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第9回談話会報告「砂漠緑化プロジェクトについて」
6月25日(金)(社)国際環境研究センター客員主任研究員の遠藤昇さんをスピーカーとしてお迎えし、15名の参加者を得て第9回談話会を行いました。
遠藤さんは経済産業省の受託事業「砂漠緑化プロジェクト」に、10年関わられました(予算総額26億円)。砂漠緑化という大掛かりな事業は10年ではできるものではなかったわけですが、植物の遺伝子組換え技術に関する有意義で学術的な知見が多く得られました。その背景には、「研究の進化」もありました。開始時には個々の遺伝子に着目した考え方が中心でしたが、現在では複数の遺伝子のバランスやつながりが重要であるという考え方や研究方法が注目されるようになっています。また、事業の目的が原油を産出する地域の緑化なのか、二酸化炭素を削減するための植物バイオテクノロジーの知見の蓄積であったのか、絞りきれていなかったのではないかという見方も今になれば出てきます。参加者からは、いずれにしても本気で取り組むならばこれまでの知見を生かす意味からも、予算を継続的につけて研究を続けることが必要ではないかという意見が出されました。
以下にスピーカーのお話と話し合いの概要を示します。

遠藤さんのお話

10年の経緯
経済産業省の受託事業として「砂漠緑化プロジェクト」を10年にわたり、民間企業や公的な団体でそれぞれのテーマについて研究を行いました。目的の中には砂漠の植物を増やすことで二酸化炭素を吸収することも含まれていました。
乾燥地とは乾燥度指数(AI:平均降水量/蒸発散位)が0.65未満の地域のことで、水や光の環境や塩害の度合いによって同じ砂漠といっても実際の植物に対する影響は異なります。そのような厳しい環境に耐性を持つ植物を作りだしたり、環境の方を和らげたり、いろいろなアイディアのもとで研究が行われました。
この事業開始時は、まだ植物ゲノムの研究も始まったばかりだったので、今ならば別の取り組み方を考えていたかもしれません。

説明をされる遠藤さん 思わず笑みがこぼれて


 
各グループのアイディア


○植物には核、ミトコンドリアの他に葉緑体にもDNAがある。葉緑体に目的の遺伝子を入れると、その形質は次の世代に受け継がれないので、環境中に組換えた遺伝子が放たれなくなることから、葉緑体遺伝子への遺伝子組換え技術を開発した。

○植物にはアンチポーターといって塩分を排除する働きをするしくみがあり、アンチポーターを遺伝子組換え技術で組み入れて塩害に抵抗性を持たせる研究をした。

○海水に耐える植物を作り、海水を用いた灌漑を行いながら栽培する方法を作った。

○シロイヌナズナ(アラビドプシス)という植物の中に、強い光に耐える(強光耐性 )遺伝子を見つけ、耐性が向上することを見つけた。

○塩害の中で生きられるような酵素を植物体内で作る遺伝子を発見した。


まとめ

砂漠の緑化という大事業は実現できなかったが、植物のいろいろな遺伝子を見つけたり、それを組み込んだりする研究の学術的な知見を多く蓄積することができた。

この事業を通じて植物を遺伝子組換え技術で強くすることだけでなく、灌漑を含めた伝統的な方法を見直す必要もあるのではないか、という考えも出てきた。


参加者との討論の概要

○マングローブは海水の中で育つときいているが、そういう植物を砂漠に植えることはできないのか。
→植物はその体内に塩分を取り入れないしくみを持っていので、葉をかじってみて塩辛いわけではない。アカザという草や芝には塩害に強い種類があることが知られているが、塩分を植物体内に入れないようにする遺伝子は見つかっていない。根のあたりに物理的に塩分を通さない構造があるのかもしれない。ひとつの遺伝子で塩害に強くなっているというような単純な仕組みではないことは確か。
海岸に生えている植物をポットに移植して海水をかけると枯れてしまう。こういうケースでは塩を避けて水分を取るような根の張り方をしているのではないかと考えられる。

○塩害と乾燥は植物にとって二重苦だと思うので、ふたつのストレスを切り離してそれぞれの耐性を持つ植物を作るという考え方はどうか。
→植物にとっては塩害より水がないことが致命的。砂漠といっても水の状況はいろいろ。乾燥している地域では水が地中から上がってくると、塩も一緒にあがってくる。つまり、砂漠には下から上へという通常とは逆の水の動きがあり、それに塩害が伴われる。
海水は至るところあるので、海水程度の塩濃度に耐える植物をつくり海水を栽培に利用できると実用性があるのではないか。水がないところには灌漑ができない。

○ひとつの遺伝子より複数の遺伝子の働きのバランスが大事だという印象を受けるが。
→ゲノムの研究が著しく進み、ひとつの生物の働きがひとつの遺伝子によるものでないと考えられるようになったのはこの2−3年のこと。複数の遺伝子の働きという考え方が重要だと自分も思う。

○事業の目的が砂漠の緑化ならば予算はこの10倍必要であると思うし、10年でやめてしまうのはもったいないと思う
→砂漠を単に緑化するならば、海岸に生えている植物を移植するという方法もあったはず。石油に絡んでつけられた予算だったために二酸化炭素を減らすことの方が目的として強いものであったのかもしれない。現在事業レベルで動いているものはなく、日本は砂漠化に対して貢献できたといえるのだろうか。いずれにしても、この10年の蓄積が利用されないことは残念。
また砂漠で暮らす人にはそれぞれの文化があり、緑豊かな地域の人間が「緑化はいい」と決めてしまうのはいかがなものかと思う。アフリカでは狩猟をすることが勇者の印で農耕は受け入れられないという話も聞く。放牧を好んで定住を求めない民族もある。砂漠緑化がそこに住む人々のライフスタイルにあうかというと疑問を感じる。

○遠藤さんがイネにこだわるのはなぜですか。
→米が好きだから。イネは連作ができ、水田では土壌が流れて失われることがない。アジアのように数千年にわたってイネを耕作してきたことは、作物として稀有。イネは食を創り出せる植物であることも大きな魅力。

○地球上で砂漠が増えていくことは問題なのではないか。
→砂漠といっても環境はいろいろなので、個別に環境を評価すべき。気温の日較差が大きい「寒い砂漠」もある。寒さにも塩にも強い植物というものはほとんどない。

○こういう事業があったことを全く知らなかった。こういう夢のある事業は国が進めて市民にも知らせてほしい。国際貢献も重要だと思う。
→この事業の広報はほとんど行われていない。

興味深いお話で参加者は全員大満足!

 




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