれば、その人には情報開示請求権があるはず。
・個人情報保護法では、自分の情報を制御できることが基本な考え方とされている。指針では代諾者などの幅広い解釈が必要
・法律用語の代理人とインフォームドコンセントの代理人は異なるので代諾者という言葉を作って、より幅広い解釈にした
・死者の情報には代承諾者の承諾で対応する
第三者提供の制限
・第三者提供とは、管理されている遺伝情報を、インフォームドコンセントを取得していない人が利用すること。例外を除いて認めない。
保有個人データの公表など
・個人情報と個人データの違い(保有個人データとは情報管理者が扱いうる内容。個人情報との区別が必要)を明らかにすること
・意義がない情報に対しての開示請求があった場合の説明の仕方には不安を煽らないような配慮が必要
・個人に返した方がよいものを返すのはいい。研究で得られた知見を全部返すというのは無理ではないか。
・個人の情報は自分がコントロールできることが大事。返すのが原則で、意義がない(まだ結論が得られていない状態)情報は例外にする。
訂正及び利用停止
・親子関係だけ調べればいい場合には、検査後の破棄を義務付けてもいいのではないか。
・コマーシャルラボの検査の精度が悪く、再検査が必要な時もあるので、廃棄の時期ややり方を考えるべき
・利用停止請求が本人からあると、新たな問い合わせに答えは返らないことになる
開示などの求めに応じる手続き及び手数料、返却しない理由説明、苦情処理
・試料は無料で集めるのに開示の手数料がいるのはいかがなものか。実費を考えて妥当な手数料ならいい。
・返却しない理由の説明は行うこと。
・苦情処理には、試料等提供者や代諾者が利用しやすいよう、窓口の設置や手続き方法に配慮すること。
市民との関係
・疫学研究の理解を得るために「対話を続ける」と指針で示されるのは研究者には難しいが、双方向性の努力は大事なので、意味が残るような文書を検討する
共同研究の相手国との関係
・相手国の倫理指針が整っていない場合には、原則として本指針の定める考え方が尊守されるべき。ただし、相手国において本指針の適用が困難な時は、ユネスコガイドライン(20年前。やることは書いてあるが、正確には示されていない)に添って考え、できるだけの情報を日本の倫理委員会に提供して審査する。
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議論が途中で、もっと議論が必要とされている項目 |
企業の扱う情報
・商業ベースの遺伝子診断はどこに属するのか。医療ならば厚生労働省医政局、産業ならば経済産業省
・外部に分析を委託するときは、企業の業務は委託元の監督の中に入るが、それには法律でも指針でもカバーできないと不明瞭になる。
・医療の検査については、依頼する側(医者、病院)が責任を持つことが原則!
・検査を外部に出すとき、診療では間違い回避のために名前をつけて出すこともある。
衛生検査協会に加盟している検査センターは、匿名化したものしか受けませんが、加盟していないベンチャーは委託元の監督外になる。
・予算措置もあわせて考え、手当てしていかなければ、安全管理措置等は実行性の乏しいものになってしまう
・匿名化作業が外部に委託されることはありえないが、小さい病院で採取した試料等を核になる医療機関でまとめて匿名化をしているケースがあり、その場合はそれで十分とする
医療に関係する領域について
・研究と診療の境界が明確でないことに鑑み、医療機関において遺伝情報の扱い方に考慮していただきたいことをこの合同委員会の意志として、厚生労働省医政局にある「医療機関における個人情報保護の在り方に関する検討会」の樋口座長に、垣添座長より申し入れを行った。
次のような場合には遺伝情報を利用してもいいのではないか
・本人の同意を得ないで試料を利用する場合として、公衆衛生の向上に大きく貢献することを条件としてもいいのではないか
・プロテオーム情報から偶然遺伝情報が得られた場合には破棄とは決めないで倫理委員会で検討すればいいのではないか。
インフォームドコンセントをとるのは医療従事者だけか
・研究責任者だけは無理。医師、看護師など医療従事者にも拡大していいのではないか
・コーディネーターの研修内容を定めて、そのような役割を認めたらどうか。
・研究が進みにくいから、インフォームドコンセントを取ることのできる人の範囲を開いてしまう、というのはいかがなものか
・採血は医療従事者が行うので、最終的に試料をいただくのは守秘義務のかかった職種の人となるのではないか
・爪、口腔粘膜から行う遺伝子診断などでは医療従事者以外も関わる可能性がある
情報の内容から患者さんがわかってしまうケース
・医者は守秘義務はあるが、遺伝情報と症例報告が学会などで何度も出てくるうちに、珍しい体質などの患者さんのことが、医者にはわかってしまうことがある。
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