NBT

くらしとバイオプラザ21

新しい育種技術とは(New Plant Breeding Techniques, NBT)

「新しい育種技術(New Plant Breeding Techniques, NBT)」とは、従来の交配や接木などに加えて、分子生物学的な手法を組み合わせた品種改良(育種)技術の総称です。
品種改良あるいは育種というと、すでにある品種同士を交配させて、いいとこ取りをするようなイメージをもつ方が少なくないかと思います。実際には、それ以外に交配に利用できる素材となる作物を”資源”として収集・保存・管理すること、細胞培養や放射線などを利用して新たな変異を持った作物をつくり、交配の親に利用すること、できた新しい品種を広く配布するための種子を増殖することなど、様々な工程があり、それぞれに工夫がなされ、常に新しい技術開発がされてきました。

 

近年は農学分野でも遺伝子やタンパク質など分子レベルでの研究が急速に進み、様々な知見が積み重ねられてきました。研究室の実験で利用されていた分子生物学的手法が確立してくると、その手法を育種に応用できるようになりました。従来育種の欠点を補えるメリットがあるならば、その技術を育種に応用して効率よく、貢献度の高い品種をつくろうと研究者は考えました。そこで開発されてきたのが新しい育種技術です。

 

新しい育種技術は、望む性質の作物を作ったり、たくさんの植物個体の中から望む個体だけを探したり、果樹など花が咲いて実がなるまでの時間を短くしたりすることで、新品種育成までの時間やコストを削減することが可能と考えられています。

 

また、新しい育種技術と呼ばれる技術の多くには、遺伝子組換え技術を利用します。例えば、ある技術ではこの導入する外来遺伝子は、自然突然変異と同様の変異を起こすための道具であるため、望む性質の個体が得られれば必要なくなります。そのため、最終的な品種になるまでに、非組換え品種などとの交配により取り除きます。このようなプロセスを経ると、理論上は最終的な品種には外来遺伝子が残らず、従来の育種技術で育成された品種と同じものができます。

 

このことにより、育成された品種を遺伝子組換え農作物と判断しないことで、莫大な時間と費用のかかる安全性評価が省略できれば、さらなる時間やコストを削減が可能となります。さらに、日本の種苗会社や大学などが新技術を利用した世界にも貢献できる品種を実用化する可能性が高まります。反面、遺伝子組換え技術であるということのみならず、新技術を応用することから、本当に安全性に問題が無いといえるのか、しっかりした基礎データを取り、科学的に評価することが必要になります。

  

これから、日本や世界の食や農業の課題を解決するため、大きな期待を寄せられている新しい育種技術。今後、私たちは新しい育種技術をどのように使っていけば良いのか、考えていきましょう。