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  • TTCバイオカフェ「ゲノム編集食品~消費者の受け止め方」

    2021年2月26日、東京テクニカルカレッジ(TTC)バイオカフェを開きました。「ゲノム編集食品 消費者の受け止め方」というタイトルで、くらしとバイオプラザ21 佐々義子がスピーカーを担当しました。当日は、TTCより配信しました。初めてのオンラインTTCバイオカフェということで、多くのTTCの先生方に設営、トラブルへのバックアップ、配信中のモニタリングとお世話になりました。
    初めにスケッチブックによるギターとフルートの演奏がありました。「コンドルが飛んでいく」は、ことに参加者の心に響いた演奏でした。
    そして司会の大藤道衛先生からは、TTCバイオカフェ開催までの道のりが説明され、お話が始まりました。

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    スケッチブックの演奏

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    司会 大藤道衛先生とスピーカー 佐々義子

    主な内容

    1.日本発ゲノム編集食品

    2020年12月、筑波大学のベンチャー企業、サナテックシード(株)からのGABA高蓄積トマトの届出が厚生労働省に受理された。いよいよ、日本発のゲノム編集食品が誕生することになる。食中毒を起こす自然毒ができないジャガイモ、養殖しやすいマグロ、肉厚のタイがいずれも日本の大学や研究所で研究・開発されている。遺伝子組換え作物の開発が、外資大手で行われたことと比べると対照的。

    2.ゲノム編集技術とは

    2013年から内閣府のプロジェクトで、私たちはゲノム編集技術の社会実装に向けたサイエンスコミュニケーションを担当してきた。そこで、ゲノム編集に関する情報提供を行うときには、ゲノム編集技術を育種の中のひとつの技術として位置付けて、遺伝子組換え技術との違いを含めてわかりやすく解説し、ゲノム編集技術のメリットを押し出して説明することにした。現在、実用化が進むゲノム編集は、DNAの二重鎖の狙った場所を切断するだけの技術だが、切断と修復が何万~何十万回と繰り返されるうちに修復ミスが起こる。今、実用化されつつあるものは、修復ミスによって人間にとって都合の悪い遺伝子が壊されたケースがほとんどである。

    3.消費者の受け止め方

    ゲノム編集技術に関するアンケートも行われていて、この技術への認知度は上がっている。遺伝子組換え食品に対して人々が抱いている懸念と共通するものに、長期間の食経験がないから不安というものがある。外来遺伝子が残っていないとわかると、安全性確認不要になり届出制度に従うことが不安、狙っていない位置でDNAが切断されないか不安(オフターゲットの不安)、自然突然変異と区別がつかないので表示が義務表示されないことが不安など、遺伝子組換えでは出てこなかった懸念を抱く消費者もいる。
    これまでの流れをみると、日本も欧州で報告書が出た2011年から研究者は研究や議論を開始しており、議論が十分でないとはいいがたいのではないか。届出についても、2020年12月に届出が受理されたGABA高蓄積トマトに関する事前相談は1年以上を要しており、十分に検討されているように見受けられる。
    しかし、外来遺伝子が認められないゲノム編集作物は、カルタヘナ法が定める遺伝子組換えの定義に該当しないという説明は、消費者にとってなかなか納得し難く、不安払しょくにつながりにくいようだ。

    4.リスクコミュニケーションとサイエンスコミュニケーション

    くらしとバイオプラザ21は、遺伝子組換え作物・食品に関する情報提供や対話の場づくりに長く関わってきた。これらの経験や社会心理学の知見などからわかっていることは、情報が増えたからといってその情報が受容されるとは限らないこと。そこに「人は自分の考えにあっている論拠を求める」ものだという「確証バイアス」が働くこと、専門家と非専門家の間の双方向だけでなく関わっている多様な人がネットワークをつくって考え話し合っていく(ネットワークモデル)形が重要だということがわかってきている。
    これまで、医薬品、原子力、遺伝子組換え技術をめぐるコミュニケーションで得られてきた知見をもとに、適切なリスクコミュニケーションやサイエンスコミュニケーションが行われて、ゲノム編集がいろいろな人に夢や喜びを届けられる技術として育っていくことを願っている。
    最後にいろいろな意見を引き出す手法として、私たちが編み出したワークショップ「ステークホルダー会議」を紹介したい。これは専門家からの情報提供の後に行うグループディスカッションにロールプレイ(消費者、生産者、流通など)を取り入れたもの。それぞれの立場に立って考えたとき、そのゲノム編集食品を利用するか、食べるかの意見を吸い上げるもので、生協や大学院生の皆さんと何度か試みてきた。個人的に食べるかという言われると、予防的に考えやすいが、事業者だったらと考えることで幅広い意見が得られるようになった。このようなコミュニケーションの手法の開発や実践も行っていきたい。

    参加者全員による話し合いでは、全国から参加して下さった多くの研究者が、技術についてかわるがわる発言して、わかりやすい解説を加えてくださいました。老若男女、音楽を聴き、思っていることを発言し、楽しいひと時でした。
    ~写真はすべて、東京テクニカルカレッジより提供いただきました~

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    バイオ科の実験室から配信 松井奈美子先生と大江宏明先生によるバックアップ

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    記録写真を写す宮ノ下いずる先生

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    参加者のみなさん。くらしとバイオ田中事務局長も事務所から入室管理担当

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    ポスター作成、撮影機器準備を引き受けてくださった川辺伸司先生

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    トラブルなく終わってホッとするスタッフ

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