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  • バイオ一口話:おせんべいとおかき

    おせんべいは丸くて、おかきは四角いもの?

     おせんべいやおかきは渋いお茶と一緒に食べたり、お酒のつまみにもなったり、おいしいものですね。ところで、やや大きくて丸いものがおせんべい、少し小振りの四角いものがおかきだと思っていませんか。ところが、そういう形の違いではなくて、実はそれぞれの原料が違うのです。

    おせんべいはうるち米、おかきはもち米で作られる

     おかきはかき餅(欠餅)、もとは鏡餅を欠いたもの、からついた名前で、年配の方はついた餅をなまこ型にしたものを薄く切って干し、かき餅を作った思い出があるでしょう。あられは霰餅の略で、餅を賽の目に小さく切ったものです。これに較べておせんべい(煎餅)は餅という字が使われていますが、普通のご飯に使ううるち米で作られているのが大きな違いです。つまり、おせんべいとおかきやあられの違いは原料米がうるち米かもち米かということなのです。

    うるち米ともち米は何が違うのか

     普通のお米(うるち米)を炊いてこねると団子になりますが、引っ張ったとき餅のようにのびずにちぎれてしまいます。うるち米ともち米は炊いたとき粘りが違いますね。個人的なことですが私はお餅やおこわの粘り感が大好きです。
     では、このうるち米ともち米とではどうして粘りが違うのでしょうか。お米の主な成分(全成分の約75%)はデンプンです。デンプンはブドウ糖がつながってできたものです。ところがこのデンプンにはブドウ糖のつながり方の違いで2種類あります。ひとつはアミロースといわれる成分で、ブドウ糖が結合しでできた紐のような長い分子で枝分かれがほとんどありません。もうひとつのアミロペクチンといわれる成分はアミロースと同じくブドウ糖が結合してできたひも状のものですが、ところどころでブドウ糖の別な場所に更にブドウ糖がつくことにより枝分かれし、その枝も途中で更に枝分かれしています。アミロペクチンはこの枝分かれのため、水中ではお互いが絡みやすく粘りけが出ます。
     うるち米のデンプンはアミロース(全デンプンの15〜25%)とアミロペクチン(全デンプンの75〜85%)の両方を含んでいますが、もち米はアミロペクチンのみ(100%近く)でアミロースがほとんど含まれていませんから炊くと粘りけが強く、お餅になるのです。
     コシヒカリはデンプンのアミロースが17〜19%、それ以外がアミロペクチンで、このバランスがおいしさの秘密の一つと言われています。もちろん、ご飯のおいしさには、さらにいろいろな成分や、固さ柔らかさなどの総合的な作用が影響します。

    日本のお米とその他の国のお米の違い

     アジア一帯では主食としてお米が食べられていますが、主に日本と韓国、それに中国の一部で食べられてるお米はジャポニカ(日本型)といわれる品種で、その他のアジアのほとんどの国ではインディカ(インド型)という品種が使われています。後者は前者に較べるとアミロース含量が高く、その分、粘りけがなくパサパサしているので、カレーとかピラフのような食べ方に適しています。洋食のつけあわせに使われる米もさらさらしていますね。インディカ米が使われています。日本でよく知られているインディカ米はタイのお米、タイ米です。日本人はお米(ジャポニカ種)のやや粘る食感を好み、主食として他の食材を混ぜないでお米を食べる文化が生まれたのです。お酒の原料はお米で、清酒を作るにはそれに適した酒造好適米といわれるいくつかの品種が使われますが、これもジャポニカ種です。面白いことに沖縄の泡盛の原料となるお米はタイ米でインディカ種です。昔からの文化の交流が偲ばれます。

    アミロペクチンとアミロースの量は遺伝子で決まる

     アミロースとアミロペクチンが植物の中でつくられるときには、ブドウ糖をつなげる酵素、枝分かれを作る酵素、枝を切る酵素など、多くの酵素が働きますが、どの酵素がどのくらい働くかは、それら酵素の設計図である遺伝子によって支配されています。それら遺伝子の違いや働き方の違いによって、うるち米でもジャポニカ種とインディカ種の違いがあり、もち米のようにアミロースがほとんど作られない品種もあるのです。

    コシヒカリのアミロース含量を減らした新品種ミルキークィーン

     日本人はやや粘りけのある食感を好みます。そこでコシヒカリの遺伝子に突然変異を起こさせて作られたのがミルキークィーンと名付けられた品種です(遺伝子組換えでなく、従来の育種法(新品種を作る方法のこと)で作ったものです)。コシヒカリのアミロース含量が全デンプンの17.3%なのにくらべて、ミルキークィーンでは11.8%と低く、他の性質はほとんどコシヒカリと変わらないイネの新品種です。炊いたとき艶があり、コシヒカリより強い粘りがあります。軟らかで冷えても硬くなりにくいので、おにぎりなどに適したお米です(詳しくは農林水産技術情報協会 → 研究棟 → 新しいお米 → 新形質米品種の特徴と利用の概要 → ミルキークィーン)。

    イネの遺伝子の解明が進んでいます

     遺伝子はすべての生きものの遺伝する性質を決めている設計図のようなもので、それぞれの生きものにより様々ですが、すべて核酸という物質でできています。動植物の遺伝子を形作る核酸はDNAと呼ばれる物質で、A、C、G、Tと記号で呼ばれる物質がつながってできています。ヒトにもイネにもすべての動植物にはDNAが含まれています(やさしいバイオ実験で野菜からDNAをとる実験を紹介しています)。
     上に述べたデンプンのアミロースがブドウ糖という1種類の物質がつながっているのと違って、2種類以上の物質がつながると、その並び方をいろいろ変えることができます。日本語は「いろは」48文字をつなげて文章を作りますが、4種類の文字でも文章を作ることができます。
     DNAをつくっているA、C、G、Tという記号を文字と考えると、それで作られた文章が設計図として働いているのが遺伝子なのです。このようにして、生きものの遺伝情報がすべてDNAに記されています。ある生きものの遺伝情報の1セットをゲノムといい、そのゲノムのA、C、G、Tの並び方をゲノム塩基配列と呼びます。ヒトのゲノムの塩基配列はほぼ解明されました。イネのゲノムの全塩基配列も近いうちに決まりそうです。
     塩基配列の中で意味のある文章のような部分が遺伝子で、ヒトやイネのゲノムの塩基配列中のどこが遺伝子部分なのかを見つける研究が世界中で進められています。

     結論:おせんべいとおかきは遺伝子の違い!

     つまり、おせんべいとおかきの違いは原料がうるち米かもち米かという違いで、それぞれのお米のデンプンの成分であるアミロースとアミロペクチンの量によるものです。これらの成分の違いはそれぞれのお米を作るイネの遺伝子の違いによります。したがって、おせんべいとおかきはイネの遺伝子の違いによると言えます。
     イネのゲノムとすべての遺伝子が解明されると、おいしいお米や、おせんべい、おかきの違いはこれとこれの遺伝子の違いなんだっていうことがはっきりわかりそうですね。

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